「さぁ!次の奴来いよ!」
俺は剣をもう一度兵達の方へと向けた。
今の勝利で、俺の10連勝だ。
このままじゃあ俺の全勝になっちまうぞと思いつつ、
もう一度言った。
「ほら、次はどいつだ!?」
だが、兵達の中から手が挙がるものは無かった。
その代わりに勝手に口々に喋りだした。
「王子に勝てるものはおりませんよ。」
「そうですよ。王子は強い。」
「やはりロトの血を引いておられるだけある。」
俺はその言葉にいらっとした。
お前ら、仮にもローレシアの国を守る兵だろうが!
いや、仮じゃねえよ、れっきとしたローレシアの兵だろうが。
結局、時間がないだの、公務の時間だとか何とか言い訳しながら
兵たちは去っていってしまった。
「ちぇーー。つまんねーの。」
アレンは大仰に息を吐いた。
なかなか俺の稽古に最後まで付き合える奴というのはいない。
なんなんだろうか、王子だからと遠慮でもしてるのか。
「んなの、今更なんだがなー。」
俺は、遠慮すんなよと言いに
先ほどの兵達が集まっている詰所に寄ってみることにした。
鍵穴から覗いてみると、確かに先ほどの兵達が集まってきていた。
「しかし、アレン様はー」
扉を開けようとしたら、詰所の中から自分の話題があがったので
思わず手を止めた。
「ロトの勇者の再来だと思うかー?」
そんな事を話している。
あいつら何を言い出してるのか?とアレンは聞き耳を立ててみることにした。
「再来も何もお前、伝説から何年経っていると思うんだ。」
「あの剣の実力、あの若さで天才ではないか?
ロトの血は脈々と伝わっているんだな。私は末恐ろしい。」
「お前は馬鹿だな、大事なことを忘れている。
王子は魔法が使えない。そんなロトの勇者いるものか。」
あいつら・・俺がいないところでぺらぺらと何を語ってくれているのか。
「そうではないと思うな。私はロトの血が途絶えたとは思わない。
血は薄れたかもしれんが、
人間離れした腕力は明らかにその血族の影響だろう。」
「確かに否定は出来ないな。王子の相手は骨が折れる。
あの人には誰もついてはいけんだろう。」
「我々はただの人間だものな。アレン様のようにはいかん。
逆に言うと人間だから、剣だけでは戦えない。
魔法も駆使して戦ってようやく一人前だ。
アレン様は異常・・いや、特異なんだ。」
・・・・・・・。
なるほどね。言いたい事は分かった。
ロトの血が薄れたかなんだかわかんねえが、
ロトの勇者と呼ぶには欠陥品の俺の相手は骨が折れるし、
普通の人間は魔法も使って戦うのに
その練習にはならないから俺の相手はしてられないって事か。
「そう言う事ね・・。」
俺は扉を開けるのを止めた。
まぁ俺の相手をやってられない理由が良く分かりました。
「ざっけんなよ!俺が何者だって言うんだ。
弱いことに言い訳なんかすんなよ!」
誰にともなく、そう吐き捨てるよう言った。
***
それから時が経ち、ムーンブルク落城の報を受け、
俺は旅に出ていた。
「やぁ、探しましたよアレン王子!」
目の前にいるのはサマルトリアの王子であるカインだ。
へらへらと笑っている優男が
俺の探している男だと知ったときは正直相当脱力した。
俺はこれからこいつを旅をすることになる。
魔物と戦う過酷な旅だ。
ローレシアを出てここまで、一人旅をしていた。
だが、これから出会うサマルトリアの王子カインには興味があった。
カインは俺と同じ年だ。と言う事は17歳。
以前に出会ったのは12歳の時だ。
俺の知ってる限り、そいつはただの年相応な子供で、
魔物と戦う力など持っていなさそうだった。
だが人間というものは1年で変わるものだ。
ましてあれから5年も経っている。
どれほど強くなっただろうか?
