48.怒り、憤慨

ある森の中で、アレンたちは今魔物の群れに囲まれていた。

アレンは、手にした剣で魔物たちを切り裂いていくが、
倒しても倒しても次から次へと魔物が増えていく。

「また、増えてるぞ、そっち!」

「分かってるわよ。バギ!」

アレンの合図でマリアは全体攻撃となるバギで応戦した。
魔物の数が多いときは、マリアの魔法は非常に有効だ。

「いいぞ、マリア!あと少しだ!」

どうやら奥で指揮官となる妖術師が魔物の群れを束ねているようだ。

「けっ。いくら魔物が徒党を組んできても、チームワークなら
 負けるわけがないぜ!」

マリアが魔法を唱えた後は、アレンがそのフォローをする。
流れるような動きである。

「よーし、こっちも!!」

マリアの魔法で、一気にアレンたちの士気も高まる。
続いて、カインも得意のベギラマを唱えようとしたときだった。

奥で魔物の群れを指揮していた
妖術師がカインに向かって、マホトーンを唱えたのだ。

「マホトーン!」
「ベギラ・・・れ・・?」

本来なら巨大な火の玉が練りだせるはずが、
ほんの小さな線香花火ほどの火花もおきない。

「カイン、妖術師のマホトーンよ!気をつけて!」

「げ・・・。」

マホトーンがかかるかは確率の問題であり、
あんまり引っかかることもないのだが、
気をつけても何も、見事にかかったようだ。

いくら手を振り回しても、炎は出なくなってしまった。
妖術師はニヤニヤと笑っている。

「危ない!」

油断していたカインの眼前には、
すぐ近くまで腐った死体が迫ってやってきていた。

その腐った死体の動きをさえぎるように
アレンが間に入った。

「おせえよ!!」

腐った死体が獲物を問わずに噛み付いてくるのと、
アレンの一撃とが交差する。

「!!」

一瞬アレンの攻撃の方が出遅れたように見えたが、
強引にアレンは剣をその胴体に突き刺した。

腐った死体はしばらく自分が刺されたことも分からなかったようだ。
なおも噛み付こうとしていたが、アレンの一撃がその体を貫くと
徐々に動きが緩慢になっていき・・・
倒れた。

「アレン!大丈夫?」

背後からカインが尋ねるが、アレンは振り向きもしない。

「まだ、あの指揮官が生きてるぜ!」

アレンは、妖術師に向かって剣を向けた。
カインもマリアも、それに倣い、油断なく武器を構える。

しかし妖術師は、形勢不利と見たのか
急に背を向けて逃げ去ってしまった。

「あれ?あいつ、逃げやがった。」

向けた剣先には誰もいなくなってしまった。
アレンは仕方なく剣を下ろした。

「アレンの勢いに敵が負けたのよ。私たちの勝利ね。」

マリアもほっと息をついて、杖をしまった。





3人は一夜を過ごすのに使えそうな
洞穴を見つけた。

「今夜はここで寝るか。」

「良いわね。」

浅い洞穴であったが、魔物などはいないようだ。
野宿の道中では、風除けも雨除けも何もないところで
寝ることがちょくちょくある。
それに比べれば今日は良い場所が見つかり、ラッキーなのだ。

