カインは目印だった大木に戻ってきて、不思議に思った。
『飯食ったら寝ようぜ〜。飯は食ってからな!』
出かける前、アレンは確かそう言っていた。
食事の用意をしようという事で、
僕は少しその場を離れていたのだ。
それなのにアレンが食事も取らずに眠っている。
「めっずらしいなあ。ご飯食べずに寝るなんて。
せっかく食料もらってきたのに。」
食料を探しに行くと、近くに小屋があり、少し分けてもらえたのだ。
「これだけあれば、結構色々作れたのになあ。」
はぁ・・とため息をついた。
まぁ、疲れて寝ているのだとすれば、
無理に起こすのもかわいそうだ。
「あら?どうしたの?」
マリアも戻ってきた。
桶にいっぱいの水を汲んできてくれていた。
「アレン寝ちゃったの?」
「そうみたい。」
マリアも空腹より眠気に負けて眠るアレンなんて珍しいと思っているようだ。
「まぁ、休ませておこうよ。
とりあえず適当になんか作るね。」
僕はいつものように、
もらってきた食材を適当に切って
適当な調味料とそれらを混ぜて鍋に入れた。
しばらくするとグツグツと鍋から良い匂いがしてきた。
「そろそろ食べごろだね。
はい、マリアどうぞ。」
マリアのお皿によそうと、
僕らは二人で食事を取る事にした。
「適当に作ったけど、まぁまぁ食べれるねえ。」
「おいしいわよ。」
マリアはにっこりと笑っている。
その様子に僕も嬉しくなった。
野宿ではあるが、今日も平和にご飯も食べられて良かった。
食べたら寝て明日に備えよう・・と思ったとき、
背後で寝ていたはずのアレンがごそごそと起き出した。
「・・・・なんか・・良い匂いがする・・・。」
「ア、アレン。おはようって、夜だけど。」
アレンはそれに答えずに、
まだ火にくべられている鍋の元へやってきた。
「うまそうじゃん。マリア、俺の分は?」
「え?ええ。あるわよ。」
マリアはアレンの分をよそってやると、
アレンは無言でむしゃむしゃと食べ始めた。
「なんだ、アレン寝たんじゃなかったの?」
僕がそう聞くとアレンはちらっと僕の方を見たが、
怪訝な顔をして、何も答えず、皿の中身を一気に平らげた。
「うめーー。これ、うまいな。もっとくれよ。」
アレンは、再度皿をマリアに差し出した。
マリアは戸惑いつつも、鍋の中身を全てアレンに入れてやった。
うまいうまいと上機嫌なアレンであるが、
なんだか変である。
「は〜。うまかった。マリア、飯うまくなったなあ。」
全部食べつくすと嬉しそうにマリアの肩を叩いて
その料理を褒めていた。
さすがにマリアも変だなと感じたようだ。
「それは良かったけど、作ったのは私じゃないわよ?」
「ねえ、アレン。
作ったのは僕なんだけど?」
僕らにそう言われて、
アレンは怪訝な顔で交互に顔を見比べた。
ちょっと・・・何だというのだ?
「なぁ、マリア・・・。」
「何?どうしたのアレン、さっきから。」
アレンはマリアの方だけを見て、僕を指差して言った。
「あいつ、誰?」
そう言われたときの僕の表情は
とっても間抜けなものだっただろう。
++++
「記憶喪失?」
どうもアレンの話を総合すると
アレンは記憶喪失のようだ。
しかも僕のことだけ!
