66.違和感

「お題25.異端 」の後日談
クレハはローレシア城に戻ってきていた。
戻るなりアレンの母、すなわちローレシア王妃への元へと向かった。

クレハは今までアレンとは兄代わりとして接してきていたのだが、
性別の事がばれてしまったのだ。

「どうしたの?アレンに本当の事がばれてしまったって?
 ・・・・本当の事って何のことかしら?」

クレハは先ほど起きたことを王妃に報告した。

アレンが襲撃にあったと言う事。
冷たい池に突き落とされた事。
大きな怪我はなかったが、
その際に自分が女であることもばれてしまったと言う事。

「襲撃ですって・・?大丈夫なの?
 あなたも大変だったわね。
 大きな怪我が無くて良かったわ。」

王妃はクレハをねぎらった。

「いえ、そんな事は良いのですが、
 私はこれからどうすれば良いのでしょうか?」

「?どうすれば・・ってどう言う事?」

「あの・・私は男として兄として接するように言われてきたのに、
 アレン様にばれてしまいました。
 王からの命にも従うことが出来なくなりました・・。」

「クレハ・・・・あなた・・・。」

王妃が気の毒そうな顔をしている。
やはり、女の私はアレンの傍にいるには、相応しくないだろう。
今日を限りにアレンの傍を離れなければならないだろうか。

人並み外れて活発で力も強く、手に余ることも多かったが、
時折ぶっきらぼうな優しさを見せてくれる年下の我が王子との
数々の思い出は、これからも宝物として大事にして行こう・・・。

クレハがそう思い、しんみりとしていたら
王妃はくすくすと笑い出した。

「あなたたち、まだばれていなかったの?」

「え?」

クレハは真顔で王妃の顔を見上げた。
王妃はおかしそうに笑い続けている。

「アレンももうすぐ10歳になるのに、
 そういうのは疎いのね〜。」

「お、王妃様・・?」

戸惑うクレハをよそに王妃は楽しそうだ。

「あなたもあなたね。
 あの人が言ったことも無茶だけど、
 あなたも自分の姿を見てみなさい。」

見てみなさいと言われて、クレハは自分の姿を見た。
見慣れた自分の体だ。

「胸だって目立ってきているし、
 体つきだって、筋肉質のアレンとは全然違うでしょう。
 ばれないままで行く方がおかしいわ。」

きっぱりそう言う王妃を、何とも言えない表情で
見返した。

いや、まぁそれはそうだ。ばれない方がおかしいというか。
だが、せっかく衣服だって男の人に見えるように努力してたし
髪の毛だって一度も伸ばしたこともないし、
私の地味な努力は何だったんだろうかと思った。