「じゃあ、カイン、火をさー・・・あ、マリアで良いや。
 火をつけてくれよ。」

火起こしは普段はカインの仕事であったが、
まだマホトーンのことを思い出し、アレンはマリアに火起こしを頼んだ。

「ええ。」

マリアは杖を使って、簡単に火をおこした。

「これで良いかしら。あと、アレン右肩から血が出てるけど
 大丈夫?」

マリアがそう聞くと、
アレンは自分の肩が負傷していることに気づいた。

「アレン怪我してたの?」

カインも気になって、身を乗り出した。
おそらく腐った死体と刺し違えたときの傷であろう。

「大した事ねえよ。」

「大した事なくても治しておいたほうが良いわよ。」

マリアは手をかざすと、すばやくベホイミの魔法で
アレンの傷を癒した。

「サンキュー。」

さすがにマリアは何でもできる。
カインは自分の出番がないなあ・・と思った。

「じゃあ寝るところが決まったところで、
 飯はどうする?」

「今、あんまり無いんだよねえ。おいもが三つ。」

カインは残った食材を確認して答えた。

「一人頭、芋一つかよ。足りねーだろ。
 俺さっき川を見つけたぞ。魚でも取ってこようか。」

「時間はまだあるからね。じゃあ皆で行く?」

カインがそう聞くと、アレンはうーんと考えて言った。

「お前火の番でもしてろよ。俺とマリアで行ってくるから。
 良いよな、マリア。」

「え?ええ、構わないわ。」

マリアといくというのは、魚を捕まえに行くのには
些か気になる人選ではあったが、
どうも自分がマホトーンがかかってるのがアレン的には
気になるらしい。

外には魔物がいるかもしれないと、考えているのだろう。

「すぐ帰ってきてよー。」

「ああー。」

そう言ってカインは二人と別れた。
この事を後でカインは後悔することになるのであった。




川ならカインもどこにあるかは見ていた。
丘を下ってすぐのところにあったはずだ。

手馴れたアレンの事だから、魚の一匹や二匹
すぐに捕まえて戻ってくるはず。

正味30分もあれば帰ってくるはずだ。

それまでに、この芋でも茹でてしまおうかと思ったけども
アレンのことだから、魚を大漁に捕まえてくるかもしれない。
それならば芋は茹でずに非常食として置いておいたほうが良いだろう。

そんな事をぼんやり考えながら、
結局のところ何をするでもなくアレンたちの戻りを待っていた。

だが、待てど暮らせどアレンたちが戻ってこない。

「・・?」

カインは立ち上がると、洞穴の外に出た。
外は薄暗くなってきている。

帰ってこないなんておかしい。
マリアだってついてるんだから、道に迷うとか
そういうことも無いはずだ。

敵に襲われたのだろうか?
それにしたって、あの二人と対等に戦える魔物なんて
そうはいないはずなんだが・・・。

何事もないのなら、それならそれで良いのだ。
でも心配が晴れない。

カインは、二人を探しに行く事にした。

洞穴を出て、丘を下っていくと、記憶どおり川があった。
やはり歩いてすぐの距離だ。

「アレンー、マリアー!どこー??」

川沿いに少し歩きながら、二人の名を呼ぶが
返答する声は無かった。

「どこ行ったのー?」

歩いてるうちに、周りは闇に包まれてきた。
こんな暗闇で魚なんて釣ってる場合じゃないだろう。
もう戻らなければならない時間なのに、戻ってこないなんて
何かあったんだろう。

急に心配になってきたカインは
一律に並んでいた川べりの木々の中で
不自然に幹が折れている木々を見つけた。

明らかに何かの天災か人災があったらしかった。

勝手に野生の動物が暴れただけかもしれない。

だけど・・・もしかして・・・

嫌な予感がしたカインは、その木々に歩み寄った。
すると、予感は的中した。

そこには力なくうつ伏せに倒れたアレンの姿があった。

「ア、アレン!?どうしたの!しっかりして!!」

抱え起こして、体を揺さぶるが反応が無い。
意識を失っているようだ。

一緒にいたはずのマリアはどこへ行ったのだ?

カインがあわてて左右を見渡すと、木々の奥から
見覚えのある姿が見えてきた。

先ほど戦って逃げたはずの妖術師だ。

「・・・・お前か。お前がやったのか!?」

「そうだ。」

カインは装備していた鉄の槍を構えた。

「ふざけるな!
 アレンがお前たちみたいな外道に負けるわけ無いだろう!」

「ふふふ。」

妖術師は不気味に笑うと、指を鳴らした。
それを合図に背後から、ぬっと大きな魔物が現れた。
これも先ほど戦っていた腐った死体だ。
腐った死体の腕にはマリアが捕らえられていた。

「マリア・・?マリア・・・!!」

マリアもぐったりとして呼びかける声に反応が無い。

何故だ?何故あの二人がやられたのだ?
絶好調のアレンなら、こんな魔物に遅れを取るはずはないのに。

カインは倒れているアレンの傷の具合を確認しようと
血が流れ出る右腕を手に取った。
肩から指先にかけて、不気味に皮膚がどす黒く変色している。

「これは・・・・。」

ただの怪我ではない。
これは、毒だ。

先の戦いでアレンは腐った死体に肩を噛み付かれている。
傷自体はマリアがすぐに癒したが、毒が残っていたようだ。

「そう、ローレシアの王子は毒に倒れた。
 貴様をかばってできた傷だな。」

妖術師が話しかけてきた。

あの時逃げ出したはずの妖術師だったが、
もしかしてアレンが毒にかかった事を見届けた上で
罠にかけるつもりでの撤退だったのかもしれない。

「毒に動けなくなったローレシアの王子をかばい、
 この姫は勇敢に戦っていたよ。
 それこそ獰猛な腐った死体を目の前にしても一歩も引かず勇敢であった。
 ふっ・・・魔法も封じられたというのにな!」

