「だからね、言ってるのよ。
私がお兄ちゃんになって、旅をするんだからって。」
「・・・・・・・はぁ?」
今アレンたちはサマルトリアへやってきていた。
ここへ来た理由は、手紙がカインの妹のマイから来ていたためだ。
どうやらおめでたい事に彼女は今日が誕生日らしい。
せっかくなので、
カインのルーラで一旦3人はサマルトリアに戻ることにしたのだ。
「お姫さんがお兄ちゃんになるってのは無理があるんじゃないかー?」
事の成り行きを見守っていたアレンが
見兼ねて口を出してきた。
「どうしてですか、アレン様?私ずっと魔法も剣も稽古してきたの!
そんじょそこらのお兄ちゃんには負けないから!!」
「そんじょそこらのお兄ちゃんって、お前兄は一人しかいないだろう。」
そこは、カインも突っ込まざるを得ない。
「それは言葉のアヤですけど。そんじょそこらの男には負けない!」
マイの勢いにアレンが笑っている。
「面白いなあー。でもお兄ちゃんになるのは無理だろ。」
「そりゃそうだ。」
アレンの言葉にうんうんとカインが頷く。
「どうしてそんな事を言うんですか!?」
「だってお姫さん、付いてないものを付けるのは無理だろ?」
一瞬何を言われたのかを分からずきょとんと兄を見返すマイ。
「ちょ、何言ってんの!」
するどくアレンに突込みを入れてる兄の姿を見て、
マイは言われたことを理解した。
「へ・・?っアレン様変態!!」
「いやいやいや、本当のことだし。」
サマルトリアのウブな兄妹を笑うアレンに、
今まで黙っていたマリアが口を挟んできた。
「ちょっとアレンはもう黙っていなさい。
ねえ、マイちゃん、要は一緒に旅をしたいということなのね?」
突然舞い降りた助けの神にマイは後光が差した仏のように
マリアのことを見つめた。
「マリア様!そうなんです、そういうことです!
別にお兄ちゃんになんか、ならなくて良いんです」
「なんか、とか言う。」
憮然とした表情のカインをなだめて、
マリアはカインに話しかけた。
「良いんじゃないの?」
「えーーマリアまでそんな事言うの。」
「今日マイちゃん誕生日なんでしょう?
一日くらい良いじゃない。」
「うー・・。」
「俺も別に良いんじゃねえかと思うけどね。」
マリアもアレンも別に反対する理由もないので
一日くらい一緒に冒険しても良いんじゃないかと思った。
最初は反対していたカインも一日くらいだったら
ピクニックに行くようなものかと思ってOKしたのだった。
「それで、どこへ行こう?」
「私行った事のない場所が良い!!
海とか山とか!あと、どこだろ・・えーっと・・」
マイは目をきらきらさせている。
「遠出するのは無理でしょうー。
夕方までには帰らないと皆心配するから。」
「えー。」
カインが苦言を呈して、マイは残念そうだ。
「まぁ、良いじゃん。兄ちゃんそんなケチケチしなくても。
せっかくだから、ルーラで行って帰ればどこでも行けるだろ?」
アレンが残念そうにしているマイに助け舟を出した。
歩いてどこかへ行くよりは、ルーラでさっと出かけたほうが効率も良い。
カインはそんなアレンをやや冷ややかな目で振り返って、
ぼそっと文句を言った。
「はぁぁ〜アレン〜余計なこと言わないでよ・・。
どうせルーラするのは僕なんでしょう?」
しかしマイは『ルーラ』と聞いて、さらにわくわくした表情だ。
「行きたーい!行きたい!じゃあ、海!海へ行きたい!
お兄ちゃん、お願い・・・・!!」
懇願する妹に兄もとうとう折れた。
「分かった。分かったよー。
じゃあ、はい。皆つかまってねー。」
カインの差し出した手に、マイは喜んでしがみついた。
アレンとマリアもそれに従った。
「ルーラ!!」
気が付くと4人はどこかの海の浜辺にいた。
「きゃあああ!綺麗!綺麗〜〜!
真っ青だーー!!海だぁあ!」
マイは海に大感激の様子だ。
「ここどこだ?どこに来たんだ?」
「ルプガナ。」
こっそり聞いたアレンにカインが答える。
なるほど背後にはルプガナの港町が見える。
ラダトームだとマイは行ったことがあるので、
あえて違うところに来てみたようだ。
「きれーい!ひろーい!!」
マイは外に出ると、目を輝かせて坂を走って下っていった。
「一人で走らないで!って、聞いてるー!?
