災害1



「な んだこれ…」

アレンは目の前の光景に目を疑った。



最近、ローレシア大陸とムーンブルク大陸との間の海峡が荒れ狂っているという。
場所で言うと、ローラの門の目と鼻の先にあたる場所だ。
自然現象だからと、しばらくの間見守っていたが、どうにも収まらない。

ローラの門には昔よりローレシアとサマルトリアからそれぞれ兵が派遣されている。
兵たちによると、海峡の渦巻きのせいで船も通れなくなっているという。

その報を受けてアレンが視察にやってきたのだ。

「私も、こんなの初めて見ました……」

サマルトリアの領の一部でもあるからと、サマルトリアの女王であるマイも自ら様子を見にきていた。

確かに渦潮の勢いが激しくて、この海を渡るのはどんな船乗りでも自殺行為だろう。

「こっちはどうなってる?」

ローラの門には地下水路がある。
昔アレンは、カインとともに実際この通路を通ってムーンブルク大陸に渡った。
もっと昔の話を言えば、ここはアレフガルドからはるばるやってきた勇者アレフがローレシア大陸へ渡った時も通ったという通路だった。

その由緒正しい地下水路が、海峡の変化の影響で徐々に水没し始めているというのだ。
しばらく人々は対策をしながら無理やり通っていたというが、
アレンたちが到着したころには、いよいよ水量が増してきて地下水路の通り抜けは難しい状況となっていた。

「これは困るな。ローラの門は、交易の要だぜ。
 陸路も海路もダメってなったら、死活問題じゃないか。」
「アレン様、なら私がルーラをしましょうか?」

マイが「自分の出番でしょうか」と言わんばかりのまっすぐな瞳でこちらを見ている。
自分が何かをしたくてしょうがないようだ。

「……今、俺たちがムーンブルクに行くんならそれでいいけどな。
 人々が通るたびにマイがルーラするわけにはいかねえだろ?」
「まあ、はい……。そうですね。」

人々の生活に直結する場所が封鎖されるのは困る。
せっかく魔物の危険がなくなって、世界は平和になって各国の交流が深まって、
人々は自由に世界を行き来できるようになったのに。

「橋でも渡すしかないか?でもこの距離じゃ簡単じゃないな…。」

海峡を渡れるほどの橋を作るのは簡単なことではない。短期間では難しいだろう。
それまでの間はどうするか。
何かいい考えがないか?

そう、ローラの門を見渡すと、一つ扉が目についた。

そういえば、あの先は何があるんだったっけ?

「ああ、一度開けた気がするな。」
「アレン様?どちらへ行かれるんですか?」
「旅の扉だ。」

マイを手招きしながら扉をあけた先にあったのは旅の扉だ。
何やらいつもより怪しく渦巻いている気がする。

「あ、こんなところに旅の扉があったんですか!私知らなかったです!」

知らなかったと言いながら、マイはアレンの後ろから旅の扉を覗いた。
金の扉で閉ざされている場所だから、初めて見たようだ。

「マイは、旅の扉って使ったことあったか?」
「旅の扉ですか。ほとんどないですが……。世界を巡る旅をしたとき一度。」
「そうかい。それで、これ見てどう思う?」
「どうって……?」