「・・・・・・・」

カインは唇を噛んだ。

マリアも魔法を封じられ、そして動けないアレンをかばって
苦手な肉弾戦に出たようだ。
その顔や衣服には殴られたあとや泥の汚れが付着している。

急ぎアレンの回復をしようと、カインは毒消し草を取り出して傷口に塗りつけた。
少しずつ皮膚の色が回復していく気がするが、まだ目を覚まさない。

「無駄だ無駄だ。目を覚ます前に、お前たちは全滅するであろう。」

妖術師はカインが仲間の回復をさせているのも
余裕の表情で見逃している。

「アレンに毒が無かったら、お前たちなんか今ごろとっくに倒されているんだ!」

「たいした信頼関係のようだが、これを見ても冷静でいられるかな。」

妖術師が手を振ると、腐った死体はふ〜っと息を吸い込み、
マリアをつかんだその手を大きく振り上げた。
そしてそのままマリアを地面に叩きつけようとした。

「マリア!!危ない!」

カインは、思わず手に持っていた槍を
腐った死体に向けて投げつけた。

投げた槍はその腕に直撃し、その衝撃に腐った死体は
マリアの体をその場に落とした。

なおも緩慢に動いてマリアを捕らえようとする腐った死体に向け、
カインは思い切り駆け寄って、右手の拳で殴りつけた。

「そこを・・・ど・・・けぇ!!」

決定打には至らないが敵の体は、後ろの樹木に叩きつけられる形となった。

そして、マリアを抱きかかえると、少し離れたところに退避した。

「・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・・・。」

「思ったよりやるではないか、サマルトリアの王子。
 肉弾戦はそっちの王子の専売特許かと思っていたが。」

カインは息を整えながら答えた。

「マリアだって戦ったんだ。僕が逃げるわけ無いだろう。」

「ほう、勇ましい事だ。」

それでもまだ妖術師は余裕の表情だ。

「唯一の武器を手放して、どうやって戦うものか知りたいものだがな。」

カインの持っていた槍は腐った死体に刺さったままである。
そうすると当然今は丸腰だ。

道具袋から、今度はカインは薬草を取り出して
マリアの傷に塗りこんだ。

「ふふふ、仲間を回復させて共に戦おうという魂胆だな。
 魔法も封じられて、武器も無く、確かにそうする他手段はないだろう。
 けなげな事だな!」

「・・・・・・・・・・。」

「だが、仲間と戦うつもりだというのなら、
 こちらも手があるぞ。来るが良い魔物の群れよ!!」

妖術師が声をあげると、
どこから現れたのか、魔物の群れが現れた。

「・・・どこからこんなに・・・・。」

気がつくと前後左右を魔物に囲まれている。

カインが呆然と左右を見渡すと、
マリアが身じろぎしながら、カインの袖を引いた。

「う・・・。カ、カイン。」

「マリア!?気がついたの!?」

うっすら目をあけたマリアだが、
まだ立ち上がって戦うのは無理そうだ。

「逃げて、あなた一人なら逃げれるはずよ・・・」

「逃げる?逃げないよ。」

マリアがカインの腕をさらに強い力で引いた。

「馬鹿!このままじゃ全滅するわ!」

その必死な叫びは、十分カインにも伝わってくる。
それでも・・・・

「逃げるわけには行かないよ。
 アレンだっていつも言ってるよ。
 武器が無かったら、素手でも戦えって。」

カインは毅然と首を振った。

「そんなの気持ちの問題でしょ?!
 今そんな事言ってる場合じゃないわ・・・・!」

「そうだよ、気持ちの問題だ。
 僕は・・・怒ってるんだ。僕らを罠にかけたあいつを。
 絶対・・・許さない・・・!」

「え・・・。」

マリアは、こんなに怒ってるカインは見た事がなかった。

「僕らがあんな奴に負けるわけ無いから。
 マリア見てて。」

そういうとカインはゆらりと立ち上がった。

「恐怖のあまりに気が狂ったか?
 私が手を振れば、これだけの魔物が一斉にお前に襲い掛かる。」

妖術師はそういって、手を振り上げた。この手で合図すれば
魔物の群れが動くんだろう。

「やって・・・みれば?」

「カイン!!馬鹿!逃げなさい!!」

マリアが叫ぶが、もう時すでに遅かった。
妖術師は手を振り魔物たちへの合図を送った。

一斉に魔物の群れがカインに襲い掛かる。

「カイン!!」

思わず凄惨な惨劇を恐れて、マリアが目を手で覆った。

カインは静かにある魔法の印を結んだ。

「馬鹿め。魔法など、とっくに封じられておるわ。」

