先ほどから何度もカインは後ろを振り返っていた。
アレンも気にしているようだ。
マリアが足をひきづるようにして歩いている。
靴擦れを起こしてしまったようなのだ。
無理もない、こんな距離を歩いたことはなかっただろう。
今、一行はムーンペタの街を出発し、ドラゴンの角を
目指している。
しかし、その行程は厳しいものであった。
辺り周辺は砂漠が広がり、木陰で休むことすらままならない。
その上魔物たちがひっきりなしに出てくる。
旅慣れたアレンでさえ、汗だくになって
疲れを覚えている。
旅慣れず体力もないマリアには相当辛いだろう。
「ねぇ、マリア休もうよ。」
カインはしばらく顔もあげないマリアに声をかけた。
マリアを休ませたいと言うのも、もちろんだが、
自分も疲れていた。
「いいえ。まだ進めます。」
相変わらず顔もあげないマリアはそれだけ言うと
再び歩こうとする。
その頑固な様子にアレンもため息をついて、
マリアの手をひいた。
「何をするの!?」
「こんな所で無理してどうするんだ。先は長いんだぜ。
足を潰して歩けなくなったりされたらこっちだって困るんだよ。」
「そうだよ。マリア、靴擦れ起こしてるんじゃない?
見せてよ。」
マリアはそれでも休もうとしない。
「私の足を気にしているのね。ではこうすれば安心?」
マリアはべホイミを自分に唱えた。
べホイミはカインのホイミよりも上級の魔法だ。カインにはまだ使えない。
「べホイミ・・・使えるんだ。マリアすごいね。」
「これで心配いらないでしょう?」
マリアはそれだけ言うと歩みを続けた。
確かに足は今の魔法で治ったのかもしれない。
でも本当に大丈夫なんだろうか・・
カインは心配だった。
が、アレンはもう気にするのをやめた。
「本人が心配すんなって言うだからもうほっとけ。」
しばらく歩き続けると魔物が現れた。
「リザートフライだ!」
「敵の数は3体、俺とカインとで攻撃する。
マリアは防御してろ!」
アレンは2人に攻略の指示を出した。
カインは頷いて、剣を構えた。
アレンも剣を手に持ち、敵に向かって駆け出した。
その時・・
「バギ!」
後方からマリアがバギを唱える声がした。
吹き荒れたカマイタチは確実に魔物を捕らえ、
一撃でその息の根を止めたのだった。
振り返ると魔道師の杖を天にかかげているマリアの
姿があった。
「おーまーえーなああ。俺の作戦を無視するなよ!
俺はお前には防御してろって言ったんだぞ!」
アレンはマリアの方を見て、今度ばかりは
黙っていられないと文句を言おうとした。
「何よ、こうした方が・・・確実で・・・早い・・・・じゃない。」
マリアは敵を倒したのを目視してから、ゆっくりと杖をおろした。
しかし、様子がおかしい。マリアの身体がバランスを崩していく。
「マリア!!」
何とか倒れてしまう前に、アレンはその身体を支えた。
カインもそばへ駆け寄る。
「マリア!どうしたの!!?」
真っ青な顔をしたマリアは意識を失っていた。
+++
「ほら、ここなら水もあるし、いいんじゃない?」
「よっし。じゃあ飯の用意しようぜ。まだ残ってただろ?」
「うん。」
意識を失ってまだ朦朧としているマリアの耳に
2人の声が聞こえる。
ここはどこなのだろうか・・・?
