雨がきつくなってきた。
こうなると本格的にどこかで休みたいところだ。
今、3人はある森の中で散れじれになってしまっていた。
先ほどまで天気もよく明るかったので、
食べ物や休める場所を探して、すぐまた合流する予定だったのだ。
予定が狂ったことに舌打ちをして、足早に歩いていると、
アレンは幸運にも一夜を過ごせそうな掘っ立て小屋を見つけた。
小屋の中には誰もおらず、ところどころ壁が朽ち果てているが、
雨漏りはしている様子はない。
今日はここで過ごせば良いんじゃないか。
そう思い、雨空の野宿は免れそうだとほっと一息つこうと思ったが、
仲間二人がまだこの雨空の下にいるのかと思うと腰を下ろすこともできない。
「ええい、あいつらどこをほっつき歩いてるんだ・・・」
アレンは今入ったばかりの小屋を出た。
そろそろ外も薄暗くなってきた。
もしかして、どこかで魔物にでも襲われて倒れたりしてないだろうか。
明るければ捜し歩けるが、真っ暗闇になれば人を探すのは困難だ。
少しあせりを感じたアレンは仲間の名前を呼びながら走った。
「おーい!カイン!マリアー!どこだーー。俺はここだー!
いたら返事しろよ〜!」
アレンがそう大声で叫んだとき、
少し離れたところから同じように仲間を呼ぶ声が聞こえた。
「誰だ!?」
声の聞こえる方へ走ると、そこにいたのはマリアであった。
「アレン!良かった、無事ね。すごい雨が降ってきてるわ。」
マリアも雨に濡れて髪も衣服もびしょびしょになっていた。
「ああ、俺さっき休めそうな小屋を見つけたんだ。
雨よけには十分だと思う。」
「本当?それは助かるわね。私も探していたんだけど、
良い場所がなかったわ。」
「ここまっすぐ行ったら、すぐ分かると思う。
先行っててくれるか?カインを見つけたらすぐ行くから。」
アレンは自分が元来た道を指差して、マリアにその小屋への行き方を示した。
「私も一緒に行くわよ。」
「いや、こっちは大丈夫だ。小屋の中冷えてたし、暖めといてくれよ。」
マリアの申し出を断り、アレンは一人森の中へと入っていった。
「あいつ・・どこまで行ったんだよ・・・。」
雨よけのために、アレンが大木の影に隠れたとき、
森の奥の不自然な煙が目に入った。
この雨である。自然と煙が発生するような要素はない。
「・・煙?・・・炎か?」
自然と発生しないとしたら、
アレンに思いつくのは、魔法の炎だ。
カインがあそこで戦っているのかもしれない。
アレンは煙に向かって走った。
予想通り、そこにカインはいた。
そして魔物に囲まれていた。
「おい、大丈夫か!?サーベルウルフだな・・!」
「アレン!?」
カインは所々負傷していた。無理もない。
サーベルウルフは動きも早く、複数で襲われると狙い撃ちされる。
しかもカインの腕力では一撃で倒すのも難しいため、戦いは大いに不利になる。
アレンは加勢するために剣を抜いて、敵に切りかかった。
炎の魔法で相手もダメージを受けている。
アレンの一撃はとどめとなって、面白いようにサーベルウルフは倒れていく。
「よし・・これなら・・・!!」
「アレン、もう良いよ!もう良いから!行っちゃだめだ!」
アレンは手ごたえを感じているが、カインは何故か進撃をやめさせようとする。
「何故止めさせようとするんだ、もう敵は全滅寸前だぜ・・・・。
これで・・・終わりだ!!」
「アレン!待って!」
アレンが最後だと剣を大きく振り上げたとき、
木々の影から、木が出てきた。
「え・・・?」
いや、その表現は正確なようで正確ではない。
樹木が勝手に歩いて出てくるわけがないのだ。
などと、妙に冷静に頭が回転する。
そうだ、あれは樹木なんかではない。モンスターだ!
