「クレハさんからの緊急の呼び出しって珍しいね」
「そうね、何があったのかしら…?心配だわ」
とある日のことであった。
カインとマリアはクレハから緊急の依頼を受けてローレシアへやってきていた。見た感じローレシアに何が異常があったようには見えないが、クレハは二人の姿
を見つけると慌てて駆け寄ってきた。
「カイン様、マリア様!
突然のお呼び出し、本当に申し訳ありません!」
クレハは恐縮しきりで謝罪してくるが、その蒼白な顔色に二人は緊急事態を悟って、とても責める気にはならなかった。
「いいのよ、クレハさん。
それより、何があったの?もしかしてアレンに何か……?」
クレハのこの慌てぶり、アレンに何事かあったのではないかと予想される。
と言うかそれ以外に考えられない。
そういえば、ローレシアに来てからアレンの姿を見ない。
「そ、そうなのです……実は……」
実は、とは言ったものの、クレハはそのまま口をつぐんでしまって二の句を告げない。
あまりに切羽詰まった様子に、まさかあのアレンに滅多なことが起きたのではないかと流石に心配になる。
「どうしたの、クレハさん。
よっぽどのことが起きたから僕らを呼んだんじゃないの?
なんでも言って。」
カインもごくりと生唾を飲み込んで、覚悟を決める。
「はい…。あの、こちらへ…。」
クレハはそれ以上言えず、二人をとある部屋に案内した。
そこは薄暗い倉庫のような部屋であった。
「ここは武器庫かな。
さすがローレシア、いろんな武器があるね。」
武力に秀でる国ローレシアだけあって、
その武器庫には並の武器屋以上に各種さまざまな武器が置いてあった。
「それで、クレハさん、ここに何が……?
っ!!」
クレハの方へ振り返った直後、カインは何かを見つけたように叫んだ。
「危ない!下がって!」
その一声にマリアも状況を察しし、杖を構えた。
カインは左手を差し出して、クレハに下がるように合図する。
目の前にはどうやって忍び込んだのか、魔物の姿があったのだ。
「マリア!」
「ええ!」
カインとマリアは阿吽の呼吸だ。
その様子に、クレハは慌てて二人の前に飛び出して両手を開いて制止する。
「おおお、お待ちください〜!」
「クレハさん?
危ないよ、下がって!」
両手を開いて、クレハが魔物を守ろうとする姿に驚いたが、
次の言葉にもっと驚かされた。
「違うんです。これ、アレン様なんです!」
「……?」
「は…?え?えええ???」
よもやのセリフだ。しかし、その魔物は親しげにクレハの頭に絡みついてきた。
「ええ?ちょっ、クレハさんその状態大丈夫なの?」
どう見ても魔物に襲われている図にしか見えないが、魔物の触手はクレハを縛り付けるでもなく、頭をゆるゆると撫でているようにも見える。
「その魔物、悪魔の目玉……だと思うんだけど、
それ、毒を刷り込まれているとかじゃないの?」
カインの心配そうな指摘に、悪魔の目玉は触手を伸ばして、ペシペシと抗議するようにその頭を叩いた。だが、別に痛くもない強さだ。
「ああ、うん。
違う?違うのね。分かったよ。」
カインが悪魔の目玉と会話をしている。不思議な光景だ。
「私から見ると、二人とも襲われてるようにしか見えないので、
もう吹き飛ばしちゃっていい?」
マリアの不躾な言葉に、悪魔の目玉はびっくりした様子で、ふーふーと威嚇するような視線を向けている。そして触手で大きく×と示した。
その様子にマリアはふふっと笑って、カインと目を見合わせて頷いた。
クレハの言うことは本当なんだろう。
「その魔物がアレンなんだね?」
話の早いカインとマリアにクレハは半泣きの表情でうんうんと頷いた。
「そうなんです!
