「バギ!!」
私の唱えたバギが砂を巻き上げ、砂嵐となって鉄のサソリを襲う。
舞い上がる砂で視界が白く染まり、魔物の姿が見えなくなった。
倒せた……?
そう思った次の瞬間、砂煙の向こうから鉄のサソリの腕がぬっと伸びてきた。
不意を突かれ、身構える暇もない。
だが、その腕は私に届く前に、ガレットの重い一撃で叩き砕かれた。
鉄のサソリはそのまま崩れ落ち、二度と動くことはなかった。
「大丈夫か?」
事も無げに、ガレットは剣を振るって鞘にしまった。
「ええ、ガレットは本当に力が強いのね。」
「おれはこれしか取り柄がないからな。」
ガレットは自分のことをそう言うけれど、旅に出てから何度もその剣に助けられてきた。
とても頼もしい。
「うひゃあ~。ガレットの剛力でサソリのハサミがぺったんこだよ。
こわー。」
クッキーの軽口には耳を貸さずに先へ行こうと促している。
私も先へ進もうとしたが、先ほどのバギのせいで視界がいまだ晴れない。
「あれ…?」
いや、視界が暗いのは砂嵐じゃない。
足が、思うように前へ出ない。急に頭の奥が熱く感じて、鼓動だけがやけに大きく響く。
(どうして……)
次の瞬間、足元がふらついて座り込んでしまった。
「プリンちゃん…? プリンちゃん!? どうしたの!?」
クッキーの声が、聞こえているのに妙に遠くに聞こえる。
景色がぼんやりと霞んで見える。
「熱中症じゃないか?」
ガレットの冷静な声が聞こえる。
「熱中症? 暑いもんね。
プリンちゃん、大丈夫?」
クッキーがホイミを唱えてくれた。
それでも何だか症状が落ち着かずに、私は浅い呼吸を繰り返した。
「それ効いてないんじゃないか?」
「……少し休もうか。あそこに岩陰があったし。」
どうやってそこまで移動したのかも覚えていない。
ガレットとクッキーが何かを話している。
迷惑をかけてはいけない。
先に進まなければ、ムーンブルクの民の無念を晴らさねば。
もう大丈夫、と言おうとしてものどの奥が熱く声まで焼け付いてしまったようだ。
「プリンちゃん喉乾いてるんでしょ。
水、ある?」
この砂漠の暑さにやられて、もうずいぶん前に水筒は空になっていた。
私が水筒を出さないのを見て、クッキーが悟ったように、自分の水筒を差し出してきた。
「ぼくの水飲んでよ。」
「えっ、でもこれはクッキーの……」
「いいから。そんな顔色じゃ、旅ができないでしょ?」
旅ができなくなるのはダメだ。
朦朧とした頭で、その一心で筒を受け取り口をつけた。
疲れ切っていた私は思わず何口も飲んでしまった。
乾ききった喉を通り、全身へ染み渡っていくようだった。
「ふふ、落ち着いた? 少し顔色良くなってきたね。」
そういわれてようやく周りを見渡す余裕も出てきた。
そこで私は貴重なクッキーの水を飲んでしまったのだと気づいた。
クッキーに水筒を返すと、クッキーもぐいっとその水を飲んだ。
さっきまで私の口をつけていた場所に、迷いもなく口をつけている。
「ぷはー、生き返る〜。」
「………… 」
何と言えばいいのかわからず、私は視線を彼の口元から逸らした。
……これは、間接キスというものではないか。
気づいてしまってから、余計に落ち着かなくなった。
クッキーは不思議な人だな。
王女という立場の私に、こんなにも隔てなく近づいてくる人には、これまで出会ったことがなかった。
城にいた頃は、誰もが一定の距離を保って私に接した。
無遠慮に水筒を分け合う人などいなかった。
…………
いや、これはただの人命救助だ。私は何を考えているのだ。
違う違うと私は首を振った。
相手だってサマルトリアの王子だから、遠慮なんていらないだけだ。
「あらぁ、もう空っぽになっちゃったよ。」
そんなことより、クッキーの水筒も空になってしまったようだ。
私のせいだ。
「ごめんなさい!貴重なお水を私がいっぱい飲んでしまって。」
「気にしないで。おいしいもんね。」
しかし、ここから続く過酷な砂漠の旅路に水なしはあまりにきつい。
クッキーは岩陰から砂漠を覗いた。