マイはじーっと旅の扉を見つめた。
旅の扉とは、光の渦がぐるぐると巻いていて、これに入れば世界のどこかに飛べるのというものだ。

マイにはそれ以外の知識も経験もなく、アレンが自分に何を尋ねているのか分からない。

「行ってみましょうか!
 旅の扉で海峡が渡れるなら、それがあちら側へ渡る手段の一つになりませんか?」
「おい、待て。行くな。」
「?」

アレンが眉間に皺をよせてこちらを見ている。

旅の扉を見たとき一瞬違和感を感じたような気がしたのだ。
でも、何が変なのだ?渦が弱いのか?強いのか?
その違和感が一体何なのか説明ができない。

気のせいだろうかもしれない。

「私、何か変なことを言いましたか?」
「いや……、まあ一度行ってみるか。」

そして、足を一歩踏み入れようとした時だった。

「え…!?」
「……なんだ……!?」

おかしい、とはっきり感じた。

旅の扉に飛び込むと、次の瞬間にはどこかの別の空間へワープをするのだが、
いつもと違って、旅の扉からはじけ飛ばされたような感覚があった。

あー…、やっぱりだ。

結局違和感が何でどうしてこうなるのか説明ができないのだが、この旅の扉は何かおかしい。

「ふえっ……あああ、きゃああーーーー!!」

マイの悲鳴が聞こえる。
じっくりと思案している暇はないようだ。

マイが悲鳴を上げたくなるのも無理はない。ここは空の上だった。

「マイ、掴まれ…!!」
「ア、アレン様ぁぁ……!」

アレンはマイの手を掴んだ。そして自分の首にしがみつくように言った。
しかし、このままでは自然落下して、無事に二人とも水没の上、渦潮に飲まれて溺死するのが関の山。

さて、ここからどうするか。

これがカインだったら空くらい飛んでくれるんだろうが、
こんなことなら風のマント装備してくるんだったなあ……と悔やんでも後の祭り。

「し…、死ぬ…死ぬ!死んじゃうーーー……!!」
「死なねえよ。こんなくらいで。」
「え、えええ…?」

目を開いて確認したら、ここはどうやらローラの門の上空だ。
下の方には海流が渦を巻いている。

「あそこに落ちたら、残念ながらゲームオーバーだろうがな!」
「えええ、嫌だ嫌だあ!死にたくないーー!」

マイはこんなに恐怖を感じたことはないのだろうなとアレンは冷静に思った。
しかし、冷静に死を実感している場合ではない。

「大丈夫だって…!」
「………ううっ」

マイはサマルトリアの女王だ、何かあったらえらいこっちゃだ。
守れなかったら、カインにも殺されるんじゃないか。

「俺はこんなところで死ぬつもりはないから!俺にしっかりしがみ付いてろよ。」
「アレン様あああ!!」

マイがアレンを絞め殺すのかという勢いでしがみついてきた。
よし、これでいい。

「よおし、絶対俺から手を離すなよ。」

腰のいなずまの剣を抜いてアレンは力を込めた。

「剣!?剣なんかで何をするんですかあ…!?」

マイにはアレンが何をしようとしているのか分からない。

「俺は剣しか使えねえんだよぉ!!
 はああぁぁぁああ!いっけえええーーー!!」

裂帛の気合いを込めて、剣戟はアレンの剣気をまとって大きく膨れ上がった。
そしてその剣戟の衝撃で一瞬浮遊感を感じた。
無事に落下の軌道を大きく変えることができた。

「きゃああ!??」
「とりあえず、これで、死なねえだろ!」

ローラの門の海峡には小さな小島があるのだ。
落下の軌道を変えて、小島に向かって落ちることにした。

「あ、でもやっぱり落ちるんですか!?
 ええええー!?ぁあああああ、あああああ!??」

マイはさっきから悲鳴を上げっぱなしであるが、
とりあえずここなら木々がクッションになるから、死にはしないだろうと思っているのだ。

「うわっと。よっと!」

アレンは木の枝を掴んで落下のスピードを落とそうとした。
しかし、その反動がまずかったのか、背中の重みが急に消えた。

「……あ?」

アレンにしがみついているはずのマイがいない。
どこかにすっ飛ばされてしまったようだ。

「いやぁぁああ!!」
「おまっ……何やってんだよ!」

幸い悲鳴が聞こえたから、どこにいるのかはすぐに分かった。
アレンは枝を掴んで体を回転させ、木を蹴ってマイに向かって加速をつけた。
最終的にはぎりぎり間に合って、マイをすくいあげると、両腕で抱きかかえて両の足で着地できた。



【 挿絵を見る 】





「ーーーっ…!!」

アレンは足の方でみしみしっというあんまり聞いたことのない鈍い音がした気がした。

「いってーー……」

だが、一応なんとかなったようだ。

「え、地面?地面?それとも天国?私、死んじゃった!?
 ……よ、良かった…地面だー…これ地面ですよね!?」
「とりあえず……生きてるよ」

地面に下ろすとマイが恋しそうに地面を何度もなでていた。
なかなかおかしな光景であるが、とりあえず生き延びたので何でも良しとする。

「マイはどっか怪我してないか?」

マイは首をぶんぶんと振った。

「大丈夫です。怪我はしてません。
 アレン様…ありがとうございました…。」
「なら、良かったよ。」
「しかしですよ…?」

ぷるぷると震えながらマイが絶叫した。

「し、しんっじられない。アレン様どんな運動神経してんですか…!」
「ああ、猿みたいだなって皆に良く言われてる。」
「猿はこんなことしませんよー!?」

なんだかよく分からない会話をしている。

アレンはきょろきょろと左右を見渡した。
マイもそれにならって、あたりを見渡した。

「ここは、どこですか?私たち、どこに来ちゃったんですか?」
「え、ああ……。ローラの門からいくらも進んでねえよ。
 あそこに祠、見えるだろ?」
「あれ、本当だ。」

