「ここ、どこ?」
カインはきょとんとした様子で、きょろきょろしている。
マリアのルーラで到着したのはムーンブルクだった。
「あれー。
マリア、サマルトリアに行くんじゃねえの?」
アレンも首を傾げた。
カインがサマルトリアに行きたがるからわざわざルーラしたのに、違うところに来てるじゃないか。
そういえば、マリアはたまにルーラに失敗するんだった。
「お前、またルーラ失敗したのか?」
にやにやしているアレンをマリアは一喝した。
「違うわよ。少し着替えを取りに来ただけ。」
「あっそう。」
マリアはカインの目線に合わせた。
「カインのそのお洋服ぶかぶかだものね。少し待っててくれる?」
「お洋服?これおっきいねえ。こーんなに、こんなに。ふふー」
カインはぶかぶかの服をパタパタと仰いでいた。なぜこんな大きな服を着ているのかは疑問に思ってない様子だった。
その顔がかわいくて、思わず頭をなでようかなとマリアは思って、思いとどまった。
「じゃあ、アレン、カインを見ててね。」
「おー。」
まさかこの俺がカインの子守を任せられる時代がやってくるとは思わなかった。
さっきからずっとカインはここはどこだろうときょろきょろと興味深そうにあたりを見渡している。
「お前、ここ来るの初めてかぁ?」
「うん。」
本当に記憶がないんだなと思った。つい今日の朝まで暮らしてた場所だろうに。
時刻は夜だというのに、眠気なんてなさそうに、そわそわと外を見ている。
「暗いからここからじゃ見えねえだろ。ちょっと庭、散歩してみるか?」
「うん!」
夜のムーンブルクの城内庭園はアレンでも初めてだった。
ローレシアの庭とは違うもんだと思った。
「わあー、きれい。キラキラ!キラキラ!」
灯りが煌々と輝いているが、これは火の灯りではない。どういう原理で灯りが絶えないのだろうか?
いつかもそんなことを思った気もする。
灯りに照らされて窓は、まるで宝石にように輝いて見える。
「すごいね!あっちもキラキラ…、こっちもキラキラ!」
「おい、落ちるぞ。あんまりあっちこっち行くな。」
「大きなお池があるよ」
噴水池も珍しいようで、目を丸くしていた。
噴水のそばにも灯りがともされていて、何だか水の流れが光の反射で輝いていてただの池が神々しくすら見える。
「ムーンブルクすげえなあ。」
「むんぶゆく……?」
アレンの言葉をカインが復唱した。
「僕知ってる。むんぶーく!お母さまから聞いたことある。」
「ここがその国だよ。」
「わあ〜!」
そういうとカインはぴょんぴょんと跳ねた。
「おい、馬鹿。飛び跳ねんな。池に落ちるぞ。」
「カイン…!?」
城内からマリアが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「危ないわ!ちょっとアレン、ちゃんと見ててって言ったじゃない。なんで池の周りなんてうろちょろ歩き回ってるのよ」
「ちゃんと見てるって。ちょっとくらい散歩してもいいだろうが。」
マリアとアレンが言い争ってるのをカインはにこにこ見上げていた。
「ねえねえ、うふふ、ムンブークはキラキラ輝いて、夜でも宝石みたいだよって。
お母さま言ってたんだよ。本当だったあ!」
「ムーンブルクだって。」
「ムーンブユク?」
カインはほっぺに手を触れてうっとりしている。
「マリア、カインが言っているのは滅亡前のムーンブルクのことだろうぜ。」
「え……ええ……」
細かいところはやっぱり違うし、滅んでしまったものは同じ形にはならない。それはマリアが一番よくわかっている。
それでもあの時のお城と同じものが作れているよと言われているようだった。
「綺麗な国だねえ。すごいねえ。」
「ありがとう、カイン。」
こんなところでこんなご褒美がもらえるとは思っていなかった。
少し目頭が熱くなるのをごまかした。
「さあ、着替えてサマルトリアに行きましょう。
お洋服の大きさちょうどあうと思うんだけど、どうかしらね?」
カインの手を引いてお城に戻っていくマリアにアレンは尋ねた。
「なあなあ、マリア。このランプどうやって光ってるんだ?あれって火じゃないだろ?」
「ああ、これは小さなレミーラの魔法よ。少量の魔法力でも灯りがつくからレミーラは省エネの魔法よ。火事の心配もないしね。」
「……はあ。」
なるほど、さすがムーンブルクだ。
火を使ってないから火事の心配もないだろうし。
でも、うちじゃ真似できなさそうだなと思った。
「さすが、ムーンブルクだねえ。」
+++
続いて唱えたルーラでは、ちゃんとサマルトリアに到着した。
「あっ、お城だ!」
今度こそ自分のお家だと言わんばかりに嬉しそうなカインであった。
アレンはなぜかまたニヤニヤしている。
「アレンは今度は何をニヤついているのよ?」
「いやあ、マイがどんな反応するかなあって。」
「あなた、色んなことをただ面白がってるだけでしょう?」
「こんなもん面白がらなくてどうすんだよ。」
ただの厄介な同行人だなとマリアはため息をついた。
「あ、お前、今俺を連れてくるんじゃなかったとか思っただろ?