聞くところによると、こいつも1人でサマルトリアを飛び出したらしい。
なかなか勇敢な所があるじゃないか。
きっと相当修行を積んだことだろう。
さらに多少魔法も使えるらしい。
最初それを聞いた時は、
正直な所複雑な心境になった。
ロトの血を引いてるという点で俺と同じだが、
魔法が使えるという点では大きく違う。
ローレシアでは魔法が使えないと言う事で
俺は散々嫌な思いもしてきたし、血を疑われもした。
こいつはそんな事無かったんだろうな。
まさにロトの勇者様じゃねえか。ふーん。
そう思っただが、よく聞いてみると少し話が違った。
使える魔法はホイミだけらしい・・。
「じゃあ、剣は?使えるんだろうな」
「そ、そうだね。今朝銅の剣を買ってきたんだ。これで稽古するよ。」
そう言って真新しい銅の剣を取り出して誇らしげに見せてくれた。
剣の持ち方もぎこちない。
ちょっと待て。今日買っただと?
聞くところによるとここまでの道中、聖水で逃げ回っていたらしい。
俺はがくりと脱力した。
やっと見つけた仲間は戦力外じゃないか!
魔法もホイミだけ。
その程度ならローレシアの兵よりも弱いだろう。
ようやく出会えた仲間は戦力としては期待はずれなものだった。
実際、翌日早速稽古をしてみたが、
その実力は俺と対等どころか、
悪いが天と地ほどもあっただろう。
勝負にもならない。
同じロトの血を引くものとして、
色々分かり合えるのかと思ったが、そんな事は無かったぜ。
俺は仲間に対する期待を諦めた。
まぁしかし現実は過酷だ。
旅をすれば魔物が出る。魔物が出れば下手すれば死ぬ。
魔物が出なくても病気や飢えで死ぬこともあるかもしれない。
仮にもサマルトリアの王子だ。
いとも簡単に死んだとなったら色々問題だろう。
俺はカインに旅を諦めるよう忠告した。
だが、カインは諦めるつもりは無いらしい。弱いくせに。
「帰らない・・よ。」
何度帰れと言っても、カインは半分泣きそうな顔をしながら
頑として首を縦に振らなかった。
そう言うのなら今までローレシアの兵達にしてきたように
稽古を毎日つけてやる事にした。
いくら弱かろうが、俺の目の前で死なれたら目覚めが悪いからな。
カインは、はぁはぁと激しく呼吸を乱していた。
そんな息を乱すような激しい稽古などしていなんだがな・・と思ったが、
まぁ諦めないのは良い根性じゃないかと思った。
「今日はこの辺で終わりだ。」
「ありがとうございましたー!」
カインは地面にへばるように座り込んでいる。
まぁまだ実戦で戦うには不安があるが、筋は悪くないんだろう。
今日はこれから湖の洞窟へ行くのだ。
そこにある銀の鍵を取りに行くのだ。
あんまり疲れさせても支障があるから、この辺で終わっておこう。
俺がそう言って踵を返した時、
背後から小さなカインの呟きが聞こえた。
「アレンは本当にロトの勇者なんだね・・」
聞こえない振りをしていたが・・・
何だよ、それは。
どういうつもりで言ってるんだ。
ローレシアで何度か言われてきて、
なんで同じロトの血を引く仲間にまでそんな事言われるんだ!?
俺は少し胸がざわついたが、考えないことにした。
目下の目標は銀の鍵だ。
湖の洞窟は今までに無いほどの魔物の数だった。
「軍隊アリは俺がしとめる!お前はおおねずみをやれ!」
「う、うん!」
俺は洞窟内で逐一カインに指示を飛ばした。
カインはこう言っては語弊があるが、正直やはり弱かった。
俺が軍隊アリの団体さんを全滅させてる間に、
一匹のおおねずみさえ仕留め切れていなかった。
手を貸すべきかとしばらく考えていたが、
そうこうするうちに、何とかかんとかようやっと、
カインはおおねずみを倒すことができた。
うーん・・、やっぱり弱いな・・。
単純にそう思ったが、それでもカインはこの洞窟での戦いで
いくつかの成長を見せた。
俺が洞窟の壁から現れた兜ムカデに不意打ちを受けた時、
カインがギラを唱えたのだ。
期せずして、俺がカインに助けられたと言う事になる。
「お前、やるじゃない・・」
「アレン見た!?
