「暑い……あっついな!もう!」
アレンの悲鳴のような愚痴のような声が船室をこだまする。
「わかってるよ、何度も言わなくても暑いものは暑い。
夏なんだから、そんな事は当たり前なんだよ。」
カインはアレンの文句を聞いてられないという風だ。
「なんだお前、すかした奴だな。
お前暑くねえの……おわ!」
船室の机に突っ伏すようにしてカインもうなだれていた。
「おい。何くらげみたいに脱力してんだ。
大丈夫かよ。」
「僕は暑さに弱いんだよ〜。」
まぁ、カインは確かに暑さに強くない。
「ほら見ろ、やっぱり暑いんだろ。
素直に暑いときは暑いと……。」
「暑い暑いって言わないで〜。
余計暑くなるーー!」
その言葉を聞きたくないとカインは耳を塞いだ。
こうやってこいつは暑さを耐え忍んでいくつもりか。
何か暑さ避けのいい方法はないものか。
「あ!涼しくなるいい方法思いついたぞ。」
「いい方法?」
カインはうなだれたまま、アレンの方を向いた。
「マリアの水の羽衣を借りてくれば良いじゃん。
あれ涼しいんだぜ〜。
俺この前ちょっと拝借したけど、ひんやりして、気持ちよかった〜。
今とか最高じゃね?」
「はい、しゃく、した?」
アレンの言葉に、カインがぎらりと反応して体を起こした。
その勢いにアレンが一瞬たじろいだ。
「ん?うん。
あれ、どんな装備なんだろうって気になってたら、マリアが試しにどう?って〜ってうお、何お前その怖い顔。」
「いや……そう。
マリアがそう言ったんなら……良い……んだけど」
「なんだ、お前も着てみたいのか?
マリアに言ったら貸してくれるぜ?俺、借りてきてやろうか?」
「良いってば、アレン余計なこと言わなくて!
寝るよ!もう。」
この暑いのにカインは布団に潜り込んでしまった。
まだ寝るような時間でもないだろうに。
どうしたものかと思っていると、
ミゲルが船室の扉を開けた。
「いやあ、兄ちゃんたち。
こう暑いと滅入っちまうな。どうだい、近くの港町でやってる夏祭りでも行ってみないかい?」
「夏祭り?」
+++
ミゲルが教えてくれた夏祭りは、
この場所からすぐ近い港町で開催されているそうだ。
「冷たい氷菓子でも食えば、体もまたリフレッシュするんじゃねえか?」
目的地ではなかったが、ちょっとくらいの寄り道は良いだろうと
気分転換にと提案してくれたのだ。
「へええ、良いじゃねえか。なあカイン。
腐って寝てる場合じゃないぜ。マリアも誘って行ってみようぜ。」
「う、うん。行ってみようか。」
アレンは早速マリアも誘って、祭り行きを決めた。
ほどなくして到着した港町に船を定着させ、3人は港町へと降り立った。
町は提灯で彩られ、夜なのに人通りも賑やかだった。
「わあ、夜なのに明るいのね。
小さい子供たちまではしゃいでいるわ。
こういうお祭りがあるのね。」
「ねー。夏祭りだって。
別にルビス様も何も関係なく、ただ夏だから祭りするんだって。
僕初めてだなあ。」
「俺も初めてだ。賑やかで良いじゃん。
町に降りたら、あの船上の暑さもどっかいったな。」
「そうだね。」
無邪気な子供の様に、3人は祭りの楽しそうな雰囲気に胸を躍らせた。
暑さにゆだっていたカインも穏やかな表情をしている。
マリアは水の羽衣を着ているので、もとより見るからに涼やかだ。
「な、カイン。
まだ暑くて茹ってるんだったら、マリアに水の羽衣借りたらどうだ?」
「え?」
「え。」
2人が足を止めた。
「カイン、そんなに暑かったの?
羽衣着てみる?」
「え、いやいやいや!大丈夫だよ!
