SS集2

※注意※
こちらのページにあるのは、突発に思いついて書いた小説未満短めSS(のつもり)です。


◇3人ギャグ  冒険中 15/10/12
  『アヒル』

◇カイマリ  クリア後 15/07/12
  『欲』

◇カイマリ前提カインとマイ  クリア後 15/06/19
  『声』





「雨が降って来た〜!
 マリア窓を閉めよう。」

「ええ。
 って?カイン、部屋の中にアヒルが混じってるわよ!?」

「窓から入ってきたのかな?
 きみは外だよ〜。」

カインが小屋の中に入り込んできたアヒルを窓から外に出そうと
抱き上げようとするとアヒルは怒ったようにくちばしで攻撃してきた。

「あいたたた!」

足元に激しくつつきまくるアヒルは
マリアが外に追い出そうとしても嫌がって走って逃げ回った。

「やだ、この子凶暴なアヒルなのね。
 困ったわね……。」

「あ、マリアちょっと待って。」

少しアヒルから距離を置いたマリアは
カインがアヒルと睨めっこしながら、とんでもない事を言うのを聞いた。

「きみは……もしかしてアレンなの?」




+++

話は少し遡る。
森深く迷い込んだ3人は、一軒の古小屋を偶然見つけた。

「こんな所に小屋があるなんて。」

「ラッキーだな。
 休ませてもらおうぜ。」

「誰か人がいるのかな?」

ちょうどそろそろ野宿先を探そうとしていた矢先だったので、
砂漠にオアシスを見つけたような気持ちになった。

「失礼します〜。」

森の中の小屋であることから、
恐らく小屋の持ち主はきこりか、狩人のものかと思ったが、
中は誰もいなかった。

「誰もいねえなあ。」

「中は結構古びてるね。ほこりっぽい。
 あ、でも見て、机もあるし、
 調理台もあるねえ。
 ちょっと掃除したら料理が作れそうだね。」

「お、飯が食えるか!やったー。」

アレンは無邪気に喜んだ。

「勝手に入ったりして良いのかしら?」

マリアは入り口で躊躇しているようだった。

「廃屋だろう?人の気配はないぜ。
 雨宿りさせてもらうだから許してくれるだろ。」

「そ、そうね……。」

一歩中に足を踏み入れると、
マリアはふいに窓から見えた光景に驚いた。

「わ、見て2人とも。」

「ん?」

「なんだ。」

マリアに続いて窓を覗き込んだアレンとカインも驚いた。
窓の外には沢山のアヒルがいた。

「わ、ここアヒルの飼育小屋だったんか!?」

小屋を出て裏に回ってみると、
沢山のアヒルがいた。
逃げないように柵があるからやはり飼育されているんだろうか。

「すごいね。いっぱい。可愛いー。」

「本当ね、愛らしいわ。」

お尻をふりふりしながら歩くアヒルたちは
3人とも実は見るのが初めてで、とても可愛く思えた。

自由に歩き回ってるアヒルはアレンたちを意にも介さず
歩き続けている。
足元に座り込んだ一羽に触れてみた。

「羽はふんわりしてるんだね。」

「え、どんな風に?触ってみたい。」

「触れるよ。暴れないから大丈夫じゃない?」

すっかりアヒルと戯れてるカインとマリアをよそに、
アレンは一羽のアヒルを抱き上げてじゅるりと言った。

「なあ、アヒルの肉ってうまいんだっけ?」

「…………。」

ぐうとお腹を鳴らすアレンをびっくりした顔で見た。

「嫌よアレン、この子達食べようって言うの?」

「だ、駄目だよアレン。勝手に食べちゃ。
 きっとここで飼育されてるんだし。」

「ちぇ……。つまんねえ〜。」

アヒルを下ろすとアレンはカインの背を押した。

「な、飯めし。アヒルは諦めたけど、
 飯は諦めねえぞ。」

「うん、そうだね、お腹すいたねえ。
 じゃあちょっとご飯の用意に戻ってるね。」

「カイン、私も行くわ。」

そう言って、カインとマリアはアレンを残して
小屋に戻ったのであった。

食事の支度が間もなく出来上がるという頃
雨が本降りになってきたので、
アレンに声をかけようとしたのだが、
窓からはアレンの姿は見えなくなっていた。


+++

「カイン、ど、どうしたの?
 混乱してるの?何を言っているの?」

アヒルの目を見つめつつ、
カインはアヒルがアレンだと言う。
軽く眩暈がするが、どうやら夢などではなく現実のようだ。

「いや、何となく動きとかがそうかなあって。
 ねえ、アヒルのアレンさん、お腹空いたの?」

「があ!」

「アレン、ご飯にする?
 野菜煮だけど、食べれるかな?」

「があがあ!」

会話をしている……。
信じられないが、本当にこのアヒルはアレンらしい。
食欲意地がはっているあたりが彼らしい。

「ね、ねえ……カイン。
 そうするともしかしてあのアヒルも本当は人間だったとか?」

カインもハッとしたような表情だ。

何かの呪いで人にならざる姿に変化してしまったのだろうか?
そうして、アレンがこうなってしまったように、
間もなく自分達は全員アヒルの姿になってしまうのであろうか?

そうなると最早本懐は遂げられない。これまでだ。

「そうなの……かもね。
 この小屋もヒト気がない割に、妙に準備が良い。」

カインもそう頷いた時、アヒルのアレンが床に落ちている
あるものに気付いた。

「があ!があがあ!」

なにやらそのものをアレンがガツガツと突いている。
最初、餌でも見つけたのかと思ったが、
それは不気味な目玉だった。

「わ、アレン、何やってるの!?
 何それ!」

「カイン気をつけて!魔物よ!
 悪魔の目玉だわ!」

マリアはすかさず杖を取り出して、
バギを仕掛けた。
悪魔の目玉は風に吹き飛ばされ、後方に転がっていった。

「ンガアア!!ガ!ガア!」

続いてアレンが凄い勢いでくちばし攻撃をしている。
その様子を見て、マリアは何だか吹き出しそうになりつつ、
なるほど、あのアヒルは確かにアレンなのだと悟った。

「アレン、アレンってば。
 気持ちは分かるけど、ちょっと待って!」

猛攻撃を繰り広げているが、悪魔の目玉はコロコロと
転がっていくだけでじゃれあってるようにしか見えない。
その隙に武器を手にしたカインが
反対側に回り込んで目玉にとどめを刺した。