気が付けば、ガレットの姿が見えなかった。どこへ行ったのか聞いてみた。
「ああ、ちょっと先を視察してくるって颯爽と歩いて行ったよ。彼は体力の仕組みが僕らと違うよねえ。」
確かにガレットは体つきも人一倍逞しく、体力も筋力も抜きんでているようだった。
しかし、この辺りは魔物が多い。
「え、ガレットひとりで大丈夫かしら。」
「君が落ち着いたら、追いかけようか。」
「もういけるわ!」
そう気色ばんで立ち上がろうとしたが、まだ足に力が入らず、
再び砂に手をついてしまった。
「おっと。まだ、休んでないと駄目だよ。」
「……じゃ、じゃあ、私はここにいるから、クッキーはガレットを追ってちょうだい。
魔物が出るのに心配だわ。」
「はは、君を一人で置いていく方が心配だよ。」
はっきりそういわれて私は顔が赤くなった。
私が二人の足を引っ張っているのだと思ったのだ。
私が無言でいると、クッキーがうーんと首を傾げて、ぽんと手を打った。
「あ、そうだそうだ。いい方法があるぞ。」
と道具袋をごそごそあさり始めた。
取り出したのは何かの巻物だ。
「それは……?」
「これね、サマルトリアの城にあった巻物だよ。
ヒャドの巻物って言って。
なぜかさ、サマルトリアのものなのに、ガレットが見つけたとか言って持っててさ。」
「ヒャド……」
私には使えない魔法だ。
「ぼくも使えない魔法なんだよ。
ヒャドなんて一度も使いたいって思ったことないから。」
あははと笑ってから、クッキーはその巻物を読み込んだ。
「よーしよーし、何だかできる気がするぞ。」
「ほんとに?」
クッキーは両手に魔法力を集中し始めて小さく唱えた。
「ヒャド!」
その声に従って、小さなこぶし大の氷の塊が生まれた。
「やった!成功したよ、見てプリンちゃん!」
生み出されたばかりのヒャドの氷はまばゆく光っていた。
【挿絵を見る】
小さな氷の塊を私に手渡してきた。
火照った体には痛いほどの冷たさだった。
「わっ、冷たいわ。」
「あ、ごめん!ヒャドで君を攻撃したい訳じゃなくって…。」
あわあわしながら、クッキーは氷の塊を受け取った。
「でも気持ちいいわね、熱い砂漠で生き返るわ。」
「う、うん。でさ、これを溶かしちゃったら水になるんじゃないかって思って。」
水を作り出そうとしていたらしい。
これはすごいアイディアだ。そんな発想は思いつきもしなかった。
でも大丈夫だろうか?ヒャドで作った氷の成分は飲めるものなのだろうか?
そう伝えるとクッキーも首を傾げた。
「え……成分……? これ、変な物入って…たりするのかな?
ぼくヒャド初心者だからよく分からないや。」
私もヒャドはできないから詳しい事が分からない。
というか使える魔法だとしても、
攻撃魔法を飲もうとするなんて前代未聞の発想過ぎる。
「まぁ一度試してみようか。ぼくギラが使えるから氷溶かすことはできるよ。」
「え、でも……。」
いうが早いが、クッキーはギラで氷を溶かして空の水筒に入れた。
「じゃあ、いただきま――あいたっ!」
クッキーが水を飲もうとすると、ごつり、と剣の鞘が水筒を持つ腕を押しのけた。
「飲むな。」
どこからか帰ってきたガレットのものであった。
「ガレット!痛いよ、何するの!」
「お前のほうこそ何をしてんだ。」
クッキーはどや顔で水の調達方法をガレットに説明した。
だが、ガレットは首を横に振って同じことを言った。
「飲むな。」
「うーん…これ、やっぱり怪しい? 危険なのかなあ?」
ガレットは魔法は使えないというが博識なのかもしれない。
それか危機管理能力が高いのかもしれない。
「得体のしれないものを飲むなというんだ。
水場なら見つけた。」
「えっ、本当?」
ガレットがけろっとそんなことを言った。
「ああ、オアシスがあった。
道具屋もあるし宿もあった。
こんなところよりよっぽど休める。」
「わー、やった!」
オアシスがあるなんて…!
きっと水もそこで手に入るだろう。
クッキーもすっかり元気になってその朗報に立ち上がった。
「あ、プリンちゃん、大丈夫?
