マリアが明日からの行程を確認しておこうと思って、
洞窟に戻ると奥から怒鳴り声が聞こえてきた。
マリアは驚いて、思わず耳をそばだてた。
「もー、知らない!知らない!
アレンが自分でやればいいじゃないか!!」
なんだなんだ?
怒鳴っているのはカインだった。
覗き見ようとすると、カインがぷりぷり怒りながら
奥からこっちへとやって来た。
一瞬マリアの姿を見て、びっくりしたようだったが、
特にマリアには何も語らずにそのまま出て行ってしまった。
残されたアレンの方もやや唖然とした表情を浮かべていた。
「アレン?ちょっと、何?どうしたのよ?
喧嘩でもしたの?」
アレンはマリアがやってきたのに気づいて、
は〜〜とため息をついた。
「なんだよ、あいつ。
急に怒鳴り始めやがって。」
「一体何があったの?」
と、言いつつ周りを見渡すと
何やらいくつも料理の皿がひっくり返っていた。
見るとお鍋までひっくり返っている。
そしてあちこち料理が飛び散っている。
「やだこれ。どういう状況なの?」
お鍋を起こしてみると中にまだ調理したと思われる
野菜が少々残っていた。
「もしかして、あなたせっかくカインが作った料理を
駄目にしちゃったの?そりゃあ怒るわよ。」
「俺じゃねえよ。
あいつが自分で・・・・。」
「自分で?ちょっと、どういう事?
詳しく教えてよ。状況が分からないわ。」
さっぱり状況が分からないマリアは
アレンに説明を求めた。
話によると、こうだった。
もうすぐ料理が食べられる、と言う頃に
魔物が出たんだそうだ。
武器を手放していたカインは
鍋に残った熱湯をぶっ掛けたりしていたらしい。
結構、それは効果覿面だったようで、
魔物たちは、散れぢれになって、そこをアレンが止めを刺した。
それは良かった。怪我も無く魔物を追っ払えたのだ。
だが、ふと見るとお皿に盛った料理まで、
このどたばたでひっくり返ってしまった。
そこまでも・・・別に良かった。
カインも「あーあ〜」とか言いつつ怒ってはいなかった。
が、アレンがふと口にした言葉でカインが怒ってしまったんだそうだ。
「あなた何を言ったのよ・・・・?」
「いや・・・俺、野菜よか肉の方が良かったし、
ちょーど良いかって。作り直してくれって。」
悪びれもなくそんな事を言うアレンにマリアは心底呆れた。
「はぁぁあーー???あなた何を勝手な事ばっかり言ってるの!?
大体ごはんさっき食べたでしょう?
帰ってきてまた料理がひっくり返ってるのに、私まずびっくりしたんだけど!?
あなたたち何やってるのよ。」
「だって、俺腹減ったんだもんー。
なんか作ってくれって言ったんだよ。」
「腹減った腹減ったって、あなたねえ!
明日には街に着くんだから、ちょっとは自重しなさいよ。
そりゃあカインだって嫌になるわよ。
しかも、何?せっかく料理を作らせておいて、
野菜より肉が良かった?
馬鹿じゃないの?」
「ば・・・・馬鹿?
馬鹿とは何だよーーー!」
「馬鹿も知らないの?
愚かな事柄、あるいは愚かな事をする人の事を、『馬鹿』って言うのよ。」
「いや、意味とかじゃなくて!」
なんでそこまで言われなきゃならんのだとアレンは思いつつ、
しかしさっきのカインの怒りっぷりを思うと
若干良心が痛みはした。
「いや、あいつが、自分で鍋ぶちまけてるから、
あんまり自分の料理の事気にしてないのかなーって思ったんだよ。
まぁ、大丈夫だろ。どうせあいつの事だからすぐけろっと帰ってくる。」
痛みはしたが、気にしない事にした。
そんな様子のアレンにマリアは呆れつつも、
アレンの王様気質は今に始まった事ではない。
まぁ、もうアレンなどどうでもいい。
マリアは出て行ったカインを追いかけようと思った。
洞窟から出て、マリアはカインを探した。
どこに行っただろうか?
