SS集3

※注意※
なんか小説もどき置き場です(適当)


◇カイマリ  クリア後? 17/02/13
  『距離』

◇カイマリ  クリア後? 19/06/14
  『結婚前夜』





『ずっとずっと前から、僕はマリアのことが大好きなんだよ。』

かつて、私の目を見て、カインが真剣に言ってくれた言葉……。





私はハッと顔をあげた。
白昼夢を見ていたようだ。ごしごし 目を擦った。

ふと窓を見ると、もうすっかり夜になっていた。
今日は来賓客が相次いで慌しい一日だった。

おかげで通常の執務が終わらず、こんな遅い時間になってしまった。

それも仕方ない。
多くの人が、新たな国ムーンブルクを訪れてくれるのはとても嬉しい事だ。
少しでも良い国にしていくために、私は頑張らねば。

さぁ、この書類に目を通そう。

手を伸ばして、書類を手にした。
視線を落とすと、部屋が薄暗いせいか文字が見えにくい。

薄暗いせいばかりでもないだろう。
少し疲れが溜まっているようだ。

慌しい一日の波に揺られていると、
気が付いたらあっという間に夜になってしまった。

ふぅっとため息をついた。
来客にみっともない疲れた顔をしているんじゃないかと手で顔を覆った。
皆が帰った後で良かった。

そう言えば、カインも先ほど走り回っていたが、
まだ忙しくしているんだろうか?

落ち着いたら、執務室にも顔を出してくれるだろう。
それまで少しだけ休憩をしていようかなと思った。

疲れた目を休めるために、目を瞑った。
すると、あっという間に眠気が襲ってきた。

ああ、でもこんな所で眠ってしまうわけにはいかない……と
無駄な抵抗をしながら、疲れに身を任せていた。

今日は多くの国の人と会えた。
どこも私たちが旅の間に巡ったことのある国だ。
人々との再会を私は懐かしく思った。

先ほど、そんな旅の最後のカインの言葉が頭をよぎった。
長い旅を終えて、ムーンブルクに帰って来た時に言ってくれた言葉だ。

ずっと前から私の事が好きだったんだと言ってくれた言葉。

あの頃は、私だけが彼を想っていて、
そして一国の王子であるカインには勿論告げることも許されない
秘めるべき思いだと思っていた。

だから、この言葉を貰ったときにはまるで世界が変わったような気さえした。

嬉しくて懐かしい思い出だ。

でも、本当なのかな?
カインとは勿論仲間として頼りにして、親しくしてもいたが、
昔からって?それはいつの事?
親しいとは言え、やはり以前は距離も少しあったような気がするし。

そんな事を思い出しているうちに、
いよいよ眠気に抗えず、私は深い眠りについてしまったようだ。



+++



うとうととしながら、自分が揺れていると気付いた。
まるで波にでも揺られているような気がする。

「…………。」

気がする、ではない。
本当に揺れている。

せっかくの復興途上のムーンブルクに、まさか地震なんて!?

そう思って、あわてて起き上がった。

やはり、確かに揺れている。
揺れているのだが……

「…………?」

周りを見回した。

私がいたのはムーンブルクの執務室のはずだ。

それなのに、今私は粗末な寝台の上にいた。
まさか寝ている間に、何者かにどこかに連れ去られたのか!?と一瞬ドキッとしたが、
周りがはっきりと判別できるようになると違う意味で驚いた。

連れ去られた訳ではない。
揺れているのは、ここが船の中だからだ。

私は何故こんな船にいるのだ?

ごくりと緊張しながら、船室を出て甲板へ上がった。
そこは、目が覚めるような青空と大海原が広がっていた。

呆然としていると、頭上から良く知った声が届いた。

「おお、マリア。
 なんだお前、しばらく部屋で休むんじゃなかったのか?」

「え?
 ああ…大丈夫よ……。」

その声の聞こえる方を見上げて、呆けながら返事をした。

「ア、アレン……よね?」

見張り台にいるのはアレンだ。
私の問いかけは荒波にかき消されて聞こえなかったようだ。

そうだ、ローレシアの王になってるはずのアレンだ。
多忙を極めるはずの彼が、
こんな所で大海原の見張をしている暇なんてあるはずない、のだが?