悪魔の目玉はしゅっと息絶えて灰になった。

「うーん、、やっぱりここは魔物の息が掛かってるんだね。
 不気味な場所だなあ。」

「早く出た方が良いんじゃないかしら。」

が、外は大雨だ。
ここにいればもう少しヒントも掴めるかもしれない。

「とりあえずご飯食べよう。
 油断はしないようにしないと……だけど。」

「があ〜ガ!」

アレンアヒルがその言葉に喜んで飛び上がった。
アヒルって空を飛べたんだったっけ?と思うほど高く飛び上がると
アレンはカインの頭に飛び乗った。

「ちょっと。アレン。重いんだけど。」

「があがあ!」

「があがあじゃなくて。」

【  挿絵を見る  】


アレンはその場所が気に入ったようで、カインの頭の上から動かない。
何だかんだと、2人は何やら不思議な会話をしている。
アヒルのアレンは食事が嬉しいのか、お尻を振り振りしている。

緊迫した状況なのに、どうにもその様子に力が抜けて仕方がない。
マリアは思わず笑ってしまった。


カインとマリアは、その夜話し合い、
結局その日はその小屋で一夜を空かすことにした。
明日になったら、近くの町に戻って情報収集をしようといっていたのだが……。

翌朝見た光景に、マリアは二の句が告げられなかった。

目を覚ますとアレンが早くも旅支度を整えていた。

「よう、マリア。おはよう。」

「お、おはよう。アレン元に戻ったのね。」

アレンはアヒルの姿から人間に戻っていた。
なのに、その足元にはアヒルが一羽。
代わりにいなくなった人間が一人。

「カ、カインは……?」

その言葉に眠っていたアヒルは、
ぴくっと体を起こして、返事をした。

せっかくアレンが人間に戻れたというのに、
今度はカインがアヒルになってしまった!

マリアは再びパニックになりそうだった。
だが、何故だかアレンは冷静だった。

「びびることはないぜ。
 俺、人間に戻る方法分かってるからな。」

「は!そうよね、アレン!
 アレンその方法って!?」

目の前のアレンが救世主に見えた。
そうだ、アレンはこの状況から人間に戻れたのだ。
特別に何か必要なアイテムなどがある訳ではないようだ。

「アヒルの姿に変わるときに、
 悪魔神官みたいな奴が、俺の頭に話しかけてきたんだ。
 ヒトである事を忘れた時に、完全に姿が変わるんだって。
 だから、俺人間らしく過ごしてたんだぜ。」