カインはルーラが使えるから、もしかしたらこの辺にはおらず
どこかへ飛んでいってしまっている可能性もある・・・。
勝手にどこかへは行かないと思うのだが・・・。
きょろきょろと周りを見渡しながら、
森の中を進んだ。
すると近くに川が流れいて、
そこにカインが寝転がっていた。
意外と近くにいて良かった。
マリアはほっと胸をなでおろした。
「カイン、何をしているの?」
寝転がっているカインにマリアは声を掛けた。
カインは起き上がって、
マリアに「やあ」と応えた。
「いやあ、川が流れてたから
魚でも捕まえようかなーって思ったんだけど、
なんかもう面倒くさくなって。」
「・・・・・。」
「だってアレン魚じゃなくて、肉を食べたいんだもんねえ。
多分魚捕まえて帰っても、
魚より肉が食べたいとか言うんだよなあ。」
はぁ〜とため息をつくカインは明らかに
疲れた様子だった。
「で、飛んでる鳥でも捕まえようかなと思って
ぼーっと空を見てたんだ。
でもあんまり鳥が通りかからない。」
言われてマリアも空を見たが、
木々が多くて、天気も悪くて、鳥など見当たらない。
「そうねえ・・・・」
「まぁ、無理やりここで鳥を捕まえなくてもいっかー。
どうせ明日には、かえるだろうし。」
「え?帰るって誰が?」
「誰が?って・・・・。そりゃあ僕が。」
え?え?何だそれは?
帰るってなんだ?
「ど、どうして・・・?」
「どうしてって、もう駄目だって思ったら、
最悪の場合はルーラで行くよ。」
最悪ルーラでカインが帰る・・・!?
帰るってサマルトリアに?帰っちゃうというのか?最悪の場合?
なんだそれは。何の話だ?
「だから、今日くらいアレン放っておいても
大丈夫だよねえ?」
「え、あ・・・アレン?
アレンなんてどうでもいいわよ!
放っておきなさないよ!!」
「え?放っておきなさいって?
あはは、マリア面白いねえ。
じゃあ放っておこうっと〜〜。」
どこか諦めたように笑うカインに、
何といえばいいのか分からず、
マリアは、あわてて踵を返して洞窟に帰った。
「ちょっと、 アレン!!
カイン、えーっと・・・すっごい怒ってるわよ!?」
いや、別に怒ってはいなかったが、
あの笑みは既に全てを諦めたかのような、まるでそんな境地を感じさせた。
「うっそだろう。あいつが、なんで怒るんだよ。」
アレンは最初不思議そうにとぼけた。
「あなたが肉が良いとか言うから。
ノイローゼみたいに、川を眺めたり空を眺めたり。
もう駄目だと思ったらルーラで帰るんだとか
言い出したわよ!?」
「え・・・えええええーーー!?
帰るってなんだよ。サマルトリアに帰るのか!?
今更!?なんで!?」
「なんでってあなたが肉が良いとか言うからでしょ!?」
「肉ーー!?」
やや、会話がパニックになりながら、
アレンは頭を抱えた。
なにも肉が用意できなければ、国へ帰れなんて言うつもりはなかった。
むしろ、今の自分達にカインがいないなんて考えられない。
「や・・・やだぞ?
どうしたらカイン帰らないんだ?」
「知らないわよ。あなたが悪いんでしょ。
自分で考えなさいよ。」
マリアに匙を投げられてしまった。
アレンはうーんと唸って考えた。
そう言えばカインは何と言って出て行ったか?
『アレンが自分でやればいいじゃないか!』とか言っていた。
「自分で・・・俺が自分で料理をすればいいのか・・。
そう言うこと・・・か?」
「そ、そう言うことなの・・・?