まだしんどかったら、しばらく休んでいても。」
「おれが背負って行こうか?」
オアシスがあると聞いただけで、不思議と力が湧いてきた。
2人の気遣いに感謝して私は立ち上がった。
「いいえ、ありがとう。行きましょう。」
+++
砂漠を旅する者にとって、オアシスは地獄に仏にも等しい。
「ぷは~~!おいしいー!」
クッキーは再度水をもらって喉を潤している。
やっぱり彼はもっと水が飲みたかったのに、私が飲んでしまって申し訳なかったなと思った。
オアシスだからといって、水が湯水のようにあるわけではない。
それでも宿屋で冷たい水をコップ1杯飲むことがこんなにありがたいことなのだと初めて知った。
「今日はここで休んでいこう。」
「ええ、そうね。」
ふかふかのベッドなんてこんな砂漠のオアシスにはない。
質素なテントに申し訳程度のシーツが引いてある程度だ。
それでも、足を延ばして休めるというのが、これほどありがたいことだったなんて。
「は~、やっと足を延ばして休めるね。
ここは極楽だよ~。」
クッキーがごろんと寝転んで背伸びをした。
「おい、せまい。もっと縮まれ。」
「縮まれって、ガレットの方がでかいじゃないか。
そっちの方が縮まってよ。」
「両手両足を大の字で伸ばすなと言ってるんだ。
プリンちゃんが休めないだろ。」
2人で軽い喧嘩をし始めたと思ったら、
私のために場所をつくろうとしてくれている。
「えっ、いいのよ。
手でも足でも延ばして頂戴。
私なんて一番小さいんだから、場所いらないわ。」
ござ一枚くらいのスペースさえあれば十分体を休められる。
三角座りで隅に座って、壁に体をもたれさせた。
「ああ、ごめんね。
こんな狭いところに僕らと一緒に詰め込まれるの嫌でしょう。
えーっと、ついたてでも立てようか。
そっちでゆっくり体を休めてよ。」
ただでさえ狭いテントについたてなんて立てたら余計狭くならないか?
「いいってば。」
「ちゃんとしておいた方が良い。
こいつはたまに距離感バグるからな。」
「えーー!そんなことしないよ!?」
距離感がバグると言われて、先ほどの間接キスが思い浮かんだ。
あ、いや、違う。あれは人命救助……
ごちゃごちゃ考えているうちに、二人との間についたてが立てられてしまった。
「………… 」
余計なことは考えるのはやめよう。
ついたての向こうから、二人の他愛ない話し声が聞こえてくる。
それを聞いているうちに、不思議と心まで落ち着いていった。
……旅に出てから初めて、安心して目を閉じられる気がした。
落ち着いた空間で私はようやく体を休めることができた。
+++
ふと、誰かが私にタオルケットをかけてくれたのを感じた。
目を開けるとガレットの後姿が見えた。
テントから出て行こうとしているようだ。
どこへ行くのかと私も追いかけることにした。
「……、寝てなくて良いのか?」
「ええ、少し休んですっきりしたわ。クッキーは?」
「あいつは熟睡してるよ。」
きっと疲れているのだろう。
休ませてあげなきゃ。
「ガレットはどこへ行くの?」
「武器屋があっただろう。他にも色々覗いてみようと思って。」
そう言いながら、ガレットはオアシスの散策を始めようとしているようだ。
「じゃあ、私も…… 」
「あんたも寝ておいた方がいいんじゃないか?
