「ここは・・・どこだ?」
俺とカインは魔物の怪しい魔法によって、
どこだか分からない場所へ吹っ飛ばされていた。
相手を吹き飛ばす魔法があるって言うのは
知らなかった。
「おい、起きろよ。」
隣に横たわったままのカインを揺り起こした。
「うー・・・ん。」
カインは目を擦って、ゆっくり起き上がった。
「なあ、お前ここがどこか分かるか?
マリアは一緒には来なかったようだな・・・。」
「・・・・・ん?」
カインは左右を見渡している。
見覚えがある場所かどうか考えているんだろう。
「んんんー???」
眉をひそめて、必死に考えている様子だ。
そうそう、どっかで見たことがあるような気がするんだよな・・・。
「どこだっけ?」
結局分からなかったらしい。
「なんかむかーし見たことがあるような気がするんだ。
ま、良いか。別にどこでも。」
「気にしなくて良いの?」
「どこでも関係ねえや。
ルーラして戻れば良いんだもんな。」
「ふーん・・・君が?」
素っ頓狂な顔をして尋ねたカインだったが、
俺も素っ頓狂な顔をしていた事だろう。
「君はルーラを使えるんだ。」
へー・・・という顔でこっちを見ている。
いや、なんだこのボケは。
たまに悪意無くボケるから始末に悪いんだ、こいつは。
「俺がやるわけ無いだろう。
お前だろ、お前。ルーラは得意なんだろ?」
「えーーーー、そうなの?
僕ルーラ得意なの?」
・・・・・・・。
いい加減、付き合ってやる気がなくなった。
何言ってるんだこいつ?
「お前ふざけてるんだったら、ぶつぞ?」
俺は拳を握り締めて、カインを殴りつける真似をした。
すると、カインは顔を青くしてわわわと逃げ出しそうとした。
「おい!逃げんなよ。バカ!」
「だって、君殴ろうとするじゃないか!」
「えーい!こんな事でびびんなよ!」
逃げようとするカインの襟を捕まえた。
首が締め付けられ、ぐえっと悲鳴が口から漏れた。
「こんな事やってる時間無いの!
俺は早く帰りたいの。」
「あ、じゃあ、ここでお別れという事で。」
軽く会釈しながら、カインはすごすごとどこかへ行こうとする。
「おい。待てって!もう!!
お前ここがどこだか、分かってるのか!?」
俺が思わず尋ねたその問いに、
カインは驚くべきことを答えた。
「ここがどこだかなんて分かんないし、
君が誰かも知らないよ。」
「!?」
俺は返す言葉も無かった。
いや、だって何て答えれば良いと思う?
「なんで見ず知らずの人に殴られ
怒鳴れなきゃいけないんだろ。」
どうやらカインは不服そうにしている。
待て待て不服なのは俺だ。
見ず知らずの人ってどういうことだよ。
だが努めて冷静に再度尋ねた。
「お前、自分の名前は?」
「え、名前?それは・・・えーっと・・・えーっと・・・。」
徐々に首が横になって、次第に頭を抱えだした。
そしてあれーー?と言う表情で言った。
「なんだっけ?」 と。
こいつ、いつの間に頭打ったんだっけ?と、
俺もあの時は盛大に頭を抱えさせてもらったね。
ひょっとして吹っ飛ばされた後遺症ってやつかー?
****
「ふーん、じゃあ、君は僕の仲間なの?」
「『君』じゃなくて、名前も覚えろよ。
アレンだよアレン。そんでお前の名前はカイン。」
「アレンだね。分かった。
アレンは僕の仲間・・・と。
それで、僕の名前はカイン・・と。」
どうやらカインは何もかも忘れているらしい。
それにも気づかず慌てることも無く、
一人でどっかに逃げようとするなんて、ある意味のんき過ぎやしないか?
