51.弔い・命日

小さな子供が、転びそうな勢いで一直線に走っていく。

なにやらとても懸命で、まるで豹変したような勢いのその姿に、
何事かと思って見たが、その表情は満面の笑みそのものだ。

「おかーーさん!!」

子供は母と思われる人物に飛びついた。

「見つかったの?」

ひょっこりカインが顔を出す。
迷子の子供の親探しを手伝ってやっていたのだ。

「ああ。みたいだな。」

あんまり泣いてるから一緒に歩いてやったが、
結局子供は自分で母を見つけたので、
自分たちがいなくても自分で見つけられたんだろう。

それでも母は何度も何度も
頭を下げて謝意を告げて、去っていった。



「見つかったの?良かったわね。喜んでいたでしょう。」

「それはもう。」

手がかりを聞いて、手分けして探していたマリアも
その報告を聞いて一安心した。

「俺たちも帰ろうぜ。腹減ったし。」

「そうだねー。」

アレンたちはマリアと合流し、宿へと向かった。
人助けを出来たのだから、
アレンとカインはすっきりした気分だったが、
マリアはどうしてか無言だった。

途中花屋に通りかかった。
素通りしようとしたところ、マリアが何となく足を止めた。

「マリア?」

今までの旅の最中、
武器防具や道具屋と言った必要に迫られた店にしか
立ち入ることはなかった。

ましては花屋などに立ち寄る事などは皆無だった。

「あ、ごめんなさい、少し見ていって良いかしら?」

今日は珍しくマリアが花屋に興味を持ったようだ。

「え?あ、良いけど。」

アレンも驚きつつ、外で待ってたやることにした。
まぁマリアは女性だし、たまには花を愛でたい気分のときもあるのかもしれない。

「やっぱ、女だよなあ。花が見たいだって。」

アレンは横にいるカインにぼそっとそう言った。

「・・・・・・・・。」

カインはアレンのほうを見て、何か言おうとして・・・沈黙した。

「なんだよ?」

「いや、別に。」

「?なんか考えてんなら言えよー」

最近こいつが何を考えてるのかイマイチ分からんのだよな・・と
カインをこづいてみた。

「痛いっ。もー、僕が言う事じゃないよ。」

だがカインは言葉少なく首を振った。
ますます分からないアレンであったが、
そうこうしているとマリアが小さな白い花のアレンジメントを購入して出てきた。

「ごめんなさい、待たせちゃって。」

「あ、買ったの?それ?」

尋ねるとマリアは少し申し訳なさそうに頷いた。
アレンは怪訝に思った。
3人は武器や食料以外で何か買うときは
いつも相談の上お金を使っていたのだ。

「いや、俺は良いけど、そういうのは財布係のカインに
 ちゃんと相談してからの方が〜・・・ムガ!」

カインはアレンの口に荷物を投げ込んだ。

「おい!なにすんだよ、お前!」

いくらなんでも手荒な真似にアレンが文句の一つも言おうとしたが、
カインは人差し指で「しーっ」と黙ってるように手合図した。

アレンはうだうだと「いつも俺のときはめっちゃ厳しいのに」と
文句を垂れつつ、マリアに対しては特に文句は言わなかった。

マリアは再度ぺこりと申し訳なさそうに頭を下げた。







****


宿に戻って、買ってきた花をマリアは窓際に飾った。
普段質素な宿の部屋も、それだけでなんだか明るく華やかになる。

そしてマリアは二人に言った。

「今日はね、お母様の命日なの。」

「え!?」

アレンは剣の手入れをしていた手を止めて驚いた。

ああ、それで花を買ったのだと納得した。

見るとカインは特に驚く様子もなく静かにその言葉を聞いていた。
どうやら知っていたようだ。

「ごめんね、勝手に花なんか買っちゃって。
 今日は節約しなきゃね。」

「節約なんて気にしなくていいよ。」

カインがようやく口を開いた。

「ずっと旅の間は忘れてたんだけど、
 今日の迷子のお子さんを見ていて、何だか思い出しちゃった。」

「そうだったのかよ。」

アレンも口うるさい事を言って悪かったなと思った。

「マリアの母上っていつ・・?」

「私が8歳のときに亡くなったわ。
 正直、あんまり覚えてないの・・・・・。」

確かに旅の間も、ムーンブルクの事を話すことはあっても
母の事はあまり聞いた覚えがない。

「ねえ、二人のお母様はどんな方?」

マリアのそんな質問にアレンとカインは顔を見合わせた。

「会ったことあるだろ?」

「あるけども、二人の口から聞いてないもの。
 詳しく聞いてみたいわ。」

母・・・母ねえ・・・・アレンは何と言えば良いのかと考え込んだ。
