18.過去


アレンは目の前に見つけたものを
遠巻きに見つめながら、仲間達に尋ねた。



「旅の扉ってあれだろ?遠い世界へワープできるって」

「そうそう。」

カインがうなずく。

「旅の扉って青くなかった?
 これ何色だ?」

「赤いわね・・・。」

マリアが不思議そうに目の前の赤い旅の扉を
見つめていた。

今アレンたち3人はラダトームの街にきている。
街の外れに来たところで見慣れないものを発見したのだ。

「じゃあ、これ旅の扉じゃないのか?」

「赤いからねえ・・。」

三人は沈黙した。
ラダトームには何度も来ているが、こんなものは
見たことが無い。

「怪しいなあ。怪しいから、近づくなよ。」

どこか見知らぬ場所に飛ばされたりしたらたまらない。
アレンは怪しい赤い旅の扉は見なかったことにしようとした。




「どこに行くんだろう?僕気になるなあ。」

しかし、カインは何やら興味があるらしい。

「カイン、やめておきましょうよ。
 今別にどこかに飛んで行きたい訳じゃないんだから。」

マリアも怪しげな旅の扉に入るのは躊躇われた。

一行は長旅が続いたので、安かったラダトームの宿で
一泊しようとしてこの街へ立ち寄っただけなのだ。
街からどこかへ移動したいわけじゃない。

しかし疼いた好奇心が止められないカイン。

「じゃあ、僕一人で行って来るよ。
 すぐ戻ってくるから!待ってて!」

そういうと 、本当に一人で飛び込んで行ってしまったのだ。

「え、おい!!!」

あわててアレンが旅の扉に向かって呼びかけたものの
返事が無い。

「カイン、本当に行っちゃったの!?」

マリアはアレンと目を見合わせた。

「あーのーばーかーーー。
 帰って来れなかったらどうすんだーーーー。」

アレンは呆れて天を仰いだ。




残された二人はその場で5分ほど待機した。
旅の扉で行ってすぐ戻ってくるだけならば、5分もあれば十分のはず。

しかし・・・

待てど暮らせど帰ってこない。

「帰ってこないわね・・。」

マリアもさすがに呆れてしまったようだ。

「バカだ。あいつ本物のバカだな。
 しょーがねえ。俺たちも行くか。」

アレンは大きくため息をついた。

「仕方ないわね。」

マリアも頷いた。2人も旅の扉にはいることにした。

そしてアレンはマリアの手を取って、
怪しげな赤い旅の扉へと飛び込んでいった。





++++


飛び込んだ先は、
何やら異様な匂いがした。

一瞬ダンジョンにでも迷い込んだのかと思い
アレンは目を開けて身構えた。
しかし、目の前に広がるのは平和そうな街の姿であった。

「なんだ?ここ・・・。」

アレンは左右を見回した。

「アレン・・・・ちょっと痛いんだけど。」

「うお!悪い!ごめん!!」

慌ててアレンは立ち上がった。
マリアの右手をつないだままであった。
しかも着地の衝撃でマリアの腕をひねってしまったようだ。

「大丈夫か?えっとホイミ・・役がいないんだったな・・・。」

こういう場合いつもカインが率先してホイミを唱えるのだが
今はいないのであった。自分も薬草の持ち合わせが無い。

「平気よ、別に痛めた訳じゃないから。」

マリアは軽く手を振って状態を確かめた。
自分でべホイミをかけるほどでもないようだ。

「それより、ここはどこかしら?」

「平和そうな街だけど・・・来た事がねえなあ。。」

人々は笑顔で行きかっている。
大混雑と言うほどでもないのだが、とても賑わった街と言えるだろう。

