77.既視感


「16歳になったら、僕は王様のところに行くんだよ!」

そう語っている少年がいた。

自分より背が小さいくらいだ。
でも目がキラキラと輝いている。
希望にあふれているとはこの事だろう。

見たことも会ったこともない。
でも、どこかで知っているような気がした。

「君は、誰?」

カインは思わず、その少年に尋ねた。
何故だか、とても気になった。


*****


カインが何かを喋った気がして、
アレンはカインの顔を覗きこんだ。

時刻は夜更けだ。

「カイン何か言ったか?」

アレンがそう尋ねると、カインはうっすらと目を開けた。

「お、目開けたか?
 何かほしいものあるか?」

カインは熱を出して寝込んでいた。

戦闘中に怪我をしたのだ。
応急処置だけして旅を続けていたが、
しばらくして熱を出した。

マリアはすぐに怪我を治さなかったからだと
少し反省していたようだが、
まぁ、それほど騒ぐ事態でもない。

見つけた洞穴でアレンたちは休息を取ることにしたのだった。

魔法力を回復させる必要のあるマリアは
先に既に休ませている。

カインはじーっとアレンを見つめていたが、しばらくして口を開いた。

「・・・・・・君は・・16歳でお城に行ったんだっけ?」

「は?」

アレンは思わず聞き返した。

「違うよね、アレンは王子様だもんね。
 ずっとお城にいたんだもんね。」

「何?なに言ってるんだ?」

「・・・気になるなあ・・・・。」

そう言うとカインはまたすーっと眠ってしまった。
アレンは呆然としながら、
お前の方が気になるわ、と目を点にしていた。


***


カインはきょろきょろと周りを見渡した。
ここは森の中のようだ。
立派なお城がはるか後方に見える。

あれがさっきの彼が目指していたお城だろうか。

不思議なことに、この場所がどこなのか、
カインには全く分からないのだが、
それが全然気にならなかった。

それより、きっと彼はここにいる。

何故だかそんな直感に駆られて
走り出すと、気の木陰で人の気配を感じた。

「あっ!」

思わず叫んでしまって、慌てて口を押さえた。
危ない危ない。

少年を見つけたのだ。

その少年は剣を振っているかと思うと、
今度は魔法の詠唱を始めたりと、中々忙しかった。

『何してるんだろう、一人で修行してるのかな』

不思議に思ったが、どうやらそれは正解らしかった。

次の日も、
少年はそうやって一人で剣を振るっていた。

『うーん・・・』

仲間がいないのかな・・・。
なんで一人でいつも修行をしてるんだろう?