魔法力回復してなきゃ、旅はきついぞ。」
自分もオアシスを散策してみようと思ったが、
ガレットの言葉は正論だった。
魔法力のない魔法使いほど使えないものは無いのだ。
それは一番自分が痛感している。
昨日の自分の姿を思い出すと、今度は同じ轍を踏みたくなかった。
「そういえば、こういうのがローレシアにあったんだ。」
ガレットが取り出したのは、先ほども見たような巻物だった。
「ヒャ…?ヒョドル…?何か……、何かの魔法の巻物だ。
俺が持っててもしょうがないから、プリンちゃんに渡しておくよ。」
「えっ、何?」
ちゃんと確認する前にガレットは私に巻物を渡して、
オアシス散策に消えてしまった。
さっきクッキーもガレットから巻物をもらったと言っていたし、
案外彼は隠されたアイテムを収集するのが好きなのかもしれない。
手元にはおそらく何かの巻物が残った。
何の巻物だろう?ヒョドルなんて魔法は聞いたことがないが…。
テントに戻って確認してみることにした。
巻物というのは初めての経験だが、熟読すると不思議とその魔法理解が深まり
それだけで新たな魔法を使えるような気がした。
ガレットが言っていたのは少し間違いで、これはヒャダルコの巻物だった。
先ほどのヒャドより少し高位な魔法だ。
ちゃんと理解できるという事は、私がヒャダルコを使えるという事ではないか。
夢中で読み込んで私はヒャダルコを覚えた。
今ならヒャダルコができる気がする。
私はそれを試してみることにした。
寝ているクッキーを起こさないように私はテントを出た。
外に出るともうすっかり夜になってるなと気づいた。
今日は月も星も出ていない夜だった。
私はヒャダルコを試してみた。
「できた……!」
氷の塊が生まれていた。
さっきのクッキーの氷より大きい。
多分出力を強めれば大きな岩くらいの氷も出せそうだ。
かなり強力な攻撃魔法だろう。
それに、これだけあればきっと水にも困らないのでは?
――でも、これも同じだろうな。
先ほどガレットに止められたクッキーを思い出す。
ちゃんと魔法の成分を確認して安全を確かめてみよう。
『ヒャドは空気中の水気を魔力で急速に凍結させる術である。』
巻物にもそう書いてあった。氷そのものを生み出す魔法ではない。
だとすれば、地面の水とも違うし、土も塩気も、怪しい成分も混ざりようがないはずだ。
それでも、確かめずにはいられなかった。
欠片を削り取り、小皿に載せる。
匂いも色も問題ない。
魔導士の杖の炎をかざすと、あっという間に蒸発して、湯気も消えた。
残ったのは、乾いた皿の上。何も、残っていない。白い粉も、油のような膜も張っていないし、鼻を近づけても匂いはしない。
魔法薬なら、乾けば必ず薬草の成分が残る。毒草の煎じ液も同じだ。けれど、この氷は違う。
水だけが蒸発し、皿には何も残らない。
不純物はなにもない。
……予想通りだわ。
今度は、ちゃんと自分の手で確かめられた。
私が安堵していると、ごそごそとテントから誰かが出てきた。
「ふぁぁ……、プリンちゃん、何をしているの?」
目をこすりながら出てきたクッキーだった。
「あ、ごめんなさい。起こしちゃった?」
クッキーはううん、と首を振って目の前の状況を確認しているようだ。
「あれ、何、プリンちゃんもヒャドを覚えたの?
や、違う何これ、ヒャダルコー!?」
驚いているクッキーに私は先ほどのガレットとのやり取りを伝えた。
「ええ、ガレットって、ヒャドだけじゃなくてヒャダルコの巻物も持ってたの!?
それで、今またオアシスの散策に行ったって?
またきっと何か見つけてくるよ、あいつ。」
私はクッキーにヒャダルコの氷の成分の分析結果を伝えた。
ヒャド系の氷は純度の高い水成分しかない。
だから、きっと飲める。
そう分析の結果を伝えると、クッキーは目を丸くして笑った。
「プ、プリンちゃん本当に調べたの!?
真面目だなあ…!」
おかしそうにけらけらと笑っている。
「本当よ、これ飲み水になるわ」
私は率先してヒャダルコの水を飲んでみせた。飲み味はすっきりしていて、オアシスで頂いた水と変わらない。
私が飲んだのを見てクッキーも水を飲んだ。
「ほんとだね、おいしいオアシスの水と何も変わらない。
プリンちゃんありがとう、助かるよ」
私はその言葉にホッとした。
これで少しは二人の役に立てただろうか?
「プリンちゃんって真面目で頭がいいんだね。
ぼくだったらさ、勝手に飲んで、それでガレットに怒られる。」
「そんなことあるかしら?」
「ぼくねえ、うっかり王子って皆に言われてるよ?
プリンちゃんは?」
仲間になったクッキーはいつも優しいなと思っているが、
本当は随分うっかりなところがあるらしい。
私はどうであろうか?
どう思われてるのであろうか?