「じゃあ、僕逃げなくて良いんだ〜。
なんだか怖そうな人が横にいたから、どうしようかと思った。」
カインは胸をなでおろしている。
「今のお前が逃げたら、きっといつも以上に
始末におえねえ気がするから、そばにいろよ。」
「うん、分かった〜。」
納得したら、カインはとても素直にアレンに従った。
「で、話は戻るけど、ルーラして帰ろうぜって話だ。
お前ルーラしてくれよ。」
「ルーラね〜。ルーラはねえ、うん。移動する魔法。
知ってる知ってる。」
嬉しそうにうんうんと、カインはルーラを語った。
「ご存知なようで、何よりだよ。
じゃあ、よろしく。」
「え、僕がやるの?どうやって?」
さっきから何度かこう言うやり取りをしている気がする。
魔法まで忘れてるらしい。
大丈夫なのか、こいつ・・・。
「ねえ、じゃあやってみるからやり方を教えてよ!」
だが妙に前向きにうきうきとした顔で
俺に話しかけてくる。
悪いが、教えられるわけが無い。
「俺は使えねーの。
魔法のやり方なんてひとっつも知らねーよ!
俺はこっちが専門分野。」
俺は携えた武器をカインに見せた。
武器を見て、おおお・・・と眩しそうな顔をするカイン。
「へ〜〜そうなのか。
アレンは戦士なんだね。で、僕は魔法使いかあ。」
「魔法使いって言うのも何か違う気がするけどなあ。」
「そうなの?」
よく分からないと言った顔をしている。
魔法使いって言ったらマリアの方だろうな、と俺は思う。
「でも、ごめんね。僕がルーラを使わなかったら
帰れないんでしょう?」
申し訳なさそうなカインに、俺は少し考えて首を振った。
「大丈夫だろ。キメラの翼を買いに行けば何とかなるだろ。」
俺はカインを連れて、近場の街を探すことにした。
やはりと言うか何と言うか、
魔法をすっかり忘れているカインは
戦いもどう参加すれば良いのか分からないらしい。
「アレン、がんばれー!がんばれーー!!」
一歩引いたところから、応援団のようになってしまっている。
おかげで魔物たちはほとんど俺が倒すことになってしまった。
まぁ幸いにこの辺の魔物は対して強くないから助かる。
「アレンは強いんだねえー。すっごいなあ。かっこいいなあ。」
ぱあっと目を輝かせて、俺の戦いを見守っている。
確かに出会ってすぐのカインは、
こんなんだったかなあと懐かしく思ったが、
でも本当はこんなんじゃないって俺は知ってる。
「お前だって戦えるんだぞ。何のためにその腰には剣があるんだよ。」
「う・・・ん。分かってる。」
カインは先ほどから何度か
恐る恐る自分の持ってる剣の柄を触っている。
それが何なのか嫌が応でも考えずにはいられないのだろう。
俺はそれ以上は何も言わなかった。
森の中で木々が生い茂り、
見通しが少し悪いところで、俺たちは魔物に遭遇した。
しかし、この辺の敵は対して強くない。
大体魔物って言うのは地域によって生息する分布が決まっている。
って事は・・・・・・、この見覚えのある魔物がいるってことは
地域も推定できるってことだ。
俺はそんな事を考えながら、
一撃の元に魔物を斬り捨てていく。
敵は強くない。
そんな油断がいけなかったらしい。
完全に死角になっている岩場に魔物が潜んでいた。
不意を付かれたその魔物の背後からの一撃に
俺は背中に鈍い痛みを感じた。
「いてっ!!!」
思わず、倒れこむと、魔物が攻め込んできた。
ええい、小物どもが勢いだつと面倒くさいんだよなと
思ったとき・・
「アレン!!」
カインが俺に向かってダイブしてきた。
「ええええ・・・???!」
俺は体当たり食らわす相手が違うじゃないかと思った。
さらに言うとここは岩場。
一気にバランスを崩した俺たちは岩場から落ちていったのであった。
落ちた先に魔物が追ってくることはなかった。
しかし、また岩場を登って行かねばならなくなり、
急いでいると言うのに、かなりの遠回りになってしまった。
「・・・・・・。」
「ご、ごめん。」
カインが小さくなっている。
どうやら名目としては、
颯爽と俺を助けようとしたらしい。
・・・・・・・。
まぁ意気込みは認めようじゃないか。
本来のカインだったら、もうちょっとスマートにギラでも使うか
剣でだって十分倒せる相手だろうが、
そこは、そこ。
今のカインにそれを求めても仕方ない。
「まーー。いいよ。
既に遠回りしてる旅だ。多少更に遠回りになっても
変わりゃしねえ。」
とりあえず、元の場所に戻ろうと
俺は立ち上がった。
「ほら、行くぞ。」
「う、うん。」
あわてて釣られて立ち上がったカインだったが、
「痛!」と再びしゃがみこんだ。
足首を押さえている。
「はーーーー????