やった!やったよ、ギラができたよ!!!」
カインは初めて成功したギラに大喜びだった。
俺は魔法の事は分からない。
だから魔法の修行は付き合ってやれないし、
どんなことをしてるのかも知らない。
「ずっと練習してたんだけど、あんなに決まるのは初めてだよ!!」
カインの台詞からすると、どうやら俺との剣の稽古以外に
魔法の修行もしていたらしい。
その成果を早くも発揮出来たと言う事だ。
俺は少しカインを見直した。
湖の洞窟から無事(?)脱出し、
俺はカインを背負いながら、リリザの街へと戻っていた。
背負っているカインはどうも完全に意識を失っていらしい。
銀の鍵は、カインの魔法力のおかげで無事に手に入れた。
あとは脱出するだけという段まで行き、
魔物から逃げるためにカインがギラを使った。
だが、急に力が抜けるような感じで崩れ落ち、
さらに俺を魔物から守ろうと突き飛ばし・・・、
結局完全に力尽きたように伸びてしまった。
でも、結局カインの力が無ければ・・
目的は達成出来なかったかもしれない。
俺は素直にそれを認めた。
あれだけ弱いとこき下ろしたのに。
しかし・・・実際カインは体力も無いらしい。
深く寝入っているカインをいくら揺すっても全然目を覚まさない。
一瞬死んでしまったのかと焦ったが、
そうではなく深く寝入っているだけらしい。
安心したように寝息まで立てていた。
その安心しきった様子に俺は、
今まで誰に対しても抱いたことの無い感情を抱いた。
「お前の本気、見てもらったよ。」
実際問題、こいつは弱いのだ。
魔法が使えるとは言え、すぐに魔法力も無くなり、
足を引っ張り、洞窟の中で気絶してしまうようなやつだ。
間違いなく、放っておいたら今頃殺されている所だろう。
危なっかしくてとても放ってはおけないが、
昨日出来なかったことを今日出来るように努力しているし、
こいつなりの本気で挑戦したことは良く分かった。
今まで誰も俺ともこいつは違うかもしれない・・・と思った。
***
その後、俺達は無事にムーンブルクの王女マリアを呪いから救い、
旅の目的はマリアの救出から、ハーゴンの討伐へと変わった。
マリアの魔法の実力は、
今まで1人で魔法の修行を続けていたカインのそれを上回っていた。
回復魔法も最初からベホイミが使えていたし、
攻撃魔法では現れた魔物全体への攻撃を可能とするバギを使えた。
どちらもカインには使えない魔法だ。
一気にお株を奪われた形になり、
さすがにショックを受けるかと思いきや、そんな事は無いようだった。
「アレン!剣の稽古教えてよー。」
「お?おお。」
カインは相変わらず俺に剣を教わりつつ、
魔法についての修行も続けていたらしい。
それが一つ実を結んだ出来事があった。
俺達が船を捜しにルプガナに行った時のことだ。
カインが思いつめた顔で、あろうことか俺に決闘を挑んできた。
真剣勝負だ。
「真剣勝負だぜ。死んだって責任もてないぜ?」
「もちろんだよ。」
何を考えてるんだ?
最初は訳が分からなかったが、
後から聞くと納得した。
やはりこいつはこいつなりに
マリアとの魔法の差にも悩んだらしい。
このままでは足を引っ張るしかないと思ったカインは
俺の胸を借りるつもりで、真剣勝負を挑んできたそうだ。
なるほどね。
ただ、俺はこいつに今まで何度も剣の稽古をつけている。
カインの実力は俺が一番良く知っているんだ。
悪いが剣では俺に勝てる腕ではない。
魔法を含めたってだ。
何故なら、こいつの得意魔法のギラは俺には効かないからだ。
結局予想通り、
カインは剣一本では敵わないからと、ギラを使ってきた。
俺の考えたとおりだ。
素早く剣を振るって、俺はそのギラの炎を全て捌ききった。
もうあいつは剣も魔法も手の内は全て見せただろう。
俺の勝ちだ。
「どうした?もう終わりか?降参か?」
だが、実際はカインの目の光は消えておらず、
まだ戦いは終わっていなかった。
「いや、まだだ!」
カインはそう叫ぶと見知らぬ魔法の詠唱を始めた。
そして初めての魔法を唱えた。
「炎の精霊よ・・・・我が手に集いて、灼熱の炎となり、全てを焼き尽くせ!!
ベギラマー!!」
「なんだ!?」
今までのギラとは桁違いの大きさの炎があっという間に俺の体を覆った。
その魔法の威力も今までとは桁違いだった。
炎が俺の体をめらめらと燃やし尽くしていくのを感じた。
「・・・・う・・・わっ!!」
弱い弱いと思っていたカインがここまでやるとは思わなかった。
このまま炎に包まれていたら、大火傷して、
やられるのは俺のほうかもしれない。
やられる?
俺が、ただの1人の人間に?