「お前も、休める時は休んでろよ。
 まだしばらくかかるらしいし。」

アレンがそう言うとまた船が大きく揺れた。

「うわっ。
 さっきから揺れすぎだろう!
 どうなってんだよ!」

アレンが船の揺れに文句を言っている。
すると今度はまた見知った声が聞こえてきた。

「兄ちゃん、しょうがないぜ。
 テパって街に行くまでの海路は入り組んでんだ。
 心配すんな。安全第一で船は進んでるぜ。」

「なら、良いけど。
 気をつけてくれよな。
 マリア、船揺れるから気をつけろよ。転ぶなよ。」

「え、ええ……。」

さっきから自分は、どうも間抜けな返事しか出来ていない。
舵を取っているのは、航海士のミゲルだ。

旅の間、ずっと船の舵を取ってくれていたあのミゲルだ。

旅を終えて以後、ほとんど会うことはなくなっているのに。
私はアレンとともにテパに向かっているというのだ。

何しに?

テパへは、旅をしていたときに、
聖なる織り機と雨露の糸を持って織り師を訪ねて行った事はあったが、
今頃あそこに何か用事があっただろうか?

考え事をしていると、
船がまた大きく揺れた。

「きゃっ。」

「おいっ、マリア!」

ぼうっとしていたせいで、縁につかまる事も出来ず、
思わずよろめいてしまった。

だが、その場に躓くことなく、誰かが私を支えてくれた。

「マリア、大丈夫?」

「え、ええ。」

転ばないように私の肩を支えてくれたのは
カインだった。

「ありがとう、カイン。」

そう言って笑って彼の方を向いてお礼を言うと、
何故かカインはパッと手を離した。

「カイン?」

そして何故か反対を向いてしまった。
なんだか、そっけない様子だ。
どうしたんだろうか?

「よう、カイン。
 余裕かまして人を助けてる場合じゃないぜ。
 お前の方が気をつけないと、さっきみたいにまた転ぶぜ〜。」

「うう、アレン。もう忘れてよ〜。
 さっきは油断してたの〜。」

アレンがカインをからかって笑っている。
なんだか、懐かしい、昔のようにじゃれあってる子どもっぽい2人だ。

「なぁ、飯は?そろそろ俺腹へった〜。」

「うん。ご飯できたよ。
 それで呼びに来たんだ。」

「やったーー!!」

アレンが両手をあげて喜んでいる。
こんな様子も懐かしい。

「テパってまだ遠いんだって?」

「なんか、結局船では着けなくて、
 近くまで行ったら、途中からは陸路で行くことになりそうだね。」

「マジか〜。まぁ、しょうがないな。
 地図を見ても入り組んでるもんな。」

「陸路でも無事たどり着けるかちょっと怪しいよね。」

「なんか岩山とか多いもんな」

2人がテパへの行き方を相談している。
まるで初めてテパに行くかのように。

テパへは回り道にはなるが、陸路で歩けばちゃんと辿りつけるのに。
そんなこと、彼らも当然知っているだろうに。
でも、何も演技をしているようには見えない。

このメンツで嘘をついたり、演技をする意味もない。

だとしたら、これは『現実』なのではないか?

なんだかよく分からないけど、
私達は今テパへ向かっている。
これが現実なのだ。

「マリア、どうしたんだ?」

そう言ったアレンは腰に武器を携えている。
カインもだ。
そうだ、良く考えたら分かるだろう。

服装も旅人の服だし、旅をしていた当時の格好だ。
アレンもカインも、少し見た目が違う。
若い17歳の頃のあの姿だ。

勿論自分も。

それに気付いて、私はポッと顔が赤くなった。

そうだ。
あの頃のアレンで、……あの頃のカインだ。

まだ少し幼さがのこる少年の姿だ。
背だって今の姿より背が低いだろうか。
でも旅をしているだけあって、日には焼けていて精悍な感じもする。
そっけない風に見えたのはあの時のカインだからだ。

