小さな花かんむりの思い出



小さな兄妹は目の前の広大な光景に、思わず感激して大きな声で叫んだ。


「うわあ、きれーい!すごーーい!!」

「うわあ、ちえーい、つおーーい!!」

兄の感激した言葉につられて、一瞬後に妹が言葉を真似をした。

「ん?」

自分の真似をされたとは思ってない兄はきょとんとして、尋ねた。



「マイちゃん。
 なにがつよいの?」

そんな事を言っている我が子の様子に母が笑った。

「マイはカインの真似をしているのよ。
 さあ、こちらへいらっしゃい。
 ここからならお城が見られるのよ。」

母に手を引かれて少し歩くと、そこからサマルトリアのお城が見られた。

「わ、すごい!あんな大きいお城がこんなちっさく見える!」

カインは手でお城の大きさを指し示した。
いつも自分達がいるお城が、ここでは全部見渡せる。

「どうだ、ここは良い場所だろう?
 城も雄大な自然も一望できるとっておきの丘だ。」

「とうさま。うん。すごいね!僕初めて見た!」

いつもは怖い顔をしているサマルトリアの王である父もご満悦の表情を浮かべている。

今日は父がとっておきの場所へ連れて行ってやろうと
一部の兵と、王妃と子供たちを連れ立って、
珍しく城の外へと連れてきてくれたのだ。

城の外ではあるが、この辺りはサマルトリアの領土内で危険もほとんどない。

この珍しくも羽を伸ばしたピクニックに
子どもたちは大喜びだった。

「さあ皆、この見晴らしの良い丘で
 サンドウィッチを食べましょう。」

「わあい!」

王妃は持参したピクニック用ビスケットを差し出し、
色とりどりのサンドウィッチに子どもたちは再度歓声を挙げた。

楽しく、幸せな時間であった。

もぐもぐとサンドウィッチを食べていると、
妹のマイが後を向いて、何かを指差している。

「なあに、マイ。何を見つけたの?」

「ちれいよ。おはな。」

まだ舌っ足らずな妹は咲き誇る花々を指差していた。

「本当ね。そうだ、マイいらっしゃい。」

どうやら食べ飽きたらしい妹を連れて、
王妃は花畑へと向かった。

なにやらそこで座り込んで2人で何かをしているらしい。

「何をしているんだろう?」

カインは2人が気になって仕方がない。
もぐもぐとサンドウィッチをかきこんで、母と妹の元へと走った。

「ねえ、何してるの?
 僕もまぜてー。」

「あら、カインちょうど良いところに。
 見て、これ。可愛らしいでしょう。」

「え?」

母が示した先を見るとマイの頭に可愛い花かんむりが乗っていた。

「わあ!すごい!」

「ね、きれいでしょ。
 マイちゃ、お花のおひめさまみたいでしょ。」

「うん!お姫さまみたい!!」

元々マイは姫なのだが、
まるで絵本に出てくるような可愛らしい姿にカインもうんうんと頷いた。

「おにちゃのも作ったよ。
 はい、どうぞ!」

マイは自分の手に持っていたものをカインの頭に乗せた。
それはマイの頭の花かんむりと比べると不恰好であったが、
きっと母と一緒に妹が作ってくれたのだろう。

「えへ。ありがとう。」

「おにちゃも可愛いよ!
 お花のおひめさまみたい!」

「そ、そう?えへへ」

照れながら嬉しがっている。
お姫様みたいと言われているのに嫌がりもしない
息子を見て少々苦笑をしつつ、
この姿を厳格な王が見たらどういうかなとちょっとだけ心配にも思う。

