「ちゃ
んと、見つかるかなあ……」
いなずまの剣を探して、
アレンはカインとルーラを唱えて小島へと飛んでいた。
「あの辺だと思うんだけどな」
「ないね……」
そんなに大きな島じゃない。
すぐにアレンたちは島一周歩き通してしまった。
「見つからねえなあ」
海に落ちているんだろうかと水面を覗いてみるが、その様子もない。
「こんな小さい島で見つからないんてことないよ!もうちょっとちゃんと探そう。
アレンどこで手放したのか、もう一回思い出して。」
「そうだなあ……」
なんだか、アレンよりカインの方が焦っているように見えた。
カインが焦っているのは、アレンがマイを助けるために、剣を手放したと聞いたからだ。
アレンは何より剣が大好きなはずなのに……。
カインはアレンの手を取ってもう一つ魔法を唱えた。
「ここじゃなさそう?もう一回飛ぶよ」
「お?あっ、浮かんだ。」
「最初に剣を振った場所はどこ?そこまで上がろう。」
カインは空から探そうとしてくれているようだ。
「はは、悪いなあ。多分どこかの木に引っかかってんだと思う。」
「海に落ちてなかったら良いんだけど。」
きょろきょろとあたりを探しながら上空へ浮上していく。
この辺で剣を振るったんだっけ?などと思い出す。
「アレン、いなづまの剣がなくなったことをどうして黙っていたの?
旅の扉のことより何より先に言ってくれたら良かったのに。」
「いやさあ、マイが気にするだろう?」
「………… 」
アレンは乱暴で乱雑に見えても、実際のところは基本的にすごい優しい。
マイの人命救助を優先して大事な愛剣を投げ捨てて、その捜索すら後回しにしていたと思うと
カインは何とも言えない気分になった。
「マイを助けてくれたこと、ありがとう。」
「お、なんだよ、気にすんなよ。お前だって同じことするだろ?
それより、見ろあそこ。あったぜー!あの木の枝のところに引っかかってる!」
「ああ、うん。良かった。見つかったね。」
いつだって、アレンは勇者として頼られていたら、必ずその期待に応えている。
昔、旅の間もそうだったけど、今もきっとそうだ。
相手が魔物だろうが自然災害だろうが、アレンにはそれを放っておけない正義感がある。
だから、相手がマイだったから、というのは少しはあるかもしれないが、
きっと相手が誰だったとしてもアレンは体を張って助ける。
そんな文字通りその身一つで体を張っているアレンの行動はかつての仲間として誇らしいが、少し心配でもあった。
「ほらほら、あっちだって。」
「うん。」
アレンは嬉しそうに見つかったいなづまの剣に指さしている。無事にいなずまの剣を回収できた。
「良かったー」
アレンが再会できた剣を天に掲げてやっとホッとできた。そして、不思議とカインは自分まで力が湧いてくるような気がした。これも昔からか
もしれない。
剣を装備したアレンを見ると不思議な安心感があった。
「良かったよ。さ、帰ろう!」
+++
マリアはずっと荒れる渦潮を見ながら思案に暮れていた。
旅の扉が海の中にある、それ自体はありえないことではない。
今までも水没してしまった旅の扉だってあったかもしれないし、
実際、自分たちは沼の中に旅の扉を見かけたこともあった。
しかし、それは単に水中に旅の扉があるというだけのことだった。
それ以上でも以下でもなく、旅の扉がこんな荒れ狂っていたことなんてない。
つまり、これは本当になんらかの異常を表しているのだ。
そもそもここは勇者アレフが見つけた新大陸であった。
そして、この旅の扉は新大陸であったローレシア大陸とムーンブルク大陸と繋げるために生み出された旅の扉。
そこに発した異常。大陸同士の繋がりの緩み。
もしかすると本当になんらかの地脈のずれがあり、歪みが生まれ始めているのかもしれない。
そして、魔力自体の老朽化が起きて、その歪みがおさえきることができなくなっている。
何とか阻止するために、今にもはじけ飛んでしまいそうな魔法軸の中心となる核を、抑えねばならない。
しかし、こう波が荒れていてはそれも難しい。
今できることをしよう。マリアはそう考えた。
「ボミオス…!」
まずは物理的な波の勢いを遅らせよう。
「……?」
その声にマイは背後を振り返った。
今のはマリアが魔法を唱えた声だ。
あれって、なんの魔法だっけ……?