ちょっともう!あいつ7歳の時とちっとも変わらないーー!!」
どうやら以前にもこうやって妹が外で暴走したことがあるらしい。
叫びながら、呆れたように妹を追いかけるカイン。
それを後ろで見守るアレンとマリア。
「なあマリア。」
「何?」
「結局思うけど、あいつはただの心配性じゃね?
3歳の子供じゃあるまいし、あんなに追いかけなくても。」
「そうねえ。」
まぁ、そこがこの兄妹は微笑ましいのだが。
どこまでも広がる海と水平線を見ると
アレンたちも、初めて船を出したときのわくわくした気持ちを思い出す。
しかし、どうも天候が曇ってきた。
空が薄暗くなってきた気がする。
海に片足をつけたりしてはしゃいでいたマイが
それに気づいて戻ってきた。
「晴れてるうちに、お弁当を食べましょう!」
「おー。食う。お姫さんが作ったのか?」
アレンが良い匂いに釣られている。
「お兄ちゃんたちとピクニックに行くといったら
厨房の人たちが作ってくれました。」
パカっと蓋を開けてみると、
何とも豪勢な材料が入っていた。
「すげえぇー。うまそうだ。
もらって良いのか?」
「ええ、どうぞ。アレン様!」
すっかり打ち解けた様子のアレンたちだ。
アレンに自由に食べさせておいたら、
自分たちの分も無くなるのはよく分かっているので
カインとマリアも食べ始めた。
サマルトリア料理が食べれるのは、正直
カインも嬉しかった。
「私ね、憧れていたの。
こうやって外で冒険みたいに食事するの。」
「お城にいたら、まず無いわよね。」
同じ姫という境遇のマリアはそれをよく実感している。
外に出るときは何人もの兵と一緒に出て、
罷り間違っても、野原や海でピクニックなどは許されない。
「だから、嬉しいなあ。夢が叶って。
冒険の旅ってこんな感じなのかなあ。」
ホクホクとした笑顔のマイであったが、
『冒険の旅ってこんな感じか』と言われると違うと思う。
「全然違うよ。こんなシートとか広げて、ゆっくり腰を下ろして
お弁当を広げて食べる時間なんてないから。」
カインが鋭く指摘をした。
「それにこんな豪勢なお弁当作ってたら、一日で食材無くなっちゃうでしょ。
明日はどうするのさ。」
言われてマイは唇を尖らせた。
「お兄ちゃん煩い。
がーがーがーがー、さっきからアヒルみたい!」
「何て・・?あひる・・?」
アヒル呼ばわりされて今度はカインが唖然とした表情になるが、
アレンが隣で笑っている。
「お前は僕の妹なんだから、僕がアヒルだったら、
お前もアヒルだろ!」
何だか、勢い言い返してみてもイマイチ決まらない。
「はいはい、そこのあひるさんチーム落ち着いて落ち着いて。」
「チームじゃない!」
「一緒にしないで!」
アレンが宥めてみても逆効果だった。
「あなたたち、騒いでいると、魔物たちに気づかれてしまったようよ。」
そんな中一人冷静に周りの空気を読んでいたのはマリアだ。
気配を研ぎ澄ませると、確かに魔物に囲まれているようだ。
「ま、魔物!?」
やはり、マイは魔物に免疫がないので、
その言葉に驚いているようだ。
そんな様子を見て取って、アレンは剣を取った。
「別に心配するほどでもないだろ。
カインは姫さんについててやれよ。俺とマリアで十分だ。」
確かに歴戦の3人にとっては、それほど警戒するほどでもない。
海沿いの魔物は徒党を組んで現れることが多い。
今も数だけはやたら多い。しびれくらげの大群だ。
「アレン、魔法で行くわ。残った分をお願い。」
「ああ。」
歴戦の二人は、簡単に意思疎通を計り、
マリアは杖を天に掲げた。
しびれくらげにバギが炸裂して行った。
生き残ったわずかな敵をアレンが余裕を持って
真っ二つに切った。
「これで、終わりだな。」
早々と血糊を払ってアレンは3人の元に帰ってきた。
「アレン、お疲れ様。」
「おう。」
さてと、続きを食べようとしたアレンは
自分を見るきらきらとした目線に気づいた。
「ん?」
「アレン様、マリア様かっこいい!かっこよすぎる!!」
マイが目を輝かせてアレンを見つめていた。
「いや、こんなの別に全然たいしたことしてないけど?」
「そんな、すごいです!一刀で全部の敵を斬って倒して!