アレンは、この小島も一度カインと来たことがあるのだ。
地下水路のハズレ道を通ると出られるのだ。

だから、ここの小島にも階段があって、地下水路に合流できるのだが。
階段の下はここから見ても水没していた。

「うーん、剣戟で水を割って気合で走っても、なかなか危機一髪になりそうだな。
 今はそれも無理そうだ。」
「だ、ダメですよ…!どういう作戦ですか!
 今度こそ水没して死んじゃいますよ!」

アレン一人なら何とかなりそうな気がするが、マイを抱えてだとちょっと難しい気がした。

「アレン様って本当に剣術でなんでも解決できちゃうんですね。私びっくりです。
 大丈夫ですよ。私がルーラできるんですから。」

先ほどアレンに言われた言葉をマイは再度口にした。
アレンはなるほどとうなずいた。

「ああ、そっか。今はそれを使う時だな。
 つーか、それなら空でルーラすれば良かったんじゃね?」
「……あっ、ほんとだ!忘れてました!」

マイはポンと手を叩いた。
どうも今の今まで、パニックになっていて忘れていたようだ。

「スイマセン、アレン様!」
「いいけどさ。」

まぁ無事だったので、それはいい。

アレンは何かが気になっている様子でまだ左右を見まわしている。

「行先はどうしましょう?門に戻りますか?それとも一度ローレシアへ?」
「え、ああ……じゃあ、マイがさっき言った通りムーンブルクで。
 あいつらに聞いてみたいことがあるんだ。」
「あ、はい、お兄さまたちですね?」

あいつら、とはアレンの大切な仲間たちのことだろう。
マイは、少し自分だと力不足なんだなと感じたが、素直にうなずいた。

「ルーラ!!」




+++









「世界が平和になったと言っても色々あるものね。」

アレンと向い合せに座っているマリアが深い溜息をついた。

「本当にね。」

来客のアレンとマイの前に、カインが温かい紅茶とお菓子を差し出してくれた。
マイは、その紅茶を一口飲むと体に染み入る温かさに、先ほどの血の気もよだつ出来事からようやく人心地がつけた気がした。





ムーンブルク城にルーラでやってきたアレンたちは、
門兵に火急の報せだというと、すぐにマリアたちに面会が叶った。

「お兄さま、そんなに色々なことなんてあるんですか?」
「うーん、まぁ……
 虫の居所の悪い魔物たちは今も要注意だし、油断ならない邪教徒の残党もまだいるし、
 一方で妙なことを企んでる人間もいる。
 それで、このおかしな自然現象でしょう?
 色々なことがあるよ。」
「そうなんですね……」

カインがしみじみと言っているが、まだ女王になって間もないマイは、知らないことがいっぱいあるようだ。
父はあまり世界のごたごたを自分に聞かせようとしなかった。世間知らずだなと感じた。
それにしても本当に色々なことがあるようで、いつもそれに対応してきたアレンやマリアたちの苦労を思った。

「でも、自然現象なんて、もうどうしようもなくないですか?」
「人々が困ってんなら、自然現象だろうが何だろうが、どうしようもないで終わらせられないだ。
 大体、橋を渡すならそれはそれで、俺はムーンブルクとも相談したいしな。」
「………はい。」

アレンは両手を組んで難しい顔をしている。
魔物だけじゃなくて、自然現象とも戦わないといけないの?とマイは今更ながら大変なんだなと思った。

「でも話を聞くと、これってなんだかただの自然現象とは思えないわ。
 あなたたち旅の扉にはじかれたですって?」
「あ、はい!そうなんです!
 上空に吹っ飛ばされたような感じで。」

マイは身振り手振りで、あの時の出来事を表現しようとした。

「でも、それで絶体絶命のところ、アレン様が剣一本で助けてくださったんです。
 剣で空を飛んだり、猿みたいにくるくるっと回ったりぴょーんと飛んだり。」
「そうなのね……、剣で空を飛ぶとか、相変わらずアレン無茶をしてるわね。」
「アレン様、本当にすごかったんですよ!!
 やっぱり勇者様って人間離れしていますね。本当にすごい!」

マイはアレンのすごさを改めて実感したようで、興奮気味に擬音をまじえてジェスチャーしては、両手を頬に当ててうっとりとしている。
確かに人間離れしているのだが、カインとマリアは、アレンならやりかねないといった表情だ。
アレンはそんなことどうでもいいからと、褒められても嬉しそうにもしない。