「なる……ほど……。」

人間らしく過ごす。ヒトの心を忘れない。
それが秘訣か。

だからアレンはアヒルとなってもいつものように
魔物と戦い、カインの料理を求めて、絡んでいっていたのだろう……か。

あの多くのアヒルたちは長くアヒルとして過ごしていている内に
人であったことも忘れてしまったのであろう。
悲しくも切ない話だ。

いずれにせよ恐ろしい魔術である。

「カインも大丈夫だろう。いつも通り過ごしてたら
 すぐに人に戻れるさ。」

「そ、そうね。」

アレンの言葉に少しマリアは安堵できた。

「ねえ、アレン。
 私達今日は町へ行って情報を集めてこようかと
 思ってたんだけど、どうかしら?」

「情報……そうだなあ。何かあるかな。」

怪しい小屋に閉じこもっているよりは
その方が良いだろうか。

アレンたちは一度小屋を出た。
見ると、アヒルの群れはマイペースに
今日と言う一日を過ごしているようだ。

「なあ、マリア。
 でもカインどうする?」

置いていこうか連れて行こうか?
置いていってる間に何かあっても嫌だ。
一人マリアを残してその間に何かあっても嫌だ。

「やっぱり連れて行くしかないよな。」

手ごろな袋にでも入れて連れて行こうと思った。
ちょうど丈夫そうな麻袋があったので、ここに入っててもらおうと
思ったのだが、入ってもらう本人がいない。

「あれ?カインどこ行った?」

「え、さっきまで足元にいたのに。あれ?」

見渡す限りアヒルだらけ。
この中の一体どこにカインがいるというのか……。

「おーい!カイン返事しろー!」

アレンが大声で呼びかけると、
意外と近くから返事がした。

「があー。」

その声にアレンとマリアが顔を見合わせて、駆け寄った。

アヒルのカインは、群れに混じって、
水溜りの上を気持ち良さそうに泳いでいた。
羽が少し濡れたのも心地よいらしくふわふわと泳いでいる。

「カイン、おいこらカイン。」

「がぁ。」

「があじゃねえよ。
 お前何アヒルの群れに普通に混じって泳いでんだよ。
 アヒルかお前は!!」

「があがあ!」

「そうだ、アヒルじゃねえだろ。お前は人間だ。
 人間らしくしてろ、ちゃんと。」

アヒルと真剣に会話しているアレンに
マリアは悪いと思いつつもまたも笑いそうになった。

「おい、マリア何笑ってんだー。」

一瞬視線をマリアに向けて、
また元に戻したアレンはまたも当惑した。

突然大勢のアヒルが足元まで右往左往してきて、
カインに紛れてしまった。どれが誰だかなどさっぱり分からない。

「こらーー!!カイン群れに混じるなー!
 自然に混じるなって言っただろう!お前!
 あいつ分かってんのか、事の次第を。」

「本当ね、こうなると見分けがつかないわ。
 目印がないと……。」

「目印?そうか!!」

アレンはおもむろに道具袋から筆を取り出した。
これで目印を書いてしまおうという作戦だ。

「よーし、カインもう一回返事しろ〜!」

アレンの呼びかけに今度は数羽のアヒルが返事をした。
と言うより、先ほどから群れがガアガアと騒がしくて
何がなにやらと言う状況だ。

「ええい、しゃらくせえ!
 カインだけこっちに来い〜!」

筆を手に、5歩ほど先に進んで着いてくるように指示すると
群れは餌かと思ってずらずらと着いてきた。

「なんだよ、なんでカインがいっぱいいるんだよ!
 お前ら全員カインかよ!」

半泣きになるアレンにマリアが冷静に助言した。

「アレン落ち着いて、そんな訳ないわ。
 アヒルたち、あなたが騒ぐから何事かと注目してるのよ。
 きっと、もっと高度な事を要求したらすぐに分かるわ。」

「もっと高度な事?」

アレンはうーんと一瞬考えて、再度叫んだ。

「よーし、お前らこの高度な動きを真似てみろ!
 真似できた奴がカインだ!」

「え……?ちょっとアレン?」

見るとアレンは両手や両足を高く上げたり、
その場で90度ずつジャンプして回転したり屈伸したり
奇妙な動きをしている。

アヒルたちは何事かと言う様子でアレンを見ていたが、
その中で一羽だけが懸命に羽を羽ばたかせ、短い足をバタバタさせて
珍妙な動きをしていた。

アレンは目ざとくその一羽を見つけると、がっしと抱きしめた。

「お前がカインなんだな?!」

「があがあ」

「よおおおおおし!もう離さないぞ!」

感動の再会シーンだ。
が、相変わらずアヒルとの会話は見ていると力が抜ける。

アレンは満足げに頷くと、
その白く輝く羽に筆で大きく『カイン』と名前を書いた。

「アレン……ちょっと、目印ってそれなの?」

「これでもう間違えねえだろ。」

アレンは満足げだ。
そして真剣にカインに語り始めた。

「いいか、カイン。
 このまやかしは人であることを忘れなければ解けるんだ。
 お前アヒルの群れに混じってる場合じゃねえぞ。
 お前は人間だ、良いな人間なんだ。」

「がー……。」

アヒルの方も真剣な様子でアレンを見つめている。
すると直後、ボンッと怪しい光に包まれて、
カインは元の姿に戻っていた。

「あ、戻った。」

「あ!え!?」

「きゃあ!」

人間に戻ったカインは、
当然のように素っ裸で、
人間に戻れた事よりも、そっちに大慌てだった。

「ア、アレン僕の服は!?」

「え?小屋の中にあるだろ。
 あ、なんだったらこの麻袋使うか?」

「え?あ、ありがとう?」

渡された麻袋をとりあえず下半身に巻きつけて
小屋に戻っていった。
背中にはアレンが落書きした『カイン』の文字がしっかり残っていた。

「あっはっは。いやー。落書き残ってるな。
 これで間違えようもないなあ。」

「アレンってばもう……。」

マリアはカインの無事に安堵したものの、分かっていた。
アレンとカインが魔術を受けたのだから、
多分次は自分……。

だが、この魔術はおそるるに足らない。
アレンが言ったように、
身と心の人間としての誇りを忘れなければ良いのだ。

「貴様ら……。」

ハッと振り返ると、
アヒルの群れの中に白い邪教徒の法衣を着た神官が立っていた。

「いとも簡単に我が秘術を破るとは。
 だが、次もそう上手くいくかな!?」

「へっ、お前が今回の黒幕か。
 悪いが、お前らの術なんて簡単に解けるんだよ!」

「人間ふぜいが、こしゃくなああ!!」

神官が手を高く掲げた。

「あ、てめえ!」

すぐ隣にいたマリアの背がぐぐっと小さくなり
体が変化していくのを感じる。

「うあああ、マリアーーー!!」

急いで衣服を着てきたのだろうカインが
大慌てで戻ってきたようだ。

「お前ちゃんと服着ろよ。慌てすぎだろ。」

マントも付けず、法衣も手に持ったままの
中途半端な格好で帰ってきた。
慌てすぎだろうと思ったら、マントを放り投げた。

「おい、何やってんだー?」

完全にテンパっているのかと思ったらそうではなかった。
アヒルの姿になったマリアの周りを包むように
マントが覆いかぶさった。

「だって突然人間に戻ったら
 裸なんだよ、裸!」

「ああ……そう言う事ね。」

いつまた真っ裸で人間に戻るか分からないから
防備壁を作ったらしい。吹けば飛ぶような壁だが。

「それより、カイン。
 黒幕があっちからお出ましになったぜ!
 好都合だ。やっちまおう!」

「え、ああ!うん!
 あ、でもちょっと待って。」

ズボンのベルトも締めてなかったらしいカインは
その場でガチャガチャと衣服を整えている。

ええい、黒幕との対戦だというのに、締まらないな!

「ふっ。
 お前達は義理と人情とやらに弱い。
 この元人間の動物達を前にして私を攻撃できるかな!?」

神官は姑息にもアヒルの群れを壁にしようとしているようだ。

「ええい、卑怯者!
 おい、アヒルたちは危ないから、ちょっとあっちへ行ってろよ!」

アレンはまずはアヒルをどかせようとしている。
その様子にカインが何かをひらめいた。

「あ、アレン。
 アヒルの餌が小屋にあったよ。
 餌を撒いたらそっちに集中するんじゃないかな?」

「おお、それだ!」

そんなこんなでアレンとカインの2人が
アヒル対策にバタバタしている内に、
背後から何故か激しい風が巻き上がった。

直後、神官は風を受けて吹っ飛ばされた。
その衝撃に神官は息絶えた。

「 「え……?」 」

思わず目が点になる2人であったが、
こんな風の魔法を使うのは一人しかいない。
一人しかいないが、今はその一人もいないはずなのだが・・・?