「これで、少しは時間が稼げるはず……」
「は、はい。」
人並み以上には魔法を知っているマイだが、そのマイの知識をフル動員してもあまり聞き覚えの無い魔法だった。でも実際に波の勢いが少し収
まった気がする。
マリアの魔法はやはりすごい。
「マイさん、今の間に、皆を安全な場所へ避難よ………いつまた海が荒れるか分からない」
「ええ、分かりました!」
マリアの指示に従って、マイは警護の兵士たちを避難させようとした。
だが兵たちは、避難誘導の素直に指示にうんと頷くことはなく、逆に私たちこそ避難するように言ってきた。
まあ、確かにそれはそうだろう、私たちは仮でも比喩でもなんでもなくロト3国の君主たる立場であり、
万一私たちに何か不測の事態があったら、各国への影響があまりにも大きい。
だから、兵たちの気持ちを気持ちも分かる。
私だってこういう自然災害の場合は逃げた方がいいと思う。
でも、だからと言って、私たちが避難して、代わりにこの兵たちに事態を何とか出来る気はしないのだ。
いや……『私たち』といったが、私にだって、何かできることがあるのかは分かりはしない。
先ほどから、ずっとマイは自分が何ができることがあるのか考えていた。
マリアはずっと竜巻の動きを注視していて考えを巡らせているようだ。
マイにはこんな自然現象をどうにかできるなんて思わないけど…。
世界の英雄たるお三人には、どんな考えがあるんだろう。
それと比べて自分はどうだろう?
ベギラマとか唱えたら、どうなるだろう?
炎が水にぽちゃんで消えちゃうだけかな。
じゃあ鋭く隼の剣を振るったら、波が止まるかな?
いや、私が空振りしているだけになるな…。
うーん、ダメだ。
マイが頭を抱えていると、急に地面が揺れた。
「えっ、何?どうしたの?地震?」
「マイさん、アレンたちは帰ってきていない!?」
先ほどよりマリアの焦ったような声が聞こえた。
マリアが唱えた魔法で海は穏やかさを取り戻していたのだが、また荒れだしたようだ。
「あ…アレン様たち…? ま、まだですけどっ。
それよりどうしたんですか?これ……、なんか地鳴りがします…っ!さっきよりひどくないですか!?」
「座標軸の歪みから地脈と空間に亀裂が走っているんだわ。」
「え、ええ?な、なんですか!?」
ちょっと何を言われているのか分からない。
でも何だかピンチだというのが分かる。
だって、せっかく収まっていた波が、さっきみたいに目の前の海峡の渦巻きが異様に荒れ狂っている。
誰かがお鍋をぐるんぐるんとお玉で混ぜてみるみたいだと思った。
いや、さっきよりひどいのではないか?
天気まで悪くなってきた。まるで嵐が来てるかのように、波や水しぶきが祠まで届く勢いになってきたのだ。
そしてそれが何か体がピリピリとしびれる様な痛いような感覚がある。なんだろう、これ。
見かねてマリアは再び海に向かって魔法を唱えた。
荒ぶる波が一瞬、再度少し落ち着いた気がする。
わ……私も何か手伝わねば……!
と駆け出したマイであったが、直後また地鳴りがした。波が津波のように襲い掛かってくる。
その波にはただならぬ圧力を感じた。
マイがバランスを崩して津波に飲まれそうになった時、背後から誰かがその体を抱きかかえて飛んだ。
こんなことができるのは私は一人しか知らない。
「マイ、むやみに突っ込まないで。危ないよ!」
「え……あ、お兄さま…!!」
声の主は帰ってきたカインであった。
「おかえりなさい…!」
「ただいま、それよりこれってどういう状況?」
兄に抱きかかえられて見下ろす渦潮は、その全貌が見下ろすことができた。
ただの荒れた波しぶきではないようだ。
水であって水ではじゃないのだ。まるでそれ一つ一つが魔法の刃のように研ぎ澄まされている。
だから、先ほどしびれる様な痛みを感じたのだ。あの波に触れると皮膚が焼き焦げてしまうんじゃないかという予感がした。
本当にこの波のように見えるものが、凍てつくような鋭い刃となり四方八方に制御を失って暴れていた。
「……なんだろう、この波……。空気が引き裂かれるみたいに、ピリピリして痛い…。」
マイの勘違いじゃなかったようで、カインも同じように感じたようだ。
カインは地上に降りるとマイを手放した。
振り返るとアレンも帰ってきていた。
