魔石を3つ壊したあたりから、いよいよ私たちは標的と見なされたらしい。
長い間、悪意を失っていたはずの魔物が悪意を持ってこちらに向かってくるようになっていた。
しばらく、まっすぐ走っていたカインが急に馬の軌道を変えた。
「リザードフライが4匹通せんぼしてる。」
「任せて!今度は私がやるわ。」
私はバギの魔法を唱えた。
「マリアありがとう、このまま行くね!」
魔物が飛び散った隙に、私たちは魔物の群れを通り抜けた。
魔物と遭遇はするものの、トドメを刺すことには重きを置いていなかった。
何度か魔物と遭遇したが、基本的にはカインが隼の剣を馬上で振るうと、その素早さに魔物たちが対応できないのと、馬の機動力もあって、魔物は追ってはこれなかった。
私たちは隙を見て、馬に乗ったまま走り抜けていた。
そしてそのまま何度か魔物と遭遇しながらも、ムーンブルク大陸をあちこち縦横無尽に走り回っていた。
その間に天気の急変は二度。通行に支障が出るほどの時は私が天候系魔法を使っていた。私たちは見張られているのだろうか?
風の塔付近とそこの北側の海沿いで2つの魔石を見つけた。その後はムーンペタのはるか北側に走り抜けてローラの門近くで1つ。
あとは、きっと南側、ムーンブルク城近くにもあるだろうと睨んで、私は最初に崩壊していたムーンペタの橋近くに戻ってきていた。
「あれ、マリアさま、カインさま、おかえりなさいませ!どこへ行っているかと心配したのですよ。」
橋の復旧作業は順調に進んでいるようだ。兵たちもあれからずっと作業をしていたようだ。人が通れる程度には応急処置がされている。皆頑張ってくれている。
しかし、まだ馬なんて走れそうにない。
再度凍らせるなんていう強引な手も、さすがにせっかくの復旧作業に差し障りがある。
一度足を止めたほうがいいと思ったが、カインは意外なことを言った。
「マリア、捕まっていてね。
飛び越えるから。」
「え?」
せっかく直している臨時の橋が馬の重さに耐えられるはずがない。
カインの言葉に私はギョッとしたが、それより兵たちの方が気の毒なくらい何事かとあわあわ慌てている。
「わかったわ」
だが、きっと言葉通りなんだろう、私はカインの腰にしがみついた。
「カイン様?や、やめてください…!」
クナが悲鳴のような声を上げているが、橋のやや手前で飛び上がった馬は、まるで翼が生えたペガサスのように本当に高く飛び上がって、そのまま空を走り抜けた。
そしてゆっくりと橋には傷一つつけず向こう岸へと着地した。
「…せ、せいこーう。」
兵たちは腰を抜かしたようで声も出ない。
「カイン、魔法使ったでしょう?」
「ちょっとだけちょっとだけ。」
【 挿絵を見る 】
カインはいたずらっぽく笑っている。きっと馬に魔法をかけて空を飛んだのだ。
私は夢見心地で本当にペガサスにでも乗ったような気分だった。
「みんな、驚かせてごめんなさい。」
兵たちはまだ唖然とした様子だ。よっぽど驚いたのだろうが、先をいそごう。
「私たち急いでいるの。復旧作業は順調のようで、安心したわ。」
「そ、それで、マリアさま、どこへ行かれるのですか!?」
「今日中にはお城へ戻る予定よ!」
そう伝えると、私たちは先へ向かった。
あと魔石は2つ。きっと今日中には全て片付けられるだろう。
「マリアさまー!お待ちください!!」
「クナ?」
クナが馬に乗って追いかけてきた。
「何事があったのですか!?皆、心配しております。きっとマリアさまに何かあったのだろうと。私もお連れください!」
どうやら、私たちの自由奔放な行動が随分目に余ったのだろう。
「クナ、大丈夫よ。気にしないで。」
そう言っては見たものの、納得しない顔で帰ろうとしない。
「クナさん、ついてきてもいいけれど、僕らの周り魔物が出るんだよ、気をつけて。」
「え?え、ええ!?マ、マンドリル!!?」
目の前に現れたのはマンドリルと兜ムカデの群れ。
魔物とは上手く共存できていたのに、やはりこちらに向けて悪意を向けている。
「クナ、下がって!!」
私はまず兜ムカデにバギを唱えようとした。魔物の群が出ようと、私が魔法で一掃すればいいだけどのこと。
「さ、下がるわけには参りません……!!!!」
だが、クナは一歩も引こうとしなかった。
彼はかつてムーンブルク城で人々を見捨てて逃げてしまった過去がある。その贖罪に生きると誓ってから、私の前では『引く』ということを忘れてしまったようだ。
クナが眼前にいて、魔法が使えない。
「うおおお!!」
剣を抜いて雄叫びと共にクナは突進した。
しかし、残念ながら、少しばかり力が及ばなかったようだ。
馬ごと突進した体当たりはマンドリルに少し傷をつけたものの、逆に怒りを買って跳ね返され落馬してしまった。