「マリア?」

が、あんまり私がじろじろと姿を見ているので怪訝に思ったのだろう。
カインは不思議そうにしている。でも近づくでもなく。
そうだ、こんな感じの距離感だった。

「なんだよ、俺たち変なもんでも付いてるか?」

「あ、ううん。何でもないわ。
 テパまでもう少しね。頑張りましょう。」

「おお。」

思わず、無理やりごまかしてしまった。
テパまで……そうか、旅が出来るのか。

あの頃みたいに。
ムーンブルクの女王としてではなく、私もただの魔法使いの一人として。





+++


「わりいな、この辺が限界みてえだ。
 これ以上は船で行けねえ。」

「ああ、歩いていくぜ。
 随分無理して船走らせてくれてありがとうなミゲル。」

徐々に細くなる海路だったが、船でギリギリまで進む事ができた。
まだテパの村は目視できないが、ここより先はさすがに船では進めない。

「まぁ、地図だとそれほど遠くはなさそうだ。
 カイン、マリア行くぜ。」

「うん。」
「ええ。」

私は久々の旅路に緊張しつつ、装備を確認して頷いた。
こんな舗装もされていない山道を歩くのは久々だ。

いかづちの杖もこんなに重たかっただろうかと少し不安になった。

「マリア、どうかした?」

「ああ、うん。なんでもないわ。大丈夫よ。」

旅に不安そうな私に気付いたのかカインが声を掛けてくれた。

「なら良いけれど。何かあったら僕らに言ってね。」

「ええ、ありがとう。」

私が礼を言うと、カインは頭を振って
アレンとなにやら話し出した。
道出の段取りを確認しあっているようだ。

そのカインの後姿を見ながら、
私は今ようやくあの頃のカインの事が分かった気がした。

今まで、旅の間カインはずっとアレンと一番長く向き合ってたように思っていた。
私の事も支えてくれるが、それは『仲間』としてだと。

彼は優しいから『仲間の私』を支えてくれるんだと思っていた。
だから少しだけ、今のカインと比べたら距離があるなって思っていたけど……

「マリア。」

船から下りるときも、また声を掛けてくれる。

こちらを心配そうに見ているその距離。

「大丈夫よ、さぁ行きましょう。」

私もそれ以上彼に近づくことはない。
自分で下りられると言うと、やはり、カインは手は出さない。
それでも心配そうに陸へ下りるまで見守ってくれている。

そう、これが私達の距離感だった。

必要以上には、近づくことは無い。

無事に下りられたのを確認してから、そしたらアレンの方を向くのだ。


+++



ぽつぽつと降り始めた雨は次第に強くなってきた。

城や町の道のように舗装されているわけもなく、
それどころか道らしき道すらなく、
むき出しの岩肌を無理やり避け、ぬるぬる滑る草むらをようよう抜ける。

そろそろ空が暗くなってきた。
アレンとカインは先ほどから地図を何度も覗き込んで、道順を確認している。
テパは間もなくのはずだ。

もう少しだから迂回して進もうと私は提案した。

「はぁはぁ……。」

だが、久々の旅路に体が悲鳴を上げてしまったのか、
雨で水を吸った服や靴が重くて仕方が無い。
次第に、自分の荒い息ばかりが耳につくようになってきた。

ただでさえ鋭敏とは言えなかった動きが、さらに鈍くなる。

「パペットマンと首狩族だ!」

アレンの張り詰めた声が聞こえてきた。
ぬかるんだ道を、私達はただ歩いていれば良い訳ではない。
当然、魔物たちも出てくる。

私はいかづちの杖を構えて、ラリホーを唱えようとした。
だが、魔法は発動される事はなかった。

空振りのいかづちの杖を手にして、
私は自分に一瞬何が起きたのか分からなかった。

そんな間に、パペットマンは眼前に迫ってきていた。

ハッとダメージを覚悟したが、
その前にカインが立ちはだかった。

「ベギラ…………・、いや……・ギラ!」

得意のベギラマではなく小さなギラを唱えた。