マリア様もあんな多くの魔物に一瞬もひるむことなく!
やっぱりお二人は伝説のロトの血を引いていらっしゃるんですね!」
マイはアレンの剣技を見るのが初めてだったので、
興奮しているようだ。
「そんなのここにいる4人とも血を引いてるだろう?」
「えー、全然違いますよ〜。」
至極当然のように言うアレンに対してマイが首を振った。
4人は一旦ルプガナの街にでも行って見ようということになった。
道中にはやはり度々魔物が出てきた。
それらはすべてアレンとマリアとで撃退した。
マイには出番が回ってくることは無い。
「でも、あれくらいの敵だったら、私も戦ってみたいなあ。」
マイは自慢の魔法を実戦で使ってみたくなったようだ。
「駄目だよ。何言ってるの。
戦いはアレンに任せておけばいいんだ。」
この近辺の敵は、それなりに強力なのだ。
戦いなれない姫が、ためしに戦って何とかなるものではない。
「お兄ちゃんさっきから全然戦わないじゃない!
そりゃあ、アレン様とマリア様のお二人の勇者様チームと
お兄ちゃんみたいなアヒルさんチームじゃあ勝負にならないでしょうけど!」
「・・・お前本当にさっきから、言いたい放題だな・・」
温厚なカインの頬もさすがに引きつっている。
「マイさん、カインは弱くなんて無いのよ?」
見兼ねてマリアがフォローをしているが、どうもピンと来ないようだ。
「マリアお姉さま、長く連れ添った旅仲間だからって
そんなにフォローしなくて良いんですよ。
きっとお兄ちゃんなんていなくても、お二人だけで大丈夫ですよ。」
「はぁ・・・・。
そんなに言うなら、僕は抜けるから、あとは3人で帰っておいでよ。」
珍しくカインはいらだったように言った。
「おい、カイン本気でそんな事言ってるのか?」
アレンは珍しいカインの様子に慌てた。
「大丈夫だよ。ルプガナでキメラの翼を買えばすぐに帰れるよ。
マイは一度僕の代わりに旅をしてみたかったんだろ?
ここからルプガナの距離くらい、ちょうど良いじゃないか。」
「え・・・!?
あ、わ・・・分かった。それならそうする。」
「ただし、絶対アレンたちから離れないこと。
これは条件。」
「良いわ。」
マイは一瞬兄の提案に驚いたが、
ひるむことなく頷いた。
「じゃあ、アレン・マリア、あとはこのじゃじゃ馬娘をよろしくね。」
カインはそういうとどこかへ飛んで行ってしまった。
「えー・・・・。お姫さん、カイン怒っちまったけど。」
「短気すぎるんですよね、お兄ちゃんて。困ったものですよ。」
「いや、そうか・・?」
怒らせてるのはこの妹だろうと思うが、口にはしない。
「アレン、こうなったらさっさとルプガナへ行きましょう。
サマルトリアのお姫様を傷物にしたら大変よ。」
「そうだな。傷物にしたら俺、あの王様に八つ裂きにされるな。」
アレンとマリアは、互いにそう確認しあうと、
旅慣れないマイを連れてルプガナへと向かった。
しかしそんな少しの距離なのに、運悪く魔物が出る。
泥人形だ。
「俺が行く。お前は後ろを頼む。」
アレンはマリアにそう言うと魔物に向かって駆け出した。
マリアは、マイのそばに立ち、魔物にルカナンの魔法を唱える。
「マイさんは下がっていて。」
「え?え?私も戦えます。マリア姉さま戦いましょう!」
マイは自分の使えるギラの魔法を魔法を唱えた。
一発では倒せず、二度三度と唱えることで泥人形のうち一匹が倒れた。
「やった、倒れた!!」
自分の魔法が敵を倒したことを喜ぶマイ。
続けて二匹目も倒してやろうと、息巻いて泥人形をにらみつける。
泥人形は自分が見ているのを感じると、
踊りだした。変な踊りだ。
「??なんだろ、あいつ。」
意味が分からないなあと思っていると、
アレンがそれを背後から一刀両断にした。
これで完全勝利!と思いきや、
アレンはこちらに向かってが叫んだ。
「後ろ!後ろを見ろ!!!」
茂みの中から現れたのは、
巨大な大猿の魔物の群れだ。
「!!」
見たことも無い大きさの魔物に
思わずマイの足がすくんだ。
「危ない!!