僕だったら剣はアレンに、魔法はマリアと一緒に修行してるから
それって結構一人でやるより効率が良いと思うのにな。

どうしてもカインは少年の事が気になってしまっているようだった。
思い切って話しかけてみようと思った。

「こんにちは〜。」

「わっ!!!?」

おそるおそる話しかけると、
少年は集中しきっていたのか、思いっきり飛びのいて驚いた。
そして仰け反ったあまり、背後の木にぶつかっていた。

「え・・・。そんなに驚かなくても・・・。」

「びっくりした、びっくりした!!誰ですか!」

「あ、こんにちはじゃなくて、夜だからこんばんはだね。
 こんばんは、カインって言います。」

「ああ、そうですか。こんばんは・・。じゃなくって!!」

少年はまだ驚いているようだ。

「なんだかいつも一人で修行しているようだったから、
 話しかけてみたんだ。良かったら、一緒にやろうよ。」

「ええ・・!?いや、そんな事より、もう夜ですよ。危ないですよ。
 早く家に帰った方が良いですよ!」

少年はカインに家に帰るように説得し始めた。
なるほど・・・、そりゃあこんな夜更けに森の中だ。
魔物だって出るもの、危ない。

それでも少年はカインよりも年下だし、
一人で剣を振るう姿はあまり頼りなく見えた。
心配されるより、こっちの方が心配だった。

「それだったら、あなたも家に帰ったらどうですか?
 家はあそこの・・・お城のそばにあるんじゃないですか?」

カインはそう言って、はるか遠くに見える城を指差した。

「家には帰りません。僕は旅に出たんだから。」

「何の旅に?」

「父を探しているんだ。
 父さんは多くの魔物を倒して、
 はるか遠くの火山の果てに消えたって言うけど、
 僕は絶対に生きてると信じてるんだ。」

「・・・・・そうなんだ。」

少年のまっすぐな瞳には、それを信じる力があった。

「でも一人旅は危なくない?
 旅には仲間がいた方が良いと思うけど・・。」

カインは自分の二人の仲間を思った。
アレンとマリアは自分に無いものを持っている。
だからこそ三人でカバーしあって、旅が出来ているのだ。

「仲間?いるさ、3人いる。」

少年はそう言って腕を組んで目をそらした。

「それなら良いけど・・・どうしたの?」

「僕は3人を引っ張らないといけないのに、
 剣は戦士に、魔法は魔法使いに負けてるんだ・・。」

そう言ってから、少年はハッと恥ずかしそうに口を噤んだ。
何故そんな事までぺらぺらと話してしまったのかと、
恥ずかしくなったようだ。

「それで一人で修行してたんだ〜」

「悪いか!分かったら放っておいてくれ!」

少年は顔を赤くしながら、どこかへ去ろうとした。
だが、カインはその手を掴んだ。
どこか他人の気がしない少年を放っておけなかったのだ。

「なんだか、どっかで聞いたことあるような台詞だよ。
 僕もそれ、すっごい思い当たる。
 良かったら、一緒に仲間に内緒でこっそり修行しようよ。」

にっこり笑ってカインがそう告げた。




まだ旅を始めて間もないらしい少年だったが
決して覚えが悪いわけではなかった。

魔法の方は小さな炎が起こせ、
ホイミも使えるようだった。

カインは思わず、くすっと笑った。

「本当に僕みたいだね。」

「え?」

どうやら聞くところによると
仲間は早くも炎だけでなく氷の魔法も
補助魔法も使えるらしい。

「ふーん、すごい仲間がいるんだ。
 なんか、本当どっかで聞いたような話だよ。」

「だから、何がだよ?」

少年は不満げに口を尖らせた。
魔法使いに比べて、あまりに才能がないんじゃないかと
思っているらしい。

だが、カインが一度目の前でベギラマをやって見せると
少年はすぐに、よく似た閃熱の魔法を使って見せた。

「ほら〜〜、カインに比べて、こんなに小さい魔法しか出ない。」

少年は悔しがっているが、きっと今のはギラだ。
見よう見まねでやって見せた才能は、すごいものだった。

「あんまり気にしなくて良いんじゃないかな・・。
 まだ16才でしょ?
 きっとどんどん覚えられると思うけど・・。」

「そうかなあ・・・。悔しいなあ。
 僕はいつか僕にしかできない魔法を
 使えるようになりたいって考えてるんだ。」

カインはその言葉にごくりと息を呑んだ。
やっぱり少年はただものではない。

「きっと君なら出来ると思うよ。」

カインはそう答えた。


そして剣の方も決して筋は悪くなかった。
いや、悪くないどころではなかった。
どんどん素早く、そして剣筋が重くなっていく。

『まだ荒いって感じだけど・・・
 この剣筋・・なんだか・・・アレンみたい・・・』

いつもアレンと剣を合わせてる時のような
そんな錯覚すら感じた。

「隙あり!!」

カインがぼんやり何となくそんな事を考えていると
少年が激しく剣を振るってきた。
思わず体勢を崩してカインは尻餅をついた。

「やった!やった!!カインから一本取った!」

少年は喜んでその場で飛び跳ねた。

「・・・・・・・・。」

カインは驚いて少年を見上げていた。
なんだ、なんだ?
最初は一人で修行するなんて健気な少年だなと思ったが、