「今の……マ、マリア!?」

振り返ると、そこには、
いつものように髪を振り乱して魔法を唱えるマリアは……いなかったが、
カインのマントも、自身の羽をも、飛び散らかして魔法を唱えたのであろう
アヒルが一羽そこにいた。

「マリアすげえええーー!
 アヒルになっても、つえええええ!」

アレンは感嘆の声を漏らした。

マリアの遠距離攻撃なら、
手前のアヒルの群れも意にも介さず
魔物だけを狙って攻撃できるはずではあった。

アヒルになってもその正義感を忘れないマリアはさすがだし、
その魔法力もさすがであった。
今の状況に右往左往していたアレンたちは
改めてマリアのすごさを感じた。

が、そんな間もなく術者が倒れた今当然その呪いは解ける。

「あ…マリア……」

「わーーアレン、見ちゃ駄目だよ!」

裸になって現れるであろうマリアを思い、
また大慌てになる男2人だったが、
マリアはここでも冷静だった。

「だ、大丈夫よ……。」

こんな事もあろうかとカインのマントだけではなく、
自身の脱げてしまった服に包まれて
人間に戻ったおかげで、
大勢の前で真っ裸を披露とはならなかった。

「大丈夫だけど、ちょっとこっち見ないでね。
 それよりアヒルの群れの方は大丈夫かしら?」

「おお。そうだな!」

アヒルの群れも術者の死で人間に戻るとしたら
素っ裸だらけで阿鼻叫喚の図になるのでは?と思ったが、
待てど暮らせどアヒルはガアガアと餌を求めるばかり。

「あれ?」

3人が判然とせずに首をかしげていると、
飼育場に見知らぬ男が入ってきた。

「おんや?
 おぬしらは誰だ?」

「え。あ……あの僕達は昨日の雨で、
 雨宿りをさせてもらった旅のものなのですが、
 あの……スイマセンが、このアヒル達の飼育主さんですか?」

「ああ。旅人さんだったか。
 かまんよ。珍しいなあ。ゆっくりしけいげ。
 良かったら自慢のアヒル料理、食ってくか?」

温厚そうな飼育主は旅人を優しく迎え入れてくれたが、
さすがのアレンも今はとてもアヒル料理を食べる気にはならなかったという。







- 終 -

2015/10/12

▲


【後書き】
久しぶりにギャグ話。謎話。
3人でわいわいギャーギャーやってるの楽しかったです。
ギャグだとアレンが冴えますねえ(笑)








「きゃ、きゃあああ!!」

一番上の書棚に手を伸ばしたときに、
バランスを崩してしまった。
思わず、本棚にしがみ付こうとするが、
揺れる梯子はそのまま斜めに倒れてしまった。

「あ、危ない!!」

どこか違う所で本を見てたはずのカインが、
様子を察知して慌てて駆け寄ってきた。
落ちた私に向かって、
そのまま頭から飛び込んで手を伸ばした。

すれすれの所でカインは私を抱き上げたが、
とっさに飛び込んだので、
目測を誤ったのか、勢い余って隣の本棚にぶつかって
本がカインの上にバサバサと落ちてきた。

【  挿絵を見る  】


「あいたたた」

「きゃああ、やだ大丈夫!?カイン!!」

「いてて、平気平気。
 マリアこそ怪我は無い?」

降って来た本を一冊ずつどけながら、
カインは起き上がった。

そして、どうしてこうスマートに行かないんだろうと
ぶつぶつ言いつつ、その本を律儀に一冊ずつ拾い上げて、
棚に戻した。

「大丈夫だった?
 危ないよ〜。怪我したら、大変だよ。」

「ええ、ごめんなさい。
 あそこの一番上の棚の本が取りたかったんだけど。」

貴重な本があるのだが、
中々簡単には取れない。
指差した先をカインも見上げた。

「どれだろう?僕取ってくるよ。」

指差した先を見つつ、
倒れた梯子を元に戻して、足を掛けた。

「待って、良いのよ。危ないもの。」

「あぶ…って、別にそれくらい危なくないよ〜。
 待ってて、取ってくるから。」

「良いってば、カインも梯子から落ちちゃったら
 私助けられない。
 助けようとしてぺっちゃんこになるわ。」

「えー……、いくらなんでも、さすがにそんな…」

そんなどんくさくは無いはずと言いつつも、
やりかねないとでも思ったのか、
カインは梯子から足を外した。

「マリアがぺっちゃんこは嫌なので…。」

と言いつつ、よいしょっと
カインは私を抱き上げた。

「えっ、えっ??」

「どの本か教えてね。」

そうしてふわっと浮き上がると、
先ほどの一番高い棚まで飛び上がった。

「あ、ありがとう。えっと、そこの…茶色の。」

「どれ?これ?」

カインが本棚に手を伸ばすので、
私は落ちないようにカインの首にしがみ付く形になった。

「『魔術・呪術・神術の変遷と相互特質の観点による構造分析』
 …この本で良いの?」

「え、ええ。それよ。」

「むっずかしそうな本だねえ。
 何を言われてるんだか、僕さっぱり分からないよ。」

笑いながら、その本を取ってくれた。

「ねえ、せっかく一番上の棚まで来たんだし、
 他にも欲しいものない?」

カインはまだふわふわと浮かびながら、
周回している。

「わ、私はもう大丈夫よ!
 ありがとう!!」

「そう?」

ゆっくり降りて、
カインは私を下ろしてくれた。

「は〜。良かった。
 無事に本取れたね〜。
 また取りたい本があったら僕に言ってね。」

「ええ…、ありがとう。
 あの、カインにも迷惑掛けたお詫びとお礼に、
 何か読みたい本とかない?
 私探すわ!」

「本?いや、別に特に無いよ。」

「じゃあ、本じゃなくても何でも良いわ。
 何か欲しいものとかない?」

「え〜、欲しいもの…?
 うーん、別に…。」

少しだけ考えてカインは首を傾げた。

「何か食べたいものとか。」

「いつも美味しいもの食べてるし。
 何も要らないよ。」

何かを諦めた様子もなく、
満足げにカインは笑ってそう言った。



+++



 


 