私には何が起こったのかさっぱりわからないのですが……」
クレハも訳がわからないと言いながらも、順を追って経緯を説明を始めた。
それによると、アレンとクレハは定期的な武器管理の一環として、二人で武器庫にやってきていたらしい。順調に武具の確認作業も進んで、もうすぐ終わりとい
う段で、アレンが倉庫の奥に見逃した武器を見つけたようで一人で倉庫の奥へと行ってしまった。
「その時、アレン様が何をしていたのかは私も分からないのですが。」
結局何が起きたのかは見ておらず、次に見たときにはアレンが何かをしてこうなったという事だ。
最初はアレンがいなくなったのかと思ったが、どうも代わりに居座ってるこの魔物が意思疎通を図ってくるから、これは魔物ではなくてアレンだと直感的に感じ
た。でもそれを確約できる証拠もないし、悪魔の目玉は本来強力な魔物だから、うかつに手を出すこともできない。
そこでカインとマリアの二人に協力を仰いだのだそうだ。
「そんな目を離した一瞬でアレンが魔物の姿になっていたの?」
「はい。私はアレン様が怪しい魔法をかけられたのではないかと思ったのです」
「……………」
魔法、と言われてマリアの表情が真剣なものになる。
魔法の知識量に関しては、世界中を探してもマリアの右に出るものはいないであろう。クレハがこの2人を呼んだ理由もそこにあった。
「マリア様、どうでしょうか?
世の中には、人を魔物の姿に変えてしまう魔法というものがありますか?」
クレハの真剣な表情に、マリアはなんと答えようか思案しているようだった。
「ええ、クレハさん、そうね。姿を変える魔法なら……、あるわ。」
「本当ですか!?それは一体どんな魔法で…っ?」
マリアの言葉に一気に気色ばむクレハであったが、
しかしマリアは残念そうに首を振った。
「落ち着いて、クレハさん。
魔法ならあるけど、ここは密室だったんじゃないの?
今周りを見渡しても他の魔物の気配があるわけでもない。
だから、これは誰かからかけられた魔法じゃないと思うの。」
「そうですか?」
マリアは冷静に諭した。
クレハは何か怪しい魔物がアレンに魔法をかけたと予想していたようだが、マリアは違うという。魔物と相対して魔法をかけられたわけでもないし、そもそも魔
物が介入して、場を荒らしたような雰囲気でもない。
「と、いうことは……?」
「私はアレンがなんらかの方法で、自分で変化したものだと予想するわ。」
クレハはマリアの言葉を受けて、さらに怪訝な表情になる。
自分でというが、アレンが魔法を使えないというのは周知の事実。マリアが何を言っているのかと、カインにもその発言の見解を聞いてみようと、周りを見回し
てみると、カインは何やら武器庫の床に落ちているとある杖を興味深そうに手に取っている。
「カイン様……?何を?」
「マリア、これじゃないかな?」
「ええ、そうね。それよ。その杖の宝玉に見覚えがあるわ。」
クレハはさっぱり分からないが、カインとマリアは2人でうんうんと頷きあっている。
何故急に武器の評論会が始まってしまったのか、クレハは少し首をかしげている。
不思議そうな様子のクレハを見て、カインはその杖を持って2人の元へとやってきた。
「クレハさん、これは変化の杖っていう武器なんだ。
これを使えば姿を変えることができる。すごい珍しい武器なんだよ。」
「ええ、滅多にみられないのよ。お店に並んでいる武器じゃないし。」
おお……さすがの2人である。知識見識が自分とは段違いである。
クレハは自分の国の武器庫であるのに、これが何なのかも知らないし、そんな効能は知らなかった。
「だから、アレンが自分でこれを使ったんじゃないかな?
ねえ、アレン。」
悪魔の目玉にニコニコと話しかけるカインの姿は異様ではあったが、
悪魔の目玉は触手をウニョウニョ伸ばして今度はカインの頭に乗ってきた。
一見すると襲いかかって首を絞められているかのようであるが、
心なしか悪魔の目玉は嬉しそうで軽快にカインの頭をモミモミしている。
「ちょっとアレンさん、その反応の意味は分かりませんけども、
とりあえず元に戻ったらどう?戻り方分かんなかったの?」
カインが頭の悪魔の目玉に向かって、元に戻れと杖を振るうと突然悪魔の目玉は光を放ち出した。
「うわっ!」
「どわ!」
頭上の魔物が突然人間に変化し、その重量に耐えきれずにカインがその場にぐしゃっと崩れ落ちた。
「あっ、あ?