涼しい風吹いてるもん。やだなあ、アレン何言ってるの!」
水の羽衣を脱ごうとするマリアを押しとどめて、
カインは足早に屋台の方へと向かった。
「なんだあ、あいつ。」
「アレン、どうしたの?カイン、そんなに暑がっていたの?」
「ああ、マリア。
さっきなんて、くらげが茹でタコになったかよってくらい顔真っ赤にして暑がってたぜ。」
「まぁ、そうだったの。
暑いものね。私ばっかりこれを着て申し訳ないわ。」
マリアはカインの方へと駆け寄って、
何やら声をかけている。
が、カインはぶんぶんと首を横に振っている。
どうやら水の羽衣を着てもらおうとしたが、断られたらしい。
どうも、素直じゃないやつだ。マリアの装備だからって意識しているんだろう。
暑いんだから、順番で着れば良いのに。
まぁ、あの頑固な様子だと、どう言っても着ないんだろう。
しょうがない。
違う策を練てやるか。
アレンは、屋台でかき氷を3つ買った。
これで涼しくなるだろう。
ブルーハワイとメロンとイチゴの3つで
ちょうど自分たちの色のようだとアレンは満足げに
カインとマリアの元へと合流した。
「よー。カイン。かき氷買ってきたぞー」
と駆け寄ろうとしたアレンは、豪快に足元の小石に躓いた。
「うわっ。」
「ちょっと、アレン!!何!?」
カインは、アレンの持ってきたかき氷をそのまま頭からかぶってしまった。
三つともだ。
「アレン、何するの〜。びしょ濡れじゃないかー。」
「おわー。悪い、カイン。
でもお前あれだ、色とりどりでカラフルになったぞ。」
「んもう!冗談じゃないよ。
服までびしょ濡れじゃないかー。」
「悪かったってば。
俺だってそのかき氷食いたかったんだぞ。
3人で食おうと思って、なけなしの金で買ったんだぞ。
もう俺金ないんだぞ。」
「そんな被害者みたいに言われましても……。
んもう、じゃあお金は渡すからもう一回買っておいでよ。」
パーティーの財布からいくらか渡すとアレンはうきうきと再度屋台へと向かっていた。
「本当にアレンってばしょうがない人ね……。」
マリアも呆れながら、アレンを見送った。
ふと見るとカインがびしょ濡れのままでどこかへ行こうとしている。
屋台とは違うところだ。船に戻るのでもないらしい。
どこへ行くのだろうか。
マリアははぐれないようにカインについていった。
人気の少ないところまで来ると、
カインはおもむろに服を脱ぎだした。
そしてびしょ濡れの服をぎゅ〜っと絞っている。
「へっくしょん!
あーあ。あんなに暑かったのに、氷まみれになると冷えるなあ。」
そんな言葉を聞くと、マリアは慌ててカインに駆け寄った。
カインは体にふわっとしたぬくもりを感じて、
振り返った。
「わ、マリア!って、これ……!」
「カイン、これ着ていて。冷えたら大変よ。」
「え、え、え……でもこれって。」
「水の羽衣は冷たいだけじゃないのよ。」
マリアの着ていた水の羽衣だ。
こんなのを着ると余計冷えるんじゃないかと思ったが、意外とそんな事はなく。
「マリアのぬくもりを感じる……。」
カインのそんな言い方にマリアの方が顔を赤くした。
「か、風邪を引いたりしたら大変だもの。
乾くまで着ていて。」
「う……うん。」
この真夏の暑さでは塗れた体はすぐに乾くだろうが、
水の羽衣は冷たさだけじゃなくマリアの温かさも感じられ、とにかく最高の着心地だった。
「マリア、ありがとう。
ちょっとだけ、これ借りているね。」
「ええ、大丈夫よ。しばらくはここにいましょう。」
「そ、そうしよっか。」
夜に、町のはずれで、静寂に包まれて、マリアと二人きり。
そのシチュエーションに少しドキドキした。
ドキドキはしたが、その静寂は長くは続かなかった。
「あーー!カイン、なんだよ結局羽衣着てんじゃん!」
アレンが目ざとくカインたちを見つけて、
再度かき氷を買ってやってきた。
「アレン。」
「アレン、今度はもう転ばないでよ。」
「ははは、悪かったな。
ほらこれ。メロンはカインに、イチゴはマリアにだ。」
アレンは手にしたかき氷を2人に手渡した。
「イチゴ?イチゴ味なの?これ」
「そうそう、俺道々に食ってみたけど、うまかったぜー」
確かに食べてみるとしゃりっと冷たくて、とてもおいしかった。
マリアも美味しそうにかき氷をほおばった。
かき氷で火照った体もひんやり落ち着いた。
「なあ、カイン。水の羽衣、着心地良いだろ?」
ぼそっとアレンが尋ねるとカインはうんとうなずいた。
「う、、うん。本当だね。最高だよ。」
その言葉に、やっと素直になったかとアレンはにやっと笑った。
「さ、これ食ったら次は何食う?
焼きそば行こうぜ焼きそば。あ、それとも綿菓子も良いよな。
せっかくの夏祭りだから、楽しもうぜ!」
「んもう、アレンったら、相変わらずね。しょうがないわね。
カイン、もう大丈夫?行く?」
静寂の二人の時間はあっという間に終わったなあとちょっと残念に思いつつ、
マリアの言葉に、カインは笑ってうなずいた。
「うん、せっかくだものね。
夏祭り楽しまなくちゃ。」
- 終 -
2017/08/04
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【後書き】
さまむんゆるわんで夏祭りというお題があったので、書いてみたものです。
「こいつは最高だぜ」もカインに言ってもらいたくて頑張ったんですが、ちょっとあかん(・・;)(そしてそれじゃない)
わんどろ企画なのに小説でスイマセン。
文字数3300程度〜。ひーこらひーこら。