「カインって本当に欲が無いよね?」

「え?」

私の言葉にカインが変な顔をした。
だって、本当にそうだと思う。

さっきだって結局お礼も出来なかったし、
いつだって人を優先するし、
カインがあれ欲しい、これ欲しいなんて言ってる所を
見た事が無い。

旅の間も、今だって。

「なんで?どこが?
 こんなにわがままな人間はいないと思うけど。」

「え?」

その答に私の方が目が点になった。
またまた何を言ってるんだ。

「今、こうやっていられるんだもん。」

「………。」

不意なカインの笑顔に、思わず目を逸らしつつ、
私は納得できないと言う顔をした。

「そ、そんな、生きてるって素晴らしい、
 みたいな事じゃなくて。」

不満そうな顔をしている私に
カインはもう一度言った。

「あはは、そうじゃなくて。」

「そうじゃなくて?」

「マリアの傍にいられることが。
 すっごく贅沢な事だと思うよ。
 あんまり……考えられない事だって思ってたし。」

見るとカインは結構真剣な顔をしていた。
そうか、そうよね…と思った。

カインはサマルトリアの王子なのだから。
本当ならアレンと同じように今頃は
サマルトリアの王にでもなっていておかしくない。

むしろ私のせいで多大な迷惑を掛けてるんじゃないかと
無神経な質問をしてしまったと、私は顔を伏せた。

「そ、そうよね……。
 カインはすごい無理して
 今ここにいてくれてるんだものね。」

「無理?」

カインは首を傾げている。

「だって、あなたはサマルトリアの跡継…」
「ああ…!」

何故だか、話を途中で遮られた。

「サマルトリアの事は……あんまり関係ないよ。
 別に僕はサマルトリアを捨てたとかじゃないし。」

それは、そうかもしれない。
ムーンブルクで忙しそうにしてても、
サマルトリアとは、特に妹のマイさんとは
数日を空けずにやりとりをしてるようだった。

「マイさん、何か大変そうなの?」

「ううーん、大変そう…かな?
 愚痴がいっぱいだよ。」

腕を組んで、うーんと唸っている。

「そうなのね。一体どうしたのかしら?
 何か大変な事があるなら、私もお手伝いに行くわ。」

「それがね、僕もそれを言うんだけど、
 大変なんだったら帰ろうかって言うと、帰ってくるなって言われるんだよ。
 なんなんだろうかと思いつつ。」

カインはため息をついている。
でも、私も短いながらマイと付き合って、
彼女の性格が分かってきた。

あんなに、こんなに、大変なんだと口にはするが、
実際には人の手助けなんて必要としていない。
すごく甘えてはくるが、その本質はとても強い子なのだ。

きっと兄に愚痴を吐いた時点で、マイはもうすっきりしているのだ。

そしてその困難はきっと自分で乗り越えられる。
むしろ下手に手を出したりしたら、
そのプライドを傷付けるだろう。

「分かるわ……。
 マイさんとても強いのよ。」

「強い……?そうだね。そうだと思う。
 マイは本当に強いと思う。
 僕もそうだし、父さまだって、
 マイの強さと明るさには救われたと思うよ。」

私はこくんと頷いた。
頷きつつも思った。

「でも、強いけど、
 それだけあなたに甘えてきてるんだもの。
 話はちゃんと聞いてあげてね。」

「う、うん。
 勿論。」

助けはいらないとしつつも、
マイにとってカインは無条件で甘えられる存在なんだろう。
きっと、だからこそ頑張れるんだろう。
そういう存在はきっと必要だ。

「マリアは洞察力が鋭いね。
 じゃあ、僕の事もバレバレなのかな?」

カインが話を切り替えてきた。
そして私をじっと見ているが、思わず目を逸らした。

「む、難しいわ。
 言ってくれないと。」

自分でもとんだひどい洞察力だと思う。
でも、彼が何を考えているのか程難しいものは無い。
バレバレどころではない。全然分からない。

「そんな難しいことじゃないよ。」

「え?」

「今はね、マリアの目を見たいって思ってる。
 出来れば目を逸らさないで欲しいな。」

「……っ」

顔を上げると、カインが嬉しそうに笑った。

「ふふっ。
 ごめんね。強引に。
 他にもあるよ。」

そう言って、カインは私の右手を取った。
この手に何があるのか、何の意味があるのか
私はあたふたした。

「ずっとね、旅をしていた間とか、
 僕、こうやってマリアの手を取って歩きたかった。」

懐かしそうに笑うカインの顔を見た。

「今は、それが出来る。」

そう言うカインに、いよいよ私は顔が真っ赤になった。

ずっと?ずっと手を取りたかったと言ったか?

「それ…って?」

「言ったよね?
 僕はずっとずっとマリアの事が好きだったんだから。」

「……っ。」

言ったよねと言われても…、一瞬頭が混乱した。
ああ、でも確か凱旋のとき、言われた…気がする。

またそんな事を、今度はさらっと言った。
あんまりさらっと言われるので、何かの空耳かと思ったくらいだ。

「マリアと一緒に旅が出来るって思って、嬉しかった。
 せっかく魔法も使えるようになったから、
 僕はマリアを守りたかった。
 僕がマリアの手を引いて歩きたかった。」