「それはさておき、俺はお前たちにもあの旅の扉見てもらいたいんだ。」

アレンは立ち上がって、さっそくローラの門へとんぼ返りをしようとしている。

「そうだね、見に行ってみよう。
 確かにローラの門の閉鎖なんて、死活問題だし。」
「ええ、行きましょう。すぐ準備するわ。」

ムーンブルク大陸と、ローレシア大陸の行き帰りができなくなるのは困る。
最悪、船で遠回りすればいけないことはないだろうが、やはりローラの門が使えないのは不便極まりないことだった。

マリアはさっと立ち上がって、支度をし始めた。
マイも残ったお茶を全部飲み干して立ち上がった。

「でも、その前に。アレン止まって。」
「カイン、なんだよ…っ?」
「ホイミ」

アレンの手をカインが引いて足を止めさせてカインは回復魔法を唱えた。

「そんなことしてたら、君死ぬよ?」
「え……?」

その言葉に、先ほどまでのんきにアレンを絶賛していたマイはドキッとした。

ホイミ?
アレンが怪我をしているなんて思ってもいなかった。だから、マイはホイミも何もしていなかった。
驚いてあわてたように尋ねた。

「アレン様、怪我なさっていたんですか!?」
「大した事ねえよ。着地の時にちょっとな。って、こんな怪我で死ぬわけねえだろー」
「こんな怪我でじゃなくて、こんなことしてたら死ぬって言ってるの。」

兄の発した言葉に少しドキドキした。
アレンはいつだって何とかしてくれる勇者様なんじゃないのか?

でも、そりゃあいくら勢いを殺したと言っても、上空から人ひとり抱きかかえて着地したのだ。
何事もないはずがなかった。
アレンはそれでも、何でもないという風に笑っていた。

「大丈夫だよ、こんなの。
 ほら、行こうぜ。」




+++





「これは……、やはりおかしいわね。」

先ほどからマリアは難しい顔をして旅の扉に手をかざしたりして見つめている。
マリアがこう言うってことは、アレンが旅の扉に感じた少しの違和感は、間違いじゃなかったってことだ。

こういうのは絶対こいつらの方が得意分野なんだ。

「何?何が、変なんですか?旅の扉ってこんな感じじゃないですか?」
「………… 」
「マリア様?」
「……旅の扉って、移動魔法みたいなものなんだけどさ。」

マリアが考えこんでるので、カインがマイに答えてくれた。

「移動魔法と言えばルーラだけど、ルーラならマイも使えるからわかるだろ?
 あれは移動軸を自分できちんと作って、座標を定めて始点から終点まで移動するじゃないか。」
「え、ええっと…はい。」

いつの間にか使えるようになったルーラの仕組みについてなんて、マイはあまり深く考えたことがなかった。

「旅の扉はそれと似ていて、その始点と終点をある座標に登録して、
 それでいつも決まった場所に移動するというもの。」
「は、はあ…。」
「それが見ての通り、座標がずれているんだよ。」
「……?」

見ての通りと言われても、何を見て言っているのかマイは話についていけない。

「あ、もしかしてあれか!?」

同じく話についていけてない組だと思っていたアレンは何かに気づいたようだ。
アレンが指さしているのは、海峡に現れたという渦潮だ。

ぐるぐると渦を巻いている様子は何かに似ている。

「ええっ!?あれ!?あのでっかい渦巻きですか!?」
「うん、多分始点があそこにずれてるから、だからどこにも行けずに弾き飛ばされたんだよ。」
「ほええ、なるほど。そういう事か、なんか少し納得できた。」

マイはまだどういう事かと思うが、アレンはポンと手をたたいた。

「俺たち、不用意に旅の扉に飛び込んで、訳わかんねえことになるの何回目だろうなあ…。」
「しみじみと懐かしんでる場合じゃないよ。もう。
 違和感を感じたんなら、無茶するのやめてよ。」

アレンはこういう魔法がらみの勘は働かないのだが、それでも今回は惜しかった。
この第六感は大事にしようと思った。

「でも、どうしてそんなことになっちゃうんですか?
 旅の扉の座標…?そんなのがずれるなんて、私初めて聞きましたよ。」
「どうしてって、どうだろうね?」

どうしてこういうことになっているのかはカインも分からないようだ。
だが、マリアは少し思うところがあるようだった。

「マイさん、このローラの門の旅の扉は世界で一番古いと言われているのよ。
 それも原因かもしれないわ。」
「えっ、そうなんですか!?」

ローレシア大陸を見つけて勇者アレフが初めて使ったというローラの門。
つまり、それまでこの場所にやってくる人々はいなかったのだ。
旅の扉というものも、勇者アレフがやってきたから広い世界が見つかり、それに伴って人々の世界の移動に必要とされ発明されたものだった。
しかし、最古の旅の扉は百年もの長い年月の中でひずみが生じてしまったようだ。