大きなダメージにはならないが、相手を怯ませた。

「マリア、それを貸して。」

「え……?」

カインは私のいかづちの杖をパッと手に取ると使って、再度追撃をした。
続いてアレンの一撃で魔物の群れは全滅した。

落ち着けば分かる。
私は魔法力を全て使い果たしていたのだ。
こうなると私は本当に役に立たない。

やはりアレンとカインは頼りになる。
2人がいれば何とかなるのだ。
今も、あっという間の出来事だった。

カインが、その場にぺたりと座り込んだ私の手を取った。
そして、額にも手を当てて心配そうにいった。

「熱があるよ、マリア。」

「げ、大丈夫かよ。マリア……。」

熱?
そう言えば、確かテパに行く手前で私は熱に倒れた事があった。

そしてカインが……。

「僕が背負っていくよ。」

そう言って、颯爽と私を背負ってくれるのだ。

魔法力が尽きて役に立たなくなった私を
一言も責めることなく、
まったく嫌な顔もせず、私を助けてくれた。

「…………・。」

背負われたおかげで、カインが近い。
遠いと感じていたカインとの距離が、今はとても近い。

夢の割に妙に鮮明にカインの体温まで感じられる。

ん、夢?
そうか、これは夢か。
懐かしい、昔の旅のことを夢に見ているのだ。

何故かすぐにそう感じられた。

でも確かにこうだったなと思い出した。

2人と旅をするのは楽しかったけど、
やっぱり少し大変だったな……とも思った。
こんな緊張感でずっと戦っていたのか。

最後まで戦い続けられたのは、
体力のない私をフォローしてくれていた仲間達のおかげだろう。

このときだけじゃない。
遡ればいつだってそうだった。
海に投げ出された時だって、塔から落ちそうになった時だって
カインは身を呈して助けてくれた。

そもそもずっとサマルトリアのお城の中で
穏やかに過ごしていたはずだったのに、
危険を顧みずに、皆の反対を押してまで旅に出たのは
それを命じられた訳ではなかったという。
ロトの使命に突き動かされた訳でもない。

私を助けるためだけだったと聞く。

カインは自分で、結ばれる事はないと思っていたんだと言っていた。
それでも良いのだと、それでもずっとずっと出来る限り私の事を近くにいてくれた。

少しまだ距離は遠かったけど、
いざとなったら、必要となったら、いつも近くまで来て助けてくれていた。

ぬかるんだ道をふらつく事もなく、
しっかりした足取りで歩いているカイン。

そっと、私はその背中にもたれ掛かった。



それから……


どれくらい経っただろうか?

いい加減テパに着いたころだろうか。
それとも夢はとっくに覚めて、
冷えきった暗い執務室にいるのだろうか?

ゆっくりと目を開けると・・・。

そこはまだカインの背中だった。

あれ?
まだ夢の続きが見られるのか……。

そっか。

とすると、この後はテパに行くのだ。
そこで何があるかも私は覚えている。

太陽の月、太陽の日に、
テパで、私達3人は誕生日を迎えたのだ。
あの時は、非現実的な冒険の日々に私はすっかりそれを失念してしまっていた。

今度こそは、忘れず私も皆のお祝いをしたい。

「誕生日楽しみね。
 皆でお祝いしましょうね。」

カインの背中に向かって私がそう言うと、カインは一瞬止まって
不思議そうに聞き返した。

「誕生日?」

「そう。アレンはきっといっぱい沢山食べるわ。
 料理を沢山用意しないと。」

「アレンに?」

カインはきょとんとした様子だ。
あれ、カインも明日誕生日だって忘れてるのかな?と最初思った。

止まっていたカインは物を言わずに再び歩き出した。
その背中でゆられていると、徐々に意識もはっきり覚醒してきた。

この場所は 薄暗いが、
夕暮れのテパへのぬかるんだ道中ではない。
雨だって降ってない。

それどころかここは室内だ。
ここはムーンブルク城内の底冷えのする廊下だった。

違う、やっぱりあれは夢だったんだ!