「馬鹿はそっちだ!魔法封じなんて、とっくに切れてる!」

ある魔法の詠唱を終えるとカインは、叫んだ。

「ザラキ!!」

前後左右を包み込んでいたはずの魔物はバタバタと
倒れていく。

「何・・だと・・・!?」

妖術師は、目の前で起きていることが理解できないかのように
目を見張った。

それでもザラキは絶対必殺ではない。
数にして2割ほどの魔物が生き残っている。

「先ほどから、薬草や毒消し草を使っていたのは
 こちらを油断させるためだったのか?」

カインのマホトーンはとっくに解けていたのだ。
だが、あえてまだ魔法が封じられているかのように振舞っていた。

「悪いけど・・・・おしゃべりに付き合ってる暇は無いよ!」

続けてカインはベギラマを唱えた。
残った魔物もこの炎で殲滅されていく。

「く!!この小僧が・・・!私をなめるな!」

憎憎しげに妖術師は自身もベギラマを唱えて、相殺した。
そして、炎を相殺すると、再度ベギラマを唱えたのだ。

「・・・うわ・・!」

今度はカインが炎に襲われた。
その隙に、妖術師がすぐそばへとやってきてカインの首筋を捕らえた。

「くっ・・・・。」

「思ったより、やってくれるわ。
 だが、こうやって動きを止めるとどうにもできまい。
 再度、お前の魔法を封じてくれるわ!!」

妖術師は再度カインの魔法を封じるべく
マホトーンを唱えようとした。

「っ・・・やりたければ・・やれば・・・良い。」

絶体絶命にもかかわらず、カインは言った。

「開き直ったか!?」

「いくら・・・何をしたって、僕らの勝ちに変わりは無いから。」

「お前の魔法を封じれば、今度こそ私たちの勝ちだ!!」

妖術師も必死に言い返してきた。

カインは妖術師の後ろの人影に気がついた。
そうだ、そうやって喋っていれば良い。喋れば喋るほど、死が近づくんだ。

「はは。僕の魔法を封じれば勝ちだって?
 そんな事言ってるから、いつまで経っても僕らに勝てないんだ!」

カインがそういうのと同時に妖術師は魔法を唱えようとした。
が、それはかなう事は無かった。

「っ!!ぐ・・・・は!」

妖術師は急に背後から切りつけられて血を吐いた。

「貴様が・・・何故!?」

妖術師を切ったのは毒が消えて立ち上がった・・・アレンであった。

「何故も何も。見てたでしょう?さっき毒消し草使ったじゃない。」

「お前な・・・さっきから、博打しすぎじゃね?」

アレンは血糊を払うと、カインを見て呆れたように言った。

「アレンがあんな奴に負けるはず無いから。」

カインはそれを見て笑った。








アレンたち3人はようやく敵を全滅させて元の洞穴へと帰る事にした。

「しかし、ついてないことはついてないよな、俺たち。
 二人ともマホトーンされたり、毒にやられたり。」

「ホントだね。びっくりだよ。」

のほほんとカインは答えた。
そんなのほほんとした様子は、
先ほどあんな心臓に悪い戦いを繰り広げた奴と同一人物とは思えない。

「アレンの釣った魚も皆どこかに行っちゃったわね。」

どうやらアレンとマリアは、川で大漁の魚を捕まえていたらしかったが、
全部どこかへ行ってしまったようだ。

「ついてないよなー。ほんとついてない。
 結局こんだけ働いて、今日の晩飯は芋一つかよ。」

ため息をつきながら、ぼやきながら歩く2人の少し離れたところに、カインはふと立ち止まっていた。

「アレンー、そうでもないみたいだよ。」

「ん?」

「アレンが吹っ飛ばされて倒れたこの木、りんごの木だったみたいだよ。
 僕、りんご、いっぱいゲットー。」

いつの間にやらカインは両手にりんごをいっぱい抱えていた。

「え?りんご?」

「ほんとだわ、すごい。カイン、暗がりなのに良く見つけたわね。」

「結構ついてるねー僕たち。今日はりんごパーティーだね!!」

すっかりニコニコ笑顔のカインに、こいつは怒らせないほうが良いなと思いつつ
つられて二人も笑うのであった。


- 終 -

2011/09/17
▲

  リクエスト小説。「マジ切れカイン」でした。
  大人しい子を怒らせると結構怖いです。というのを書きたかったんだが、どうだったでしょうか?あんまり怖くない?
  
  まぁ大人しいといっても勇者の端くれですしね。
  しかし皆勇者って反則だなあ(いまさら)


 

更新の活力。楽しんで頂けましたら是非ポチを。→