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夢占い

第一章/城

倫と軍人オスロ、「空飛ぶ」セナを残して、全員部屋の外に出た。

「頭痛い」
夏季が不機嫌な顔をして言った。
「まだ休んでた方がいいんじゃないの?」
哲が言った。
「さっきまではよかったんだけど、あのおじいさんの話聞いていたら……」
「うん。わかるな、それ。もう何も考えたくないよね」
俊が言った。
「帰れない、みたいだね」
こめかみを擦りながら、夏季が言った。
「脅しだろ」
俊が笑いながら言ったが、森で見せた合コン用であろう笑顔が、今回はひきつっていた。
夏季は思った。部屋の中にいる彼らは何らかの目的を持って私たちをさらったのだ。その目的が達成されるまで、解放することはないだろう。誘拐された人質と同じである。ただし彼らには客人を丁寧に扱う準備があるようだし、こちらが承知できる内容かどうかは分からないが、事情の説明もしてくれそうだった。

「なあ、さっきあのプカプカ浮いてる人とママがなんとか言ってたけど、あれってなんのことだ?」
哲が言った。
「なんでもない」
俊は哲の顔を見ずに、小さな声で答えた。
「おかしいよ。なんで会ったばかりなのに、二人にわかる話があるんだ」
「俺にもよくわからない。どうしてあいつがあのことを……」
俊が考え込むように言った。
「あのことって?」
夏季も興味があった。
「別になんだっていいじゃないか!」
人の秘密ほどおいしい蜜はない。夏季と哲は俊の顔をしげしげと見つめた。
「お前ら、年上の顔をそうやってじろじろ見るな」
「年なんて関係ないだろ!」

扉が開いた。

倫が部屋から出て来た。
「次のヒト入れだって」
無愛想にそう言い残すと、スタスタと歩いて行ってしまった。
「おい、どこ行くんだよ!」
俊が呼びかける。倫は歩きながら、頭上で鍵らしきものをチャリチャリと振ってみせた。
「鍵?」
「部屋の鍵じゃない?」
「ほぉ」

「次!」
部屋の中からオスロが呼んだ。
「誰が行く?」
「俺行くよ」
俊が部屋に入った。
「あいつ、うまく逃げたな」
哲が舌打ちした。
「なんだろう、何があったんだろう?」
「ま、どうせ大したことないよ。こういうのってさ、大体期待して損するんだよな。あんなにふつーっぽい人が、そんなおいしい話持ってるとは思えないよな?」
夏季はひとしきりくすくすと笑った。
「ここは安全みたいだな」
「うん。そうみたいだね」
「よく助かったよなぁ、あそこから落ちて」
「あたしもなんだかよく分からない。落ちてる間に気を失って、目を覚ましたら洞窟にいたんだ」
夏季は、包帯に巻かれた左手をさすりながら言った。洞窟の住人カイハの間に合わせの処置が効いたのか、痛みはなかった。
「洞窟?」
「そう。氷で出来ているの。女の人がいてね、出口を教えてくれたんだ」
「はあーん。なんか、まるでおとぎ話だな」
哲はやれやれというふうに天井を見上げた。
「さっきのあれはなんだったの?森で。空が暗くなったかと思ったら、なにか黒いものが……。それから、なんでか知らないけど目の前が真っ白になって」
「ああ。それはあのセナっていう人と、もう1人なんとかっていう人が助けてくれたらしい。俺も目の前が真っ白になって何がなんだか分からなかったけど。で、気付いたらここにいた」
「気付いたら?またワープしちゃったわけ?」
おかしなことが起こり過ぎて、話し合う話題は尽きそうにない。

