カインに力づくで押さえつけられるマリア

 不意に、腕を引かれて脇道へと押しやられた。
 力づくで押さえつけられ、マリアはとっさに声を上げようとしたが、その口も手袋をはめた手で塞がれる。
(カイン?)
 いきなりの暴挙に出た旅の連れに非難じみた視線を送ると、
「ごめん、黙って」
 その耳元に囁かれる。カインの眼は、マリアではなく先ほどまで二人が進んでいた通路をじっと睨みつけている。
 そうして、マリアはやっと気づく事が出来たのだ。モンスターの群れの存在に。
 カインは、身を潜めてやり過ごすつもりなのだろう。アレンとはぐれてしまい、おまけに魔法力も残り少ない今、それは多分正しい。
 それにしても、と、マリアは思った。
 押さえつけられた一瞬、どきりとしたのは――敵の存在を察知したせいではない。
 こんな、敵の本拠地近いダンジョンで、ついさっき、あのアレンだって即死してしまったような強敵が潜むダンジョンの奥深くで、カインが「そのような」行動に出るわけがないのに。
 今、真横にあるカインの顔は、険しい。
 マリアの前で、色々な顔を見せてくれる、カイン。
 カインは、いつもマリアの事を助けてくれる。さっきだってドラゴンの炎から、身を挺して守ってくれた。自分が具合の悪い時だって、嵐の海に飛び込んでくれた。それに、そう、あの時も。
 ムーンブルグで、我を失ったマリアを、傷つきながら助けてくれた。
 いつだって、カインは優しい。
 マリアが、特別なわけではない。カインは、誰にだって優しい。
 アレンの我儘だって、いつだって笑顔で許してしまう。そんな優しさが、アレンも気に入っているのだろう。彼も、マリアにはめったに向けない子供じみた一面を、カインには見せる。
 男の子同士って、良いな。そう思ったのは、一度や二度ではない。
 でも、そんな疎外感を感じる度に、カインは必ず笑顔を向けてくれた。そう、必ず。

 それでも、マリアが特別なわけではない。
 口ではなんだかんだと言っていても、妹のマイさんの事はいつも気にしている。故国がハーゴンの呪いを受けた時も、自らの命を縮める事を承知で、その呪いを一身に受けた。
 そこまで考えると、マリアの胸に痛みが蘇る。
 故国を失うのは、とても辛い。特に、旅立っている間にひとりだけ生き残ってしまう悲しさなど、カインには決して味わせたくないと、話を聞いた時にマリアは思った。
 ――それでも、嫌なのだと。カインが、居なくなるのは嫌なのだと。
 あの痛みは、一生消える事はないだろう。

 ばかみたい。
 こっそりと、苦笑する。
 カインは、優しい。誰にだって、優しい。
 いつだって、自分自身より他人を優先する、カイン。
 だからこそ。
 二度と、カインをひとりにしないと、マリアは決めた。世界樹の葉の力で、カインの呪いが解けた時に、そう決めた。勝手に決めた。
 カインから、眼を離さない。彼が無茶をしようとしたら――たとえ、止める事が出来なくても、傍に居ようと。少しでも、力になろうと。
 足手纏いだと言われたって、構わない。ううん。彼には、足手纏いぐらいが、ちょうど良いのだ。きっと「何でそこに居るのさ?」とか思いながらも、彼は全力でマリアを守ってくれるだろう。だから、マリアも彼を全力で守る。お互い様だ。

 マリアが、そんな痛快な想像をしている間に、敵をやり過ごす事が出来たようだ。
 カインが息をついて手の力を緩めた。
「ごめんね、痛かった?」
 アレンに比べると、華奢にすら見えるカインの腕。
 それでも剣を振るい、敵を討ち倒す腕。
 カインは力加減だって、気を付けてくれていた筈だけど。
「少し、ね」
 マリアの答えに、カインは明らかに焦ったようだ。
「わわ、ごめん。大丈夫? どっか痛めた?」
 まるで壊れ物に触れてしまったかのように、わたわたとマリアから離れる、カイン。
 マリアは笑ってしまった。
「う、そ。それより、早くアレンと合流しましょう」

 本当は、もう少しだけ……
 心の片隅に浮かんだ思いを、マリアは無理やり封じた。


 それを、後悔するのは数時間の後となる。 

2013/04/20
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    ふ、再びTMDさまより頂きました。今度はカイマリ小説です!!!
    「カインがマリアを押さえつける」シチュエーションって一体どんな・・・?と思ったんですが、
    自然!これは自然ですねーー!!すごい!!
    なお、時系列順としては「ロンダルキアへの洞窟7」だと言う事です。
    カインマリアがアレンとはぐれた話ですね。ふむふむ、なるほど。
    マリア視点のカインって・・・なんだか切ないんですね〜(涙)。
    そして最後の引きが・・・・泣ーけーる!!!!救い、救いがないーー!!!(すいません、私のせいです/汗)
    そんな2人に幸アレ。。