アレン様ーー!!」
現れたのはアレンであった。
探し求めた主人の出現にクレハは目を見張った。
「アレン様ご無事ですか!?」
「ああ、クレハ俺は無事だぜ。びっくりしたー。戻り方が分からんくなってさー。なんだ、杖を振れば良かったのか。手のある魔物だったからできたな。」
怪我もなく元気そうな様子にクレハは安堵した。
「ああ、良かった!ご無事で良かったです!」
「魔物の姿の時は喋れないから、何を訴えても通じないから困ったわー」
人間に戻れたアレンはググッと背伸びをしている。ようやく戻れてやれやれという表情である。
「アレンさん?あの、無事復活の儀、大変おめでたいところ恐縮ですが、
どいてくれませんか?」
「ん?ああ」
「んもう、アレン重いんだよ、重いーーー!どいてー!」
突然魔物から人間の姿に戻って、カインはアレンの重みに潰されたままであった。
「わるいわるい。」
はははと対して悪いとも思ってなさそうに、アレンはその場から退いた。
その不遜な態度にマリアは不満そうだ。
「アレン気を付けてよ。
クレハさんにもすごい心配かけて、あなた何やってるのよ。」
「いやあ、不思議な効能がある杖なんだな。初めて使ってみたんだが、すげえわ。」
満足そうに杖を天にかかげた。
「変化の杖。こんな武を誇る国にあるのも意外だね。
アレン、これはどこで手に入れたの?
元からローレシアにあったものではないでしょう?」
カインの洞察力に驚いたようにアレンが頷いた。
「よく分かったな。
さすがカインとマリアだよな。お前らなんでも知ってるよなあ。」
クレハもその言葉にはぐうの音も出なかった。そっかうちの武器じゃなかったのか。
自国で管理している武器のことを自分は知らず、他国の2人の方が詳しいだなんて、恥ずかしい。さすがの博学、知識量である。
しかしそのおかげで我が国の王が助かったのである。深くお礼をせねば、失礼に当たる。
「カイン様、マリア様ありがとうございます。
私は完全に検討違いのことをしていたんですね。でも、おかげでアレン様が元に戻ることができました。
よかったら今日はゆっくりしていってください。お礼をさせてください。
お部屋も用意いたしますので、泊まっていってください。」
「いえ、別にそんな、何も大したことしてないです。」
クレハの言葉にカインとマリアはどうしようと顔を見合わせた。
「せめてお食事だけでも。よかったら、ぜひ!」
「そうだよ、泊まって行けよ。
久しぶりに積もる話でもしようぜ。」
このまま礼もせずに帰してしまってはローレシアの名折れだとばかりにクレハがいうと、アレンももう一押しとばかりに、是非と2人に声をかけた。
あわてて帰らなくてもルーラだって使える。確かに、せっかくの機会ではある。
「分かったわ。せっかくのお言葉だし、お邪魔させていただきます。」
マリアがそう言うならカインは別に反対する理由もなくなる。
クレハはぱっと顔を上げた。
「良かったです。ではお部屋をご用意します。こちらへ。」
「まぁ、まだ少し夜には時間があるだろ。少し俺の部屋に来いよ。話でもしようぜ。」
「あ、うん。分かったよ。」
クレハが部屋を用意すると言ったが、アレンはそれよりも自分の部屋に来いと、カインの手を引っ張っていった。そうなるとマリアも部屋について行くことにな
る。
この三人の仲の良さは折り紙付きで、いくつになっても変わることは無い。
その関係性の中には、クレハでも立ち入れぬものがある…と思っている。
「あ、では私は部屋の準備ができましたら、お声掛けに行きますね。」
「うん。頼むな。」
クレハはぺこりと会釈するとそそくさとその場を離れた。
この変化の杖は、怪しい海の洞くつで見つけたのだそうだ。話を聞いて、ローレシア兵団はそんな近海の探索までしているのかと驚いた。
「懐かしいね。昔は僕らも浅瀬の洞くつとかいったね。」
「ああ、マグマが吹き荒れてる洞窟とかあったな!あそこは結構やばかった。」
古き懐かしい思い出だ。いくつもダンジョンに挑戦してきたが、海底の洞くつも当時の自分たちには少し背伸びした難易度で、苦戦していた記憶がある。
「それでさ、その海の洞くつは……」
アレンは最近の武勇伝を語って見せた。
まだまだ国内の平定に手いっぱいなムーンブルクでは、ローレシアのように近隣の調査・探索に行ける余裕はなく、そのアレンの手腕に興味深く話を聞いてい
た。
「アレン様?失礼します。お二人のお部屋のご用意ができました。
それからスイマセン、アレン様にリリザの大使館から急ぎの連絡が来ていまして。」