「あ、アレン様も、お帰りなさい…!無事に剣も見つかったのですね!!良かった!」
アレンの腰にいなずまの剣が帯刀されているのをマイはほっと胸をなでおろした。自分のせいで由緒ただしいアレンの愛剣が失われるなんて、
あってはならないことだった。
「おう。何も問題ねえよ。
マイ危ないから下がってろ。」
「は、はい…」
まるで小さい娘に言うような言葉でマイを下がらせた。
マイも少しはこの3人に肩を並べられるようになったはずだったのに、まだまだ背中を遠く見つめることしかできないんだなと思った。
「ああ、2人とも…。いいタイミングで戻ってきてくれたわ。」
「なんか渦潮荒れ狂ってんな。どうしたってんだ?」
「説明するわ」
マリアは自分の考察を仲間たちに話した。
旅の扉には元来その力の元となる核のようなものがある。
そこには長年に渡って魔法力が幾重にも絡み合って繭の様なものを形作られている。その本来核を守るはずの繭が、あのおなじみの旅の扉の渦
巻きだが、それが今ひと筋ずつほころび始めているのだと言う。
波が荒れ狂っているこの渦潮の現状は、強く張り詰めていたはずの繭の糸が1本ずつ、歪み、解けだしていることを意味しているという。
「んんんー? なるほど……分かったような、分からなんような。」
「アレンにも分かるように、かなり分かりやすくかなり説明したつもりなんだけど…?」
「そりゃありがたいことだ」
実際、マリアの解説は比喩を含んで、魔法の知識のないアレンにも確かにイメージがわきやすかった。アレンは腕を組んで眉をひそめた。
「………元通りにするのは難しくなったね。」
カインも事態は悪化していることを感じていた。
単にずれてしまった座標軸を戻して解決、と言う話でもなくなってきたのだ。荒れ狂う波自体が強い魔法力を孕んでいることもあり、カインに
はその中心核を感じることができなくなっていた。
「マリアなら、その……中心をとらえることができそう?
場所さえ分かれば、何とかルーラの応用で定位移転は出来ると思うんだけど。」
「簡単じゃないわね。これだけ魔法力が四方八方にはじけ飛んでいる状況じゃあね。」
間近で実態を確認したいが、渦潮に近づくことすら容易ではない。
今は波しぶきのひとつひとつが魔法力を孕んで、小さな水しぶきすら鋭利な刃物のようになっているのだから。
「よし、じゃあ俺に任せろ。」
「アレン…、何を任せるの?」
考えあぐねている二人を見て、アレンが手をあげた。
マリアからしてみたら、この魔法力渦巻く場所でアレンにできることはないと思っていた。
マイと一緒に、兵たちの避難誘導を任せたいと思っていたくらいだ。
「俺が、お前の言う”繭”を吹っ飛ばしてやるよ。核をあぶりだしたら、あとはカインが何とかできんだろ?」
「アレン、そんなこと本当にできるの?」
魔法力の細かい調整ならマリアよりカインの方が得手なのは確かだ。きっと大丈夫だ。
止める間もなく、アレンは二人の前に進んだ。
目の前の海の波しぶきがすぐ届く距離だ。
「待って、下がって!マリアの話聞いてた!?今は海全体が、例えるならバギやヒャドのような魔法力を帯びているんだよ。
ちょっとでも近づいたら、命の危険があるんだ!分かってるの!?」
カインが焦ったようにアレンに下がるように追いすがるが、アレンはその手を振り払った。
「アレン!?」
ここは自分の出番だと思ったのだ。
……アレンは魔法のことは分からない。でも、こういう時こそ自分が盾になって前に出る。
二人がいれば、きっと何とかしてくれる。それだけは間違いないんだから。
「お前こそ出てくんな。お前は大事なこと任せてんだろ。」
アレンは憎いくらい自信満々の表情だ。
きっとやってくれる、そう思わされるいつものアレンの表情だ。
隣のマリアを見ると、マリアも戸惑っていたようだ。
アレンを止めるべきか迷ったが、その覚悟に気圧されて、ついにはこう言った。
「分かったわよ。でも、少しくらい手を貸させてよ。」
「お?」
「核のそばまで行くんでしょう?このままじゃあ近づくだけで焼け焦げても知らないわよ。」
マリアは立ち上がって杖を掲げた。
ボミオスはほとんど効果がなかったし、ダメだろう。
「アレン、一気に突破できるよう、一瞬だけ道を作るわ。」
「さすが、マリアだ。頼もしいねえ。」