考えてるうちに、先にカインが話し始めた。

「僕の母様は昔からあんまり体が強くなかったけど、
 でもすごい優しいんだ。
 って言うか、うちは父様がすごく怖いんだーー。
 だから甘えてたのかも。」

カインはそんな事を言った。
サマルトリアで会った王妃様は確かに体は弱っていたが
とても優しかった。

「僕も小さい頃は体があんまり強くなかったし、
 それに魔法も剣もからっきし駄目だったから。
 父様って妹の事は結構褒めるのに、僕はボロクソに
 言われてた。だからかなあ。」

あはは、と笑って付け足した。

「アレンとこは?」

「うち?うちは・・・・」

アレンはローレシアで会った時のことを思い出した。

「母上は何か軽々しいんだよな。」

「そうなの?」

別にローレシアの王妃様に軽々しい印象なんてなかったが。

「誰彼構わず、抱きつくのは止めろって言ってるんだけどさあ。」

「ああ!それは・・・・・。」

カインは思わず笑った。
確か自分もローレシアに行ったときに優しく抱き寄せられた。
軽々しいと言うよりは、とても包容力のある人という印象だった。

「してもらった人は本当安心して、心を開けちゃう感じだったね。」

「息子の俺としては結構気が気でない。」

「あはは、それはいえるかもね。」

マリアはそんな話を少し笑いながら、
二人の人柄を思い出してうんうんと頷きながら聞いていた。

「マリアは?」

「え?」

「マリアのお母様は?どんな人?」

カインはマリアに聞いてみた。

「そうね・・・。はっきりと覚えてないけど。
 いっぱい本を読んでくれたり、
 いっぱい遊んでくれたり、
 とても優しかったわ。」

だから母の事は大好きだったし、
遠い思い出になった今でも印象は変わらない。

「魔法の事もお母様から教えてもらったの?」

「え?」

カインがそう何気なく尋ねたことに、マリアは首を振った。

「いえ、魔法はお父様に教えてもらったの。
 お母様が亡くなられてからのことよ。」

「あれ?そうなんだ。」

「?」

何かカインは意外そうだった。

「あ、俺もマリアの母上から、教えてもらってるんだと思ってた」

アレンもそんな事を言う。

「ど、どうしてそう思うの?」

マリアの記憶が正しければ、母は魔法の事なんて一言も
言っていなかった。

「だって、母上言ってたぜ。
 ムーンブルクの王妃様ってすごいんだって。」

「うん、僕も聞いたことがある。」

「何がすごいの・・?」

マリアは恐る恐る尋ねた。

「ムーンブルクって女の人の方が魔法が強いんじゃなかったっけ?」

尋ねた質問に対して、アレンの別の質問が返って来た。
それに対してカインがこっそり秘密話をするように言った。

「実はね、うちも魔法だったら父様より、母様の方がすごいんだ。
 でも母様も言ってたよ。
 ムーンブルクの王妃様には絶対適わないって。」

「え?え・・?そうなの?」

「俺らが生まれる前の話だと思うけど、
 3国の王家の人が集まったときがあったらしくて。」

「ってロト祭でしょ?何年前かな。
 20年以上は前だなあ。」

どうやらアレンとカインは誰からともなく聞いていた昔の話があるらしい。
マリアには初耳の話だった。

「そこになんか魔物が現れたらしいんだ。
 ロトの3国の王家に喧嘩売るなんて馬鹿だなって感じで、
 迎え撃ったらしいんだけど。」

「そうそう、うちの父上なんて
 意気揚々と剣なんかもって戦場に出たらしいけど。」

マリアはなんだか驚いた。
自分の親たち世代も、
自分たちと同じように魔物と戦ったことがあると言う事に。

「それをさ、マリアのお母様が全部魔法で一気に
 やっつけちゃったんだって!」

「え・・!」

「うちの父上なんて、振り上げた剣を下ろすところが無くなったらしいぜ。」

「それを言うなら、僕の父様なんてびっくりしてて出ようかどうかと
 様子を伺ってるうちに終わっちゃったもんだから、本当何もしてない。」

アレンもカインもそう言って笑った。

「その話聞いて、意外とうちの父様はヘタレだなって思った。」

「おい、お前が言うなよ。」

笑っている二人にマリアは聞いた。

「その話、本当なの?」

アレンもカインもうんと頷いた。

「すごい・・・。ねえ、もっと聞かせて。」

マリアは自分の知らない話に夢中になった。

「それでさ、やっぱりうちの父上なんかはバツが悪いじゃないか。
 でも、母上は、すごいすごい!!ってびっくりして褒め称えてたらしいぜ。
 多分また感激してハグしてるね。」