「カイン、行って!!」
「わ。わかった!」
馬から降りて、隼の剣を持ったカインは、一刀目でクナに殴りかかろうとするマンドリルの腕を切り落とした。そして、返す二刀目でマンドリルの体を貫いた。
「うわ、わわ。」
クナが驚いているが、いくらか強力な魔物とは言っても、私たちのレベルはこのあたりの魔物に遅れをとるものではないと思っていた。
だが、それは少し楽観的な考えだったようだ。
「きゃっ!」
急に馬がガクンと膝を折った。
先程倒したはずの兜ムカデは、未だ息絶えず私たちの馬に噛み付いてきた。
馬から落ちて、至近距離で牙を向く兜ムカデの群れはいまだ禍々しい空気を孕んでいる。
「マリアさま!」
「…っ……、平気よ…!!イオ!!」
兜ムカデの牙がこちらに届く直前に私の唱えた爆発魔法で、粉々に魔物は飛び散った。ほっと息をついた。
「ギラ!!」
あちらでは、カインが火炎魔法を唱えている。
なんとマンドリルもまだ息絶えず、襲いかかってきたようだ。
黒焦げになったマンドリルはようやく動きを止めて、バタンと大きな音を立てて倒れた。
「カイン、大丈夫!?」
「マリアこそ。怪我はなかった?」
少し落馬の際に腰を打ったくらいだ。
「……、ホイミ」
腰を抑えていたら、カインがホイミを唱えてくれた。
「ありがとう。」
カインが魔法を使っている。これは珍しいことなのだ。どうやら、この事態にカインも危機感を感じているようだ。
そして、やはり少し魔物たちが強力になっているようだった。以前の魔物に対する知識で戦っていると、少し裏を掻かれる。
これまで魔物との戦いは回避して回っていたが、実際戦ってみると油断ならないと分かった。相当強化がされているようだ。
「クナさん、そう言うわけで、魔物が出たりするんだ。帰ったほうがいいんじゃないかと思うんだけど。」
魔物を倒して、改めてカインはクナを説得するように言った。
そして今、何が起こっているのかを包み隠さず全て伝えた。すると、きっと帰ると言うと思ったのに、クナは首を横に振った。
「マリアさまの……、ムーンブルクの一大事かもしれません。
私だけ帰るなんてできません。どうか、お連れください。」
「えー……。」
そう言って深々と土下座のように頭を下げた。
説得に失敗したカインはどうしたものかとマリアを振り返った。
クナの気持ちは分からなくもない。
少し頑なになっているようにも思うが、危機から逃げるわけには行かないと思っているのだろう。
「クナ…、分かったわ。一緒にいきましょう。
でもさっきみたいに、いきなり魔物の前に飛び込まないで。」
「は、はい!申し訳ありません!」
それほど長い旅にはなるまい。
あと回る場所は2ヶ所で良いのだ。
私たちは再び馬に乗り込もうとしたが、馬は足を折って座り込んだまま動かない。
兜ムカデにやられた怪我が痛むのかとホイミを唱えると立ち上がってはくれた。それでも先程の強襲がよっぽど恐ろしかったのか歩こうともしない。
そして、その頭を私の胸に擦り付けるようにしてくる。まるで謝っているようだ。
「大丈夫、大丈夫よ。」
その頭を優しく撫でて慰める。
「よっぽど怖かったのかな。無理させちゃったもんね。ごめんね。お城に帰っていてもらって先に休んでもらおうよ。」
「そうね…。今日はありがとう。あなたのおかげでとても素敵な時間だったわ。」
一日中走り詰めで、空まで駆けてくれた馬に礼を伝えた。カインも馬の顔を撫でるとルーラのような魔法を唱えた。
城の馬舎へと送り届けたのだという。ルーラの応用版のようなものだろう。
「大丈夫だよ。大体場所はわかるし。あとは歩いて行こう。」
魔石はおおよそ場所が推測できる。一番効果が強いと言われる六芒星を模るように設置されているようだ。
そうすると、場所はムーンブルク城北西の海岸あたり。
地図を広げながら、この辺りだと推測した。
「探すものはこういう色の硬い石なんだ。大きさはこれくらいで。」
カインがクナに今までに砕いた石の破片を見せた。
3人かかりで探したら、すぐに見つかるかと思ったのに、海岸は広くて案外なかなか見つからない。
「うーん、見当たらないね。
風の塔近くでは結構すぐ見つかったのに。」
「どうやって見つけたのですか?」
魔石からは独特の邪悪な魔力が漏れ出ている。近くによればなんとなく分かるものなのだが、ここからははっきりとした魔力を感じなかった。
「休憩してご飯でも食べようっか。」
小一時間探しているうちに、日が高いところまで登っていた。もうずっと動き詰めだった。
「そうね、少し休憩しましょうか。」
浜辺に戻って私たちは一休みすることにした。
「ムーンペタの女将さんからおにぎりもらったんだよ。足りるかな。」
「あ、そうしたら私は海で魚など捕まえてきます!
