「ア、アレン様、何をなさっているのですか!?」
クレハは突然のアレンの行為に、思わず動けず固まったまま
驚いて声だけあげた。
「あれ?お前、なんだか・・・」
「何ですか?
って、アレン様どうされたんですか?」
ソファに座っていたクレハの首筋に、
アレンは顔を近づけてきた。
「ううーん・・・?」
そのままあろう事かアレンは何をか考えたまま、
クレハを押し倒した。
「わっ・・・、アレン様・・・?
一体どうしたんですか?」
驚いたクレハはアレンを見上げて
何事かと問うた。
「んーー・・・・」
「んーでは分かりません。
何か私おかしいでしょうか?」
「そうなんだよなー。
なんか、お前・・・おっと。」
不意に扉を誰かがノックする音がして、
アレンは起き上がった。
どうやら侍従か誰かがアレンを呼びに来たようだ。
何か用事があったらしい。
アレンは軽く頷くと、
そのまま部屋を後にしてしまった。
クレハ部屋にぽつんと残されて、
先ほどのは一体なんだったのかと思った。
おかしいでしょうかと聞いたら、
そうなんだよな、と言われた・・・ではないか。
私、どこかおかしいのか・・・!
クレハはさーっと蒼白になると、
慌てて自分の衣服や髪を姿見で確認した。
髪が乱れていただろうか、服装がおかしかっただろうか。
妊娠してから少しゆったりめのローブを着たりしていたが、
それが似合わなかっただろうか。
アレンをがっかりさせてしまったのかと思い、
クレハは肩を落とした。
翌日もアレンは
クレハを見かける度、また昨日のように顔を近づけるのだ。
「ア、アレン様・・・?
わ!ち、近いですっ・・・!」
「ああ、そっか?悪いな。」
そう言うとアレンは、悪そうにもせず少し離れて、
うーんと腕を組んだ。
鼻が付くくらい近づいてくるだけで、別に何もしない。
別に抱きしめるでもないし・・・。
まぁ、まだ明るいし、そんな時間でもない。
身づくろいは整えたつもりだったが、
まだおかしい所があっただろうか。
「アレン様、私におかしい所があったら言ってください。」
クレハはたまらずアレンに聞いてみることにした。
すると、アレンは衝撃の事を言ってきた。
「なあ、お前、何か匂いが変わったな〜って。」
「に、臭い・・・ですか・・・!?」
クレハはその言葉に衝撃を受けた。
臭う、だと!?アレンは自分の事を臭うといったか?
さっきからアレンはそれを気にしていたのか?
私、最低じゃないか・・・!
クレハはがばっと立ち上がった。
「も、申し訳ありません・・・!
私は湯を浴びてきます!!」
蒼白な顔でクレハはその場を立ち去ろうとした。
「え?は?
なんで急に風呂?
って、お前急に走ったりするなよ・・・!」
慌ててアレンが手を差し伸ばすのと、
クレハがバランスを崩すのが同時だった。
「わっ・・・!」
「おい!」
倒れ掛かったクレハを、
アレンは危機一髪で支えた。
「気をつけろよ。
お前腹がでかくなってて、
バランス崩しやすいんだから。」
もう産み月に入っているクレハは
自分のお腹を、思わず確かめるように撫でた。
ずっと、大事があってはいけないと、
最近は歩くのも恐る恐る慎重になっていたのに。
こんな事で、転倒でもして、お腹の子に
何かあったら最早どうしたら良いのか。
そう思うと、自分の浅はかな行動と、
先ほどのアレンの言葉と、
それでも自分を助けてくれた優しさと・・・、
何だかよく分からないが、とにかく色々な事が脳裏に浮かび、
クレハは自分がとにかく恥ずかしくなった。
騒がしい物音を聞きつけたのか、
扉を誰かがノックした。
また誰か侍従がアレンを呼びに来たのかと思ったら
アレンの母であった。
「どうしたの?
物音がしたけど。何かあった?