「これって・・ポイズン・・なんとか・・・」
アレンが書物で見たその魔物の名前を思い出そうとしていたとき、
そのモンスターがマヌーサを唱えた。
「あ・・・こいつ・・・!」
樹木型のモンスターのまぼろしが増えて見える。
森に囲まれ、さらに樹木型モンスターに囲まれ、訳が分からない。
「くそったれ、全部斬ってやる!」
「駄目だよ、アレン!!危ない!」
そう言って、アレンが駆け出すのと、カインが叫ぶのが同時だった。
先ほどから何をカインは叫んでいるのだ。
マヌーサのまぼろしとはいえ、本体は一体。すぐに片はつくのに・・・。
だが、駆け出したアレンを目掛けて、生き残っているサーベルウルフが突進した。
アレンはその体当たりを受けて、吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばされて・・・そして何かにぶつかる覚悟を決めたのだが、ぶつからない。
いや、それどころかアレンの周りに何もない。
「え・・・なん・・・・?」
思わず振り返ると、そこは空中であった。
吹っ飛ばされた先は、アレンからは薄暗がりで見えていなかった崖であった。
「う・・・わ・・・わーーー!!」
完全に空中であり、アレンはなすすべもなく落下していった。
あわてて、カインはアレンを追って、崖からダイブして飛び降りた。
「カイン!?なにやって・・・・!」
アレンの体に触れようと、カインは必死に手を伸ばした。
「アレン!つかまって!!・・早く!!」
カインはルーラをする気だ。すでに呪文の詠唱に入っていた。
「お・・・・ああ、よし・・!悪ぃ!」
アレンはその意図を読み取って、何とかカインの手に触れることができた。
これで助かるとほっと安心したとき、後ろに見慣れたサーベルウルフの姿が見えた。
「!?」
この森で生活をしているこのサーベルウルフにとってはここは庭みたいなもの。
崖から飛び降りるのは日常茶飯事なのであろうか。
そのサーベルウルフが、詠唱を終えて魔法を発動させようとする
カインに襲い掛かるのが見える。
「カイン・・!」
見えるのだが、空中にいるアレンには何もできない。
そしてサーベルウルフはその凶暴な爪でカインに向けて襲い掛かった。
+++
次の瞬間、アレンは自分が地面に横たわっていることに気づいた。
見上げると、落ちた崖は少し離れたところに見える。
間一髪のところで、ルーラは成功したのか。
そう思った。
「カイン、危なかったな。」
アレンがそう自分の横にいるカインに声をかけたのだが、
横たわっているカインは動かない。
「おい?おいって・・・。どうしたんだよ。」
アレンは起き上がって、カインを脇腹をゆすった。
すると腹部が妙に濡れている。雨のせいかと思ったが、そうではなかった。
サーベルウルフの一撃はカインの腹部に達していたのだ。
「おい、カインしっかりしろって・・!」
今度は腹部の負傷はさわらずに、顔をぺちぺちとたたいた。
するとカインはうっすらと目を開けた。
「あ、アレンだ・・。良かった・・。」
カインは笑みを浮かべていた。
「何が良かったんだよ。良くねえよ。お前この怪我見ろよ。」
「大丈夫だよ。平気平気。ルーラは成功したんだね。
サーベルウルフが来てたのが分かってたから、どうなったのかって思ったんだけど・・。」
分かっていながら、防御よりも魔法の方を優先したようだ。
「危ないだろうが!」
「危ないのは、アレンでしょ。崖から・・落ちるなんて・・。っつ。」
起き上がろうとしてカインは脇腹を押さえた。
負傷した箇所は、血も止まっていない。
「起きるな!もっかい寝ろ!」
アレンはカインの頭を押して、もう一度寝転ばせた。
「なに・・?大丈夫だよ、こんなのホイミすれば。」
そう言ってカインは抵抗するがアレンは手を緩めなかった。
そして、右手で道具袋の薬草を取り出した。
「治療してやるから。寝てろ。」
「だから、ホイミを・・・」
「だーーー!うるさい!逆らうな!」
何故だかアレンは機嫌が悪い。