無駄だぜ。サマルトリアのことは全部ローレシアに伝わるんだからな。
俺に隠したってすぐ伝わる。無駄だぜ。」
「ローレシアーサマルトリア間のホットラインはやっかいだって、カインも良く言ってるわよ。」
「だろだろ?
マイが最近色々俺を頼ってくれるからさあ。」
マイがサマルトリアで即位してから、
以前よりもこの二人は距離が近くなったようだ。
前はアレンはマイのことは姫さんと呼んでいて、名前を呼んでなかったはずなのに、今やすっかり呼び捨てだ。
「なんだ?変な顔をして。嫉妬してんのか?
ちゃんとローレシアームンブルク間は昵懇の仲なんだから大丈夫だって。」
「そんなこと言ってないわよ。」
マリアがアレンとそんな話をしているうちに、カインは足取り軽く軽快に城門に向かっている。
「カイン、待ってまって。」
「なあに?」
「今、夜だから、皆びっくりしちゃうわ。ちょっと待ってね。
アレン、カインと手をつないでて。話を通してくるから。」
今度は勝手に庭園をうろちょろしないように釘を刺しながら城門に向かった。
誰かに話を通したいと思ったら、ちょうど城門の門兵が見知った顔だった。
「リックさん。夜更けに失礼するわね。」
「え、マリア様!?あ、アレン様まで!どうかなさいましたか!?」
驚いた様子のリックにマリアは会釈をした。
「リックさんは、まだ門兵なんてやっているの?」
「あ、あはは。お恥ずかしながら今日は手薄なので私もお手伝いを。」
リックはマイと結婚相手だというのに、
未だにサマルトリア兵としての任務も行っているらしい。
「ようこそ、サマルトリアへ。」
リックは深々と頭を下げた。
「それより、こんな夜更けにいかがなされましたか?急用でしょうか?」
「そうなの。夜更けに礼を欠いて本当に申し訳ないのだけれど、
どうしてもお願いしたい急用があって、マイさんに取り次いでいただけるかしら?」
「マリア様、一体どうなされたのですか…?」
「それが…。」
何と伝えようかと思いつつも、カインが一大事で、マイさんに相談したいことがあるのだと伝えた。
「カイン様が一大事…ですって!?わ、分かりました…!!
どうぞ、中でお待ちください。アレン様も、そんな後ろでどうされましたか!?お入りください!」
リックは少し後ろで待機していたアレンにも声をかけた。
「おー。ありがとな。入るわ。
マリア、招待されたから俺も入るぜー」
「…………ちょっと」
できれば先に自分だけマイと話したかったのに、アレンは結局カインも連れて入城してしまった。
そしてアレンが連れている子を見つけて首を傾げた。
「おや、こんばんは。はじめまして。」
「こんばんは!」
まさかよもやこの幼子がカインだとは思わなかったようで、アレンが連れて行くからどこかの王族の子だとでも思ったようだ。
そして来客用の部屋に通すとそのまま会釈して部屋を出た。
「すぐマイさまにお取次ぎいたします。こちらでお待ちくださいね。」
「ありがとう。ごめんなさいね。」
それから、ほんの五分も経たないうちに、バタバタと足音が聞こえてきた。
カインが一大事という言葉は、今も効力がすごいんだなと思った。
扉があくと同時にマイが飛び込んできた。
「マリアお姉さま…! お兄様に一大事って、一体何があって……っ!?」
「それが、マイさん驚かないで聞いてほし…っ」
「あ、おいっ!」
アレンとマリアが止める隙もなく、カインは立ち上がって風のように駆け抜けてマイに向かって行った。
「母さま…!」
そう叫んでカインはマイの胸に飛び込んだ。
「は…?」
マイは一瞬の硬直のあと、驚愕の声をあげた。
「は、え!?え」
抱きついてきたのは小さな少年で、その背は自分の腰までもなかった。
誰だろうと混乱し、確か見覚えが無いのだが、どこかで見たような不思議な感覚もあった。
「母さま聞いて、僕ねムーンブユクに行ってきたんだよ!
