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合流

第一章/森

「お母さん!!」

「あら、夏季。学校は?」

「あたしね、どうしちゃったんだろう!?」

六季が笑う。

「お父さんに会えるわよ。」

そう言うと、六季は遠くへ行ってしまう。

「やだ、行かないでよ!!」

暗闇だ。ほんとうになにも見えない。自分の姿さえ、自分の手がどこにあるのかもわからない。

急に光が現れた。いくつも、いくつも…。

5、6、

違う、7つだ!

やがて光は一つに集まり、大きくなる。闇を包み込み、全てが真っ白になった。

黒いシルエットが走ってくる。
なんだろう、あれは。

夏季は目を覚ました。
「…?」

ゆっくりと体を起こす。土の上だった。

「なによ、ここ…。」

どこか、森の中のようだ。
(学校に行こうとしたんだけどなぁ。)

よろよろと体を起こし、辺りを見回す。
「ほんとに、ここはどこなの!?」
急に不安になり、どこへ行くともなく、夏季は歩き始めた。
(なにがなんだか分からないよ。こんな森、見たことないし。)

しばらく歩いていると、人の声が聞こえてきた。誰かを呼んでいる様子だ。
夏季は耳をすました。

「…ぉーい!…ないかぁぁ……誰か、いないかぁぁぁ!」

夏季は声がする方へ走っていった。
なぜだか、声を出すのが怖かった。周りが静かすぎる。

「誰かーーー、おーーーい、」

また、同じ声が、今度ははっきりと聞こえた。
叫び続ける声の主に感謝しながら、夏季は走った。
(こっち、こっちよ!)

哲は声の限りに叫び続けていた。
「誰かぁぁーーーー、いないかなぁチクショー。」
目覚めてみたら、森の中にいるではないか。どうやってここまでやって来たのか、記憶がない。この静けさの中でそうするのは気が引けたものの、誰かが見つけてくれるまで叫ぶことにした。

と、近くでがさがさと音がした。
(おっ)
と思った瞬間、女の子が姿を現した。一瞬自宅の前で見た傘の少女かと思ったが、ステッキは持っていなかった。自分と似たような茶色の髪だった。

「ぜー、ぜー。」
夏季は息を継ぐのに忙しくて、声が出せない。

「君、どこから?」
先に話しかけたのは哲だった。
「よ、よく分からない…。あなたは?」
哲は首を傾げた。
「ここはどこ?」
相手も自分と同じ状況だと勘づきながらも、構わず質問を続ける夏季。
「さあね。」
「どこだと思う?」
「富士の樹海とか?」
哲はヤケ気味で、思いつく森の名前を言ってみた。
「わけが分からない。学校に行く途中だったのに、
気付いたら土の上で寝てるんだもの…。」
「…そう。俺も似たようなもんだな。」
哲は、我ながらよく落ち着いていられるなと思った。
あの昼食の後で、なにもかもがどうでもよくなっていたのかもしれない。

二人はしばらく黙って考えた。
「なあ、女の子を見なかった?」
突然、哲が言った。
「…どういう?」
「ここに来る前に。背はちょうど君くらいだったと思う。」
「見てない…と思うけど。」
「そうか。変だったんだ。雨の中突っ立ってたら、いきなり傘が降ってきて。それからその女が名前を訊いてきたんだ。その後から記憶がないんだけど。」
「ふうん。そうなんだ…。」
夏季には哲の説明がいまいちよく分からなかった。


「…ぃ」

二人はハッと顔を見合わせた。
「今の、聞こえた?」
「ああ。」

「…ぉーい!」
(誰かいる!)
お互いの目がそう言っていた。

「ほかにも誰かいるみたいだ。探しに行ってみようか。」
「うん、そうしよう!」

二人はかすかに聞こえる声を頼りに、森林をかき分けて行った。
だんだん声は大きくなっていく。

「こっち、こっちよーーーー!」
「おーーーーい、ここだーーーーー!」
夏季たちも叫んでみた。

一瞬相手の声が途切れ、それからまた始まった。
「…誰か、いるのかーーー?」

夏季たちは自然と急ぎ足になる。

やがて、森が開けた場所で相手を見つけた。

相手も男女二人組だった。

「よう。あんたたち、何してんだ?」
背の高い黒髪の男が声を掛けてきた。
「何してるって訊かれてもなあ。気付いたらここにいたんだ。」
「あんたも?」
「そう。」
夏季も答えた。

「参ったな。4人とも記憶喪失なんて。」
「別に記憶をなくしたわけではないでしょ。」
こちらも黒髪の、女が初めて口を開いた。なぜか、怒っている様子だ。
「そうかりかりしなくてもいいだろ。」
黒髪の男が答える。

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