え、そうなの?本当に?それはそれで不安じゃない?」
マリアはさらに不安そうな顔をした。
アレンの手料理・・・そんなもん食べた事が無い。
いつもアレンはどーんと座って、出てきた料理を食べて、足りないとか言ってるだけだ。
「大丈夫だ。料理くらい俺にも出来る。
ったく、カインのやってる事くらい俺は全部出来るんだぜ。」
「いやいや・・・そうなの?」
でも、自分でやるといってるんだから、
満足いくようにやればいい。
足りなくても自分で何とかすればいいのだから。
そしたらカインの負担も楽になるだろう。
「分かったわ。じゃあそうしましょう。
食材はあんまりないけど、ちょうど明日街に着くものね。」
マリアもその考えに賛成した。
「ああ、じゃあ明日街に着いたら
買出しに行ってくるぜー。」
「ええ。」
「あいつをうまいと言わせたら良いんだよな。
そしたらあいつ帰らないんだろ?任せとけ。」
ん?そんな話だったか?と思いつつ、
マリアはアレンに任せることにした。
その後、言葉少なく帰ってきたカインに、
アレンは特に話しかける事も無く、
その夜は静かに休む事となった・・・・。
翌朝、いつもよりやや会話の少ない3人組だったが、
魔物の来襲などは無事に撃退しつつ、
予定通り街に辿りついた。
着くなり、どこかへ行こうとするカインを
慌ててアレンとマリアは押さえつけて、
カインには宿番をさせることにした。
「お前は宿にいれば良いんだよ!」
「な・・・なんで?」
「なんでもくそもねえ。
いいか、宿にいろよ。絶対宿から出るなよ。
ルーラなんて奴は、もってのほかだからな!!
何かの間違いでも宿から出たりしたら、
刺し違えても俺はお前を探すからな!」
「え・・ええええーー??」
何故だか外出を厳しく禁じられたカインは少し困っていたが、
マリアの方を見てもうんうんと頷いている。
アレンもマリアも、帰ってきたときにカインがルーラで飛んでいき
部屋がもぬけの殻になっていたら
目も当てられないと思っているのだ。
「いいや、マリアはここに残れ。
あとは俺に任せろ。」
「分かったわ。その方が安心よね。」
アレンの指示にマリアはしかと頷いた。
1人首を傾げているカインは、2人の顔を交互に見つめていた。
「安心って何が?」
「良いのよ、カイン。
これで、良いの。」
「いや・・・だから、何が・・・?」
マリアが深く頷いているが、カインには何が良いんだかさっぱり分からない。
だが、逆らわないほうが良い雰囲気だ。
「じゃ・・・街の情報集めとか・・・アレンよろしくね・・・。」
「おお。任せとけ。」
意気揚々とアレンは出て行った。
とりあえず、カインとマリアはその背中を見送った。
ところで、そろそろアレンは腹が減ったとか言い出す時間じゃないだろうか。
「あの・・・マリア・・・そろそろ皆ごはんの時間・・・。」
「良いのよ。カインは忘れなさい、そんな事は。」
「わ、忘れる?」
いや、皆でごはんを食べに行けばいいとおもったのだが、
それも駄目らしい。
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しかしカインはとりあえず、マリアに言われたとおり、
ごはんの事は忘れる事にした。
宿のベッドにごろんと転がって、時に身を任せていると、
しばらくするとドアをこんこんとノックする音が聞こえてきた。
マリアが立ち上がってドアを開けると、
どうやらアレンだったらしい。
何やら一言二言話して、マリアが頷いている。
「カイン、ごめんね。少しだけ部屋を出てくるわ。
すぐ戻るからここで待っていて。」
「あ、はーい・・・。いってらっしゃーい。」
言われたとおり、カインは頷いた。
すぐ戻るというからには、すぐ戻るんだろう。
空腹でカインのお腹がぐ〜っとなった。
うーん・・・、普通にお腹が空いたんだが、なんだろうか。
アレンたちはお腹空かないんだろうか。
もしかして、アレンの空腹の苦しみを分かち合おうって事なんだろうか。
結構、空腹って嫌なもんなんだなあ・・。
お腹が空いちゃうものは仕方が無い事だ。
昨日アレンに怒鳴ったりしたけど、きっとアレンも苦しかったんだろうなあ。
申し訳なかったなあ。
カインは自分の心の小ささを教わるような気持ちだった。
ベッドに横になって空腹に耐えていると、
何やら美味しそうな匂いがしてきた。
なんだろう。幻だろうか。
いよいよ、幻覚まで見えるようになったんだろうか・・・。
「美味しそう・・・。」
目の前の幻に思わず呟くと、誰かの声が聞こえてきた。
「だろう?ほら、見ろ。
カイン美味そうだって。」
嬉しそうにアレンが背後のマリアに笑いかけた。
「どこがよ、こんなに焦げてるのに?