キラキラして本当に宝石みたいなお城だったんだよ。
母さまの言うとおりだったよ。それでね、それでね…!」
「ちょ、っとまって…。」
向こうはこちらを知ってるようで、どんどん話を振ってくる。
「マ、マイ様……お子様がいたんですか?」
「いなっ、いないわよ!?」
背後で見守っているリックは真っ青な顔をしているし、マイは慌てふためいていた。
マイのことを母と呼ぶその子どもは、ちゃんと観察すると髪の毛の色も目も色も確かにマイにそっくりなのだ。
だから、知らぬ間にマイには隠し子がいたのだとリックは衝撃を受けていた。
「はっはー、ひゃっはっはーー!」
その様子を見てアレンが腹を抱えて笑い出したもんだから、
もうこの場は地獄絵図みたいなことになっていた。
そのアレンの背中をぺしっと叩いて、マリアはマイに向かい合った。
「ごめんなさい。マイさん、突然に訪問してしまって。
その子が…カインなの。」
「ええっ!?ど、どういうことですか、詳しく教えてくださいマリアお姉さま!」
やっぱりこうなってしまった。できれば、落ち着いて話かったのに…。
後悔しても時すでに遅い。
マリアは事の顛末を詳しく説明した。
「あ、リリザの魔術師たちのことなら、うちにも少し話は届いていましたよ。
でも、まさかそんなことになっていたとは……。」
「そうだったのね…、それでね、その薬でカインは見た目だけじゃなくて記憶も幼少期に戻ってしまったみたいで、
どうしてもサマルトリアに帰りたいと泣くものだから。
迷惑をかけてごめんなさい。」
マリアは騒動を起こしてしまったことを謝罪した。
「ええっ、びっくりしただけですよ?頭なんて下げないでください。
お兄さまがサマルトリアに帰りたいって言ってくださってるときは、私はいつでも歓迎に決まってます。
ねー。」
マイは膝にちょこんと座る小さな実兄をぎゅーっと抱きしめた。そして母になりきって声をかけてみた。
「カイン、マリア様の元でちゃんといい子にしていたかしら?」
お兄さまを呼び捨てにするなんてドキドキするが、母ならきっとこんな感じだろうと自分でイメージした。
「母さま、カインいい子にしてたよ。」
「本当ね、いい子いい子。もうすっごいいい子。」
その返答を受けて、マイはカインの髪の毛がぐしゃぐしゃになるくらい頭をなでた。
「はぁぁ、かわいいー。」
「マイさまの子どもじゃなかったのですね。良かった…。」
「そんな訳ないじゃんー。」
「マイさまに、そっくりだから、私はてっきり本当に隠し子かと。」
真実が分かって、隠し子疑惑は晴れてリックは安堵していた。
「マイさんって、お母さまにそんなにそっくりなのね。カインが全然疑ってない。」
「えー、どうなんでしょう?私そんなに、似ていますか?」
「最近大人っぽくもなったし、貫禄もついてきたから、俺は前王妃さまみたいに見えるぜ。」
「やだあ、アレン様褒め上手。ねえ、リック私大人っぽくなったって。」
「それは、ようございました。」
嬉しそうに照れ笑いする様子は昔ながらのかわいらしいマイにも見える。
「それで、お姉さま、私は何をしたらいいのですか?」
「あ、あの…カインがサマルトリアに帰りたい、お母さまのところに帰りたいと泣くものだから、
でもお母さまはいらっしゃらないから、マイさんに相談しようと思ったんだけど、もう解決しちゃったわね。」
場合によっては、マイに扮装してもらおうかと思ったけど、そんな小細工は一切必要はなかった。
「心配しないでね。カインの薬は1日で切れるらしいから、明日にはきっと元に戻るわ。」
「えー、こんなにかわいいのにすぐに戻っちゃうんですか!?」
「…戻っちゃうのよ…」
一日で元に戻ると言ったら残念がられた。
「って、いやいやスイマセン。そうじゃなくて…。分かりました。
お任せください!私は今日一日お母さまになりきってみせますよ。」
何だかすっかりやる気満々だが、もう夜だし、それほどやることはないだろうか。
「ねえ、母さま、マイちゃんはどこ?僕、一緒にねんねしたい。」
「ぐっ…」
その言葉にいきなりマイは会心の一撃を受けていた。
兄が舌ったらずな声で自分を探し、一緒に寝たいなどとはとんでもない。
いや、落ち着け落ち着け。
兄が3歳ということは自分は0歳。
そりゃあ、この姿を見て私を自分の妹だなんて思うわけがないのは当然なのだ。