入っていいかしら?」
皇太后は、心配そうな顔をした。
「あ、母上様、ご心配をお掛けして申し訳ありません。
転倒しそうになった所をアレン様に
助けていただのです。」
「まぁ、クレハ。気をつけなくてはいけないわよ。」
「は・・・はい・・・。」
皇太后にまで心配を掛けるなんて、
ますますクレハは落ち込んでしまった。
「クレハ・・・?どうしたんだ?顔色が悪いぞ。
大丈夫か?気分でも悪いか?」
アレンは気遣わしげに、クレハの顔を覗き込んだ。
その顔を直視できない。
「い、いいえ・・・違います。
何でもないです。ご心配はいりません。」
「そっか?」
ふさぎこむようなクレハを尻目に、
アレンは笑って見せた。
「へへ。本当に、もうすぐなんだなー。」
「え?」
「え?じゃねえよ。
もうすぐ、子どもが生まれるんだろ。
どんなだろうなー。楽しみだな〜。」
「あ・・・はい・・・・。」
アレンは無邪気な笑顔を見せているが、
少し気持ちが落ち込んでいるクレハは
複雑な心境で笑みを返した。
「ローレシアの王子なんだから、
お前も強くなくちゃならないな。
生まれてきたら、俺と剣の稽古だぜ。」
「アレン、待ちなさい。
生まれてすぐに剣の稽古なんて出来ないわよ。」
母からの指摘に、アレンはああそうかと頷いた。
「じゃあ、一緒に飯を食おうぜ。
ローレシアは、美味いものいっぱいあるんだぜ。」
再度、目を輝かせてそんな事を言うアレンに
母はもう一度呆れたように言った。
「だから、アレン・・・生まれたばかりの赤子は
ご飯を食べません。」
「えっ、飯食わないなんて、
じゃあ腹減るじゃないか。
体が小さいから飯食わないのか?」
アレンはどうやら赤子の生態と言うものを
全然知らないらしい。
「それは母乳があるから大丈夫よ。」
「なんだ?」
「だから、・・・こほん。
おっぱいよ。赤ちゃんはお乳しか飲まないのよ。」
「あーーー!!
おっぱいね!ああ、そう言えば何か聞いたことある。」
何をどう聞いたことあるのか、
アレンはクレハを振りかえって、
「へー、ここから乳が・・・。」などと呟いている。
悪気はないんだろうが、
何ともあけすけなその様子にクレハは少し笑ってしまった。
「アレン様は、赤ちゃんの育て方、
全然知らないのですね?」
「え?そうだな。
全然しらねえ。」
弟妹もおらず、王子として育ち、
年の離れた赤子と接する機会など
当然なかったアレンである。
ずっとひたすら剣の道の邁進だけを目指した研鑽の日々であった。
知らないのは当然とは言えるが・・・。
「アレン、あなたちょっと来なさい。
少しは勉強しなさいと。
じゃないと、生まれた赤ちゃんに、
無理やりお肉でも食べさせかねないものね。」
皇太后が、アレンをどこかへ連れて行こうとした。
「母上、どこへ行くんだ?」
「書庫よ書庫。
着いて来なさい。」
「げー、勉強か〜〜。苦手だなー。」
一瞬、嫌がるそぶりを見せたが、
アレンは素直に頷いた。
いよいよ自分の子どもが生まれるという段になり、
赤子の生態と言うものにも興味を持ったのだろう。
アレンも少しずつではあるが、
心身ともに父になる準備をしようと思っているのだろう。
そのまま、アレンは皇太后について、
部屋を出て行った。
2人の様子は微笑ましくも思うし、
自分ひとりがこれから起こるであろう出来事と
向き合ってるんじゃないのだという思いにもさせてくれた。
それより、クレハはアレンに臭いと言われたのが、
気になっていた・・・。
足元に気をつけながら、
やっぱり湯を浴びてこようか。
そう思いながら、今度は気をつけて
立ち上がった。
しかし先ほど、バランスを崩したせいだろうか、
今日は何だかお腹が張る気がする。
立ち上がった際、少しばかり鈍い痛みが走り
クレハはおや?と思った。
だが、その痛みはすぐに消えた。気のせいだろうか。
・・・・
きっと気のせいだろうとクレハはその時は思った。
+++
一方アレンはローレシアの書庫に連れて行かれていた。
ここにはあらゆる分野の書籍が所狭しと収納されている。
勉強が苦手なアレンが
自ら進んでこの部屋に立ち入る事は、今までついぞなかった。
だが、今日は母から課された課題に進んで目を通していた。
母から渡された本は育児百科と言う本だ。