すぐ近くの、いい場所を知っているんです!お二人は先にお休みくださいませ。」
そう言って、何かを思い出したように座った直後にクナは立ち上がった。
「どこへ行くの?」
「ムーンブルク近海の海は水質が良くて、特に川からの合流地点には魚がいっぱいいるのですよ。」
「そうなの?私も見てみたいわ。」
私もクナについていって、その合流地点を覗き込んだ。いいポイントになっているようで、確かに魚がたくさん泳いでいる。
「わあ、すごい。こんな場所があるのね。」
城からあまり出ない私はまだまだ知らないことがいっぱいあるなと思った。
靴をポイポイと投げ捨てて、ざぶざぶと川に入っていったクナはざくざくと魚を生け取りする。
「クナ、すごいじゃない。」
「ふふふ、私こう見えてもムーンブルクの飛魚と言われていたのですよ。」
「なあにそれ。」
続いて捕まえようとすると、するすると逃げてしまうようで、クナは持っている剣で一突きしようとした。するとガキっと鈍い音がした。
「あら?」
突如感じられた違和感。
「あ、このすばしっこい魚め、このムーンブルクの飛魚を舐めるでない!」
クナは相変わらず魚を追っている。
「クナ、魚はいいから、さっきの!」
「はい?なんですか?」
先程偶然クナが突いたのはきっと魔石だ。
クナは驚いたように元の場所に覗き込んだ。確かに黒くて丸い宝玉がある。
「こ、これですか!!マリアさま、どうすればいいですか!?」
「遠慮なく砕いちゃって。思いっきり!」
「え、は、はい!!!」
そういうとクナは一度呼吸を落ち着けて剣をギュッと握った。
「ハァァ!!」
気合の入った一撃は魔石に直撃して、無事に真っ二つに破れた。
「クナ、やるじゃない。成功よ。」
「本当ですか!?や、やった!!」
真っ二つになった石を水面から拾い上げて、
ようやく役に立てたとクナは嬉しそうだった。
カインの元に戻ると、何やらおにぎりと貝を焼いていた。
「お帰りなさいー。魚、取れた?」
「あ、はい。こちらに。」
「カイン、それよりクナがやってくれたわよ。」
遠慮がちにクナは砕け散った魔石を見せてくれた。
「わー、クナさん、すごいじゃない!」
カインは手をぱちぱちして快挙を喜んでいる。
「ありがとうございます。」
「お魚の方もバッチリだね。
おにぎりも食べる?これ…」
「ギラで作った焼きおにぎり?」
「そうそうっ。」
どうやら待っている間に、浜辺で貝を見つけたようで、カインはおにぎりと一緒に調理していたようだ。このギラで作る焼きおにぎりは、旅の間アレンが大好きだった料理だ。
「クナさんもどうぞー。」
「あ、ありがとうございます!」
捕まえてきた魚も棒に刺して、一緒に焼いた。
なんだか小休止のはずが、随分大量のご飯になってしまった。
「アレンがいたら、これでもきっと一瞬でなくなるんだけどね。」
カインもちょっと多いと同じように思ったようだ。
「あ、私ときたら、3人しかいないのに、張り切って魚取りすぎましたね…」
「もりもり食べたらいいじゃない?」
「アレンじゃないんだから……。」
他愛ない話で談笑しながら食べる焼きおにぎりは香ばしくて昔懐かしい味がした。
「マリア様こうやっていつも長い旅の間もお食事を召し上がられていたのですね。」
「え?そ、そうね、あの時は野宿も多かったもの。でもカインがいつも料理作ってくれてね、困ることはなかったわよ。」
野宿の多い王族なんて、他の国家ではあり得ないだろうなと思いつつ…。
「なるほど、今日初めてご一緒しまして、とても美味しいです。」
「ええー、料理というような料理してないよ?焼いただけ。」
長い道中で、自給自足のように魚や木の実を食べたことも多かった。
なかなか今となってはできない体験だっただろうと思う。
「やっぱり食べきれないね。持って帰る?」