炎に覆われて、その表情は見られていなかっただろうが、
俺は笑っていただろう。
ローレシアでは、誰も俺の稽古に着いてくるものはいなかったし、
俺をここまで追い込んだやつなんて誰もいなかった。
それは俺が中途半端かもしれないが「ロトの血を引くから」で、
実際、俺も誰に対しても、そんな事は期待してはいなかった。
会って早々
「アレンは本当にロトの勇者なんだ」なんて事を言われたが、
こいつだって同じなんだ。
俺とは違う道を選んで、どんどん強くなっていくんだ。
それが嬉しくて笑ってしまったのだ。
が。
勝敗とあれば話は別だ。
俺がこいつに負ける?
ふっざけんな、こんな弱い奴に負けるなんてのは絶対嫌だ!
誰がなんと言おうが嫌なんだ!
「うおおお!」
俺は裂帛の気合でベギラマの炎をなぎ払った。
カインは驚いた顔を一瞬して見せたが、
すぐに納得したように笑った。
「やっぱり・・・・アレンは強いなあ。」
そう言いながらも、尚も冷静にギラで俺が持つ武器を攻撃してきた。
武器さえ手放せば俺に勝てると思ったんだろう。
やるじゃねえか。良い考えだと思うぜ。
だけど、それでも、
俺はカインに負けるつもりなんてこれっぽっちもねえ。
「今だ!!」
隙だらけの俺にカインが素早く回りこんで剣を振り下ろしてきた。
カインは勝ちを確信していただろう。
でも勝つのは、俺・・・・だ!!
「げっほ・・。」
武器を失った俺に出来る残された唯一の攻撃は
その体を使った攻撃だ。
あんまり俺は体術で戦ったことは無いが、
渾身の力を込めた俺の右拳がカインの鳩尾に見事に決まった。
「うっーーーー・・。」
崩れ落ちたカインは、その場でアレンに降参した。
勝利したのは俺だった。
マリアの治療を受けながら、カインは呟いた。
「やっぱり、アレンに勝つなんて無理だったかあ・・。」
俺に勝つだと?
あの剣も魔法もろくに使えなかったお前が?
「あ、当たり前だ!」
そう答えながら俺は、内心喜んでいた。
勿論負けるつもりなど微塵も無い。
だが、これほど俺に喰らいついてこようとする奴が現れたことが
嬉しかったのだ。
**
それからしばらくして・・・。
ある時から、ふと見ると、
カインがだるそうにしていることが多くなった。
最初は特に気が付かない程度だったし、
また寝坊しているのかと呆れた目で見ていたのだが・・・
徐々にそれがはっきりと目に見える形になっていった。
武器すら持てなくなり、食欲もなくなり、
しまいには自由に歩くことも出来なくなっていったのだ。
カインが言うには、
それは病気などではなく、ハーゴンの呪いによるものだった。
俺達には全く思いもよらない告白だった。
実際、その呪いを受けた理由は、
一言の相談も無く、完全にカインの独断によるものだった。
俺もマリアも驚いたし、その勝手な判断を怒りもした。
しかし、怒ろうが悲しもうが、時間が戻るわけではない。
とにかく俺はこいつをそんな事で失いたくは無かった。
だが、何より辛かったのが、
呪いを解くためにどうすれば良いのか、
はっきりした答えが見つからないことだった。
少しでも希望が見えれば、船を走らせて
世界中を駆け回る日々だった。
しかしいずれもカインを助ける手立てになるものはなく、
そうこうしているうちにも、カインは少しずつ弱っていった。
そうしてベラヌールという街に着いたころには
カインはほとんど自力では動けない状態だった。
苦しそうな息の下でカインがアレンに向かって
話しかけた。
「からだが・・動か・・ないん・・だ。
きみが・・・無事そうで・・・・よかった・・・。」
アレンに向かって手を伸ばそうとしているのだが、
もう力が入らないらしく、指がぴくりと動いただけだった。
「も・・・う・・、ぼく・・・は・・駄目みたい。
さぁ、ぼくに、構わず・・・行って・・くれ。」
今までどの教会の神父が匙を投げようとも、
決して諦めることはなかった。
今だって、竜王のところへ行ってみようとか、
紋章を全部集めて奇跡を起こせば助かるかもとか、
色々考えていたことがあった。
でも、それは無理だと分かった。
息も絶え絶えなカインを連れて行くことはもう無理だった。
そして、カインがサマルトリアに
最期の連絡を出してくれと言って来た。
事そこまで至って、
俺は初めてこいつを失うかもしれないと言う事を実感した。
・・・・・これが現実なんだと気づいた。
俺は覚悟はしていたのではなかったのか?