喉がかわく。足が痛い。
体中汗でびっしょりで気持ちが悪い。
目をあけようとしたが、ひどい眩暈で起きられなかった。
せめて、水が飲みたい・・・と思った。
ずっと砂漠を歩き続けてきて、水分補給も出来ていない。
偶然だろうか、そうマリアが思ったとき
口に冷たいもの流されるのを感じた。
「み・・・ず・・・・・・?」
気持ちの良い冷たさに目をあけたとき、
目の前に心配そうなカインがいた。
「大丈夫?マリア?」
「お。気がついたのか?」
カインの声を聞いて、火の用意をしようとしている
アレンもこちらを見た。
「ここは・・・?」
身体を起こして場所を確認しようとするマリアを
カインが支えるようにして、ゆっくりと上半身を起こした。
「砂漠を歩いてたらオアシスを見つけたんだー。
本当助かったよ。」
カインはニコニコと答えた。
「そうだったの。ごめんなさい。結局迷惑をかけてしまって。」
「本当だぜ。お前を背負って、ここまで連れてきたの
俺なんだからな」
「アレン!そんなこと今いいでしょ。」
「ねえ、喉が渇いてるんでしょう?もっと水飲んだら?」
そう声をかけたが、マリアはコップに手を伸ばそうともしない。
「マリア?どうしたの?まだしんどい?横になってる?」
いつも率先して気を使ってくれるカイン。
彼らがいなかったら、今頃自分はどうなっていたのかと
思うと、どうしても気が重くなる。
「やっぱり旅は無理だと思ってるんじゃないのか?」
アレンが何気なくそう言った。だが、その何気ない一言に
マリアは返す言葉がない。
ハーゴンを討ち、滅ぼされた祖国の敵を取りたい。
大きな目標の為に旅立ったのに、こんなところで
足を止めてしまっているのだ。
情けなさにマリアは知らず涙をこぼしていた。
「マ、マリア・・・?大丈夫!?どうしたの!?アレン変なこと言わないでよ!」
アレンの言葉がマリアを傷つけたと思い、カインは
アレンを責めている。
「違うのよ。アレンの言うとおりよね。足を引っ張ってごめんなさい。」
泣きながら、そういうマリアにカインは胸を打たれた。
「足を引っ張るなんて・・・どこがさ。
さっきだって魔物を倒したのはマリアでしょ?」
「だって、倒れてアレンに背負われて、助けてもらったわ。」
それは事実だ・・・。事実だが・・・。
「そんなの。って、そんなの・・なんて言ったら悪いけど、アレンに。僕もやったことあるよね。」
苦々しく笑いながら、カインはアレンの方を見た。
「え?カインが?」
「そうそう。こいつなんて、最初の頃は魔物は倒せないし、
剣は使えないし、魔法も使えないし、道草食うばかりで、ホントにろくでもなかったよなー。」
笑いながらアレンは懐かしそうにそう言った。
「本当?」
「そ、そうなんだ。2人で銀の鍵取りに行った後、倒れちゃって、ずーっとアレンが
背負って帰ってくれたんだ。」
恥ずかしそうにカインは昔の思い出を語った。
「僕なんて、未だにべホイミも使えないし、マリアみたいな広範囲の攻撃魔法も
ないし、情けないよね。」
「本当にナ。」
「ちょ・・・、もう。ひどいなあ。」
アレンとカインは顔を見合わせて笑っている。
「だからね、マリアが足を引っ張ってるなんて思うことないし。そんなことないの。
ただ・・・ね。」
「ただ?」
「どうして、そんなに一人でやろうとするの?僕達頼りないかなあ。
僕は頼りにならないけど、アレンは強いし頼りになると思うんだけど。」
だって
だって・・・
あの日・・・
私の力が足りなくて、目の前で多くの国民を失った。
多くの兵が私を生かす為に、命を賭して戦い、そして死んでいった。
彼らの思いに報いる為に、
私は強くならなくてはならないのだ。
皆を守れるように。
もう二度とあの悲劇を起こさないように
強くならなければならないのだ。
その目的のために、
敵を倒すことも、
人々を癒すことも、
その両方を私はできるようにならなくてはならない。
泣きながらそう語るマリアの言葉を聞いて、
アレンとカインはマリアの背負うものの重たさを
改めて知った。
しかし、それはマリアがたった一人でしなければならないことなのだろうか。
そうは思わなかった。
「ホイミ」
カインがそうつぶやくと、マリアを覆っていた気だるさが消えた。
「ごめんね。マリアが背負っていた重みを、僕分かってなかった。
でもね、マリアを癒すことは僕達にもできるよ。
マリアが一人で何もかもしないといけない訳じゃないよ。」
「カイン・・・・。」
「まぁそういうことだな。」
アレンはしゃがみこむカインの背中を足で押しながら
割り込んできた。
「ちょっとーー。アレン何するの。」
足蹴にされたカインがふくれているが、それは無視して
アレンは言った。
「マリア。お前が一人でそれやったら、俺たちは何だよって話しだ。
俺たち仲間なんだよな?」
「アレン・・・・」
「仲間なんだよな?」
アレンは重ねて問いかけた。
「ええ、そうよ。私達は・・・仲間。・・・ありがとう。そうよね。ありがとう。」
大事な大事な大好きだった国にはもう誰も残ってはいない。
でも、それでも私はたった一人になった訳じゃなかった。
マリアは改めてそれに気がついたのだった。
「よし。じゃあ、飯食おうぜ。火をつけてくれよ。腹減った。」
「ええ。アレンはそればかりね。」
笑顔でマリアは杖を使って火をつけた。
オアシスのほとりで、夜はふけていった。
- 終 -
2010/10/22
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