「もっとプリンちゃんのこと知りたいなあ。」
考え込んでいると、クッキーが私の顔を見つめていた。
「ぼくの知るプリンちゃんは
いつも一生懸命でまじめで勉強家で、……いつも難しい顔をして、
……悲しそうな顔をしてる。
風の塔でも本当に辛そうだった。」
「あ、あれはまどう老師がひどいことを…。」
風の塔では我がムーンブルク襲撃に加わったまどう老師からの言葉にひどく動揺して、
私は戦いの後、恥も外聞もなく泣いてしまったのだ。
「うん。プリンちゃんを苦しめる魔物はぼくらも許さないよ。」
泣いて喚いて手が付けられなかった私に二人は静かに寄り添ってくれていた。
「でもさ、本当の本当は、プリンちゃんってどんな性格?」
「本当の……私……?」
本当の私ってなんだろう。
そんなことを聞かれたのは初めてだった。
王女としてどうあるべきか。
国のために何をすべきか。
昔も今もそればかり考えて生きてきたのだ。
私自身がどんな人間なのかなど、一度も考えたことがなかった。
なんと答えたら良いのか分からず固まってしまった。
「プリンちゃんの笑った顔も見てみたいな。
きっとかわいいと思うよ。」
「え…… 」
クッキーの真正面からの言葉に、私は頬が真っ赤になってしまった。
この人はすごいことを言うなと思った。
なにか、なにか答えなきゃと思っているところに、
背後から声がかかった。
「おい、寝てろと言った二人が何してんだ……」
「ガレット、おかえり。」
ガレットがオアシスの散策を終えて戻ってきたようだ。
「何か買ってきたの?
良いもの売ってた?」
クッキーはガレットのオアシス散策の戦果を尋ねた。
どうやら、もう店は夜になり閉まっていたようだが、抜け目なく小さなメダルや種を見つけたようだ。
道具屋にも案外強力な武器なんかもあるそうだ。
「良く見つけたね、さすがだねー。」
「もうしまってたが、ふくびき所もあったぞ。
プリンちゃん、明日やってみないか。」
オアシスにはふくびき所もあるらしい。
小さなオアシスなのに娯楽施設もあるなんてすごい。
私はふくびきはやったことがなかった。
「えっ、ふくびきあるの!? ぼくやりたい!」
「お前はダメだ。お前の運の悪さは折り紙つきだ。」
「ええーー! ぼく、今度こそ行けると思うよ!」
クッキーはせっかく挙手して立候補したのに、思いっきり拒絶されている。
「プリンちゃん聞いてくれよ。
こいつ、この前十枚もあった福引券を全部毒けし草に変えたんだ。
信じられないだろう。」
「あれはたまたまだよ! 次こそ当たるって。」
「お前には無理だ。係のおじさんまで困ってただろ。」
けんもほろろなガレットにクッキーはくちびるを尖らせた。
「ふ、ふふっ……」
十連続で毒けし草を引き当てたクッキーの姿が頭に浮かんだ。
どんな様子だったのかと想像して、私は思わず笑ってしまった。
「あ……っ!」
するとクッキーが、すごい勢いでこちらを振り返った。
私はその勢いに慌てて笑みを引っ込めて口を噤んだ。
笑ってしまって、気を悪くさせたのではないだろうか。
「プリンちゃんが、笑ったぁ!!」
「……え」
クッキーは嬉しそうに喜んだ。
心の底から驚いたようで、子どものように目を輝かせている。
その勢いに、私は何事が起きたのかと目を瞬かせた。
そうか……『プリンちゃんの笑った顔も見てみたい。』
さっき、クッキーがそう言ってくれていた。
私……笑えたんだ。
あんなふうに自然に笑えたのは、いつ以来だろう。
ムーンブルクが滅びてから初めてだったかもしれない。
こんな風に笑えるのは、本当に久しぶりだと思う。
「お前、笑われてんだぞ。何喜んでだ。」
「こんな嬉しいことないじゃない…!」
「……は? 変な奴だな。」
ガレットの冷静なツッコミにも負けずにクッキーは嬉しそうだった。
星のない夜を越えて、
二人と歩く明日は、昨日より少しだけ楽しみだと思えた。
あとがき
信じられないですが、全然話が進んでいません。なんなんだこの話。
もっとガリガリストーリーが進むはずだったんですが。あれー。
ってことで、二章が早速1,2話に分かれることになるみたいです(予定)。
今回は3人でのやりとりが書けて楽しかったです~!やっぱり3人旅はいいですね。
ちなみに、クッキー色々言ってますが、全部無自覚ですので、その辺よろしくお願いいたします(笑)
2026.07.13