カインは何も言わない。
今のは、私の寝ぼけた寝言か何かだと思っただろうか?

それにしても恥ずかしすぎる。
「マリアってば寝ぼけてるんだ」と笑うか、もういっそ忘れてほしいと思った。

私は恥ずかしさに顔を真っ赤にさせていたが、
カインは特に何も言わず、気にした様子もなく、そのまま寝室へと向かった。

「よいしょっと、ただいま。
 マリア、今日も一日お疲れ様でした。」

そう言って扉を開けて、部屋の中へと入った。

結局、私は不自然な無言のままで部屋に戻ってきた。

「あ、ありがとう……。」

背から下ろしてもらって、振り返ったカインの顔を見上げた。
灯りが暗くてはっきりと見えないが、
私はやっぱりあの時と違うと思った。

穏やかな笑顔には、あの頃の面影はあるものの、
もうあの少年のような幼さはない。
声だってあんなに高くない。

あの頃同じくらいだった目線は、
今は見上げないと顔が見られなかった。
背もやっぱりカインはこんなに伸びてたんだ。
改めて比べるとよく分かった。

それにじ〜っと顔を見ていても、
目を逸らしもしない。

「マリア、夢見てたんだ?
 誕生日の夢を見ていたの?」

「え、ええ……そうみたい……。
 ごめんなさい、おかしな事を言って。
 あれはもう忘れて頂戴。」

「どうして?良いじゃない、アレンも一緒だと楽しいよね。
 またいつかみたいに誕生日は盛大に祝おうか。」

カインはニコニコと愉快そうに笑っている。

「そ、そうね。」

ぼーっとして、思わず空返事をしてしまった。

「どうしたの?顔が真っ赤だけど。
 執務室寒くて風邪引いちゃってない?」

そう言ってカインは私と額をくっつけた。
寝ぼけたことを言ってたのが、恥ずかしかったのもあるが……。

「熱は、ないかな?」

安心したように言うカインとの距離は近い。

「良かった、気をつけなきゃね〜。」

部屋の奥まで私の手を引いて、
寝台に座った私の隣にカインが座った。

私はそっと、その手に触れた。
あの頃は、こんな風には、とても手を取れなかったなあと思い出した。

私はどうやら落ち着きを取り戻したようだ。

「カイン。」

「何?」

「あなた、かっこ良くなったわね。」

「え……!?」

突然の言葉にカインは驚いていた。

「何を言ってるの、マリア。」

「ふふ、背だってこんなに伸びてたのね。
 昔は同じくらいだったのに、今は見上げないとあなたの顔が見られない。」

「そう、……だっけ?」

ちょっと前の事のはずなのに。

「どうしたの?マリア。
 何か夢を見ていたんでしょう?僕にも何の夢を見ていたのか教えてよ。」

「ええ、懐かしい夢よ。」

「懐かしい夢?」

縮まった距離は感じつつも、もっと知りたかった。
もっと近くに感じたかった。

懐かしい日々に思いを馳せながら……

「今夜はゆっくり昔の話をしましょう?
 私、あなたの事がもっともっと知りたいの。」





- 終 -


2017/02/23

▲


【後書き】
久しぶりのカイマリ小説です。
今更何を書いてるんだ間満載ですが〜。ほんのりあったかい感じで。




「マリア、お茶でもどう?」