「つまり、身もふたも無い言い方をすれば老朽化ってことか?
 なんだかなあ…。」
「それで、アレンどうする?」
「どうするって?」

マリアは思考がまとまったようだ。
ここからは実際にどうしていくかを考えて行かないといけない。

「危険な旅の扉よ。……誰かが、あなた以外が使ったら、自殺するようなものだわ。
 このままにはできない。」
「そうだな。」
「とるべき手段は二つあるわ、封印するか、元に戻すか。」

こともなげに、マリアはとんでもないことを言った。

「お前そんなこと、できるのか!?」
「どちらも簡単ではないけれど、どうにかしないと。アレンどうする?」

なんだかんだ一番現実離れしているのはマリアじゃないかとアレンは思った。

「……ローラの門は、人々にとっても大事な場所だろう?
 俺は、できるなら元に戻して、地下水路をまた通れるようにしたい。
 でも、それに危険が伴うなら、俺のそんな感情より安全に解決できる方法が一番いいと思う。」

アレンの言葉を受けて、マリアは少し考えて皆の方を見まわしながら答えた。

「皆、力を貸してくれる?
 他の場所ならさておき、ここは私たちにもとっても、ご先祖さまにもとっても大切な場所だもの。
 私もできれば、元の姿に戻って欲しいと思うわ。」

マリアの表情から、それは簡単なことではないのだろうとは察した。
でも力を貸してくれと言われたら、皆一も二もなく頷いた。

「もちろん!」
「わ、私にできることがあるんであれば…!」

何をするのか分からないが、アレンとマイも力強く頷いた。

カインは何やらマリアと話してるから、何をするのかは分かっているようだ。
相変わらずこの二人はなんだかツーカーだなあと思った。

アレンはやるぞと気合を入れてから、ハッと大事なことを思い出して蒼白になった。
このままじゃあマリアの手助けもままならい。

「じゃあ、元に戻す方向でやりましょう。
 皆少し時間をちょうだい。ここで、待っていてくれる?用意ができたら声をかけるわ。
 結界を作りたいの。カイン少しいいかしら。」
「うん。」

どうやら作業は難しそうなことをするようだ。
結界の範囲はローラの門の祠全体に施すようで、少し時間がかかるという。

これはアレンには手伝えなさそうな仕事だ。
だから、今のうちに何とかしなければならないと。

アレンはいてもたってもいられず、カインに声をかけた。

「なあ、カイン!!少し俺に付き合ってくれないか!?」
「え、何?僕マリアを手伝いたいんだけど。」
「たまには俺を手伝ってくれよ。」
「…………」

アレンにそういわれたら、カインは断れない。
マリアはふうっとため息をついた。

「カイン、いいわよ。あとはマイさんに手伝ってもらうから。
 アレンの方に行ってきて。」
「うん。分かった。」

アレンはほっとしたようにカインを祠の外に連れ出した。

「何?どうしたの?」
「いや、あのさ……」

言い出しつらそうにしているアレンがらしくないなあと思いながら、カインはふとあることに思い至った。
アレンが腰に差している鞘に何か違和感があった。

「アレン、剣はどうしたの?」
「そう……!それなんだよ!さっき無くしてからなんか落ち着かなくってさ。」
「ええ!?無くしたの…?でも、さっき剣を使ってマイを助けたって……。」

アレンが言うには、剣戟で落下の軌道を変えたのはいいものの、落ちていくマイを両腕で抱きかかえる必要があったため、とっさに剣を手放し たんだと いう。

「ええええーー!?
 早く言ってよ、アレンの大事な剣でしょう!?」
「ああ、いなずまの剣。」
「ダメじゃない!」

それを聞いて、カインも顔色をかえた。
いなずまの剣は旅の間からアレンが最も愛用している剣であった。

「大変じゃないか、探しに行こうよ!」
 あの小島でしょ?ルーラで行けるから。すぐ行こう。」
「ああ、ありがとう。」

カインがそう言ってくれて、少しほっとした。
腰にいつもの剣が無いというのは、アレンはどうにも心もとない不安があったのだ。






- 続く-


2025/04/12

▲


【後書き】
クリア後のアレンとゆかいな仲間たちのお話です。皆さん勢ぞろいですね。
アレンメインでと思ってたんですが、皆が出てくるとちょっとどうなるんだろう?って感じになってきました。

勇者で王様な人たちなので、災害だろうが何だろうが、何かが起きたら全部対処しなきゃってなるアレンたちでした。





更新の活 力。楽しんで頂けましたら是非ポチを。→