味だってひどいものよ?」
マリアの声もする。
幻なんかじゃなかった。
慌ててカインは起き上がった。
よく見るとお皿の上に野菜炒めらしきものが乗っていた。
こ・・こ・・・これは・・・・アレンの手料理だろうか?
「ア・・・アレンが作ったの?」
「おう!」
アレンは得意げに笑った。
が、マリアは後ろで呆れたように笑っていた。
「大変だったのよー。
さっきもアレンがやばい!とか言って呼びに来て、
何事かと思ったら・・・。
ピーマンに中身が入っていない!!って。」
「ピーマンの中身?」
何の話かと思って、カインは首を傾げた。
「いや、ピーマンを切ったらさ。中身が入ってなくってさ。
すっかすかで!!ジャガイモなんて中身しっかり詰まってたのに!
これ、偽者だ!!って思って、慌ててたら、
ピーマンて外側を食うんだってなー。」
「ね、ね。びっくりするでしょう?
ホントアレンってばどこまで世間知らずなのかしらね。
味付けも大変だったんだから。
お塩袋ごと入れようとして」
「いっぱい入れたほうが味がしっかりするだろう?」
「加減を覚えてよ。そんなの食べれないわよ。」
どうやら厨房を借りて、
アレンとマリアでわあわあ言いながら、この野菜炒めを作ってくれたらしい。
どんな光景だったか、見てみたかった。
「お前はさ、野菜好きなんだろう?
だから野菜いっぱい入れたんだ。」
「あ・・・ありがとう。アレン。」
カインは渡された料理を食べてみた。
部分的に焦げているし、部分的に火が通ってないし、
味付けも濃い気がしたが、
空腹だった自分には本当に美味しく感じられた。
「美味しいよ。」
「マジか!!!やったーーー!!!
じゃあ、もうこれで帰んねえよな!?」
「うん、これだけあったらもう買う必要ないね。」
「良かったー。
俺の作る飯がまずかったら、サマルトリアに帰るところだったんだろう?
気合入れて作ったんだぜー」
そう言われてカインは目が点になった。
いやいや、アレンの料理がまずかったら自分がサマルトリアに帰る?
いつそんな事を言った?
「え?帰る?サマルトリアに?何の話?」
「何の話って。俺マリアにそう言われたから・・・。」
「マリア?」
2人の視線を感じてマリアは慌てたように答えた。
「だ、だって。カイン言ったじゃない。
明日最悪の場合はルーラで帰るんだって。」
「えーっと・・・最悪の場合、今日中に街に着かなかったら
ルーラでどっかに飛んでいって・・・、
そしたらお肉買えるかなあって・・」
カインとマリアは一瞬顔を見合わせて、そして笑い出した。
「『帰る』じゃなくて、『買える』・・ね!
なんだーー!びっくりしたわーー!
どうして、急にそんな悲壮な覚悟なのかと思ったじゃない〜。」
「僕もびっくりしたよ〜。
なんだ、それで2人して宿からルーラで飛んでいくなって言ってたんだね。
今更サマルトリアに帰る訳ないじゃない。」
あははと笑いあってる二人をよそに、
とても笑える心境じゃないのがアレンだ。
「なーんだよ!全然違うじゃねえか!!マリア!!
お前、早とちり大概にしろよ!」
「良いじゃないアレン、料理の大変さも分かったでしょう?」
「でも僕アレンの作るダイナミック料理美味しかったよ。
また作ってよ。」
口々にそう言われてしまえばアレンも黙るしかない。
が、必死にここまで駆け抜けてきて忘れてきたが、
アレンは大事な事を忘れていた。
ぐきゅるきゅる〜〜と小気味良い音が部屋の中に流れた。
「アレン、お腹空いてるんだね?
アレンは食べてないの?」
「ああ、さっきの?あんなの、まず過ぎて食えねえ・・・・。」
「あなた、自分がまずいと思うものを人に出すのやめなさいよ・・・。
食材ならあなた買いまくって余ってたでしょう?
生ピーマンでもかじったらどう?」
マリアは呆れたように言った。
「そんなんいやだーー。」
アレンは生ピーマンを想像して頭を振っている。
しかし実はマリアも空腹を感じていた。
そんな2人の様子を悟って、カインは笑って立ち上がった。
「ふふ、任せて。
すぐに何か作るから、アレンもマリアも待っていてね。」
- 終 -
2014/02/01
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