「それにしてもこの匂いはなんなんだ?」

平和な街なのに、何やらおかしな匂いがする。

「これは・・・硫黄の匂いね。」

「イオウ?」

マリアはさすが物知りである。アレンはこんな匂いをかいだことなど無い。

「まぁ街が平和なら、俺達が気にすることじゃないな。
 それより、あのバカを探さないと。」

「そうね、まだ時間が経ってないから、そんな遠くに言ってるわけじゃないと
 思うわ。」


2人はカインの探索を始めた。

マリアは街の人に聞いてみることにした。
道中を歩いている親切そうなおばさんに尋ねてみた。

「スイマセン、先ほど、ここに金髪で碧眼で緑の法衣を着た
 私達と同じ年齢くらいの少年を見かけなかったですか?」

当たり障りの無いことを聞いてみたつもりだが、
女性は目をぱちくりさせている。

「おや?はぐれたのかい?さっきまで一緒にいたのに。」

「え?ええ・・そうなんです。はぐれたので・・。」

どうして女性は自分達が先ほどまで一緒だったと
思うのだろうか?
こちらの街に来る前にはぐれたと言うのに。

「おばさん見たのか?緑の奴を。俺たちの仲間なんだ。」

重ねてアレンも女性に聞いてみた。

「あら、あんたも。温泉にでも入ったのかい?
 えらくさっぱりして。」

「え?何の話だ?温泉ってなんだ?」

「おかしなことを言うねえ。ここは温泉街マイラじゃないか。
 あんた方はもう1週間ほどここに滞在しているだろう?」

「はー???」

「いえ、私達今さっきここに来たばかりですよ。」

アレンもマリアも女性の言ってることの意味が分からない。
自分達がもう1週間もこの街にいるだって?

「本当に?」

「本当です。」

いぶかしむ様な女性にアレンもマリアも真顔で答えた。

「あらやだ。じゃあ本当なのね。あんた達、あの子達にそっくりだから。
 きっと緑の子も勘違いして追いかけて行ったんじゃないかしら?」

どうやら自分達のそっくりさんがこの街にいるらしい。
紛らわしい。

「おかしいと思ったのよ。
 だって、緑の子が親しそうに近づいていっても
 2人は怪訝そうで・・まるで見知らぬ輩が近づいてきたみたいな顔して。
 お仲間はあんた達だったのね。うふふ。」

「あー、じゃあカイン勘違いして着いていったのね。」

「全くあのバカは、バカ雛か。仲間を見間違えしてんじゃねえよ。」

いくら似てると言っても、ずっと一緒に旅をしてきた仲間の顔を
間違えるなって言うんだ。

「それで、おばさん、緑のそいつはどこへ行ったんだ?」

「ええ、あの子達はそろそろ温泉に行く時間だからね。
 あっちの温泉の方に行ったんじゃないかしら?」

「分かった。ありがとう。」

アレンは礼を伝えると、女性が指差した方角へと向かった。



「あ!アレン!?」

アレンたちが温泉の方へと歩いていくと、
そこにはカインがいた。

「カイン、無事だったのね。」

マリアは安心して一息ついた。
しかしアレンの怒りは収まらない。カインの頭を思い切りグーで殴った。

「いったーい!」

「お前バカか!勝手に怪しい旅の扉に飛び込んで行って
 すぐ帰ってくるって言うから待ってたのに、帰ってこないし!」

「ご、ごめん。
 こっちに来たらさ、アレンとマリアにそっくりな2人がいてさ・・
 『あーアレンもこっちに来てたんだー』と思って追いかけたんだけど。
 なんか違ったみたいで。
 そろそろ戻ろうと思ってたんだ。心配かけてごめんねー。」