「ここって、こんな本もあるんだなー」と呟きつつ
こんなものを堂々と読んでる姿は、
あまり仲間達には見せたくない姿だ。
まぁ、それはどうでもいい。
苦手な活字に目を通してみると、
いかに生まれたばかりの赤子と言うのが
不完全で不安な存在なのと言うのも
何となく分かった。
歩きもせず、喋りもせず、
ただ泣いて不快を訴えるだけ、らしい。
その不完全な存在は、
周りの助けがないと生きていけないらしい。
じゃあ、剣の稽古なんて
いつ出来るんだ?とか思いつつ、
ぱらぱらと本をめくっていくと、
徐々に赤子は歩き始め、走り始めるらしい。
へーーー。
なるほど、少しずつ人間らしくなっていくもんだなあ。
早く、大きくなれば良いのに。
アレンはそんな感想を抱いた。
中々興味深い本だった。
これ、クレハにも見せたほうが良いんじゃないか?と
アレンは思った。
他にもクレハにも見せた方が良い本はあるかと思って、
書棚を見てみた。
同じ場所には、命名についての本もあった。
そう言えば、名前きめねえとなあ〜。と思いつつ、
それは手に取らず、
書棚をうろうろと歩き回った。
ふと、書庫の中のとある本が目に付いた。
それは、ローレシアの王子として生を受けたアレンが
幼い頃から繰り返し読まれ続けた
ロト伝説を綴った書籍だ。
何気なく懐かしさに駆られて、
アレンはその本を手に取った。
古びたその本はきっと何度も何度も繰り返し
読まれてきたのだろう。その中には、
幼い日の自分も含まれるだろう。
物語は、勇者ロトの16歳の誕生日から始まる。
王様に挨拶をし、新たに出会った仲間と共に、
長い長い旅に出るのだ。
16歳か・・・自分が旅に出た頃より若い。
大変な事もあっただろうなとアレンは、
かつての伝説の勇者を思った。
ロトの冒険譚は、色あせない伝説として、
今も語り継がれている。
小さい頃から聞かされ続けて、少々耳にはタコが出来ているが
それでも今でもそれを読むと胸が躍る。
勇者ロトだけではない、勇者アレフの伝説譚もそうだ。
自分だけはない。
ローレシア中、いや世界中の子供達が
目を輝かせてその冒険に夢中になっただろう。
もしかして・・・もしかしてだ。
自分達の旅も、いつかはこうやって
子供達に読まれる冒険譚として語り継がれるんだろうか。
うーむ。
そう考えて、少々苦笑してしまった。
どうだろうか。
自分はまだ健在だし、
アレンは自分が不完全な存在である事は
よく分かっている。2人の仲間達も、そうだろう。
自分達は誰も勇者ロトやアレフのように完全な存在ではなかった。
大概、旅の道中、ろくな事をしなかった気がする。
今思い返すと、魔物との戦いも勿論数多くあったが、
仲間達と笑いあったり、言い争ったり、そんな他愛ない思い出が
強く脳裏に残っている。
こんな自分達の冒険が、語り継がれるなんて
気恥ずかしい思いしかしない。
それを思うと、アレンは思わず笑った。
いいや、もうその事は良い。
後世の人間が、語り継ぐかどうかは、勝手に決めれば良い。
そんな思いで、勇者ロトの伝説譚をぱらぱらとめくっていくと、
最後にロトの実名が記されているページが目に入った。
いつも自分達は彼のことを勇者ロトと呼んでいるが、
それは後で授けられた称号のことで、
元はもちろん自分達と同じように名前があった。
ただ1人の若き青年であった頃のロトの名前は『アレル』と言う。
アレル・・・。
恐らく、自分のアレンと言う名前も
この伝説の勇者の名前の一部をもらって親が名づけたものだろう。
ロトのように強く育って欲しいという親の思いや期待などが
感じられると言うものだ。
であれば、間もなく生まれる自分の息子にも
同じように思いを込めて名前を付けたい。
勿論、アレンは子供に強く逞しく育って欲しいと願っている。
それこそロトにも、親である自分にも負けないようにだ。
だけど、勇者になってほしいかと言われると
疑問符がつく。
ロトの勇者として祭り上げられて期待されることは
必ずしも喜ばしい事ばかりではない。
辛い事も沢山ある。
人々の期待に応えられるかどうか、
常にその視線を感じる日々は実は少し辛いものがあったのだ。
生きながら持つ勇者のこの孤独感とは、
この血に生まれし者の宿命だろうか?