今日の私は……、そう女優でなければならない。
「マイはもう眠っているわ。見て、もう夜だもの。カインも静かにしましょうね。」
「はあい…。」
「お母さまももっとあなたと遊びたかったけれど、そろそろおやすみの時間ね。」
なりきって演技してくれているマイにマリアは感謝した。
カインがすっかり信用している様子に、在りし日の親子の触れ合いが少し垣間見れているような気がした。
「マリア様。お兄さまの部屋をそのままにしておいてよかったです。まさかこんな風に役に立つなんて。
眠そうなので、連れて行ってみます。」
「本当に…ご面倒おかけして面目もないわ。」
「いえいえ!もう私楽しくて仕方がないです…!」
「それは……良かったわ…?」
良かったのだっけ。マイもカインもご機嫌だから、良いとしよう。
なんだかマリアも一日の騒動の疲れで頭が回らない。
「リック、アレン様とマリア様にお部屋をご用意して。
お二人とも、今日はもう遅いですし、泊って行ってくださいね。」
「はい、お二方とも一寸お待ちください!すぐにご用意いたします!」
そういって立ち上がろうとしたら、部屋の扉を誰かがノックしてきた。
「マイ、ここにいるか?」
「あ、お父さま!?」
「うむ。」
マイの声を聞いて、扉が開かれた。奥にいたのは先王、すなわちカインとマイの父であった。
「急にカインに一大事だとか言って駆け出していったい何が―……」
そして、そこにいた小さい物体を見て足が止まった。
「な…?なん、、、だ……」
「父さまだー。ただいまー。」
カインはてこてこと歩いて父の足にぎゅっとしがみついた。
「わっ、まさかお兄さまがお父様に抱きつくなんて!
お兄さま小さいときは、ちゃんとお父様のこと慕ってたんじゃない。
良かったねー、お父様。」
「お前、何を言っている。一体これは…?」
マリアはあわてて、事の次第を説明した。
おかげで元王も状況を理解したようだ。
「そうでしたか。
それは……………カインが悪いな。何を喜び勇んで、毒を飲んでおるのじゃ。馬鹿者が。」
そして長考の上、カインの判断を咎めるように言ったが、表情はことのほか穏やかだった。
「父さま、父さま?」
「どうかしたか?」
カインは父をぽんぽんと叩いて呼んだ。
「カイン帰ってきたんだよ、ただいまー。」
ただいまに対する返答がなかったので、もう一度言っているようだ。
先王は懐かしそうにカインを抱き上げた。
「そうか、帰ってきたか…。帰ってきたのか。おかえり。」
遠い日の思い出が脳裏をよぎったのか、目を細めてその顔をなでた。
抱きかかえられてカインは嬉しそうに笑うと、次第に眠そうにうとうとしだした。
「おい、マイ。
こんなこともあろうかとカインの部屋をそのままにしておるだろう。あそこへー」
先王はさっそうと手を伸ばして、マイに指示を出した。
「こんなこともあろうかって、お父様どんなこと想定してんのよ。」
「カインがただいまと帰ってくることがあれば、
いつ来てもゆっくりしていけるように、部屋をそのままにしておる。」
「はいはい、言われなくても分かってます。」
いつもカインは父に嫌われてるから喧嘩になるし、帰っても仕方がないとか言っていたが、
実際はこの溺愛っぷりだったのだと、あとで本人に伝えたいものだとマリアは思った。
「マリア殿、アレン殿、今宵はもう遅い。
またもカインが散々迷惑をかけたようだ。申し訳なかった。せめて今日はゆっくり休んで行ってくれないか。」
「もうっ、それも私がさっき言ってるからー!」
「いえ、あの…迷惑だなんてとんでもないです…。私が助けて頂いたので。」
マリアは恐縮しきりに手を振った。
先王とマイはカインを間に挟んで言い争っている。
カインはそんなやり取りもどこ吹く風でうとうとと眠ってしまいそう。
「母さま、父さま……だいしゅき……。」
寝言のようにつぶやいた声に、マイは声にならない声で、父ごとカインを抱きしめた。
「っ―!かわいいなあ。」
「まさか、この子のこんなかわいい姿がまた見られるなんて長生きするものだ。」
「ふふふ、お父様、酔っ払ってるでしょう。」
まるで孫を溺愛するような好好爺っぷりにマイも苦笑している。
「まあ、マイもいいもの見れたな。カインの全力デレ期は貴重だぜ。」
「えへへ。ほんとに。でもアレン様?