「あ、それでしたら…」
結局魚は食べきれず、ムーンブルクへ持ち帰ろうかなどと言っていた時、海が荒れ始めた。
「波が急に高く……?」
「また雨でしょうか?」
「気をつけて、魔物の気配がするわ…!」
ズヌッと砂浜から触手が伸びてきた。
「マリア!!」
砂浜から伸びる触手をカインが一閃した。
「あ、ありがとう。しびれくらげね…!」
「マリア様、大丈夫ですか!?」
「ええ、クナも気をつけて!バギ!!」
見ると、翼の生えたバピラスや、海べりでは海うしが目を出している。
魔物の群れに囲まれていた。
「おのれ魔物め!」
クナも今度は魔物に恐れず立ち向かっている。
しかし相手の数が多い。バギで倒れた魔物もいるし、カインも素早い動きで魔物を切り捨てていくが、魔物の数が減るどころか、どんどん増えていく。
「あっ!?」
クナがしびれくらげの触手に足を掴まれている。しびれくらげの触手にはしびれの効果があり、一定時間動けなくなってしまうのだ。
こうなったら、イオナズンで魔物を全て一掃するしかない。
私はいかづちの杖を掲げようとしたところ不意に眠気が襲ってきた。
「っ!!」
海うしの甘い息に襲われて、私は不覚にも意識を失なってしまった。
「マリア様、マリア様…!!」
クナの必死な声が聞こえる。
どれくらい意識を失っていたのだろう。目の前には傷だらけのクナの姿があった。私が倒れている間、守ってくれていたのかもしれない。
「あ、良かった!マリア様、怪我はありませんか!?」
「だ、大丈夫。眠ってしまっていただけ。あなたも、大丈夫なの?それに、魔物は!?」
自分より、クナの方がよっぽど傷だらけではないか。
自身も不自由な体だっただろうに、この危機に奮闘して私の身を守ってくれていたのだろう。
魔物の方は大量の魔物のほとんどが倒されていた。
「カイン様がすごかったんですよ!
火炎魔法で、魔物の群れを一掃されて…!!」
「カインが…?」
私はゆっくり立ち上がって、急いでそばへ駆け寄った。カインは息を切らしていた。あれだけの魔物の数と一人で戦っていたのだ。負傷もしていた。私は不甲斐なく眠ってしまっていたことを悔いた。
「マリア!大丈夫?怪我はない!?」
「ええ、ごめんなさい。あれだけいた魔物がほとんど倒れているわ…!さすがね!」
「いや、ごめん…。倒しきれてなくて。」
どうやら倒した数より、増える数の方が多くて戦いが終わらないという状況のようだ。
「海に魔物たちは身を隠しているみたいで、そこからどんどん魔物が出てくるみたい。」
なるほど、目の前にいる魔物だけを倒しても、戦闘が終わらないということだ。
これだけの魔物が人々を襲ったらと思ったら、考えるだけでも恐ろしい。
「いいわ、私に任せて。」
「マリア?何をするの?」
水面に向かって私はいかづちの杖を掲げた。
「今から二つの魔法を唱えるわ。カイン、少し下がっていて。」
「え?」
私はすうっと息を吸った。
「バギ……クロス!!」
いかづちの杖から発生する最大級の真空波は、海に向かって放たれると海面を抉り海底まで達する。と、同時に隠れていた魔物たちもあらわになった。
「もう一つ……よっ!」
「マリア、もういい、もういいよ!!僕がやるから!!」
カインの制止する声が聞こえてくるが、止めるつもりはなかった。時間を空けることもできない。連発しないと意味がないのだ。
「マヒャド!!!」
放たれた凍れる刃は、一瞬にしてあらわになった海底を魔物ごと氷漬けにしていった。魔法を連発したので、海面はバギクロスの真空波で抉り取られた形のまま氷漬けになっている形だ。
何匹か仕留め損ねるかと思ったが、魔物たちはその全てが凍りついたまま動かない。どうやら成功のようだ。
「マ、マリア様すごい!!全滅ですよ!