自分だってそうだったんだから、もう仕方ないのだろうか。
そう思い、ふとアレンは自分と同じ血を引くはずの
ロトの『兄弟』のことを思い出した。
あいつは、自分と同じはずだったのに、
なのに、あいつはいつも飄々として、
ロトの血のことすら、苦しまず受け流すかのようで。
あいつは、その血も、身分についても、受け入れつつも、
結局自分の生き方すら、何にも流されずに
自分で決めた。
そうだな・・・。
この血に誇りと自覚は持ちつつも
俺みたいじゃなくて、
生まれてくる我が子には、あいつみたいな生き方をして欲しい。
アレンは、そんな風に親友のことを思い出した。
++
アレンが書庫の中で、
深い思いに耽っている内に、
かなりの時間が経っていたらしい。
「アレン様ーー!!どこにいらっしゃいますか!?」
「アレン王よ!アレン王!?」
書庫の外から、兵らが自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
なんだなんだ、何事か。
書類仕事に不備でもあったか。
せっかく良い気分で思いを馳せていたのに。
「王は書庫には行かれないだろう!」
「そうだな!」
兵は、踵を返して、どこか別の場所へ行ったらしい。
おいおい、王は書庫には行かないとは失礼な言い方だな。
ふん。これから隠れる時は、ここへ来れば良いか。
しばらく無視していると、
違う声が聞こえてきた。
「アレン!!アレンはどうした!
あいつめどこへ行ったのだ!?」
この声は・・・珍しい、父上だ。
自分が即位してからは、隠居したような父が
声を荒げて自分を探すなんて事は珍しい。
本当に、何事かあったんだろうか?
「父上?どうかしたのか?」
「おお!アレン!
まさか書庫にいるとは思っておらなんだぞ。
珍しい事もあるものだ!」
少々、父は興奮気味に息を荒げていた。
「母上に連れてこられて、
勉強してたんだよ。」
「ほう!それは感心な事だ。
だが、本などと睨めっこしている場合じゃないぞ。
大変だ!」
「大変・・・って?どうしたんだ。
もしかして本当に何かあったのか?」
アレンは、一体何事かと眉を顰めた。
魔物でも現われたのだろうか。
「聞け!クレハが産気づいたと言う事だ。
既に母はクレハに付き添っておるぞ。
お前は行かんのか?」
「え・・・!?」
その言葉を聞くと、
アレンは最近では見られないほどの
全速力でその場を駆け出した。
「おいこら!!アレン、
廊下を走るなーー!」
背後から、父の嗜める声が聞こえるが、
足は止まらない。
クレハは一体どこにいるのだろうか。
寝室だろうかと、向かってみると、
そこから耳を劈くような悲鳴が聞こえてきた。
クレハの声だ。
だけど、こんな声は聞いたことがない。
おもむろに部屋に飛び込むと、
やはり聞き間違いではなく
クレハは見たことないような苦悶の表情で
苦痛の声を漏らしている。
「な・・・大丈夫か!
クレハどうしたんだ!?
皆なんでぼーっと見てるんだよ!
ホイミとか、薬草とか!!治療をしてくれよ!」
慌てた様子のアレンを、
嗜めたのは母であった。
「あなた、書庫で一体何を読んできたの?
私達に出来る事はないのよ。
これは母であるクレハの戦いなのだから。」
「た、戦い・・・?」
そうか、もう間もなく子どもが生まれてくるのだ。
生みの苦しみとは、こんなに壮絶な戦いだとは知らなかった。
これが、母であるクレハだけの戦い?
そうなのか?そうかもしれないが・・・。
「クレハ!クレハ、頑張れ!」
「ア・・・レンさま?」
クレハはうっすらと目を開けた。
痛みのせいか、目には涙が浮かんでいた。
アレンはその涙を一度拭いてやった。
「大丈夫だ!クレハ心配しなくていいぞ!
もうすぐだ、もうすぐ、
元気で・・・元気な元気な赤ちゃん生まれてくるぞ!」
クレハは、痛みと涙に霞む目で一度だけ頷いた。
アレンはクレハの手を握ってやった。
その手は、ひどく汗ばんでいた。
そして非常に強い力で、アレンの手を握り返してきた。
「・・・!?」
強い。アレンがそう感じるほどの強い力で、
クレハは今闘っているのだ。
そして、新しい命が生まれてくるのだ。
アレンはクレハのその苦しみを自分も共に受けんとして、
強く、暖かく手を握り返した。
「あああ、ああ・・・あーーーー!!」
今まで感じた事のないような握力でクレハはアレンの手を握り、
そしてまた、ひときわ大きな声でクレハは叫んだ。
次の瞬間、
賑やかな泣き声があたりに響き渡った。
「・・・あ・・・!!」
助産婦が小さな命を取り上げた。
「アレン王様、王妃様、
おめでとうございます!!