「え?急ぎ?こんなときに、なんだよー。」
「アレン、遅くまで大変だね。それじゃあそろそろお開きにしようか。」
お開きと言われて、アレンは少し不満そうに唇を尖らせた。
「こらこら、アレン。一国の王様がそんな顔しないの。お仕事頑張ってね。」
「終わったら、また話しようぜ!俺、飯も食ってないし!一緒に食うからな!」
「はいはい」
いつも国のトップに立って指揮を振るうこのアレンも、二人の親友の前になると子どものようになる。そしてそれをクレハは微笑ましく感じた。
一時期はクレハは自分には引き出せないアレンの表情を知って、カインたちに嫉妬もしたが、いつも重責を担うアレンが少しでも少年時代に戻れるのだ。これ
は、他の誰にもできることではなく、今はありがたいことだと感じられるようになっていた。
+++
「変化の杖、面白い杖だったねえ。」
「そうね……。」
変化の杖は伝説の武器と言われているもので、それ自体を見るのは初めてだった。
その特殊効果に、アレンは少年のように目をきらきらさせて語っていた。それで、何故悪魔の目玉に変化してるのかは謎だが、好奇心に駆られて試しに使ってみ
たのだろう。
「ねえ、もしかしたら、変化の魔法…マリアは使えるの?」
「…そうね、使える、と思うわ。」
変化の魔法と言えばモシャスという。
あんまり使うケースはない、というかほぼ使ったことは無い。ただ、今の自分のレベルなら使えるだろうというのは分かっている。
「ほんと!?マリアすごい!」
キラキラとした目でカインは自分を見あげた。あ、ここにも少年がいたなと思った。
これは完全に変身を期待している。
「ふふ、やってみましょうかしら?」
マリアはそう言うと、変身相手を誰にしようかと一瞬考えて、モシャスを唱えた。
「わっ」
変身をすると魔法力の勢いで一瞬辺りが煙幕が舞い上がった。
煙幕が晴れると、そこにいたのは……。
「ええええ、アレン!!??」
マリアはその驚きの言葉に成功を確信して、自分の体を確認した。うん、成功した。
マリアはアレンに変身してみたのだ。
自分の姿は鏡でもないと確認できないが、とりあえず最初に感じたことはいつもより視線が高いことで、さらに腕を上げてみると、筋骨隆々な腕がまるで丸太の
ようだなと感じた。手をぎゅっと握っただけで、握力が普段と違うのは実感できた。りんごなんか簡単に持つだけで砕けそうに思った。
これが一流の戦士の体。アレンの体はすごかった。
「うわあ、アレンだ!どっからどう見てもアレンだ!
でも、マリアなんだよね?アレンを呼んできたんじゃないんだよね?」
アレン姿のマリアはこくんと頷いた。
それにしても、どこからどう見てもアレンだった。
筋肉質なところも、つんつん頭も全部全部アレンだった。想像して作り上げた姿、などではなく、完璧にアレンそのものだった。
口調と仕草以外は。
「マリアの魔法はすごいなあ〜。完璧な変身だよ。」
「そうかしら。ありがとう。」
アレンの姿で女言葉を使うのもおかしいが、急に口調までは変えられない。
魔法を褒められてマリアも少し嬉しくなった。
そしていつもは見上げ気味になるカインが少し目線的に下になるのもちょっぴり嬉しかった。
思わず、その頭を良い子良い子と撫でてみたくなった。
「え…アレン?いや、マリアさん?何してんの?」
「ふふ、なんだかカインが小さくて可愛い。」
「いや、僕は小さくなってないんだよ?マリアがでっかくなってるの。」
そんな会話をして戯れているところに、こんこんと誰かが扉をノックしてきた。
「カイン様、マリア様。タオルをお渡し忘れておりました。
よろしければこれを使ってー……え?」
返事をする前に扉を開けたクレハが固まってしまった。
それもそうだろう。大事な公用で席を外しているはずの主がこんなところでカインとじゃれあっているのだから。
「もーーー。駄目ですよ!アレン様!」
思った通り、クレハは偽アレンに雷を落とした。
「いつの間に抜け出したんですか!駄目じゃないですか!!お客様ほっぽり出して来たんですか!?いくらカイン様と遊びたいからって、ちゃんとお仕事はして
もらえないと。」
さすが、アレン相手に一歩も引かない威風堂々としたお叱りだ。クレハの苦悩は尽きないんだなと思いながら、いやそれ私のせいじゃないかとマリアは思った。
「クレハさん、違うの。私アレンじゃないの。」
「は?え?え、えええーー!?」
マリアはモシャスの魔法について説明すると、クレハも驚いたように目を丸くした。
「やだ、本当ですか!?このアレン様がマリア様なんですか!?