「え。えっと……そうね、ありがとう。頂くわ。」

慌しそうにしているマリアに、カインはお茶を差し出した。
いよいよ結婚式を明日に控え、マリアはその準備に余念が無い。

余念がなさ過ぎて、休息を取る時間すらもないので、
カインはあえてゆっくりした時間を取ってもらおうとお茶菓子を持ってきたのだ。

ほんのり香るお茶の香りが疲れた体に染み渡る。

「いよいよ、明日だねえ。」

「そうね。なんだか……。」

「なんだか?」

「なんだか、落ち着かないわ。」

せっかくの日の前日だというのに、
マリアは少し表情が晴れない。

「せっかくの晴れの日なのに。緊張している?」

「緊張……。そうかもしれないわ。
 明日は沢山の人が来てくれるはずだもの。
 粗相のないようにしっかりしなければ。」

事前に旅の間にお世話になった各国の面々に招待状を送ったのだ。
明日のムーンブルクでの結婚式には各国から来賓が訪れるであろう。

「もう一度流れを確認しておきましょう!」

せっかく落ち着こうとお茶を持ってきたのに、
マリアは明日の事が気になってしょうがないらしい。

「うん。」

カインはそこに逆らわず一緒に式辞の再確認をした。
何度目かのそれが落ち着く頃には、お茶もすっかりぬくるなっている。

「あ、そうそう。忘れてたけど、
 これ明日出す予定のクッキー。試食してみない?」

「え、あ…ありがとう。」

「紅茶も入れなおすね。」

カインは旅の間にすっかり料理全般が得意になったようで、
折に触れてそれを振舞ってくれる。

明日の料理には一部カインの作った料理が出される予定だ。
きっとアレンあたりは大喜びをするであろう。

マリアはそう思うと、ふと懐かしい仲間の顔を思い浮かべた。

「ふふ。アレンきっと喜ぶわね。」

「アレン?ああ、懐かしいね。
 明日はアレンにも会えるんだ。」

2人にとって、とても大事で大好きな仲間アレン。
旅の間、3人はいつも一緒だった。
3人いたから強くなれたし、帰ってこられた。
あの日々があったから今があるのであるのだ。

1日も無駄な日なんて言うのはなく、
今思い返すと、全ての思い出が宝物のように愛おしい。

そんな懐かしい日々に思いを馳せた。

「楽しかったね。アレンは本当に強かったし。」

「そうね。あなたはアレンが大好きだものね。」

思いがけないマリアの言葉に一瞬カインの顔が真顔になった。

「すき!?あ、いや……。
 ア、アレンはすごく頼りになって、強くって……」

「知ってるわよ。」

「そ、そうだよね。あはは。」

何か一瞬後ろめたいような気持ちになりかけて、
いやいやそう言う事じゃないと、改めて頷いた。

「そうだよ。好きなんだ。
 アレンはかっこ良くて僕らのリーダーだったもの。」

「ええ。」

マリアは落ち着いた様子で頷き同意した。

ふと、カインは思った。
マリア自身も認めている強くて頼りになるアレンを、
そう、自分ではなく、アレンの方を好きになることはなかったのだろうか?

今はローレシアの王になり伴侶も子供もいるアレンではあるが、
もし環境が違えば、もし歯車が一つでも狂えば、そんな未来はありえたのだろうか?