それは違った。

強い。
本当に強い。

彼は本物だった。

「おかげで今夜はなんか充実した気がする。
 なぁカイン、明日も一緒に修行しようぜ!!」

少年はすっかり自分に懐いてくれたようだ。
その人懐っこさ、やっぱり何だか他人の気がしない。

「う、うん・・・。」

カインはお尻についた泥を払って立ち上がった。


「ねぇ、聞いていい?
 君の名前は?」


カインの問いに少年は笑顔で答えた。


「名前?名前は、アレルって言うんだ。」



その言葉を聞いた途端・・・

急に暗かった視界がぱあっと開けた。

「・・!?」

森の中だったはずが、
急にどこかの町になったり、ダンジョンの中に入ったり。

視界がどんどん目まぐるしく動いていく。
最初は何も考える暇も無かった。

次は船に乗った。
世界中の航海の始まりだ。

「・・・・・・これ・・・・って」

少年が、アレルが、すぐそばにいるのが分かっているのに
声を掛けることも出来ない。アレルもこちらを見ることは無かった。
そしてどんどん場面が変わっていく。

数々の戦いを経て、どんどん少年が逞しくなっていくのを感じた。

いつしか彼らは、どこかのとある沼地にある
闇より深い大穴へと飛び込んでいった。

闇の下には新たな世界が存在した。

でも、カインには何故か新たな世界の方が
懐かしく感じられた。

「上の世界から来たんだね。
 ようこそ、ここは地下世界アレフガルド。」

少年が目の前にいる女性にそう説明をされている。
いや、少年などと言うのは最早失礼だろう。
彼はすっかり逞しくなっていた。大人になっていた。
背丈も伸び、体格もがっしりとしている。

「アレフガルド・・・、聞いたことが無いわ。」

「バラモスよりも強敵がいるのか・・・。」

「私達、帰れるのかしら?」

不安を口にする仲間達をアレルは一喝した。

「大丈夫だ!俺達はずっとあれだけの苦難を共にしてきた。
 それに、バラモスだって倒したんだ!
 きっと俺達なら戦っていけるさ!!」

口調も大人らしくなって、
自分の事も俺と言うようになったらしい。

以前、「仲間の方が強い」と悔しがっていた姿とは違い、
仲間を一喝できる強さを持っていた。

驚くほどの成長ぶりだ。

そして、彼らがやって来た場所と、口にする言葉。
カインが小さい頃から聞いていた話と同じだった。
ずっとずっと毎日のように聞いてきた。

だから、既視感すら感じる。

これは、勇者ロトの御伽噺だ。

『ああ・・・彼は・・・本当に、本物だったんだ・・』

でも彼は僕の事をカインと呼んでくれていた。
どう言う事だろう?

カインがそう思うと、視界が再度激しく揺さぶられた。
意識すらも飛んでいきそうになる寸前に
逞しく成長したアレルが、大きな闇に向かっていく所が見えた。

『自分にしか使えない魔法を使えるようになりたい』

そう言っていたアレルは、ただ一人、
巨大な雷光の魔法を唱えていた。

あんな小さな炎しか出せなかったのに・・。

最後まで、勇者の戦いを見届けたいと思ったカインであったが、
どんどん視界は閉ざされて、平衡感覚すら無くしていった。



****

「おい!!おいってば!!!」

覗き込んでいるのは、先ほどの少年とよく似た
アレンの瞳だった。
マリアもすぐ傍で心配そうに覗き込んでいた。

回りは明るくて、とてもすっきりとした朝を迎えていた。
だが、カインは残念そうに嘆いた。

「ちょっと、もう〜。起こさないでよ〜。」

「はぁ?もう何時だと思ってるんだよ!!
 昼だぞ!お前全然起きないから・・・!俺達心配して!」

「なんだか魘されてるようだったから起こしたんだけど、
 もう大丈夫なの?」

どうやらアレンとマリアには心配をかけていたらしい。
そう言えば自分は熱を出していた。

だから、熱のせいで浮かされてみた幻の夢だったんだろうか・・。

そうかもしれないけど・・・。
だけど、彼は僕の名前を呼んでくれた!
夢かもしれないけど。いや、どう考えても夢だけど。

でも、これは絶対忘れられない。

「なんだよ、ニヤニヤして。お前変だぞ。
 いつもだけど。」

アレンは起きるなりニヤニヤと笑いの止まらないカインに
若干引いているようだった。

「カインどうしたの?何か良い夢でも見たの?」

不思議そうに聞いてくるマリアに、
カインは笑って答えた。

「えへへ。うん、聞いて。不思議な夢を見たんだよ〜。」


- 終 -

2012/10/15

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  リクエスト小説です。「怪我を負い、高熱を出した時に他のDQ世界の事を夢で見るカインのお話。」
  はい、奇想天外な話ですけど、結構リクエストに忠実にやったつもりですよ!!(笑)
  カインと3勇者を絡めて見たいと言う夢もあったので、やらせてもらいました!
  3勇者って、成長しすぎて1人称すら変わってる印象があります。
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