いや、そんなこと言っても、どこか違いが……。え、やだ首筋のほくろの位置まで一致してる…?じゃあ、ここは?」
今度はクレハが体中をまさぐってきて、マリアはくすぐったくて仕方がない。
服をめくってきて、背中やお腹まで確認している。
「こんなところまで…!おへそから一本毛が出てるの、これは私しかしらないはずなのにー!」
「え、そうなの?見せて。
って、うわ!アレンの腹筋やっば!バッキバキじゃない!」
カインまで覗いてきて、お腹を覗き込んでいる。
そして見事なシックスパックに割れている腹筋をクレハと一緒になって触っている。
「あの……二人とも……ちょっと、……やめて……」
アレンの顔をしたマリアが顔を真っ赤にして震えている。そう、これはアレンの顔をしたマリアであって、今二人がしていることはムーンブルクの女王の衣服を
まさぐり、あまつさえ、その女王のお腹をぺちぺち遠慮なく触るという前代未聞の事変であった。
「わーーー!!?」
「ごめんーーー!!」
その表情を見て、カインとクレハは慌ててお手上げのように手をあげた。
「すすすすいません!!!ごめんなさい!お許し下さい!マリア様!
わ、わ私、てっきりほんもののアレン様と勘違いして。」
クレハはそのまま勢い込んで土下座の体制になった。
クレハが土下座になったので、カインも一瞬どうしようか考えて、その場におとなしく正座で座って「ごめんなさい」と深々謝った。
「いや、あのごめんなさい。変な反応して。」
こんな真っ赤になって恥ずかしがる反応をするアレンなんていない。
おかげで、まんまアレンそのものなのに、これはやっぱりマリアなんだと実感できた。
アレンは手を上にあげて、魔法を解いた。
モシャスを唱えたときのような煙幕があがって、マリアは元の姿に戻った。
「クレハさんお騒がせして、こちらこそごめんなさい。」
「私と来たら、寝ぼけて、マリア様のお腹をあられもなく触ったりして…。かくなる上は、切腹してお詫びいたします。カイン様介錯をお願いいたします。」
「いやいや待って、やめて!そんなことしたら僕がアレンに殺されちゃうから!」
「そうよ、クレハさん気にしないで…っ。」
クレハがあまりに恐縮しているから、マリアの方こそ申し訳なくなった。
「いや、でも本当アレンにそっくりだった。そっくりって言うか、もうそのものだったよ。」
「そうかしら?