何もアレンの手を煩わせなくても、貴重な薬草に手をつけなくても
自分で治せるのに・・とカインは唇を尖らせた。
アレンはカインの服をめくると、手早く薬草を塗りこんだ。
「しみる、しみるよアレン。」
「しみるのは良いんだよ。効いてる証拠だよ。」
アレンは分かっていた。これは自分の失態だ。
カインは魔物との戦いのときに、何度も自分に飛び出すなと警告していた。
視界が悪くなっていたとは言え、崖に気づかず飛び出すなんて、どこの馬鹿だ。
「悪かったよ。」
静かに、そしてどこかぶっきらぼうに、アレンはカインに謝った。
「謝るなんて珍しい。怪我をしたのは僕がどんくさいからでしょ。」
そういいながら、今度はゆっくりと傷の具合を確かめながら
カインは起き上がった。
「大丈夫かよ。」
「うん。ありがとう。大丈夫だよ。」
周りの雨は止んでいない。早くマリアと合流して休んだ方がいい。
アレンは立ち上がった。崖はさほど高くはなかった。
おそらく向こうに見える迂回路を通れば元の場所に戻れるだろう。
「よし、行こう。」
アレンがそう言うと、カインも立ち上がった。
だが脇腹を抑えたままである。
薬草は効果は確かだが、即効性は低い。
「背負ってやろうか?」
「え、いらないいらない。」
あわててカインは首を振った。
そして大丈夫だとアピールするかのように、アレンの先に進んだ。
「おい待て。先に行くな。」
アレンがそれを追いかけた。
迂回路はさすがに急な坂道である。
雨も激しく道はぬかるんでいる。
足元が悪い道を歩きながら、
アレンは少しずつカインの歩みが遅くなっていくのを感じていた。
徐々に息が荒くなってきている。
思ったより傷は深かったのかもしれない。
だが、カインはそれをごまかすようにアレンに話しかけてくる。
「マリアを、探さないといけないね・・。」
「マリアなら心配いらねえよ。先に小屋で休んでる」
「小屋?」
「俺が見つけたんだ。雨宿りにはちょうど良い古い家だよ。」
「そっか・・それは良かった・・・。」
「だから心配すんな。」
アレンは話を終えようとするが、カインはなおも話した。
「あのさ、僕・・さっき、美味しそうな木の実を見つけたんだ。
毒も・・無さそう。小屋に着いたら、皆で・・・食べよう。」
「分かった。お前そんなん探してて、中々見つからなかったんだな。」
アレンが苦笑しながら振り返ると、
カインは木に腕を預けてもたれ掛かっている状態だった。
カインはアレンと目が合うと気まずそうに笑った。
「結構・・・坂がきついねえ・・。」
明らかに本調子では無さそうだ。
そうアレンが思ったとき、がさっと木々の間から物音が聞こえた。
現れたのは先ほども見た樹木の形のモンスター、ポイズンキッスだった。
「また出やがったな!」
アレンはあわてて剣を抜いた。
カインもモンスターの姿を見るや武器を手に取った。
だが、アレンはそんなカインを手で制して魔物に向かって走っていった。
「やめろ!俺がやるから!お前は座ってろ!」
「な・・・・」
アレンの攻撃はポイズンキッスに大きなダメージを与えていく。
しかし、モンスターは再度魔法を唱えた。
樹木型モンスターが何体にも見える。勿論まぼろしだ。
「マヌーサか!」
「アレン、僕も加勢する!」
「良いから、お前は来るな!こんなの・・・たいしたことじゃねえ!」
今度は崖がある訳でもないのだ。魔物もポイズンキッスしかいない。
見える幻をすべて斬れば良いのだ。
だが、ぬかるんだ地面はアレンのスピードを半減させた。
逆にポイズンキッスはアレンを警戒して、枝のような触手を伸ばしてきた。
触手はアレンの腕を捕らえた。
「へっ・・・そっちから姿を見せてくれるなんて、助かるぜ・・!」
アレンは触手を左手で抑えると、右手に持つ剣でその胴体を貫いた。
「さぁ・・次はどいつだ・・!?」
一体をしとめ、他の魔物に目を向けたとき、
ふいにアレンの目がくらんだ。
触手につかまれた腕が不気味な緑色になっている。
毒・・・!?