「行くわよ。マホカンタ……!」
マリアが選んだ魔法反射のマホカンタだった。
一瞬の間にアレンの身体の周りに結界が作られる。
マリアは、アレンが“刃”の渦潮に突っ込んでも傷つかないよう、マホカンタの魔法結界を張ったのだ。
今なら、どんな魔法が、例えばイオナズンが飛んできたって、すべてを跳ね返せる。
鋭利な魔法力を帯びた荒波も、今ならただの水しぶきだ。
「よっしゃあー!!行くぜ!!」
アレンはその場を飛びあがって、いなずまの剣に渾身の力を集中した。
渦潮の全部を吹き飛ばせるほどの一撃を……。
いなづまの剣はアレンの剣気を帯びてまばゆい金色に輝きだした。
「はぁぁああっ!!」
アレンのいなづまの剣の一撃は確かに渦巻きの中心に叩き込まれた。
一瞬、はげしい稲光が落ちた方のような光が当たりをまぶしく照らした。
魔法力の”繭”は、その鋭い閃光とともに、ちれぢれに飛び散って霧散した。
そしてそのむき出しになった旅の扉の核の魔力を捕えられるようになった。
「やったわ…!カイン、今なら行けるわ!」
「うん……!任せて。」
あとは座標軸を正しい位置へと戻せばいい。もうあの刃のように鋭い魔力の渦潮も消えた。全てこれで元通りだ。
カインは左手をかざした。ルーラを唱える時のように。その脳裏には正しい地図と位置がもうインプットされている。
移動先の空間座標を、緻密に精密に慎重に描いていく。
1�oだってずれは許されない。集中しろ。
きっとこれでうまくいくと思った。
けれど、事態はそう一筋縄ではいかなかった。
「アレン…!?」
マリアの悲鳴のような叫びが聞こえる。
「………?」
思わずその声にカインが顔をあげると、信じられない光景が広がっていた。
先ほど見事な一撃を決めたアレンだが、その反動で身の自由が利かないのか、力を使い果たしたのか、渦巻く波にさらわれてしまったのだ。
「アレン……!」
そのまま流されていきそうになった時、アレンは海面に顔を出した。
「あ、アレン…!しっかりして、大丈夫!?待って、助けに行く……!」
「ぶはっ、来んな……馬鹿っ!お前は、……やること、やれ!」
アレンのその激にカインは足を止めた。
「でも……!」
あの波は先ほどまでまるで毒の沼地のように身を切り裂く魔力渦巻く波だった。いかに泳ぎが得意なアレンでも無事では済まないかもしれない
じゃないか。
でも確かに、今カインがこの場を立ち去ったら、せっかくの作戦が無駄になる。
どうしたらいいのか、その迷いがよぎり、心が揺らぎかけた時、
「お兄さま、マリア様、私に任せて……!」
まさかのところから助け船が飛んできた。
猛ダッシュで走ってきたのはマイだった。
「え……?」
走ってきた勢いそのままマイは荒ぶる海に飛び込んだ。
「え〜〜〜!? マイ!!」
+++
マイは指示通り兵たちを避難させてから、少し離れたところでずっと3人を見守っていた。
「わあ、すごいなあ……」
マリアが一筋の道を作って、アレンが危険な障害物を破壊して、カインが旅の扉の核の座標を補正して、そしてすべてを元に戻す。
皆自分のできることをして、互いを補い合っている。
すごいなあ、すごいなあ……。
この三人は、いつもこうやって奇跡を起こしてきたんだって思えた。
それを初めてマイは目の当たりにできた。
マイはずっと、自分にも何かできないかを考えていた。
私の力なんて必要じゃないかもしれないけど……。
それでも、ずっと考えていたんだよ。
マイは、海に飛び込んで一直線にアレンに向かって泳いで、と言うか流されていった。
アレンも驚いた表情で何やってんだと顔をしていた。
「できるよ、世界は救えなくても、人一人くらいは助けられるもん…!」
マイはアレンの手を掴むと唱えた。
「ルーラ……!!!」
+++
なんだかがやがやと周りが賑やかだ。
色んな人の声が聞こえる。兵の声がする。
あれ、さっき避難してって言ったのに、兵たち戻ってきてるじゃん。
「何やってんの、危ないから避難してって言ったじゃない…!」
ガバッと起き上がると、自分の周りにはいろんな人がいた。
一番近くにいたのはカインだった。
「あ、気が付いた。元気そうだね。おはよう。」
「え、え?」
なんだかいい天気だ。
場所は、ローラの門の祠で。
あれ、私どうしたんだっけ?