隠れていた魔物たちまで一網打尽です…!!なんてすごい大魔法!」
「良かったわ、カインうまく行ったでしょう?」
「う、うん…。」
クナは大喜びしているが、カインは複雑そうな顔をしている。
「うまくない戦略だったかしら?」
「いや、すごいよ。すごかったよ。でも……」
カインは気になることがあるらしい。確かに、このやり方では氷が溶けてしまう恐れは皆無ではない。余韻に浸るより、今のうちに先へ。ここにはもう長居は無用だろう。
「ええ、次の魔石へ急ぎましょう。」
「そうじゃなくて…、あ、いや。行こう。ルーラで。」
歩いて向かうと時間はどのくらいかかるだろうかと思ったが、カインはルーラでいくという。確かにそれも手だろう。
「クナさん、あの、悪いんだけど、さっきの魚、ムーンブルクに持って帰ってくれない? それで、皆にも2日も城を空けて心配かけてるかもしれないから、うまく言っておいて欲しいんだけども。」
「え、あ……しかし、私まだ……」
カインが再度クナに帰るよう言っている。クナはまだ戦いは終わっていないのに、と言いたそうだ。
確かに、あと一つ魔石は残っている。
「お願いだから。」
有無を言わせない雰囲気にクナは頷くほかなかった。
「……分かりました。私がいてもさっきも今も一番に足を引っ張ってばかり。お役に立てませんものね。」
「……、違う。そうじゃない……けど。」
何か含む思いがありそうだった。
「どうかご武運を。」
さっき馬を返した時と同じような魔法を使って、クナは帰城する事となった。
「カイン、どうしたの?」
何か怒っているのかもしれない。
さっきの様子が少し強引だった気がして、私はカインの顔を覗き込もうとした。すると、それより少し早くカインはぎゅっと私を抱きしめてきた。
「わっ」
「無茶しすぎだよっ、無茶しすぎなんだよマリア…っ」
「え…?」
カインが私を抱きしめる手が震えていた。
どうやら、私が極大魔法ばっかり使うからよっぽど心配していたようだ。
「だ、大丈夫よ。ほら、見て元気。」
「……急にあんな魔法をいっぱい使ったら、絶対あとで体に負担がくるよ。
マリアが天才なのは分かってるけど、あんまり無茶しないで……。」
「わ、わかったわ…。」
でも、カインだって魔法を使っていたってクナが言っていた。
「マリアが倒れたのを見て、どれだけ僕が肝を冷やしたと思う?」
「ああ、さっきの甘い息の。あれは不覚だったわ。ラリホーとはまた違うから防ぎようがなくて。」
はぁ…っと、息を吐いて、カインは私から手を離して座り込んだ。
「どうしたの?」
「違う。なんか、ダメだね、僕。眠っただけ、眠っただけってわかってた筈なのに。
アレンがいた時は、もうちょっと冷静だったと思うんだけど。」
どうやらカインは私が本当に魔物に倒されたと思って随分心配していたようだ。
そして、その懐かしいアレンの名前を聞いて、私もなるほど確かにと思う節があった。
カインも私も連携よりも個々が必死になるばかりになっていた気がする。
「ああ、それは私も。なんだか、どうしてもいつもと違うわよね。出来もしないのに前線に出ようとしたりして、確かにカインに心配かけちゃうわね。」
「もう少し僕を頼ってください。
……アレンと違って、出来損ないですが、」
「そんなことない。」
カインはこれを言いたくて、クナを返したのかなと思った。
カインの心配もわからなくもない。あんな大魔法を連発していたら、確かに魔法力が心許なくなってくる。
「気をつけるわ。」
ようやくカインも納得してくれたのか、立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ行こうか。
ルーラは僕に任せて。」
「…そうね、私のルーラより、よっぽど安心だわ。」
「行き先は、ムーンブルク西のほこら。」
カインの一声と共に、私たちは次の目的地へと飛び立った。
- 続く -
2023/10/09
▲
【後書き】
ううう、終わるはずが終わらなかった(-。-;
カイマリ強いんですけど、なんかちょっとしたことで危なっかしい感じになりそうなところありますよねー。みたいな話。
ダラダラ長くなってしまったけど、もうちょっとだけ続きます!