少し遠くを見るような顔をして、
そして、はあっとため息をついて手を離した。

「えっ…?」

手を離されてしまった。
しかも話は過去形で話されてしまった。
今の話は昔の話か。
そうか、今は違うのか。そうか、そうよねと納得しようとした。

「そしたらさ、マリアの方が強いし。」

「つ、強い?」

「そうだよー。
 いきなりベホイミを使ったでしょう。
 バギもそうだし。どっちもすごい強い魔法だったから、
 結構ショックだったんだよ。」

「え、ショック…?」

凶暴な女だから、近づけないとショックを与えたのかと思うと、
私の方もショックだった。

「あ、ショックなのは僕の弱さがね。
 少しは強くなったと思ったのに、全然まだまだ駄目だって。
 僕はマリアに全然釣りあわなかったもんね。」

「そ、そんな事はないけど。」

ないと言いつつ、
あの頃の日々は私はあんまり必死すぎて
思い出すのが少々難しい。

「だから、あの頃の僕は強くなりたくて
 一生懸命だった。
 アレンにも色々迷惑を掛けたりしてね。」

「………。」

そう言えば、少々背伸びしたような戦いを
アレンに挑んでいた事を思い出した。

「少しは僕、マリアに近づけるようになったかな。」

「そうよ、あなたはどんどん強くなったわ。
 私もあなたに負けたくないって思ったもの。」

ロンダルキアの雪原で、
誰よりも強くなりたいと言ったカインに、
私は真剣に、置いていかれたくないと思った。

少し驚いた顔をしてカインは首を横に振った。

「でも、やっぱり駄目なんだけどね。」

結局、あの頃みたいには戦えない。
強さを求めていた日々なんてはるか遠く感じる。

「そんな事無いってば!
 わ、私も……!!」

首を振って、
そのままいなくなりそうなカインを捕まえようと手を掴んだ。

「い、いつの頃からか、あなたの優しさに惹かれていった。
 私もあなたと向き合えたらって思うようになってた。」

あんなに平然と私の手を取った割に、
カインは顔を赤くした。

「でも、あなたはいつも違う所を見てた。
 私の事なんてどうでも良いと思ってたわ。」

「ど、どうでも良いだなんて、一回も思ったこと無い…!」

「あなたはすごく優しく嘘をつくものね。」

「嘘じゃないよ…っ!!」

そう叫ぶと
急にカインを近くに感じた。

一瞬殴られるのかと思うくらいの
痛いくらいの勢いでぎゅっと抱きしめられた。

「嘘じゃないよ、伝わらないかな。
 今こうやっていられること全部全部、
 嬉しいんだよ。」

「カ、カイン…!?」

「マリアのそばに居て、マリアを守れること。
 それが一番嬉しいんだ。」

「………。」

嘘じゃない…と思う。
それくらい近い場所で、カインの体温を感じる。
心臓がドキドキ言ってるのも聞こえる。

私の鼓動も…聞こえているんだろうか…?
私は今、どんな顔をしているんだろうか…?

火照った顔で、ひどい表情をしてるんじゃないだろうか。

そんな私の顔を見たカインは
ふっと笑って、指をしーっと、差し出した。

「だからね、マリアはお礼とか考えなくて良いんだよ。
 僕がわがまま言ってるだけなんだから。」

「ず、ずるいわ。
 私だって、あなたに何かを返したいもの。」

「その可愛い顔が、見られて、
 僕はもう十分返してもらったよ。」

そう言われて、もう自分でも分かるくらい
顔が真っ赤になった。
思わず両手で顔を覆った。

「マリア、どうしたの…?」

「………。」

答えられないでいる私に、
カインが言った。

「マリア、隠れないでよ。
 じゃあ、さっきのお礼で僕のお願い。
 僕、マリアの顔が見たいなあ。」

「ひ、ひどいわ…。
 そう言われたら断れないじゃない。」

「ほら、僕、わがままでしょう?」

見上げたカインは
それでもとても幸せそうに笑ってくれた。

この人は、私の顔を見るだけで、
こんなに嬉しそうにしてくれるのだ…。

私は少し落ち着きを取り戻して
すっと息を吸い込んだ。

「そんなの、わがままって言わないのよ?
 皆だって、私の顔なんていくらでも見飽きてるわ。
 普通のことよ。特別な事でも何でもない、わ…。」

「そうかな?
 そんな事ないと思うけど…。
 こんなマリアの表情が見られるのは特別な事じゃない?」

「え、えっ?」

やっぱり落ち着きなんて取り戻せてなかったのだろうか。
私は一体どんな顔をしているのだろうか?

「ねえ、カイン待って。
 私一体、どんな顔してるのっ??」

「え?
 ふふ、すっごい可愛い顔だよ。
 マリア、大好きだよ。」

そう言って笑うと、
火照った顔の私の頬に、
そっとカインは手を伸ばした。
 





- 終 -

2015/07/12

▲


【後書き】
続きません。(おい)

特に何も考えずに書いたカイマリです。
特になんと言う事もなく、続きもせず…。安定の二人ですかね。
カインに振り回され気味なマリアでした。









*注意*
この話は何故か突発で書いたクリア後「お 題29.疑問・解 答」の後の
サマルトリアに帰ったカインとマイの話です。

病弱カインです。激しく注意です(汗)
いやな予感のする方は全力で回れ右お願いします。


「お兄さま、マリア様お帰りになりましたよ。」

マリアを見送って、部屋に戻ってみたが、
返事もない。

兄は寝台に横になっていた。
よしよし素直に眠っているなと安堵した。

++

先ほどは本当にどうなるかと思った。
無理を承知でアレンと激しく戦い倒れたカインは
サマルトリアに戻るなり血を吐いたのだ。

マイもマリアも血相を変えて、事態の深刻さを痛感した。
マイはすぐさま慌てて医師に呼びに行った。

戻る頃には、
横たわるカインの上着が真っ赤に染まっていた。
どれだけ血を吐いたのか。

マイはその様子を目の当たりにして、
一瞬足がすくんで動けなくなった。

だが、マリアが気丈に医師の指示に従って、
少しでも呼吸が楽になるようにと手当てを手伝った。

しばらくすると治療の甲斐があったのか、
咳き込んだりすることなく、カインは落ち着いたようだった。

だが、医者は当分の間
カインに喋るなと、会話をするなと厳命した。
喋ったりしてむせて、またこんな事になったら
次は命取りだぞと脅すと、カインは少し不満そうな顔をした。
何か言いたい事があるようだった。

だが、どんな不満な顔をされたって、
命取りだなんて言われたら、
とても兄のわがままを聞ける気分じゃなかった。

「お兄さま、そんな顔をしたって駄目よ。
 そうよ。何か話したいことがあれば筆談すれば良いのよ。」

「うむ、それが良いでしょう。」

その提案に医師もそれが良いと太鼓判を押した。
意識はしっかりしているし、
後は安静にしていたら、徐々に良くなっていく。
無理は禁物だと言うと、医師はその席を立った。

