王女マリア

あの日。私の全てが燃やし尽くされた あの日。
それからどれほどの時間が経ったのか、今の私には何も分からない。

私の思考、私の視界、それは全て霧がかかったようで・・

今の私には何も分からない。

ただ私は人の姿をしていない。それだけは分かっていた。

そんな状況でも空腹を感じるらしい。
私は食べるものを探してさ迷い歩いた。

あるときは、軒下に捨てられた残飯をあさったり、湖の水を飲んだり、
運の良い時は人から恵んでもらったり。

真っ白な十字架の飾られたこの建物ではよく食べ物を
恵んでくれたので、私はよくこのそばにいることが多かった。

ある日の朝、いつものように座っている私のそばに二人の
少年が近づいてきた。

それが誰なのか、今の私には考えることは出来ない。

緑の瞳の少年は私と目線を合わせるようにしゃがんだ。

『白い犬、かわいいね。』

『おーいカイン、何やってるんだ。早く行くぞ。』
『う、うん。ねえ、アレン、この子泥だらけだよ。どうしたんだろう。』

でもきっと私はこの人たちを知っている、そしてずっと待っていた、
そんな気がした。

「キャンキャン!」

私は嬉しくなって吠えた。
しかし彼らは急いでいるらしく、どこかへ行かねばならないようだ。

すると緑の少年は、何かを取り出して私に巻きつけた。

『これ妹のマイのなんだよ。綺麗でしょ。かわいくしといてあげるね。』


何を言われているのか、はっきりとは分からない。
でも首に巻かれた暖かさが、とても嬉しかった。

二人はそのまま立ち去ってしまった。

それからはまたいつものように全てに霧がかかってしまった。
また深い闇がやってきたのだ。




***



アレンとカインはムーンペタに帰ってきていた。


二人の手には、丸い大きな鏡があった。
毒の沼で見つけたラーの鏡だ。

最初は真っ黒だった鏡は、磨けば驚くほど輝いた。

「まだいるかなあ。」

二人は白い犬を見かけた教会へと戻ってきた。
しかしそこには何もいないようだった。

「いねえじゃねえか。どこに行ったんだ?」

「大丈夫だよ。僕目印つけておいたんだから。見つかるよ、探そう。」

ため息をつくアレンに、カインは自慢げに言った。
二人はまた犬を捜し求めて、街を捜し歩いた。



***


私はどこともなくさ迷っていた。

あの時の二人に会いたくて、ずっとこの街を歩き続けていた。
あれから一日歩き続けて探し続けた。

しかし見つけられなかった。


私は街の外れに来ていた。ここには湖がある。私はそこに座り込んだ。

一体いつまで当てもなく私は歩き続けなければならないのだろうか。

私は疲れ果てていた。
このまま、二度と立ち上がれないような疲労を感じていた。



そんな時、目の前に影が出来た。

「やっと見つけたぜ、こんな街外れまで来てるなんて、おてんばな奴だな。」

目の前にいたのは青い瞳の少年。


青い瞳の少年が声をかけると、すぐに緑の瞳の少年もやってきた。

「見つけたの!?」

緑の瞳の少年は大喜びで駆け寄ってきた。
「無事で良かった。」

捜し求めていた二人も、私を探していたらしい。




何のために?





「アレン!さぁ、やろうよ。」

緑の少年はまた目線をあわせるようにしゃがみこんだ。




青い少年は、手に持った鏡をこちらに向けた。

鏡には一瞬犬の姿が映った。これが・・今の私・・・。
そう思った瞬間、私は体の異変を感じた。

目の前の霧が晴れる。

犬だった私は、今、人の姿に戻る。
同時に全てを思い出す。
自分が誰であったか。一体、なぜこんな姿をしているのか。

全てはあの日、ハーゴンという悪しき輩が我がムーンブルク城に
やってきたことに始まった。

私は全てを思い出した。

目の前にいる、二人の少年の顔を見た。
私はこの二人も知っていた。

私は久しぶりに人として、声を出した。

「ああ・・・ああ・・・・・まさか、まさか元の姿に戻れるなんて・・・」

久しぶりに喋った声は思いのほか弱弱しいものであった。


見ると、目の前にしゃがみこんだ緑の少年、カインは硬直して真っ赤になっていた。
そうかと思うと、あわあわとキョロキョロ周りを見渡して何かを探している。

「カイン王子?」
目の前の少年に不思議そうに声をかけると、

「うわわ!!こ、これ!着て!」

真っ赤な顔のまま、自分に来ていたマントを引き剥がすように取り外して、
自分に羽織らせてくれた。

犬の姿をしていた自分は何も身につけない生まれたままの姿をしていた。

あられのない姿を見せていたことに気がついた私は周りを見渡した。

「周りには誰もいねーよ。」

見上げると青い少年、アレンも同じく赤い顔をして横を向いていた。


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そんな仕草の二人にマリアはふふっと笑った。

「何笑ってんだよ。お前は・・・。」

「ええ、お二人にはいくら感謝をしてもしきれません。
 私はムーンブルクの王女、マリア。」

マリアは座ったままであったが、二人に頭を下げて感謝の意を表した。

「俺は、ローレシアの王子アレン、そっちのが・・・」

アレンは名を名乗って自己紹介をした。カインの紹介もしようとしたのだが、
ふと見るとカインはマリアを見たまま、また固まっていた。

「そっちのひょろいのがサマルトリアのカインだ。
 以前に会ったことがあるよな?」

「ええ、アレン王子、カイン王子、お久しぶりですわ。」

静止したままのカインの顔を覗き込むと、
カインは目を潤ませてマリアの手をとった。

「生きていて良かった・・・!本当に良かった!!」

「カイン王子・・・」

マリアも目頭が熱くなった。
そんな二人を見て、アレンも嬉しくなったが、いつまでもここにいる訳にもいかず、冷静に言った。

「お前ら、人が来たらまずい。どこか宿にでも移動しようぜ。」
「そうだね。」

アレンとカインに促されて、立ち上がろうとしたが、
長い間の苦難の生活のためか、うまく立ち上がれない。

「大丈夫??」

マリアはカインが指し伸ばした手につかまって立ち上がろうとしたが、
また座り込んでしまった。貧血もひどいようで、目を押さえている。

「・・ご、ごめんなさい・・」

不自由な生活をしてきたのだ。無理もないことで、謝ることではない。
だが、服も着ていない今の状況でここに長居するわけにはいかない。
アレンは少し悩んで、マリアをそのまま抱き上げた。

「ア、アレン王子!」

今度はマリアが顔を真っ赤にした。マントを巻いているが、その中は素肌である。
さすがに恥ずかしい。

「下ろしてください・・っ」
「いいから黙ってろって、王女様。姫を一人抱き上げるくらい軽いもんだ。」

アレンは満足げであるが、
そういう問題ではない・・・とマリアは思い、
カインは自分が代わりたい・・・と思いつつ、

三人は街の宿へと向かったのだった。

- 次章へ続く -

2010/09/29
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やっと出ました〜王女〜。
いやあ、、生ずっぱい感じが何故でしょう。(せめて甘ずっぱいといえ)

まっぱの王女はやりたかった部分です。
すいません。

3人仲良く旅ができるのか、乞うご期待。


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