「まぁ、構わないわよ。」

「ど、どう言う事でしょうか?」

「あなたが、アレンの事が手に余って、
 もう会いたくも無いと言うのであれば
 もうアレンには会わなくても良いわ。
 私からアレンに言っておきます。」

「そ、そんな事はありません!
 私からアレン様の事を突き放すようなことは・・。
 ただ、アレン様はきっと女の私とは一緒に
 いたくないでしょう。」

アレンは一緒に剣の稽古をしたり、
ダイナミックな遊びの相手になる人間の方がいいだろう。
まぁ、剣の稽古などは最近は足元にも及ばないが。

「そんな事はあなたが決める事じゃないわ。」

王妃はそう言い切った。
そして扉の方を振り向いた。
バタバタと廊下を走ってくる物音がする。

「クレハ!ここか!?」

扉が激しく開けられた。
声の主はもちろんアレンだ。

「あなたね、何度も言いますが、
 人の部屋にはいるときは、ノックをして
 入室して構わないのか確認しなさい。
 いきなり開けるのは失礼なことよ。」

王妃がアレンの無作法をたしなめた。

「コンコンコン!入っていいですか!」

アレンはその場で手で扉を叩いてノックするように
コンコンと言い出した。
王妃もクレハもその様子に思わず笑ってしまった。

「ええ、いいですよ。」

「はい、では入ります!入りました!
 母上、これで良いですか?」

「ええ、いいわよ。次回からは入る前にやってね。」

アレンはコクンと頷いた。王妃も満足げに頷いた。

このやり取りは何度か繰り返されてるのを知っている。
アレンはちゃんとできることもあるが、
急いでいると忘れてしまうらしい。

今回は何を急いでいるのかと思ったら、
どうやらクレハを探していたらしい。

「クレハ!探していたんだ!」

「わ、私ですか。」

「ちょっと来てくれよ。いい物を見つけたんだ!」

いい物とは何か・・。
あんまりいい物の予感はしないが、虫の抜け殻でも
見つけただろうか。

クレハは王妃をちらっと見た。
笑みを浮かべたその表情は何かを呟いた。
ほらね。と言っているようだ。

「どうしたんだ?駄目なのか?」

アレンはクレハの顔を覗き込んだ。
先ほどのいざこざの影響など何も無いようだ。
アレンはいつも通りだった。

「いいえ、行きましょう。」




***

王妃に見送られてやってきたのは
ローレシアの外れにある小さな森だった。

「アレン様、こんな所に何があるのですか?」

「見ろよ、ほら!」

アレンが手を伸ばした先は
とある木のはるか先の方だ。
しかし葉と枝しか見えない。先のほうに何があると言うのか。

「木の実がなってるみたいなんだ。
 見たことも無いやつだ。なぁ、見に行こうぜ。」

「本当ですか?」

クレハが目をこらしていると、
アレンは早速木登りを始めてしまった。
するすると登っていく。

「おーい!お前も早く来いよ!」

アレンは最初の枝まで辿り着くと
下に向かってそう呼んだ。

「え・・・はい・・。」

アレンと付き合っていると何が大変と言えば、
自分が簡単に出来ることは、
他の人にも出来ると思っていることだろう。

まぁ、その辺はあまりアレンに感じさせない方が
良いかもしれない。

クレハはごくりと息を呑んで、
木登りに挑戦した。

「分かりました!アレン様、待っていてくださいー!」

まぁ、こう見えてお転婆を通り越して
男勝り、もとい男で通していた私である。
これくらいきっとできると思っていた。

幹に手をかけて
少しずつ登っていく。

徐々に手の平に汗をかいてきた。
アレンが一瞬で登ったところまで
やっとの事で登ることが出来た。

「よし、来たな。
 まだ全然先だぞ。」

アレンは楽しそうにさらに先を指差した。

「さぁ、行くぞ。」

そう言うとさらに登って言ってしまった。

まぁ・・・・・、
いつも通りで、何も気にしてない様子なのは大変結構だが、
逆にアレンは覚えてないんじゃないか?

私は女なんですが・・。

そんな気持ちになった自分に驚いた。
アレンがせっかくいつもと同じように自分を誘ってくれたのに
気にしてるのは自分じゃないか。

しかし、アレンについていこうと思うその体が重い。

枝を掴む手が汗で滑って、その度に嫌な汗が流れる。
腕が少しずつ痺れてきた。
手のひらで掴んでいた枝を、腕全体で掴まないと
落ちそうになる。

「・・・クレハー!」

アレンが自分の名前を呼んでいる。
声の聞こえ方からして、かなり離れたところまで
登っているんだろう。

早く、そこまで辿り着かなければ、
置いていかれてしまう。

気持ちばかりが焦るが、
体は確実に悲鳴を上げていた。

アレンと自分は違う人種なんだと
嫌でも悟らされてしまう。
アレンにも気づかれてしまう。
自分はついていけないと気づかれてしまう。

必死に手を伸ばして、
次の枝を掴もうとしたが、焦って伸ばした手が
空を切った。

「・・!!」

一度体勢を崩すと、それを立て直す体力も残っていなかった。

落ちる!!