「それがバカだよ。別人くらいちゃんと見分けろよ。」

「うん。よく見ると違うね、やっぱり。」

とりあえず無事に合流できたのは良かった。

「じゃあ帰ろうぜ。」

馬鹿馬鹿しいことに時間を食ってしまった。
アレンは早速帰ろうとしたが、そんなアレンにカインが声をかけた。

「ねえアレン。ここ温泉街だって。
 せっかくだから入っていこうよ。ねえ、マリア。」

「え、ええ!入りたいわ。温泉なんて久しぶりよ」

マリアも嬉しそうにしている。

「温泉って何なんだよ?」

先ほどから聞く単語だが、アレンは初めて聞く言葉だった。

「おっきなお風呂だよ〜。」

「風呂なんて宿でも入れるだろ。」

「温泉はすごいんだよー。美容にも健康にも良いし、
 日ごろの疲れが取れたり、傷が治ったりー。」

「えー。マジかよ。すごいじゃん。」

「まあ本格的にやるなら1週間か2週間くらい通わないと
 だけどね。」

「そんなにここで過ごせるかよ!」

「でもまぁ一回でも良いじゃない。入ろうよー。」

うーん・・。既にタイムロスが生じているのが気になるが
傷が治ると言うなら・・先ほどマリアの腕をひねってしまったのも
気になっていた。

「じゃあ、そういうことなら入るかー。」

「わーい。」

「こんな所で温泉に入れるなんて嬉しいわ。」

マリアもニコニコしている。
そういえばマリアは風呂が好きだもんな。
たまにはこういうのも良いか。

「じゃあ、風呂から出たら、ここで待ち合わせな。」

「オッケー」

「分かったわ」





++++


初めて温泉に入ったアレンの目は嬉々として輝いていた。

「うわ、すげえーー。おい、見ろよ。
 外にも風呂があるぞ。」

一緒に入ったカインに声をかけた。

「うん。そうだね。いっぱいあるね。」

「すげーー。滝になってるぞ。
 これも湯だぞ。すげーー。」

「うん・・・そうだね・・。」

じゃぶじゃぶとアレンが露天風呂を歩いていった。

入るまではなんやかんやとぶつぶつ言ってたくせに
結局一番楽しそうにいてるんじゃないかとカインは思った。

「あそこの洞穴の中も湯か?」

「洞窟風呂って書いてるからそうじゃない?」

「すげーー。マジかよ。
 全裸で洞窟で風呂かよ。おもしれーな、ここ。」

何がツボだったのか知らないがアレンは大笑いしながら
洞窟風呂へと進んでいった。

もう何十分温泉に入ってるだろうか。
彼はのぼせるという言葉を知らないのだろうか。

いい加減カインはのぼせてきた。

「アレーン、僕先にあがるよーー。」

「おー。俺は探検してくるー。」

温泉施設内を探検も何も無いと思うが、
とりあえずああなったアレンは止められないと思うので、
カインは先に温泉を出た。



待ち合わせの場所で立っていると、しばらくして
マリアもやってきた。
湯上りのマリアはとても綺麗に見える。

「あれ?アレンは?」

「あーアレンは野生に戻って洞窟探検してるよ。」

「洞窟?ああ、洞窟風呂ね。
 ここ面白かったわね。私も行ったわ。」

「女風呂にも同じものがあるんだねえ。」

「ええ、とっても面白かったし、とても気持ち良かったわ。
 連れて来てくれてありがとう、カイン。」

マリアは機嫌よくニコニコ笑っていた。

「あ、いや別に連れてきたって言うか、迷い込んだだけなんだけどねー。」

「こういうのも私達の旅の醍醐味じゃない?」

マリアはどうやら自分達との旅を楽しんでいるようだ。

「そう言ってもらえたら何よりです。」

不幸な目にあってきたマリアを少しでも喜ばせられるなら、
カインは何でもしたいと思っていた。



そうこうしているとアレンがやってきた。

「アレンー!!ここ!」

目印になるように大きく手を振って合図をした。
アレンは風呂上りだからだろうか、いつもつけている
帽子も外して、黒い頭髪が風になびいている。
服装も変わっているようだ。

「あれ・・?アレン??」

マリアは不思議そうにその男を見つめた。

「アレン・・・じゃない・・・?」


ずかずかと近づいてきたアレンらしき男は大きく腕を振りかぶると
思いっきりカインの頭を殴りつけた。

「いったーーーー!!」

思いっきり殴られたせいか、先ほどアレンから殴られたよりも痛い。

「ちょっとアレン!?何をするの!!」

あわててその手をつかんで制止したマリア。
頭を抑えてうずくまったままのカインがうめいた。

「マリア・・アレンじゃないよ。きっと・・さっき僕が間違えた人だ。」

「え?」

マリアはもう一度男の顔をよく見た。
確かに・・そっくりだ。でもアレンより少し大人っぽい気がする。
アレンには兄がいただろうか?と思った。

「貴様、先ほどものうのうと俺たちに近づいてきた輩だな。
 そうやって姫を油断させて、姫を連れ去るつもりだったか!」

「え?・・え?姫?」

確かにマリアはムーンブルクの姫だが、
今は彼女をそう呼ぶものはいないはずだ。

「さあ、行きましょう!姫!」

男はマリアの右手を引っ張った。
だが、先ほど右手は旅の扉の着地の際ひねっており
痛みが走った。

「・・・っ、離して!」

「姫!?」

マリアは男から手を離した。

「あ・・・あの、人違いじゃないですか?
 彼女はあなたの言う姫じゃないですよ。」

「え・・・?」

男は分からないといった顔をして呟いた。

「ローラ姫じゃないのか?」

「ロ、ローラ姫・・・ですって・・・?」

どうやらこの男は自分をローラ姫と勘違いしているようだ。

そもそも思い起こすと温泉街マイラという街など
地図には載っていないのだ。
だが、その街の名は聞いたことがある。
ロト伝説の中で・・・・。


そして、ローラ姫と2人で旅をするアレンにそっくりな男と言えば・・


それはもう一人しかいない。


「あ、あなたは勇者アレフ・・・・なのですか・・・・?」

- 続く -

2010/11/24
▲

こんな所で続き物作ってしまったーー(汗)
ざ・番外編です。

タイムスリップしたみたいですよ!

多分「お題20」くらいに続きます。

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