「本当よ。今度無茶しようとしたら
 私もマリア様もただじゃおかないんだから。
 ね、マリア様。」

マイがマリアの方を向くと、
マリアも戸惑ったように頷いた。

「……あ、あの…マリ……」

あれだけ注意されたのに、いきなり何かを話そうとする
カインにマイは怒ったように紙を差し出した。

「お兄さま!喋っちゃ駄目だってば!
 人の話聞いてたの!?
 何か言いたい事があればここに書く!」

無理やりペンを握らせた。
どうしても言いたい事があれば
紙に書いて伝えれば良いのだ。

やや不満そうな顔をしていたカインだが、
体を起こして、少し考えてから紙に文字を書いた。

『たすけてくれて、ありがとう。
 それと、ごめんなさい。』

どうしても伝えたい事が、
マリアへの感謝と謝罪だった。
マリアはその文字を見ると、首を横に振って、
余白に返事をしたためた。

『何も気にしないで』と。

その返事に目を向けて、
カインはまた何故か少し不満そうな、残念そうな顔をしていた。

「もーー。お兄さま、なんでそんな顔してるの。
 ほらほら、まだ熱があるんだから、
 とにかく安静第一よ。
 ちょっとは大人しく寝てください〜!」

マイは2人のその文通を取り上げると、
体を起こしていたカインに横になるよう促した。

マリアはそれを見届けると、
休息の邪魔にならないように、
帰る事にした。

「じゃあそこまでお見送りいたします。
 あ、お兄さま、1人で大丈夫です?」

兄の顔を覗き込むと、頷いて
見送りに行けと言わんばかりに指で
外を指し示した。

まぁ、見送りたいのは本当はカインなんだろう。
代役として、丁重にマリアをお送りしなければ。

歩きながら、くれぐれも大事にして欲しいと
マリアに何度も言われた。
マイも勿論そのつもりだった。

「はい、私がしっかり見張ってますので、
 マリア様、安心して下さい。
 また連絡しますので。」

「ええ、お願いするわね。」



++

部屋に戻ると
静かだったので、てっきり兄は眠っているのかと思った。

だが、どうやら眠ってはいなかったらしい。

「お兄さま?起きていらっしゃるんですか?
 窓でも開けましょうか?
 今日は良い天気ですよ。」

そう言って笑顔で話しかけたが、
どうも兄はさっきから変わらず何か不満そうな顔をしている。

「どうしたんですか?
 何か欲しいんですか?」

そう聞いても首を横に振るだけだ。

「何か食べたいものとかありますか?」

紙に書くように、ペンを渡してみたが、
カインは手短に『なにもいらない』と書くだけだ。

マイはため息をついた。

「何もいらないじゃないですよ。
 何か食べてもらいますけどね。
 んもう、何ですか。子どもみたいに不貞腐れて。」

そう聞くと、カインが横向いたまま何か呟いた。

「だ……だって……せっかく、マ、マリアに…
 げほっ、ゲホッ……ゴホッ」

あれだけ喋るなといってるのに、
口を開いて、咳き込んでいる。
ああもう、聞かん坊な兄だなもう!

「ああーー、もう!
 話したいことは紙に書く!」

差し出した紙にカインは
殴り書きのように文字を書いた。

『はなしが、したかった』

話がしたかった?マリアと?
話ならしたじゃないか。
私のナイスアイディアで会話できたじゃないか。

「話なら出来たじゃない!」

マイの方が少し不満そうな顔になった。

「お兄さま、子どもみたいに癇癪起こすのやめてよ。
 大体倒れたのだって、自分のせいじゃない。
 あれだけ注意するように言われてたのに!」

マイの言葉に視線を落としたカインは
再び紙に何か書いた。

『ごめんなさい』と。

で、完全に向こうを向いてしまった。
不貞腐れてしまったと言うか、
傷つけてしまったと、さすがに心配になった。

「お兄さま、言い過ぎた。ごめんなさい。
 何か言いそびれたことがあったのね?
 便箋をもってくるわ。
 お手紙届けるようにするから、
 そこに書いたらどう?」

そう提案するが、カインはこちらも見ず
ふるふると首を振った。

「……ねえ、そういじけてないで。
 ちゃんと責任もってお手紙届けるから。」

そう言って反対側に回って
その顔を覗き込むと、
真っ赤になって泣きそうな顔になっていた。

「ええ……っと」

マイが何と言おうかと思っていると、
見られてバツが悪そうに何か筆を走らせて、
カインは布団にもぐりこんだ。

そこには『もうかまわないで』と書かれていた。

「お兄さま、ねえ、お兄さまってば。
 私で良かったら話し相手になるわよ。
 ねえ……ってば」

そう布団の中に声を掛けてみても、
もう微動だにせず、うんともすんとも言わない。

むむ、……これはかなり重症だな。
不貞腐れていると言うか、何と言うか。

だが、これ以上刺激はしないほうが良いかもしれない。
せっかく布団の中にもぐりこんだんだし、
しばらくこのまま休んでいてもらおう。

「何か欲しいものとかある?」

聞いても何の反応もない。
もう仕方ない。

「良い風が吹いているから、
 窓は開けておくわね。
 少し、静かに休んでて下さい。」

そのマイの声にも勿論返事はないが、
別に文句があるわけでもないようだ。
しばらく席を外す事にした。


+++

夕食頃に、再度部屋を覗いてみた。
あれからずっと身動きしてないようで、
出て行ったままの状態だった。

眠ってるのだろうか?