足をくじいた?」
「め・・・面目ない・・・・。」
「マジでか。
ドンくさ!いつにも増してドンくさいな!!」
さすがに呆れた俺は大仰にそう言った。
カインは少し複雑な顔をして、足を庇うようにして
再度立ち上がった。
「バカでごめん・・。何から何まで。
これくらい何ともないから、先へ行こう!」
あれだけ目をきらきらさせていたカインは
見る影も無く、凹んでいた。
意地を張って歩こうとするが、
こんな風に足を引きずっていては
さらに到着が遅くなるだろう。
俺はカインを抱きかかえることにした。
「わわ、わわわ!アレン!?」
「じっとしてろ。
悪いけど、俺はホイミも出来ないんだ。
とっとと街に行って薬草買おうぜ。」
「そ、そんなの良いよ。アレン重たいでしょ!?」
「お前くらい軽いもんだ。俺の筋肉なめんなよ。」
実際問題こんな細腰の人間一人抱えるくらい訳無い。
俺は岩を登って行った。
「ね、ねえ。
やっぱりこんな所僕なんか連れて行ったら足手まといだよ。
置いていってよ。アレンだけだったら簡単にいけるよ。」
「ほーーー。そういう事、言うか。
どこの世界のカインもそう言うもんなんかねえ。」
「???どういう意味??」
カインの提案は軽く無視しておいた。
岩場は確かに急だが、一気に登ることにした。
「無駄口叩いてて、舌噛んでも責任持たないぞ。
口閉じてろ。」
「−−−っ。」
不満げな様子だがカインは素直に口を噤んだ。
俺は一気に飛び上がると、先ほどの地点まで戻った。
魔物たちは散会していたようだ。良かった。
「ほら、着いたし。」
「すっごい・・・。
あ、ありがとう。ごめんね。ありがとうアレン。」
カインは礼を言うとぎゅーっと俺を抱きしめてきた。
感謝の気持ちなんだろうが、
申し訳ないが、それが先ほど魔物にやられた傷に響いた。
「カイン、ちょ、ちょっとそれ痛い。」
「え!?背中怪我してるじゃないか!」
カインは傷の具合を見ようと背中に回った。
どうやらじわーーっと血がにじんでいるようだった。
「まぁ、どうってことない。先へ行こうぜ。
とりあえずとっとと街だ街。
俺、ここがどの辺か分かったんだ。」
「待ってよ。アレン。
傷治さなきゃ。」
「っても薬草は無いんだぞ。」
俺は道具袋をひっくり返して見たが埃しか出てこない。
「ねえ、アレン。僕って魔法使いなんでしょ?
ホイミ、できてたんだよね?」
「あ?ああ、そりゃあもう。出来るのか?魔法。」
「大丈夫。って、し、失敗したらごめんね。」
カインはひどく緊張した面持ちで息を呑んで
魔法を唱えようとした。
その余りに真剣な様子に俺は悪いと思いつつ笑ってしまった。
「ア、アレン?なんで笑うの?