扉が開いて、俊が出て来た。
「じゃあ、お先。またな」
俊はなぜかとても嬉しそうである。廊下を歩いて行ってしまった。
「お先にどうぞ。」
夏季が哲に促す。
「いいの? じゃあお先に」
夏季と哲は一瞬、笑顔を交わした。
夏季は廊下で1人きりになると、これまでに起こったことを思い返し、頭を駆け巡る考えを整理した。
氷の洞窟で見た狐の耳を持った人間や、宙に浮かぶお団子頭の女など、納得のいかないことは多々あるのだが、オスロという人物がここでの保護者のようであるためか、不安は軽減されていた。彼は全てを把握しているようである。
なにより、この特異な状況にいるのが夏季一人ではないという事実のおかげで、自分が狂っているわけではないことが分かる。もしもあの森で一人きりだったら、今頃自分がどうなっているのか、想像がつかない。しばらく様子を見てみる必要がある、と思った。まあ、『兵士の訓練』なるものは多少気掛かりではあったが……。
しばらくすると、部屋から哲が出て来た。手にはやはり鍵を持ち、哲はそれをしげしげと見つめている。
「どうだった?」
「どうってことない。別に怖くはないから、安心しろよ」
二人はもう一度笑顔を交わした。哲は手を振りながら廊下を歩いて行った。軽く深呼吸をして、夏季も部屋に入った。

「ここに座りなさい」
オスロの目の前に丸椅子か置かれていた。セナはオスロの背後に控えて、宙に浮いている。部屋には窓もなく、1本の松明で照らされ、薄暗い。
「喬松夏季」
「はい」
この人はなぜ自分の名前を知っているのだろうか、と夏季は思った。
「最初に、トラブル続きで済まなかったね。主にセナの相棒の責任でな。彼女には今、罰として外の仕事をやらせている。君は森で、崖から落ちてカイハの洞窟に辿り着いたそうだが」
「はい。生きているのが不思議です」
夏季は正直に言った。
セナが暗がりでクスッと笑う。
「まったくだ。まあ、私が思うに、それも君の力のおかげだろう」
「特別な力、ですか?」
「そう、特別な力だ」
2人はお互いに、相手の思考を探るように見つめ合った。やがて、ひと呼吸おいてから、オスロが言った。
「さて、本題に入る。君は夢を見たかね?」
「夢……。さっきですか?」
夏季は不意を突かれた思いで、少し首を傾げた。
「さっきというか、この国に着いたばかりのことだ」
「ああ。はい、見ました」
「どんな夢を?」
「……まず、わたしのお母さんが出て来て」
夏季は思い出しながら言った。
「ふむ」
「その後が、よく分からないんです」
「詳しく」
「えーと、光が、7つか、8つくらい。小さな光が、だんだんと大きくなっていくんです」
「他には?」
「最後に、馬、かな?なにか黒いものを見ました。よくわかりません……」
「ふむ、そうか。ありがとう」
どのような意味があるのかは分からないが、その夢はたしかに不可解で、不思議なくらいによく覚えていた。それにしても、この人はいったいどんな狙いで人の夢の内容などを訊くのだろう、と夏季は思った。
「君たちには1人につき一部屋が与えられる。これが部屋の鍵だ」
セナがオスロに鍵を手渡し、それを夏季が受け取った。
「兵士の宿舎は、扉を出て廊下を右にまっすぐ。突き当たりに階段が3本あって、左のを上ると女子棟、右を上ると男子棟。まちがえて男子棟に行くとタチの悪いのに出くわすかもしれないから、気をつけなさい」
タチの悪いのってどんなのだろう、と思いながら、言われたことを頭に叩き込んだ。
「私から用があるときは、レナかセナを遣る。あと数時間で夕食だが、それまで城の中を自由に見学してよい。ただし、念を押すようだが、兵士の中には変なやつもいるから気をつけるように。いいかね?」
「はい、わかりました」

「では、また後日」
オスロによる奇妙な面接を終えた夏季は部屋の外に出た。

薄暗い部屋の中には、セナとオスロ師士だけが残っていた。
「決まりですか?」 
セナが言った。
「そのようだな」
オスロ師士は、おもむろに答えた。

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