「ねえねえ、母さま、僕にも作り方教えて!」

「あら、カインも?
 良いわよ。」

母は再度息子にも花かんむりの作り方を教えた。
妙に生真面目に、母の手つきを真似てカインも丁寧に
茎を編んでいく。
少々不恰好だが、一応輪っかの形になった。

「できた!できた!!わーーい!」

端と端の茎をつなげて完成すると
カインは手をあげて喜んだ。

「おにちゃ、上手だねえ。」

「マイ、ありがとうー。
 はい、これは母さまに!」

カインは今作ったそれを母の頭に乗せた。

「まぁ、私に?
 カインありがとう。嬉しいわ。」

「わああ、おかちゃまも可愛くなった。
 皆お姫様になったー。」

マイは手を叩いて喜んでいる。
相変わらずマイの中では、花かんむりを装備すると全員姫らしい。

「じゃあ、マイちゃは
 おとちゃまのつくるね。」

はーいと手をあげて、マイは次の製作に取り掛かった。

「父さまもお姫様みたいになっちゃうねえ。」

「おとちゃま、王様なのにねえ。
 おかしいねえ。」

「おかしいねえ。」

ふふふと花に囲まれながら笑う子ども達を
母はおかしくも思い、微笑ましくも思った。

そう言えば、一人丘の上でサンドウィッチを食しているであろう
王は今何をしているだろうか?
子どもたちはまだしばらくここで作業をしている様子だ。

「あなたたち、良い事?ここにいてね。
 すぐに戻るから。」

すぐそばには見張りの兵もいる。
王妃は一旦王の元へと戻ることにした。

残された子どもたちは黙々と作業をしていた。

「父さまの王冠は立派だから、立派なの作らないと。
 僕も手伝うよ。」

「おにちゃま、ありがとう。」

せっせと共同作業をしていたはずが、
いつの間にか、妹は作業に飽きてしまったようだ。

落ちている花びらを掴んだり落としたりして遊び始めた。

「ねえねえ、おにちゃま。
 すっごい葉っぱがいっぱい〜」

マイは花畑の周りを走り始めた。
花びらだけでなく落ち葉や枯葉が多くて、
まるで絨毯のようにふかふかだった。

「うわあ、すごい。こんなにいっぱい」

何を思ったのか、マイが大量の葉っぱを抱えられるだけ抱えようと持ち上げた。
すると落ち葉の下の足場がぐらっと崩れた。

「わあ!」

「え?」

城が見える丘であり、元々傾斜の急な場所である。
落ち葉で見えなくなっていたが、地盤はゆるくなっていた。

「きゃああ〜!」

コロコロと転がっていく妹をあわててカインは追いかけようとした。

が、足元が不安定で、
駆け出そうとするとずるっと思いっきり滑ってしまった。

「うわわわ、わああー」

そのまま滑り台を滑るように坂を落ちてしまった。
幸いに地面はゆるくなっていて、怪我もしない内に坂は終わった。

「あああ、びっくりしたあ。
 マイちゃん。マイちゃんは大丈夫?」

妹はどうなったかと心配そうに振り返ると、
なんと気丈にもケラケラと笑いながら、
マイはコロコロと葉っぱの絨毯の上を転がって遊んでいた。

「あははは!
 今、くるくるって、すううーって、なったねー!」

くるくる回ってるうちに、すううっと滑り落ちたと言いたいのだろう。
全然怖がりも痛がりもしていない様子にカインは呆れていた。

「んもう。僕こんなにびっくりしたのに、
 マイちゃんってば……。」

どうやら妹は大物のようだった。

さて、それよりどうやって元の場所に戻ろう?
足場はふにゃふにゃしていて、登ったらまた落ちそうだった。

ふと見るとマイは、さらなる奥地へ進もうとしている。

「あっちは何があるんだろー?」

「マイちゃん、どこ行くの?」

カインが、マイが行く先へ付いていこうとすると
激しい大声が聞こえてきた。

「待て!!どこへ行くのだ!?」

「あ……。」

見るとそこにいたのは父、サマルトリア王だった。

「あ、おとしゃま!」

マイは悪びれもせず突然現れた父に飛びついた。
でもカインは、父が怒っているようなので、とてもそんな気になれなかった。

「マイ。怪我はないか?」

「ないよー。」

「そうか、それは良かった。
 カインは?」

「な、ないよ……。」

びくびくしながらカインは答えた。
怒られると思ったが、父は一言、なら良かったと言ってくれた。

「だが、カイン。
 お前は兄なんだ。
 妹が危険なことをしていたり、危険な場所へ行こうとしたら
 一緒についていくんじゃなくて、お前が妹を諭して
 守ってやらないといけないのだぞ。」