そう思ったとき、いつの間にかカインが自分の背後にやってきていた。
「キアリー!」
カインの解毒の魔法により、腕は緑色から、通常の肌色に戻っていった。
「お・・おお・・・。助かったぜ。」
アレンはそう言ったが、カインはわなわなと今魔法を唱えた左手で
アレンの頬を殴った。
アレンは何故自分が殴られるのか、全く訳が分からなかった。
「んな!何するんだ!」
「馬鹿!アレンの馬鹿!!さっきから、何やってるんだ!!
さっきも今も、なんで一人で戦おうとするんだ!
・・・僕が・・・僕がいるのに!」
カインは怒っていた。
先ほども一人で突っ走ったアレンは崖から落ちて、
そして今も一人突っ走って毒に犯されてしまったのだ。
しかもカインに助けられてばかりで面目もない。
「僕たちは、3人しか仲間がいないんだ。
しかも今はマリアもいない。僕しかいないのに!
なんで一人で戦おうとするんだよ!
心配するのは当たり前だろう!」
「・・・・・・・・・・」
負傷したカインに無理させたくないと思ったのは事実だ。
そして一人で倒せると思ったのも、慢心によるものかもしれない。
「わ・・・わるか・・・」
謝ろうとしたアレンを、しかし何故かカインはさえぎった。
「いや、・・・分かってるよ。僕が怪我したから
アレンは僕をかばってくれたんだと思う。
でも、大丈夫だから。君の背中くらい守れるから。」
「・・・・・・戦えるんだな・・・?」
「うん!」
今度はアレンはカインを止めなかった。
アレンとカインは背中合わせになって武器を構えた。
「やるぞ・・・・。」
「アレン、良いよ。行って!」
その声にはじかれる様にアレンは飛び出した。
カインはアレンの眼前にいる魔物たちに魔法を唱えた。
「マホトーン・・・!」
マホトーンの効力がポイズンキッスたちに効いたようだ。
これでもうアレンを惑わせるまぼろしは作れない。
「く・・らえーーーー!!」
アレンは続けざまに残る魔物たちを切り裂いていった。
戦いはすぐに決着がついた。
「ほら。二人でやった方が、早いじゃない。」
「そうだな・・。」
カインもアレンも息を切らしながら、武器を収めると、
笑みを浮かべて、二人は手をあわせた。
雨も止んできていた。あとは小屋に戻るだけだ・・・。
そう思ったとき、森の奥から人が駆けてくる音がした。
「アレン、カイン!!やっと見つけた!」
いつまで経っても小屋に現れない二人を心配に思って
探しに出たマリアであった。
「マリア、小屋にいろって言っただろう!」
「あなた方ちっとも来ないんだもの、心配するのは当たり前でしょう!」
どこかで聞いたような台詞だ。
「マリア、この薄暗がりで、どうやって僕たちを見つけたの?」
「魔物たちとの戦いの音が聞こえたの。
静かな森の中で、ここだけが騒々しかったの。」
「なるほどー。」
確かに、うるさかっただろう。
そして、マリアは負傷している二人に回復魔法を唱えて言った。
「さぁ、三人で帰りましょう。」
アレンとカインは顔を見合わせたが、すぐにうなずいた。
「ああ、行こうか。三人で。」
- 終 -
2011/08/13
▲