でも確かに、あれなら鋼の剣でも大金づちでも装備できる気がしたわ。アレンって腕力本当にすごいのね。」
「アレンになれるマリアってやばくない?最強じゃない?」
「いや、本当そうですよ。マリア様恐ろしい」
クレハとカインは頷きあって、ひとしきりマリアの真の能力に恐れおののいた。
そうこうしていると、本物のアレンがやってきた。
「何やってんのお前ら」
扉を開けると、マリアの前に土下座しているクレハとカインがいるのだ。
「なんで、お前らマリアの足元のひれ伏してんの?」
「アレン様、そりゃひれ伏しもしますよ。」
「本当本当。」
クレハが事のあらましを説明すると、アレンはマリアのモシャスに興味を持ったようだ。
「へえ〜、そんなにそっくりなのか!!なあなあ俺も見たい!じゃあ今度はカインに変身してみろよ!」
「え、どうしてよ。もういいじゃない。」
「良くねえよ、俺見てねえじゃん!お前らだけずるいー!俺ちゃんと仕事してきたんだぞー!えらかったんだぞー!」
ずるいずるいと騒ぐ様は完全に駄々っ子のそれにしか見えないが、確かに一人だけ仕事してきたのだとアピールされると、これくらいご褒美があってもいいのか
と思ってしまった。
「分かったわよ。ちょっとだけね。」
マリアが再度モシャスを唱えると、その姿は今度はカインの姿になっていた。
「おおー!!すげえ!」
「うーわ…」
アレンは大喜びだが、カインは目の前に自分が現れたから、ちょっと引き気味になった。
「え、マジでほんもの!?ほくろの位置とかどうなってんの!?」
「アレン様、そのくだりは先ほどクレハめがやらかしましたので、ご遠慮くださいませ。こちらはマリア女王様なんですよ!?裸を見ようなどとはとんでもない
です!」
「え、マリアじゃないって、これカインだろ?って言うか、マリアも自分で覗いてるじゃん。」
「は?」
アレンはクレハに諭されても、全然躊躇がない。これはマリアじゃなくてカインだという感覚のようだ。さらになぜか今度はマリアも自分で服を引っ張ってそれ
を覗いていた。
「マリア…何して……?」
「え、や、あの、ちゃんとできてるかなって。」
「ほう?どれどれ見せてみろって。」
先ほどの羞恥心はどこへ行ったのか、今度はマリアも変化の出来栄えが気になるらしい。
「あれ、こんなお前脇腹にほくろあったっけ?なあ、カイン正解を確認させろ。」
「えええ!?やだよーー!変態!ちょっ、何するの!!やめてー!」
アレンがカインの身ぐるみを剥ごうと迫ってくる。腕力がすごくて振り払えない、なんだこれ。
「アレン様ーーー!!!」
そんなアレンをクレハがスリッパでぺしっと叩いた。
「駄目です!めっですよ!!人が、嫌がることは、しない!ローレシア国家法第368条、覚えていらっしゃいますよね!?」
「ちぇーー…。覚えてるよお。」
なんだその国家法はと思いながら、カインはそのまま這ってアレンから離れていって、ようやく衣服を整えて人心地をついた。
クレハはまるで子供に叱るときのような口調だなと思いながら、二人は兄弟みたいな関係だったというから、きっと昔からこんなふうなんだろうなと思った。
「じゃあさじゃあさ、カインが二人いるなら、一人はローレシアに置いて行ってくれよ。」
「アレン様ーーー!!!??」
良いこと思いついたと言わんばかりのアレンに再びクレハが食いつく。
「いいじゃんーー!ムーンブルクばっかカイン一人占めして、ずるいじゃん!」
「どういうことですか!」
さっきからこのアレンは何を言っているんだろう、酒にでも酔っているんだろうか。
そして、マリアはマリアでなぜか顔を触ったり、足を触ったり、色々確かめている。
逆の立場ならどうかと言われたら気持ちは分かるが、何とも言えず居たたまれない。やめて〜と小声で訴えても、アレンとクレハが叫んでいて全然声が届かな
い。あーでも、自分もアレンのシックスパックをぺちぺち触ったし、もう同罪だあと天を仰ぐ。
ていうか、アレンと比べたら貧相な体だから見比べないでほしい…。全部バレる。腹筋だって全然あんなに割れてない。男として自信なくした。
「はぁぁ…。ちゃんと腹筋しよ…。」
カインは深いため息をついた。
「変化の杖でも同じことできるかなあ。」
「変化の杖でも駄目ですからね〜!」
アレンはまだ興奮気味で、何やら諦められないようだ。変化の杖もきっと同じ魔法の効果はあるだろうなと思う。
自分がマリアにねだったのが発端とは言え、
このカオスな状況に、モシャスも変化の杖も封印してもらおうとカインは心に誓ったのであった。
- 完 -
2022/06/13
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【後書き】
ご無沙汰しております。
2年ぶりに小説書いてみました。懐かしいね。
ギャグです。懐かしいわちゃわちゃギャグ。どなたかに届けば嬉しいな。