旅とは残酷なものなのだ。
旅の最中に死ぬことだってあるかもしれないのだと。
そんな事、頭では分かっていた。
だけど、ちっとも心では納得できなかった。
こいつがいなくなるなんて事考えられなかった。
こんな結末のために、俺はこいつに剣を教えたんじゃない。
こんな結末のために、俺はこいつに出会ったわけじゃない。
ああ・・・俺の中で、いつの間にかこいつが、
カインの存在がとても大きなものになっていたんだと気づいた。
しかし結局、実際の所、
そんな結末が俺達の本当の運命ではなかったらしい。
神風のように、3人目の仲間マリアが
カインを救う最後の手段を見つけてきてくれた。
世界樹の葉、
伝説によるとそれさえあれば死者でさえも生き返るというアイテムだ。
これを手に入れることで、
カインの命を救うことが出来たのだ。
***
それから数日経った。
元気になったカインは、相変わらず俺に剣の稽古を頼んでくるし、
魔法の方はどうやらマリアと修行を続けているようだ。
マリアも新しい魔法を覚えて強くなっているが、
カインはマリアとは違う魔法を使ったり、剣を使ったり、
俺ともマリアとも違う戦い方を身に着けていった。
実際、いつの間にかザラキなんて物騒な魔法を覚えていた。
剣だけで戦うとやっぱり俺に勝ったことなどなかったが、
様々な手段で強くなろうと努力するカインを俺は認めていた。
ある時俺は酒を飲んで、カインに喋ったことがある。
「俺は・・お前が思うほど強くない。
お前らがいなかったらここまで来れてない。」
俺は確かに、剣は強いかもしれない。
でも、実は芯の強さはこいつの方が強いかもしれない。
俺やマリアを助けるために、
いざという時はすごい度胸を見せてくれる。
信じられないことをしてみせる。
呪いのことだってそうなのだ。
あれはカインがサマルトリアを救うために決断したことだ。
正直、弱いくせに、なんて事をするんだと思うことがある。
が、俺の言葉にカインは驚いたように応えた。
「そんなの一緒だよ。
僕も強くない。きっとマリアも。誰もそうだ。
一人じゃあ弱いんだ。
君が不安になったら、僕らがいるよ。」
「それで良いのか?
お前が言う、ロトの勇者がそんなんで良いわけないだろ?」
ロトの勇者は、世界を救う皆の希望の光なんだ。
弱さなんてあって良い訳が無いんだ。
「ロトの勇者がどんなのかは僕は知らないよ。
君がロトの勇者じゃなくて、ただの人だって言うのなら、
それでいいじゃない。」
その言葉に俺は何か今まで背負っていた重圧が
少し薄れたような気がした。
分かっているのだ。
本当は、今の言葉はやっぱり戯言だし、
この運命からは逃れられないし逃れてはいけないのだと。
ただ・・・
ローレシアにいたとき、ずっと感じていた人々からの視線。
ラダトームに行った時も、ロトの血族だからと
壮大なロト伝説を自分になぞられた事もある。
それはそう言うものだと分かっている。
カインだって分かっているだろう。
分かっているから、こいつも努力を続けているんだ。
だからこそ、俺の重圧を取り除くように、
こう言ってくれるのも、
俺のことを理解して隣で戦うことが出来るのも
同じロトの血を引くこいつだけなんだ。
「それでも僕は信じてるよ。
ただの一人の人である、アレンの強さを。
だから、アレンはアレンらしく。いつだって君らしく。
それできっと大丈夫だよ。」
カインはそう言って、少し可笑しそうに笑った。
「ねぇ。酔っ払いのアレンさん、どうしたの?
らしくないからびっくりしたよ。」
***
いつしか、俺にとってカインという存在が
唯一無二な存在になっていた。
それは俺がずっと小さい頃から、
待ちわびていたものだったのかもしれない。
俺が強くなれば、こいつも強くなるし、
どこまで強くなれるか、どこまで行けるのか・・・
初めてそんな風に興味を持った。
だから・・・・カイン。
ずっとずっと先まで、一緒に行こうな。
俺は心の中でそう願っていた。
- 終 -
2013/03/23
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