バギ・・・っ!!」
マリアのバギが大猿を包み込む。
「わ、やった?!」
これで・・この魔物を倒せるのだと思った。
バギの爆風が引いていくと、魔物は倒れていて、
私たちの勝利だ。
しかし、爆風の先にいたのは
倒れることなく、こちらを睨みすえる大猿の姿。
「ひ・・・っ!!」
大猿は右腕を振り上げると、
固まっているマイに向かって走ってきた。
「きゃああ・・・!!」
この魔物に殴られるんだ。
きっとそれは物凄い痛い。
・・・怖い!
恐怖にマイは目を瞑った。
だけど、いくら待てども、その魔物は襲ってこない。
いや、違う。襲ってきたのだ。
しかしその攻撃は間に入ってきたアレンが剣で
刺し留めていた。
「おい、お前ら逃げろ!」
アレンは、人間離れした腕力で大猿の攻撃に耐えているが
背後に向かってそう叫んだ。
マイはその言葉を聞いて、弾かれるように走り出した。
「待って!」
走り出した後ろで、今度はマリアが待てと叫ぶ声が聞こえる。
でも、マイは止まらなかった。
逃げなきゃ!逃げなきゃ!また襲われる!!
どれくらい走り続けただろうか。
サマルトリアの平原を走ったときも
これほどの距離は走らなかっただろうと思う。
次第に足があがらなくなり、
息も苦しくなってきて、マイは止まった。
周囲を見渡すが、もうあの恐ろしい魔物はいない。
無事に逃げられたのだ。
ほーっとマイは息をついた。
しかし、今度はふと冷静になると、気が付いた。
周りに誰もいない。何も無い。
「あ・・れ・・。」
兄は何と言ったか?
アレンたちの元を離れるなといってなかったか?
アレンは何と言ったか?
「お前ら逃げろ」といったのだ。なのに自分一人で逃げてしまった。
マリアは何と言ったか?
「待って!」と最後に叫んでいた。一人で行かせてはいけないと思ったのだろう。
急に頭が冷えてきた。
なんだか身体も重い気がしてきた。
「だ、大丈夫・・。ルプガナって町は・・・きっとあの町並み。
あそこに行けば、アレン様たちも来るはずだもの。」
そういって自分を納得させる。
ゆっくりと見える町並みに向かって重い足を進めた。
見据えるのは前だけ。
だって、周りを見渡したって、全く知らない場所なんだから
ここがどこなのかも分からない。
無事に一人で行けるんだろうか。
心臓がどきどき言っている。
何も起こりませんように・・・
しかし、そんな淡い希望は脆くも打ち砕かれる。
先ほども見た人形みたいな魔物が現れたのだ。
なんでなんで?
なんでこんなに魔物がいっぱい出るの?
マイは泣きたくなる。
綺麗な風景が見たかっただけなのに。
ちょっとだけ冒険気分を味わえれば良かっただけなのに。
だけど、これが現実。
外に一歩出れば冒険気分なんて言ってられないのだ。
「もう!もう、分かったよ!もう分かったから
あっちに行ってよ!!」
マイは渾身の力を混めて、ギラを唱えた。
だけど、何も起こらなかった。
「え・・?え??なんでなんで!?
なんで出ないの!?」
ギラなら5発くらいは打てるはずなのに。
得意の魔法なのに、何も起きない。
泥人形はまたあの不思議な踊りを踊っていた。
マイは、それが魔法力を奪っているのだと
知らなかった。
頭が真っ白だった。
「わかんない・・・わかんない・・・!
どうしたら良いの、お兄ちゃん・・。」
思わずマイはいないはずのカインに助けを求めた。
するとあるわけの無い、聞こえるはずの無い返事が聞こえた。
「じゃあ、そこで伏せておいて。」
「?」
言われるままにマイは、地面にひざをつけて
その場で伏せた。
「ベギラマ!」
「!?」
一気に目の前の温度が上がった。
見ると、巨大な炎が泥人形を包んでいた。
炎はパチパチと魔物を燃やしていく。
「お、おに・・ちゃん・・!?」
訳が分からないが、カインが助けに来てくれた。
マイは思わず兄に飛びついた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」
はぁ〜とカインは呆れたように、マイの頭をぐりぐり撫で回した。
「もーーー。これに懲りたら、一人で走り回ったりしない!