「マリアのお母様、そんなにすごい事やったのに、全然偉ぶることもなくって
 『さあ、食事の続きをしましょう。』って落ち着き払ってたらしいよ。
 うちの母様はそれから、マリアのお母様に憧れて魔法の勉強したんだって。
 父様なんかは出る幕もなかったんで、大分恥ずかしかったみたい。」

「そ、そうなんだ。お母様ってそんなに強かったんだ。」

確かにムーンブルクの王家は代々女系が強い家系とは言われていた。
だが、まだ何分自分が幼すぎて一番近いはずの母の事も知らなかった。

「だから、僕はマリアはお母様から魔法を教えてもらったんだと思ってたよ。
 でも、直接教えてもらったんじゃなかったとしても、
 その魔法の資質、お母様譲りに違いないね。」

カインは確信を持ってそう言った。

「確かになー。マリアは母親似だろうな〜。
 男たちがびっくりする魔法で魔物を全滅させたあたり、
 今の俺たちにも似てるな。」

「じゃあ、僕はびびって何も出来ないってことかい。」

「ありうるじゃん。」

「えー。」

アレンがそう言うのに、カインが唇を尖らせた。

「でも、私も、あなた方ってお母様によく似ていると思ったわ。」

「へ?」

「え?」

素っ頓狂な顔をしている二人を余所にマリアは言った。

「カインの場合はお父様がとても厳格だから、
 優しく穏やかにいつまでもゆったりと見届けてくれるような
 お母様ってカインとそっくりだと思ったわ。」

「そ、そう?」

カインは恥ずかしそうに頬を搔いた。

「え、ちょっと待てよ。
 俺は抱きつき魔じゃないだろう。」

アレンはどうやら抗議したいらしい。

「アレンのお母様の包容力は、
 アレンとそっくりなんだって私思ったわよ。」

「どういう意味だよ?」

「僕もアレンは王妃様似だと思うよ。」

何故かカインははっきりそう言った。

「えー・・・?えー・・・いや、そうか?
 んなことないだろ・・・?」

何故かカインが言うと、抗議がやや弱くなっていた。

「でもなんでマリアの母上は、
 マリアに魔法の事言わなかったんだろうなあ?」

アレンは話を変えた。

「さぁ・・分からないわ。
 いっぱい本は読んでくれていたんだけど。」

「まだ小さかったし、魔法を覚えるって事は
 少なからず危険を伴うことだからね。
 それは避けたいって思ったんじゃない?」

「それも母の愛って奴かね?」

「それとマリアの父上はなんでこの話、マリアにしなかったんだろうな?」

「王妃様の話は出てくるけど、王様の出番がないよね。
 もしかしてうちと一緒で、出られなくて・・」

「かっこ悪かったから?」

明け透けなアレンの言葉に、思わずマリアは笑った。

「ちょっとアレン、失礼でしょー。」

カインはアレンをひじでつついたが、
マリアは怒る様子もなく笑っていた。

父は母の前では威厳のある姿を見せていた。
だから、本当に恥ずかしくてこの話は出来なかったのかもしれない。

「ううん、二人に聞いてよかったわ。
 お母様お父様の秘密が少し分かったもの。」

マリアは、嬉しそうにそう言った。

例年はきちんと伝統を慮った儀式を行っていたが、
今回は今までで一番質素な母の命日であった。
それでもマリアにとっては、母の事が聞けた印象深い1日となった。



- 終 -

2012/06/28

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 キリ番40000ヒットリクエストで「アレンカインマリアの母3人が喋っているところ(絵or小説)」でした。
 回想シーンみたいになって、ちょっとリクエストとは違う形になりましたが、いかがでしょうか・・・? (汗)
 ちなみにこの3人は親の呼び方も三人三様です。

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