そんな疑問がふと飛び出した。

「マリアは、アレンと一緒になりたいとは思ったことないの?」

カインのその唐突な質問にマリアは目を丸くして、
そしてふふっと笑みを零した。

「おかしな事を聞くのね?」

「う、いや、気になって……。」

「そうね……。」

カインは言うに事欠いて、自分は馬鹿なことを聞いていると思った。
何も結婚式前日に聞くようなことじゃないだろうと思った。

マリアの返答が怖かった。

「ないわよ。」

「な…い……?」

すっきりした表情でマリアは答えた。
そのあっけらかんとした様子にカインの方が拍子抜けした。

「なんだか納得いかないような表情ね。
 あなたの言う事も分かるわ。私も一緒にいたんだもの。
 アレンは本当に頼りになるし、一緒にいれば…」

「いれば?」

「自分を導いてくれる。そんな人ね。」

「…………。」

素晴らしい事じゃないか。
カインは思わずマリアの答えに言葉を返せなかった。
そんな様子にマリアはくすくすと笑った。

「なあに?
 もしかして”私とアレンが付き合っていたら?”なんて考えているの?」

「だって、アレンを頼りに思っていたんでしょう?」

「そりゃあ旅の仲間としてね。
 さっきも言ったけれど、そんな風に考えたことはないわ。」

まだカインがどうして?と言う顔をしているので、
マリアはさらに続けた。

「私アレンといると普段より強くなれる気がするわ。
 まるで彼に引っ張られるように。」

「あ。そ、そうだね!僕もそう思う!」

アレンを褒めるとカインが同意見だと興奮気味にうんうんと頷いた。
そんな様子に苦笑する。

「戦いの間にはきっとそれは良い事よね。
 でもね、いつもそうだと疲れちゃわない?」

「……」

「そうね、それが違う所ね。
 あなたといれば私はありのままの姿でいられる。
 今はそれがとても嬉しいの。」

マリアの言う嬉しいという言葉の意味を考える。
一国の王女として、はたまた世界を救う勇者として、
精一杯の背伸びを余儀なくされていたマリア。

決して嫌だとか辛いとか言う事はなかったが、
それは等身大のマリアの姿ではなかったのだろう。

本来のマリアは華奢な一人の少女なのだ。
弱いところもあるし、くじけるところもある。
自分はそんな人間なのだ。

カインといれば、いつも等身大な自分でいられる。

「それより。ねえ、カイン。
 違う話をしてみましょう。
 環境が違えば……もし違う立場に生まれていたら、
 私たちどうなっていたと思う?」

「え?サマルトリアの王子じゃなかったらって言う事?」

「そう。」

カインはうーんと考えてみた。
生まれたときから王子だったから、それ以外と言われても。

「あんまり考えた事がないんだよね。」

自分は生まれたときから王族だったし、それが普通だった。
そうじゃなかったとして、何がしたかったか?と言われても、
あんまり想像もしたことがない。

「ないの?
 料理が上手だから、そうね、例えばレストランをやっていたりして?」

「はぁ〜なるほど…。毎日パンとかこねてるかもね。」

言われて初めて、そんな自分を想像してみる。
ふむふむ、あり得そうだ。

「パン屋さん!おいしそう。
 きっとアレンがどこからか聞きつけてお忍びでやってくるのよ。」

「え?あはは。
 知る人ぞ知るローレシアの王子様お忍びのパン屋さん?面白いね!
 ムーンブルクのマリアの耳にも入るくらいのパン作らなきゃ。」

「良いわね。私もこっそり買いに行きたいわ」

ありもしない想像話を楽しそうに語る二人。
カインはマリアにも同じ質問をした。

「マリアは?
 マリアはもし王女じゃなかったら、どんな事をしたかった?」

何気ない他愛もない質問。
今までしていた話のただの延長線上だ。

だから深い意味があった訳ではないのだが、マリアの表情が強張った。

「マリア……?」

なにか悪いことを聞いたかなと思った。
そしたら、マリアの方から首を振った。

「ごめんなさい。
 私が言っておいた事なんだけど、あんまり考えない方が良いわね。そんな事。」

「え?」

「私がもし、ただの村娘だったならば、
 明日が結婚式なら、きっとお父様、お母様にご挨拶がきっと出来るわ。
 そして明日の結婚式ではお父様、お母様から祝福をしてもらえる。
 はずだった。」

遠くを見るように、マリアはそう呟いた。

両親を失ったのは自分がムーンブルクの王族だったからだ。
そうでないなら、両親は殺されなかっただろう。
健在であっただろうし、そしたらどれだけ素晴らしいだろうと、
眩しく思い、・・・寂しくなった。

やめよう、こんなのただの現実逃避。

実際は、自分にはただの一人の家族もいない。
普通であれば、あるはずの祝福が、ない。

カインもマリアの思いを理解して、
一瞬かける言葉を考えてしまった。

今までどれだけ寂しい思いをしてきただろう。

「ごめんね、カイン。冗談よ。
 私、寂しくなんてないの。」 

その言葉は強がりとしか思えなかったが、
マリアはカインの目を見てもう一度言った。

「だって家族ならあなたがいる。
 それに、明日は世界中の人がムーンブルクへやってくる。
 世界中が私たちを祝福してくれる。世界中よ?
 こんな素晴らしい事はないわよね。
 ただの村娘では出来ない事よ。」