私たちは良いんですけど、きっと、明日お兄さまは頭を抱えるんじゃないですか?」
「いいんだよー。帰りたがったのはあいつの希望。
それに散々俺たちは肝冷やされたし、俺がどんだけ立ち回ったと思ってんだ。感謝してもらおう。」
「そっか、そうですね。じゃあ、お兄さま、行きましょう。今日は一緒に寝ましょうか。」
小さな兄をなでなでしながら、抱き上げた。
「お父さまも、行きましょう。」
「うむ。」
「それにしても、私がお母さま役なのはいいとして。
おかしいなあ。私とお父様の年の差どこ行った?お兄さまの目は節穴ねえ。そこだけは明日問い詰めねば。」
マイは少し首を傾げてぼやきつつ、マリアたちに会釈をして部屋を出て行った。
「では、お二人の部屋もご用意できましたので、どうぞ今日はお休みくださいませ。
明日は一緒に朝食をご用意させていただきますので、ぜひご一緒に。」
「ありがとう。せっかくだから、お邪魔していくぜ。」
「かえってご迷惑になって、ごめんなさいね。」
「いえ、とんでもないです。あのお二人のあんな相好が崩れたお顔、初めて見ましたよ。」
リックの案内でアレンたちも部屋を出た。
廊下を歩きながら、アレンはマリアにつぶやいた。
「カインって、明日になったら今日のこと覚えてんのかな?」
「さぁ……、分からないけど。私は……久しぶりの里帰りだから、いい思い出になってればいいと思うのだけど。」
「それはそうだなー」
カインにとって、そしてマイさんたちにとっても、貴重な時間になればいいなという思いがあった。
マイはもちろん、普段は難しい先王だって、幼子相手だとあんなに素直に愛情を見せていたではないか。
「いやあ、貴重なものが見れたなあ。」
終始面白がっていたアレンも満足そうだった。
+++
「なんで…こんなところにいるの?」
ただ、無事に薬の効果も切れた翌朝のカインは、
サマルトリアにいる自分に大困惑の上、穴がなければ掘ってでも入りたい気持ちになっていた。
「お前の希望だろうが。」
「………… 」
希望した覚えはないが、どうやら希望したらしい。
もう大体自分の自業自得なのはわかったが、まさかこんなことになるなんて思わないじゃないか。
「はっはー。ちゃんと皆でかわいいカインちゃんを堪能したから、大丈夫だって。今頃反省しても時すでに遅しだぜ。」
「大丈夫よ、迷惑だなんて何も。ただ、本当にふくふくのほっぺがかわいくて…。皆もかわいがってたんだから。」
アレンとマリアに大丈夫だと慰められても、何も大丈夫じゃない。
「お兄さま、かわいかったのになあ。昨日は一日かわいい寝顔見れて最高だったわ。
もう見れないの?戻っちゃって残念。」
マイは心底残念そうだったが、そんなことを言われてカインは心底嫌そうな顔をした。
そんなマイにアレンは口添えをした。
「マイ、そしたらまた黒衣の魔術師たちから薬もらえばいいんだって。」
「え、そしたら、アレン様またあのかわいいお兄さまにいつでも会えるんですか!?」
「やーーめーーーてーーーー!」
カインは悲鳴をあげて、その後は一日中頭を抱えていたらしい。
- 終わり -
2024/10/11
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【後書き】
小さくなったカインを連れてあちこち連れ歩いてみたかった話でした。
本人はたまったものじゃないかもしれませんが、小さい子が来たら大体皆かわいがると思う。
父も妹も喜んだようで良かったです。たまにはこんな一時があってもいいじゃないか(いいのか?)
↓「母さま!」って抱きついてきた小さいカインとびっくりするマイちゃん。マイちゃんちょっと大人っぽく描きたかったけどむず
い。