なんか間違ってるかな、僕。」
その不満そうで不安そうな顔は、やっぱり見覚えのあるカインの顔だ。
俺はホイミのやり方なんて知らないけど、まず大丈夫だと思った。
そう言う時のカインは意外と失敗しないんだ。
そう思って、俺は笑った。
「気にするな。やってみなよ。」
腑に落ちない様子でカインは言われたとおりホイミを唱えた。
カインは俺の背中側にいるから魔法がどうなったのか見えないが、
それでも傷がどんどん癒されていくのが分かる。
「わ、出来た。ほんとに出来た。」
「な。それがお前の魔法だよ。」
って、よく原理は分からないんだけど、
久方ぶりにカインの魔法が見れて、俺もちょっとほっとした。
本人もそうだったらしい。
再度試しとばかりに、自分の足にホイミをしてみて
傷を治したのだった。
「治ったー。ほんものの魔法だーー。」
どこかボケた発言をしながら、カインはぴょんぴょん片足立ちなどしている。
「ほら、さっさと行こうぜ。
だらだらしてたら、またお姫様抱っこするぜー。」
「もう、大丈夫だよ〜。」
明るく笑うカインは、少しずつ自分を取り戻して行った。
街に向かうまでの戦闘ではギラも使ったし、
剣での戦いもできるようになってきた。
俺とアイコンタクトが取れるようになると
一気に攻め込んだり、
逆にフォローに徹したりと、様々な戦いができるようになった。
「良い感じになってきたんじゃねえか。俺たち。」
「うん!そうだね!アレンといれば、どんな敵とも戦えそう!」
「そんな単純な話でもないけどなー。」
動きは取り戻しつつあるカインであったが、
まだ記憶は戻っていないようだった。
まぁ、慌てることは無いと思っていた。
こいつがカインであることに代わりは無い。
***
そして俺たちはようやく目的の街にたどり着いた。
ここは来たことのある思い入れのある街だ。
道に迷うようなことも無かった。
「やっと着いたなー。」
「わぁ、にぎやかだね〜。
って、ここ・・って・・・。」
街の中は賑わっていた。
なんか祭りでもやってるのかもしれない。
だが、そんなことはどうでも良い。
俺たちの目的は道具屋でキメラの翼を買うことだ。
そう思っていたから、
俺は何も言わなくてもカインが後ろに
着いてきているものだと思っていた。
キメラの翼を無事に道具屋で購入して、
ふと振り返るとカインがいなくなっていた。
「え!?おい。カイン!?」
見渡して視野に入る範囲にはカインの姿は
見えなかった。
「うっそだろ。おい、これで帰れるんだぞ!?」
まさかこんな所で迷子になるとは思わなかった。
どこまでドンくさいのだ、あいつは・・・。
大方、祭りの催しに浮かれて着いていってしまったのだろうと思って、
行ってみたが、そこにはカインはいなかった。
「いねえ・・・。」
仕方なく俺は街の中を捜し歩いた。
せっかくここまで来たんだ。
「あのカイン」とも信頼関係を築けたきた。
やっぱりあいつは良い奴なんだ。
ちょっと・・・かなりドンくさいけど。
こんな街で別れるなんて冗談じゃない。
だって、この街は・・・。
俺はそこまで考えて、ふとある事を思いついた。
そうだ、この街は・・・、あいつだって良く知ってるはずなんだ。
自然と足がそっちに向いてるかもしれない。
俺はある店へと向かった。
「INN」の看板があるこの店は、忘れようったって忘れらない。
ほら、思ったとおりだ。
カインは、そこにいた。
「見つけた・・・・!」
カインは、こちらを見ると懐かしそうに笑った。
「あはは、探しましたよ。ねぇ、ローレシアの王子。」
「探しましたよ、じゃねーー!!
お前はいっつもいっつもいっつもいっつも!!」
「痛い痛い痛い!」
カインのこめかみを挟んでぐりぐり攻撃してやった。
「アレンのことだから、きっとここに来れば会えると思ったんだよー。」
「俺がどんだけ探したと思ってんだよ!」
「ごめん。本当に。
アレン、キメラの翼買って来てくれたんだね。」
俺は道具袋からキメラの翼を取り出した。
「そうだよ!これ見ろよ。」
「ありがとう。でももう、それ要らないよ。」
「あん?」
俺は怪訝な顔をしていただろう。
だって、これを目的に旅をしていたのに、
要らなくなったって、ちょっとこいつひどいと思わないか?
だけどカインは至って穏やかに言った。
「ルーラで帰れば良いよ。
マリアが待ってる。ごめんね、本当に。」
「マ・・・リアって。」
俺はマリアの事はこいつに喋っていなかった。
今は喋る必要が無いと思ったからだ。
「思い出したのか!?」
俺はカインの肩をつかんだ。
「うん。この街に着いたときから、なんか気になってたんだけど、
この宿に来たら思い出したよ。
ここから、僕らの旅が始まったよね。」
「あ・・・ああ。」
そうだ、ここは俺たちが出会った街、リリザだ。
さすがに、ここに来たらカインも記憶を揺り動かされたようだ。
「そりゃ良かったよ。」
ああ、一安心だ。これで元通り。
でも、これであの目をきらきら輝かせて俺を見ていた
「あのカイン」との旅は終わりって事だ。
俺は、そう思ってため息を一つついた。
そんな俺に、カインは一言付け加えた。
「でも、アレン。本当にかっこ良かったよ。
惚れ直したよ〜。」
ふふっと悪戯そうな顔でカインはそう言った。
- 終 -
2012/03/12
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