「お兄さま起きてますか?
 ご飯持ってきましたけど。」

食べやすいようにと
お粥に卵や薬味を入れてもらった。

近づくと、どうやら寝てなかったらしいカインは
こちらをちらっと見た。

「あ、起きてたんですね。
 ちょうど良かったです。
 温かいうちに召し上がれ〜。」

そう笑顔で食事を差し出すと、
カインは近くの紙に『いらない』と書いた。

ええい、まだ不貞腐れているのか。

「いらないじゃないですよ。
 人間しっかり食べないと
 良くなるものも良くならないんですから!」

マイはぐいぐいと兄に詰め寄った。

「マリア様に会って話がしたいんでしょう!?
 じゃあこれ食べないと絶対駄目です!」

そう厳命すると、
カインはしぶしぶと起き上がった。

どうも浮かない顔をしているが、
マイはそれに気付かない振りをして、
笑顔で食器を手渡した。

「お兄さま食べないんだったら、
 私が食べさせてあげましょうか!?」

そんな事を言うと、
首を振って、ちゃんと食べだした。
よしよし、本当に世話がかかるが、
食欲も出てきたなら、これで一安心だ。

「少しは元気になったようですね。
 良かったです。具合はどうですか?」

紙を差し出してそう聞くと、
カインは紙には何も書かずに小さな声で答えた。

「もう…だいじょうぶ、だよ。」

また喋った。
どうして言う事を聞かないのだと思ったけど、
真剣な顔に、何故かマイは何も咎められなかった。

「そ、そうですね!
 顔色もさっきよりよほど良くなったし、
 食欲もでてきたようだし、良かった。」

そう答えた妹に顔を上げると、
また小さな声で口を開いた。

「ありが…とう。おいしかった、よ。」

「ええ……?」

お礼を言われてしまった。

ゆっくりと喋るその声は
少しかすれた小さな声だったが、ちゃんとマイの耳に届いた。

「ごちそう…さま。」

何だか、妙に丁寧だ。
自分でも恐る恐ると言う感じで声を出してるようだ。

何かを確かめるように。

マイは先ほどのカインの様子を思い出した。
『はなしが、したかった』と言う意思。

筆談を提案した時の様子や、
マリアが筆談で答えた時の様子を思い出した。
妙に兄は残念そうだった。

それを思い返して、
マイはようやくカインの意図に思い当たった。

多分マリアと話をしたかった……
と言うか、マリアの声が聞きたかったんだ、きっと。

確かに、マリアは声を出すのに
何の差支えもないんだから、
筆談する必要するなかったはずだ。
それが兄は不満だったんだろう。

そう言うことだろう。

よし、分かった。
兄の思いは分かった。

「お兄さま、
 元気になってきたみたいだから、
 明日、あの水晶玉でマリア様とお話しませんか!?」

その提案にカインは驚いた様子だった。
水晶玉を使えば、遠いムーンブルクのマリアとも普通に話が出来るはずだった。

「ねえ、どうです?この提案。」

驚きつつ、カインはうんうんと頷いた。
やっぱりだ。
自分の考えはきっと当たってる。

さっきまでの『なにもいらない』とか言ってた時と、目の輝きが違う。
ささやかな願いであるが、
きっとその意欲は何よりも良い薬になるだろうと思う。

「じゃあ、ちゃんとこれ他のも全部食べないと駄目ですからね。」

本当に素直にこくりとカインは頷いた。
少し元気を取り戻したその様子に私も嬉しくなった。

カインはきちんとお粥を完食した。



++

翌朝。
朝食もちゃんと食べて、
カインは体調も良さそうだった。
何か待ち遠しそうにしていた。

水晶玉は相手の魔法力を感知して
話ができるというものだ。
相手の部屋にマリアがいれば話が出来る。

「マ、マリア?
 マリアいる??」

恐る恐る話しかけると反応があった。

「え、カインなの!?」

マリアの声だ。
その声を聞くと、カインは嬉しそうな顔をした。

どうも、兄は倒れた日にマリアと会う約束をしてたんだそうだ。
それが叶わずに、しかも会話もろくにできず終わってしまったのが
すごく残念だったんだろう。

ささやかなリベンジ、
と言うか、ささやかな願いが叶って良かった。
マイも傍で見守りながらそう思った。

「カイン、どうしたの!?
 起き上がったりして、大丈夫なの!?」

しかし様子が分からないマリアは
昨日の今日で心配でしかなかったのだろう。

「だ、大丈夫だよっ!昨日より、ね…熱も下がったし……っ。
 も、もう……へいき…って…」

元気な所を見せようと、
大きな声を出そうとしたのが良くなかったらしい。
あまり喋ってないのに、
息が上がって、声が途切れ途切れになってしまう。

マリアがそれを聞き逃すはずはなかった。
カインが無理をしていると伝わったのだろう。

「駄目よ!カイン。
 お医者様もしばらく喋っちゃ駄目だって言ってたじゃない。
 無理をしては駄目よ。」

これ以上無理な会話をさせたくないと、
マリアは会話を切り上げようとした。

「で、でも……、マリア…ッ。
 ケホ、ゲホッ…っ…」

「カイン大丈夫……!?」

気ばかり焦って、喋ろうとすると、咳がこみ上げてきた。

実際無理をしているんだろう。
確かに、昨日医者にあんな風に言われて、
翌日に普通の状態に治るなんてはずはないのだ。

心配を掛けたくないのに、
安心させようとすると余計に心配をかけてしまう。
それが嫌で、怖くて、もう声を出す勇気もなくなってしまった。

喋れない。そのせいで声も聞けない。
こんな事も出来ないなんて、すごく情けなくて惨めで嫌になってしまう。

マイは傍で見ていて、気持ちが痛いほど伝わった。
兄はマリアの声が聞きたかっただけなのだ。

ささやかな願いじゃないか。
それくらい叶ったってバチは当たらないだろう。

マイは席を立った。

「マリア様、良かったら私とお話しませんか?」

「え、マイさん……が?私と?」

水晶玉の傍に、マイはちょこんと座った。
すぐ近くの兄もどうしたのかと一寸驚いた顔をしている。

「駄目ですか?
 私ずっとこうやってゆっくりマリア様とお話しする機会が
 あれば良いなあ〜なんて思ってたんです。」

「ええ、そうなの?大丈夫だけど。」

まぁ、嘘ではない。
自分だってマリアは大好きだ。沢山話がしたい。

「聞いてください。今日裏庭のパンジーが咲いたんですよ。
 サマルトリアのパンジーは鮮やかなオレンジ色で……」

「まぁ……、それはきっと綺麗でしょうね。」

「ムーンブルクでは最近どうですか?」

「ええ、ムーンブルクは復興のために、
 沢山の苗木が植えられて、ちょうどそれが咲き始めた頃よ。
 とても綺麗に咲いて綺麗よ。」

「本当ですか!?わあ、是非見に行きたい!
 ねえ、お兄さま!」

他愛ない話をしているに過ぎない。
それにカインは会話に入ってくるでもない。
でも、何だか嬉しそうな表情になったのを見て、マイもほっとした。

カインも妹が何を思ってこんな事をしているのか、
その思いを十分理解した。
だから、その妹の優しい気遣いに感謝した。

目を瞑って、寝台にもたれかかって、
心地よい2人の会話を、カインはただ聞いていた。

 



- 終 -

2015/06/19

▲


【後書き】
ふふ・・・?どうしたこれ。
ある日突然変な事をやらかす私ですが、急にカイマリ妄想してたら、こんなん出来ました。
本当はぶっ倒れたカインをマリアが人工呼吸的なあれで助けるんだと言う妄想をしてたんですが、
そっちの心情はきつくて形にしたくなかったので、間に入るマイちゃん中心に。

兄思いの、やさしいマイちゃんの話でした。

と言うか、色々本当スイマセン。

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