マリアの事は覚えているんだそうだ。
アレンいわく、「長年の旅の仲間」だそうだ。
「・・・・・・・。」
僕は話を聞くと、何とも言えない気分だった。
長年の旅の仲間って・・・僕との旅の方が長いじゃないか。
なんですっぽり抜けてしまうのだろうか。
「アレン、よく思い出してよ。
マリアを探そうって言って、僕と二人で旅をしてたじゃないか。」
「そうだったっけ?」
アレンは首を傾げている。
「そうだよ。じゃあ、聞くけどアレンはなんで旅に出たの?」
「マリアを助けるためにだな。」
なんだ、覚えてるじゃないか。
「そうでしょう?で、僕と会って、一緒にムーンブルクまで
行ったじゃないか。」
「うーん。」
アレンは難しそうな顔をして唸ってしまった。
「その辺の記憶がすっぽり無いんだよなあ。」
頭をガシガシ掻きながらアレンは言った。
本当に思い出せないようだ。
「じゃあ、最近のことでも。
僕ら3人でずっと旅をしてたじゃないか。」
「うーん・・・そうだった・・・っけ・・・?」
何とも頼りない様子のアレンの肩を必死に揺さぶった。
「そうだよ!思い出してよ!!」
「まぁ・・・・善処するよ。
とりあえず、今日は寝ようぜ。」
「ちょ・・!!」
いくら必死に呼びかけても、
アレンはもう興味を持たない様子だった。
「カイン・・・。」
マリアが気遣わしげに、僕を見ているのが分かる。
「マリア。あー・・・。」
・・・・何か言おうとして、何を言ったら良いのか分からない。
気にならないと言えば嘘だが、
きっと明日になれば、元に戻るに違いない。
そう思えば、何事でもないような気がしたのだ。その時は。
「僕らも寝よっか。」
結局翌日のアレンも記憶が戻らないままであった。
「よぉ、そこの・・・何だっけ?そこのお前。
飯上手かったぜ。」
アレンはにこやかにピカピカに食べ終わった皿を返してきた。
本来であれば、褒められて喜ぶ場面かもしれないが、
「そこのお前」なんていわれて、僕はとても喜べなかった。
「カインだよ。名前くらい早く覚えてよ。」
ぶっきらぼうに皿を受け取りながらそう言った。
「カインね。分かった。覚えるようにするよ。」
そう言うとアレンはマリアの方へ行った。
今日の予定を確認しているようだ。
どうやら、アレンは旅の流れも忘れてはいないようだ。
次は徒歩で、目的の村へ向かうのだ。
時間にして1日かからないくらいだろう。
何とか暗くなるまでにたどり着きたい。
「よぉ、カイン。」
今度はアレンは僕の名前を呼んでくれた。
「何?どうしたの?」
「お前はどうやって戦うんだ。剣は少しは使えるのか?」
「覚えてないの!?」
そりゃ、僕のことを覚えても無いんだから、
僕がどうやって戦うかなんて知りもしないだろう。
でも、あんなに・・・あんなにアレンと二人で
剣の稽古をしてきたと言うのに、
アレンにも色々教えてもらったのに、
全部無かったことにされてしまうのは、何とも言えない気分だった。
答えない僕を不審に思ってアレンは再度聞いた。
「だって、魔物だって出るんだぜ。
マリアは魔法が使えるんだぞ。」
「そんなの知ってるよ。」
僕は憮然としていたことだろう。
だが、そんな事、知ってるとしか答えようが無い。
ぶっきらぼうな僕の答えにアレンは少し困ったような顔をした。
彼は覚えてないから、確かめようとしただけなのだ。
これは、怒ることでも、あきれることでもない。
そう思うと僕も少しアレンを可哀想に思った。
「君は後ろのことは気にしなくて良いよ。
前の敵だけ気にすれば良いんだよ。」
「え?」
「それが僕らの戦い方だから。」
アレンは、納得したような、
納得してないような様子であったが
これ以上は聞いてこなかった。
実際に戦場に出てみると、アレンは実に良く動いた。
だが、いつも通りかと言うとそうではなかった。
どうも僕がどう動くのか分からないからなのか
ちらちらと背後を振り返ったりしている。
「アレン・・・・。
君はいつも通り戦ってくれて良いんだよ?」
僕がため息をつきながら、
アレンの怪我を治療しようとすると
アレンは、だってさ・・とぼやき始めた。
「お前、後ろにいたり、前に飛び出してきたり、
どこにいるんだか分からねえんだもん。
ちゃんと教えてくれよ。」
「だから、それは・・・・。」
教えるといっても、
前に出たほうが良いと思ったら、前に出るし、
後ろで支援した方が良いと思ったら、後ろにいるのだ。
そのように言うと、やはりアレンは
分かったような分からないような顔をしている。
言葉で説明しても分からないだろう。
「つまり、お前って自分の都合の良いように動くって事?
で、俺はいつも最前線なの?」
「え・・・・。」
言われて僕はハッとした。
皆に良かれと思っての戦い方だったが、
これってアレンを危険にさらして、
自分は安全なところで戦うって事なんだろうか?
僕はぼんやりと考えながら、
何気なくアレンの傷をホイミで癒した。
「あれ、お前魔法使えるのか?