男のお子様でございますよ!」
助産婦はそう言って、生まれたばかりの
赤子を2人に見せた。
「・・・・っ!!!」
クレハは両手で顔を覆った。
無事に生まれてきた。大業を終えて、
ホッとした気持ちと、嬉しい気持ちと・・・。
「やったな!クレハ!!」
アレンが感激した様子で、クレハに抱きついてきた。
「ア、アレン様!?」
「よくやったなクレハ、この戦いお前の勝利だぞ!」
戦いに勝利・・・。
こういう言い方をするアレンを
クレハは微笑ましく思った。
が、至近距離のアレンにクレハはふと我に返った。
「アレン様いけません。
私結局お風呂に入れてないんです。」
湯を浴びに行こうと思ったら
産気づいてしまったクレハであった。
「風呂?なんだって?」
「だから、私が臭うって・・・。
臭いから近づいてはいけませんーー。」
「・・・え?お前何言って・・・」
クレハは精一杯アレンから離れようと
身をよじった。
だが、痛いやら辛いやらで、まだ力が入らない。
「アレン、何ですの?
そんな事をクレハに言ったの?
あなた一体どういうつもりで?」
母も、アレンを批難するように詰め寄ってきた。
「え、いや・・・違う。
匂いってあれだよ。
何か、いつもと違う気がするって思って。」
「だから、アレン様・・・。」
皇太后の前でまで言われるのは耐えられないと思ったが、
アレンは思いがけない事を口早に言った。
「そしたら、今分かったんだ!
クレハの匂いいつもと違って、変だなーと思ったら、こいつだよ!
こいつの匂いだよ。」
「え・・・?」
アレンはそう言って、生まればかりの赤子を受け取った。
「よう。俺がとーちゃんだぞ。お前だったんだな。
ははっ。これからよろしくな。」
・・・・
クレハはその光景に目を瞠った。
アレンは、生まれてくる子供の気配を
はや感じ取っていて、あのような言い方をしたのだという。
「匂いって・・・相変わらず動物みたいね、アレンは。
さあ、クレハ疲れているでしょう。
しばらくゆっくりおやすみなさいね。」
「あ、はい。」
赤子を大事そうに抱くアレンを見あげながら、
クレハは目を細めた。
そこで、ふと、アレンの右手が真っ赤になってるのに気付いた。
「アレン様・・・?あの、それは・・・?」
こんな怪我などしてなかったはずだ。
「ああ、さっきお前に手握られた跡だな。
すっげえ力だったぜ。」
「ええっ・・・!?も、申し訳ありません!!」
「大丈夫だよ。」
アレンは何でもないと言う風に笑った。
自分にあんな力があるなんて、
少し驚いたというか、恥ずかしいというか・・・。
恥ずかしいといえば、握力どころじゃなく、
先ほどはとんでもない声やら表情やらしていただろう。
クレハはもう気恥ずかしくて、布団を深くもぐりたい気分になった。
だが、すぐそばでは先王が弾んだ声でアレンと話を始めた。
「アレン!跡継ぎの誕生だ。
この吉報はすぐに王国内に、いや、
世界中に知らせないとな。」
先王は、そんな事をアレンに言った。
「でも、あなたそれは名前が決まってからで良いじゃない?」
母がそのように言うと、アレンはにやっと笑って答えた。
「名前なら、決まったんだ。」
「アレン様、いつの間に??一体どのようなお名前です?」
思わず、布団から顔を出したクレハに対して、
アレンはもう一度赤子の顔を覗き込みながら答えた。
「カレルだ。」
「カレル・・・。」
「えーっと、うん。あとで由来は説明してやるよ。
お前は少し休むと良い。」
アレンはクレハの髪をひとなでした。
この名前の由来は・・・
何となく、聞かずともクレハは分かるような気もした。
アレンの思いを考じ取る事ができ、
とにかく、ようやく安堵の中で疲れに身を任せ、クレハは目をつぶった。
- 終-
2014/12/24
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