「アレンー!マイが目を覚ましたよー!」
「あ、そうか?良かった〜。」
どうやら、荒れていた渦巻きも海も嘘みたいに穏やかさを取り戻したみたいだった。
お兄さまたちの作戦、うまくいったみたいだ。
「よお、マイ。大丈夫か?
受け身もできずに草原に突っ込んでいくから、俺てっきり新手の自爆魔法かと思ったぜ。」
「え…?ええ?」
アレンの手を取ってルーラを唱えてから、正直記憶にない。
無我夢中で皆の元に帰りたいとは願ったけど、どうやらすごい勢いで、祠前の草むらに突っ込んだらしい。
見守っていた皆さんの度肝を抜く生還だったようだ。
「アレンが一緒だったから、ずいぶん庇ってもらったみたいだよ。おかげでマイは擦り傷くらいで済んだけど、ルーラの勢いで草むらに突っ込
むなんて、下手したら本気で血みどろの大怪我だよ。気を付けてよ。」
「ひぇ、嘘ぉぉー」
せっかく自分も3人の役に立てたと思ったのに、どうもうまくない。
さらに詳しく話を聞くと、海に蔓延っていたあの鋭利な魔法力の渦潮はアレンの一撃で実際霧散していたようで、別にマイが決死の特攻をしな
くてもアレンは自力で泳いで戻ってこれたようだ。
それどころか、私と一緒に草むらに頭から突っ込んでアレンに無駄に怪我させてしまっている。
…………今は無傷っぽいので、誰かにホイミしてもらったのかな。
兄が行った核の定位転移もうまくいったようだし、結局この三人には私の手助けなんていらなったのかもしれない。
「…………」
なんかもうぐうの音も出ない。
「落ち込んでんなよ。助かったよ。ありがとうな。あの瞬間一番勇気出したのはお前だな。」
「アレン様……?」
「そうね、あの瞬間確かに私たちは救われた。マイさんは勇気ある勇者の一人だったわよ。」
「マリア様……っ、ありがとうございます!」
二人にそういってもらえて、マイは無茶な特攻も報われた気がした。
「カインもすごいあたふたしてたものね。マイさんが波に飛び込んで真っ青になってたわよ。」
話を振られて、カインは少し気恥ずかしそうに頷いた。
「だって、あの瞬間だと、あの海はどんな恐ろしい魔力が渦巻いているか分からなかったし。
マイは泳ぎだってできる訳じゃないのにさ。死ぬんじゃないかと思うじゃないか。」
「お兄さま……。」
「でも、決死のルーラ、カッコ良かったよ。ありがとう。」
嬉しい、嬉しい……!
お兄さまにも褒めてもらえた。
多分、私が何もしなくても何とかはなったはず。
この人たちは三人でやっぱり世界を救える三人なのだ。それを目の当たりにした。
でも、今はこの輪の中に入れてもらえた、認めてもらえたみたいで、すごく嬉しかった。
「さあ、お前ら続きの水浸しの掃除しよーぜ。」
「?」
「これで全部元通りの毎日が戻ってくるよ。」
アレンが手に持ってたのは、愛用するいなずまの剣ではなく見慣れない掃除ブラシだった。マリアに至っては手に雑巾を持っていた。
何事かと思ったが、見ると祠の中は、水浸しの泥まみれだった。アレンはブラシを持って地面の水を掻き分け始めた。
【 挿絵を見る 】
今は兵たちも皆一緒に水浸しの祠の水抜きをしていたようだ。
「わ、私もやります!」
「マイはいいよ。大丈夫?びしょ濡れだし、風邪ひかないようにしててよ。」
「大丈夫!アレン様だってびしょ濡れじゃないですか!」
「ま、アレンは風邪引かないし……」
「私も風邪引かないですよ!」
そこまで言うと、カインは笑った。
「やけに元気だなあ。それじゃ、モップはあそこにあるからね。」
呆れたようにカインにそういわれて、マイも掃除ブラシを手にした。
せっかく勇者の一員になれたかと思ったのに、次の瞬間には床の水拭き掃除だなんて、この落差にはさすがに笑ってしまう。
でも、こうやって日常を取り戻せるのなら、もう少しこの冒険に参加していたかった。
皆と一緒に日常を取り戻せた。
それが何よりも嬉しかった。
- 終わり-
2025/07/11
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【後書き】
前回から3か月もかかってしまいましたが、何とか終わらせられました。良かった。
とっても難産だったのです(−−;
3人組+1人の様子を色んな角度で書けて楽しかったです。