さっき剣も使ってなかったっけ?」
本当に何もかも忘れているアレン。
少し悲しい気持ちにもなったが、アレンが悪い訳ではない。
一時的なもので、病気が悪いのだ。
それならば、一からまた関係を作っていけば良いんだと思った。
「そうだよ。アレン。忘れてるようだけど、
僕は剣と魔法両方使えるよ。」
「すげえじゃん。」
おお。と驚いたような顔をしている。
「でも剣はアレンに、魔法はマリアに適わないんだ。」
「・・・・そうなん?」
それじゃあ微妙だなという顔をしている。
あーもう、顔に全部出てるよ、アレン。
僕は笑ってしまった。
「だから、僕に出来ることは全力で君をフォローする事。
アレンが動きたいように動けば良い。
後ろに下がりたければ下がれば良いんだよ。
その間くらいは僕が前に出るから。」
自分の都合の良いように動いて良いのは
アレンのほうだ。
「それで・・・大丈夫なのか?」
「こう見えても、アレンの戦い方はね、
僕が一番よく分かってるよ。
君が忘れてもね。」
ちょっと言いすぎだろうか?
でもそれくらいには思っている。
アレンに治療を終えると、
昼刻になっていた。
「そろそろ何か食べようか。」
「昨日の食材がまだ残ってるわ。」
マリアが食材を持ってきてくれた。
「うん。じゃあ作るね。」
「お前が料理作るんだなあ。なんかそれも不思議だな。
男の癖に。」
アレンが背後から覗き込んでくる。
昨日も僕が作った料理を食べてるじゃないか・・と思いつつ、
食べることで何か思い出すかもしれないと思った。
アレンの好物を作ろう。
アレンは、肉にしても野菜にしても、
あんまり細かく刻むよりも大きめにしてかぶりつくのが好きなんだ。
それに、焼き加減も少し焦げてるくらいを好む。
「アレン、ほら。食べてみてよー。」
「お?うまそー。」
アレンは出された料理にかぶりついた。
「アレン様、お口にあいますか?」
冗談っぽく聞いてみると、アレンは嬉しそうに答えた。
「めっちゃうめええ!!」
・・・まぁ、何だろうかね。
嬉しそうに食べてもらえれば、作ってる側はそれが何より一番嬉しい。
良い食べっぷりに思わず笑みがこぼれた。
「なあ!お前が俺のこと良く知ってるって本当かもな。
俺これめっちゃ好きだもんな!」
アレンはすごく嬉しそうだった。
僕も嬉しくなった。
やっぱり僕のことを忘れたとしても、アレンはアレンだ。
休憩を終えてしばらく進むと、
再び僕らは魔物たちの群れに囲まれた。
「首狩族!やっかいな敵ね。」
首狩族は素早い動きで僕らを翻弄する。
マリアがマヌーサを唱える。
脅威のスピードで斧を振り回していた首狩族だが
マヌーサが効いたのか、誰もいない方向に
勢い良く襲い掛かってる。
「よっしゃ、効いてる!いくぞー!!」
そして、アレンは馬鹿の一つ覚えのように
真っ先に突っ込んでいった。
アレンの動きそのものはいつもと変わらない。
力強く敵を斬り捨てていく。
でも少し勢いが良すぎやしないか?
後ろどころか横も見ていない。
これではダメージは避けられそうにない。
「ちょっとアレン!!」
思わず追いかけて助太刀しようとしたが、
走っていっても追いつかない。
その上、マヌーサが効かなかったのか、切れてきたのか、
首狩族が自分たちをも狙ってきた。
こうなったら魔法だ。
思いっきり引き付けてから・・・
「アレン!!ベギラマが行くよ!」
「え?」
僕の叫び声に「何だ?」と言う風にアレンが振り返った。
大きな火の玉が首狩族に襲い掛かった。
アレンのところにいる敵にも
一気に魔法を食らわせるつもり作戦だったのだが、
当の本人は何のことだ?と言う表情をしていた。
ちょっと待って・・・・、もしかしてベギラマって魔法も忘れたの?
そう頭をよぎったが、最早魔法は発動した後。後の祭りだ。
立ち尽くすアレンに僕は必死に叫んだ。
「アレン!ちょっと危ないから!伏せて!伏せて!!!」
爆音を上げて、首狩族が燃えていく。
激しい炎と煙に前が見えない。
「アレン!アレン!!」
アレンは大丈夫なのか?