「は、はあい。」

やっぱり怒られてしまった。

「さぁ。戻ろう。
 急にお前達が見えなくなったから、王妃が心配している。
 遠回りになるが、あちらから行けば安全だ。」

父は坂道の迂回路を教えてくれた。
安全なルートなのだろう。

マイはぴょんぴょんと跳ねながら、
父の後に着いて行こうとした。

「マイ。」

カインは、飛び跳ねる妹の手を取った。
この辺りはまだ地面がゆるいし、また滑って転んだら大変だ。

「危ないから、手を繋いでいこう。」

「う?うん。いいよー。」

マイの方は何も思ってないかもしれないが、ニコニコと兄の手を掴んだ。
振り返った父王は、その様子を見て、少し頷いて、前を向いた。

「さぁ、王妃の元へ帰ろう。」





***




あの日から何年も経った。

ここからは、あの日と何も変わらないような光景が広がる。

だが、世界は一度未曾有の危機に襲われて、
3人の勇者の活躍によって暗雲立ち込める世界は救われた。

色んな事があれからあったが、
それでもこの丘から広がる光景はあの時と何も変わらない。



「うわあ、きれーーい!
 すごーーーい!!」

カインはその台詞に振りかえった。
いつかも聞いたような言葉だ。

「お兄さま?どうしたの? 私何か変な事言った?」

兄が少し変な顔をしているので、
マイは自分が何か変な事を言ったのかと心配になった。

「いや、別に変じゃないよ。
 ただ、マイは変わらないなあって思って。」

幼かったあの頃と変わらないマイの様子にカインは笑った。

久々に帰ってきたカインは、妹を連れて久々にこの丘へとやってきていた。
城も広大な自然も一望できるこの丘は、
あの日と変わらず本当に素晴らしい場所だ。

「お兄さま見て、あっちには花が満開だわ!」

「そうだね、ちょうど良い季節に来れて良かったなあ。」

「行きましょう!」

「あ、マイ待って!」

カインは慌てて妹の手を取った。
多分この辺は何も変わってないから、あの幼い頃と同じように、
ゆるい地盤の丘から滑り落ちてしまったら大変だ。


ちょっと考えて、カインは少し思い切った行動に出た。

「え、ふわああっ!お、お兄さま何!?」

カインはマイの腰に手をあてて、
思いっきり抱き上げた。

「危ないから……ね。」

「え、え、私大丈夫だよ!?」

これは所謂お姫様抱っこの状態ではないか。
マイは慌てふためいていた。



「妹が危ない事をしようとしてたら、
 兄は、妹を諭して守ってやらないといけないんだよ。」

「え、は!?急に何、どうしたの!?」

「昔、そういわれたんだよ。」

どうやら、マイは以前ここで起きた出来事は忘れたらしい。
カインはしっかり覚えているのに……。

覚えていると言えば、あの日出来なかった事がある。
せっかく母と妹と3人で、皆に花かんむりを作ったのに、父には渡せなかった。
それが心残りだった。

「でも……ねえマイ……せっかくここまで来たんだし、
 花かんむりでも作ろうか?」

「え、やだ、お兄さま何を言ってるの!?」

突然の言葉にまた男らしくない!と言おうとしたが、
兄の様子に、マイは少し何かを感づいたようだった。

「しょうがないなあ、手伝ってあげるよ。
 今日はお兄さまが来てくれたんだもの。」

「へへ。ありがとう。
 ねえ、せっかくだから、母さまの分もつくろっか。」

「そうね!せっかくだしね!
 お父さまとお母さまと、あとお兄さまと私と・・マリア様の分も!
 えへへ。皆の分を作ろう!」

「マイってば、多いよ。張り切りすぎだよ。」

笑ったカインに抱かれたまま、
少し楽しくなってきたマイも笑顔になった。

「さ、お姫様行こうか。」

大事な妹を大切そうに抱いて、カインは歩を進めた。







- 完 -


2020/09/21

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【後書き】
2016年7月3日スクエニオンリーイベントにて頒布の
「サマルトリア王家の兄妹」合同誌に寄稿した兄妹小説です。
挿絵もあったので、今回はそれも載せてみました。
モノクロな挿絵がいつもと違ってなかなか新鮮!

小さい兄妹がころころと可愛い話でした。
そら譚のエピローグ3で当然のように花冠が作れたカインさんの幼き日はこんな感じでした。

キャラクター紹介も載せていたので、こちらにせっかくなので載せてみます。



そっくり兄妹だな。。





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