そう思ったとき、自分より小さな手が、
私の手を引いてくれた。

「しっかりしろ、落ちるぞ!!」

「ア・・レンさま・・・」

アレンが登ってこない自分を不審に思って
ここまで降りてきてくれたのだ。

そして、太目の枝のところまで
自分を支えつつ登ると
そこにしっかり捕まるように言った。

「大丈夫か?」

幹にもたれるようにして、
少し疲れきった腕も休ませることが出来た。
これで、きっとまた上に登れるだろう。

「大丈夫ですよ。ありがとうござい・・」

ようやく一息ついてアレンに礼を言おうと
その顔を見上げると、アレンは見たことも無いような
心配そうな顔をしていた。

「アレン様・・?」

「ごめん、クレハ女なのに、こんな事やだったか?」

あ、アレンは私が女であることを覚えていたのか・・
と思ったが、今はそんな事はいい。

「嫌ではありませんが、アレン様にはとても着いていけないようです。」

「そっか・・。」

アレンは寂しそうな顔だった。

私はアレンの木登りのスピードに着いていけないと言う意味で
言ったつもりだったが、アレンには違うように伝わってしまったようだった。

「無理やり、つき合わせて悪かった。」

「え・・・いや、違うんです!
 私の鍛錬が足りないだけです・・!」

「でも、お前女だから。
 これ以上はやらせられない。」

アレンにとっても今まで気にしてなかったことを
違和感として感じているようだ。

これまでは自分がアレンに着いていけない場合も
へなちょこだなと笑っていた。
だが、今日はそんな様子ではなかった。

「俺は、上に登りたいんだ。
 お前は・・・下で待っててくれ。」

「え・・?」

アレンから着いてくるなと言われてしまった。
いつもなら一緒に行こうと誘ってくれるのに。

だけど、アレンの表情は真剣だった。
それは逆らうことが出来ない表情だった。

「アレン様・・・・・・。
 分かりました・・。」

私は木から降り始めた。
何だか自分が情けなくなる。
昨日まで一緒に出来ていたことが出来なくなる。

今日を境に出来なくなるんだ。

「気をつけろよー!」

クレハはその声にハッとした。
悲しい気持ちになりながら、降りていくクレハを、
アレンはずっと上で見ていたようだ。
着いてもいけない自分の心配なんてさせたくない。
自分が行けないその先の事だけ考えて欲しい。

「私は大丈夫です!
 アレン様は上へ・・・!!」

クレハは地上に降り立つと、
上に向かって声を張り上げた。
アレンにも聞こえているだろう。

アレンはさらに高いところに登っていく。

そうだ、彼はこの国の王子だ。
彼は、かつて全世界を救った勇者の血を引く
この国の自慢の王子なのだ。

自分と同じ位置にいて良い訳が無い。
自分のせいで歩みを止めてはならない。

アレンにはさらに高いところへ、登っていって欲しい。

私に出来ることは
それを笑顔で、見送ること。

私は改めてそのことに気づかされた。



ほどなくするとアレンは、自分のいるところまで降りてきた。

手には小さな木の実を持っていた。

「ただいま!!」

「おかえりなさいませ。」

クレハは満面の笑みでアレンを迎えた。
アレンは満足げに手に入れてきた木の実を見せてくれた。
固い殻に包まれていた。

「これ、なんだろうな?」

「もしかして、これって力の実かもしれませんよ。」

「力の実?」

図鑑で見た力が強くなると言う木の実が
確かこんな形だった。

「珍しいですね、ローレシアで見つかったと言う話は
 あまり聞いたことがありません。」

「それは、なんなんだ?」

「力が強くなるそうですよ。」

「へーーー、本当か!?それはすごいな!
 お前詳しいな〜。」

アレンはしばらく手のひらでそれを転がしていたが、
軽く一度握り締めると、クレハに差し出した。

「お前、食うか?」

「えっ!?どうしてですか?アレン様が見つけたんですから
 アレン様のものですよ!」

例えそうでなくても、
アレンにこそ相応しいアイテムと言えるだろう。

「だって、お前力弱いから。
 これ食べたら一緒に登れるんじゃないか?」

そう言って、力の実を手渡されてしまった。

「・・・アレン様・・・。」

アレンの言葉にクレハは何と言えば分からなかった。
アレンはまだ自分を連れて行こうとしてくれていた。

でも私は気づいてしまっていた。
アレンに着いていくべきは私ではない。

それが誰かは分からないが、
私ではないのは、分かってしまった。

「ありがとうございます。」

クレハはアレンの気持ちに頭を下げて応えた。
だけど決してそれを使うつもりはなかった。
これはきっとアレンに返そうと思った。

「じゃあ、いこっか。クレハ。」

アレンは手を差し出してきた。
クレハはその手を取った。

今はまだ小さいこの手は、
まだ私の手が届くところにある。

でもきっといつかこの人は遠いところへ
行ってしまうだろう。
手の届かない遠くへ・・。

その日が来たら、笑顔で見送ろう。

クレハはそう、心に誓った。




- 終 -

2012/09/05

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  大分前に書いたお題小説25.異端の後日談をリクエストで頂きました。
  せっかくなので、今まで書かずにいたクレハとアレンの距離感について書かせていただきました。
  小さいアレンとクレハです。アレンは遊ぼう遊ぼうと一緒に遊べる相手を欲しています。
  
  いつも通りでって思っても、女であると意識すると、出来なくなることって多いと思います。
  さらに自分と相手が違うと気づくと色々な違和感に気づく・・のかなと思って、こんな感じに。
  リクエスト、ありがとうございました。

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