無事を確認しようと、煙の中に僕は入っていった。
視界が閉ざされた中、にゅっと腕が伸びてきた。
一瞬アレンかと思ったが、その手は僕の首筋をつかんだ。
どんどんその手には力がこめられて、
思い切り首を絞められる。
「ぐっ・・・!」
その手の力は人間離れしていて、
僕が外そうとしても全然外れそうに無かった。
「うう・・・。」
恐らくこの煙の中では、
敵の姿はマリアの目にも入っていないだろう。
ちょっと、やばいかも・・・と思ったとき、
急にがはっと血を吐き、首狩族は倒れた。
「え・・・・。」
「大丈夫か?カイン。」
そこにいたのはアレンだった。
少し衣服に燃えた跡があるが、無事な様子だ。
「アレン・・・無事で良かった。」
良かった、ベギラマでアレンを倒すなんて
絶対嫌だった。
あれ?でもアレンってベギラマ受けても倒せなかった気がする・・
そんな古い記憶を思い出して苦笑した。
「無事で良かったはこっちの台詞だろうが。」
アレンは何を笑ってるんだ?と言いたげに眉を寄せた。
「アレン!カイン!大丈夫!?何があったの?」
マリアも無事そうだ。
煙を払いながらやってきた。
どうやら敵も全滅できたようだ。
皆無事だ。
良かった。
「腹が減ったー。」
日が西に沈み始めた頃、アレンがぼやき始めた。
「もうちょっと行けば村に着くよ。
このまま行ってしまおうよ。」
「ちょっとだけだからさあ。
木の実食うだけ。」
「木の実?」
何のとこかと思ったら、アレンは懐から
いくつもの赤い木の実を取り出して僕とマリアに配った。
木の実は赤く熟していておいしそうだ。
これは僕の大好物だった。
これを出されたら、休憩しないわけには行かない・・
と言うか食べたい。
「わー、食べる食べる!」
「ん。食え食え。お前これ好きだもんな〜。」
「そうだよー。」
僕は思わずそれを口に入れてから、「ん?」と思った。
「俺はさー・・・昨日の煮物をうまかったけどさ、
一昨日の焼きおにぎりも好きでさあ。」
「焼き・・おにぎり。」
そうだ、アレンはそれを好んでよく食べる。
僕が軽く焦げ目をつけるのだ。
「僕が」
「お前が」
「「ギラで作るやつ。」」
懐かしそうにアレンが言うのと、僕が確認するのが
同時だった。
「あら?アレン・・あなた、もしかして・・。」
マリアもおや?と思ったようだ。
「え・・アレン!
君、もしかして記憶が戻ったの!?」
「おー・・・って。やめれ、やめれ。」
思わず思いっきりアレンの肩を揺さぶってしまった。
「あ、ごめん。それよりアレン・・・。」
「ああ、戻った戻った。戻ったみたい。あはは。
心配かけたー・・・・か?」
「アレンーーー!!!!」
気がつくと僕はアレンを
しがみつくように抱きしめていた。
「馬鹿アレン!心配するに決まってるじゃないか〜〜!」
ああ・・良かった。本当に良かった。これで一安心だ。
焼きおにぎりくらい、いくらでも作ってあげようじゃないか。
「お、作ってくれんの?やったね。」
アレンも嬉しそうだ。
それにしても何故記憶が戻ったんだろうか?
僕は気になって、いつから記憶が戻ったのか聞いてみた。
「ああ、うん。
お前のベギラマが思いっきり俺に襲い掛かってきてさ、
何するんだーー!!?って思ったんだけど。」
「別にアレンを狙ったわけじゃないってば!」
「うん、そんで、あれーって。
いつかもこう言うことがあったなあ・・と思い出したんだ。」
確かに同じようなことがルプガナであったことだったなあと
先ほど僕もふと思いだしたところだった。
「そうだったんだ・・・。
いやー怪我の巧妙だねえ。」
しみじみ言うとアレンが呆れたように言った。
「しかし、お前も無茶な戦法するよなあ。
味方に向かってベギラマとか!
いやあ、お前のショック療法すげえな。」
ん?その発言は少し頷けないぞ。
「ちょっと、誤解を与えるような言い方しないでよ。
僕伏せてって何回も言ったから!
アレンが馬鹿の一つ覚えのように突進しかしないから
あんなことになったんでしょ!」
「お前が、俺は自由に戦えば良いって言ったんだろーが!」
「ああ、言ったよ。
言ったから、ちゃんとフォロー行ったんじゃないか!」
「もう・・二人とも。
無事だったんだから、良かったじゃない。」
無事に仲直りしたかと思ったら、
次の瞬間には言い争いを始めた二人を
マリアは呆れたように、でも懐かしそうに見つめていた。
この調子だと今夜もここで野宿かなあ・・・と思いつつ。
- 終 -
2012/01/28
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