分かった!?外はこんなに危ない世界なんだから!!」
「分かったー。ごめんなさいー。」
兄との約束を破って、勝手に危険を招いたのだ。
マイは素直に謝った。
「ちゃんとアレンたちにも謝ってよね。」
「え?」
顔を上げると、そこにはアレンもマリアもいた。
やっぱりあんな魔物にやられてはいなかったようだ。
「アレン様、マリア様!ご無事で!」
「ご無事で、じゃないぞー。全く。」
「まぁ・・・無事でよかったわ。」
アレンは腕を組みながら、マリアは複雑な表情をしながら言った。
どうやら聞くところによると、
アレンはマイとはぐれて、やばい!!と思い
非常に慌てたのだそうだ。
「だって、俺、マリアと一緒に下がってろって意味で
逃げろって言ったら、一人でさーっていなくなるからさ。」
「アレンの顔がさーっと真っ青になっていったわよね。」
どうやら二人にすごく心配をかけたようだ。
「ご、ごめんなさい・・・。」
マイは今度は二人に謝った。
「で、お兄ちゃんはどこにいたの?」
「先にルプガナに行ってたんだけど、
待てど暮らせど、誰も来ないし!!と思って、来た道を戻ってたんだよ。
そしたら、アレンがいてさ。
マリアと、いないいない!って慌ててたの。」
「ああ・・私がいなくなったと・・。」
「そうそう。」
マイは皆に迷惑をかけちゃったのだなと反省した。
「みんなごめんなさい。私こんなに冒険って
大変だって知らなかったです。
アレン様もマリア様もお兄ちゃんも、皆・・・すごいです。」
マイは言いながら唇を噛んだ。
「まぁ、、そんなに落ち込まなくても大丈夫よ。
怖くて当然なんだから。」
マリアが優しくその肩を慰めた。
「あ、でも皆がどんな風に戦ってるのかも分かったし。
颯爽と勇者のように現れたお兄ちゃんも見れたし!
意外と格好良かった!お兄ちゃん。」
「意外と・・ねえ。」
落ち込んでるのかと思ったら
いきなり、元気を取り戻してマイは笑顔になった。
だって憧れの勇者たちの冒険を垣間見ることが出来たのだ。
「いや、待て。元はお前が勝手に団体行動を乱して、
一人飛んでいくから駄目なんだろう。」
アレンはするどくカインを指摘する。
「珍しいわよね。カインのああいう行動って。」
マリアも不思議そうな表情だ。
「いやぁ・・・せっかくの誕生日でしょ?
このまま普通に歩いてたら夜になるだろうし、
そのままサマルトリアにUターンじゃ、詰まんないかなあと思って。」
「なんだ、誕生日プレゼント探しに行ってたのか?」
「うん、そういうこと。」
アレンの問いの答えは考えてもいないことだった。
そういえば先ほどまで死ぬか生きるか、みたいになって忘れていたが、
自分誕生日だったのだ!
「本当!?ほんとに!?」
「うん。もう暗くなっちゃうから、渡しちゃうね。ほら。」
カインが差し出したのは何か四角くて、分厚いものだった。
「良かったわねえ。マイさん。おめでとう。」
「誕生日だもんな。これで死んだらやばかったな。良かったな。」
マリアもアレンも、マイを祝福してくれた。
「あ、ありがとう!ありがとうございます!!」
マイは嬉しくて顔が真っ赤になっていた。
今日はやっぱりすごく嬉しい一日だ。
憧れていたお兄ちゃん達の旅を経験することが出来た。
それに、そんなすごい人たちにお祝いしてもらえた。
そしてプレゼントまでもらえたのだ!
「えへへ。開けるね、開けてていい?」
言いながら、マイは勢いあまって包装を破いた。
中に入っていたのは一冊の本だった。
「えーっと、なになに?
『お馬鹿なお猿さんでも口煩いアヒルでも分かる?
紳士淑女のマナー講座』・・・?」
「すごいでしょ!ちょうどこれもう完璧じゃん!って思う本があってさあ。
即決しちゃったんだー♪」
カインは嬉しそうに自分の選択に満足げに胸をはった。
周りの空気は凍えるように冷え切ったことも気づかずに。
「今このタイミングで・・・それはないわ・・・。」
「ないわよ・・さすがに。」
「え?」
マイはわなわなと震えて兄に怒鳴った。
「空気読め!!感動を返せ!
こんの!馬鹿兄ー!!!」
その後、この薄暗くなった夕暮れに、
妹の改心の一撃が炸裂したという。
- 終 -
2011/10/02
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