「マリア…。」

「そう、あなたといると私はありのままの私でいられる。
 背伸びする必要はない。村娘になる必要もない。
 ただの一人のマリアとしていられる。
 そうして、世界中の人に見守られて私はあなたと家族になるの。
 寂しい訳が無いわ。」

笑顔でそう言うマリアは、涙を一滴零した。
振り絞るように寂しく無いと言うマリアの言葉にカインは応えたかった。

「寂しい思いはさせないよ。絶対。
 ずっとずっと命ある限り、ううん、永遠に、僕はマリアのそばにいるよ。
 だから一緒に、喜びも悲しみも全部一緒に分かち合って、
 そして、幸せになろうね。」

マリアの健気な言葉を聞いて、
彼女に誰よりも幸せになって欲しいと強く願った。

「カイン……」

「何かやりたい事があったら言ってね。
 そうだね、ハネムーンは世界中を回ってみたいとか!」

「ふふっ。」

マリアは可笑しそうに笑った。
何か見当違いな事を言ってしまったかと、戸惑ったが、
マリアはなおも笑い続けた。

「お、おかしい?僕変な事言った?」

さすがに不安になってカインは尋ねた。

「大丈夫よ。この間から招待状を配るのでもう一緒に世界中を回ったしね。
 しばらくは私ムーンブルクで十分よ。
 それよりカイン。さっきのはまるでそれは"誓いの言葉"のよう。
 結婚式は明日なのに。」

「え、あ……そうかな。でも本当のことだもの。
 何度だって誓うよ。」

零れる涙は尚も止まらない。

「ああー、私って駄目ね。」

急にマリアは顔を覆ってそんなことを言った。

「駄目って何が?」

「私、明日は世界中の人の前でムーンブルクの新たな出発を見守っていただくのよ。
 こんな風に皆の前でみっともなく泣いたりしたら恥ずかしいわ。
 しっかりしなきゃ。」

「泣くのは恥ずかしい事だとは思わないけど・・・。」

きっとマリアは毅然と皆の前での挨拶をしたいのであろう。
マリアの願いにカインも寄り添いたい。
だけど、あまり気を張っては当日疲れてしまう。

「大丈夫だよ。落ち着いて。」

カインはもう一度紅茶をそそいだ。

「マリア、紅茶ぬるくなったでしょう?
 お菓子もまだ余ってるしどう?」

「あなたはさっきから紅茶とお菓子で私を太らせようとしてない?」

そう言われて、カインは慌てて首を振った。
落ち着いてもらいたかっただけで、
お茶を飲ませて、ぷくぷく水太りさせようなどとは露とも思っていない。

「ち、違うよ! じゃあ……」

カインは少し考えた。

明日は大事な結婚式。
来賓の方々にも皆に喜んでもらえ、
そして晴れの日の門出の祝福してもらえたらこれ以上の事はない。

全てがうまくいきますように、心が落ち着けるように……。

「きっと大丈夫。」

そっとマリアに口付けをした。
突然のことにマリアは少し驚いた表情だ。

「!」

「びっくりしてる場合じゃないよ。
 これも、明日の予行練習。」

結婚式の”誓いのキス”の予行練習だといたずらっぽくカインが笑うと、
マリアは少々顔を赤らめて頷いた。

「落ち着いた?」

「落ち着くって言うか・・・。
 ええ。あの、さっきから浮き足立ってごめんなさい。
 やっぱり緊張してるみたい。明日は、えっと……」

「うん?」

「よろしくね。」

「こちらこそ。」

カインの穏やかなその表情にマリアはふっと肩の力が抜けるのを感じた。

そう、落ち着こう。
きっと、大丈夫。

ただ、ありのままの自分でいられれば、きっと大丈夫。




- 終 -


2019/06/14

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【後書き】

少々手直しして消したり追加したりして、結果だらだら長くなりました。
普通が一番な2人でした。
結婚前夜に?普通が一番?なんだその結論(笑)

※日記から転載した某企画の没小説です




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