33.風船


ふわふわふわ〜〜


目の前を丸い物体が浮かんでいる。

あれは何なんだ!?
とにかく奇怪な現象だと思う。


丸くて赤い物体がひとつ、ふたつ・・・とにかく多くだ。

どんな仕組みでアレは飛んでいるのだろう。

何故空を飛べるのだ?
気持ちよさそうにふわふわと飛ぶ鳥のようだ。

そうこう思考していると、
空飛ぶ赤い物体を子供たちが必死に追いかけてきた。
あれを捕まえたいのだろう。
だが、きっと無駄だ。
見る間に物体はどんどんと空高く舞い上がっていく。

子供たちは残念そうに悲鳴をあげている。

「んもう、アレン、ぼっとしてないでさ。
 取って上げなよ。」

少し後ろを歩いていた奴が
急に駆け出した。カインだ。

器用に丸い物体から垂れ下がってる紐を捕まえている。

さらに背後から声がかかった。

「子供たちがかわいそうじゃない?
 あそこの木に引っかかってる赤いの、取ってあげてよアレン。」

そう言うと、もう一人の仲間マリアも物体を捕まえるのを手伝ってやっている。
どうもこれは子供たちのおもちゃのようだな。

無事に大事な宝物が手元に戻り、子供たちの顔には安堵の笑顔が広がってゆく。

仕方ない、俺も一肌脱いでやるか。
残るのは木にひっかかっている一つだ。

「早く早く!ほら、木登りといえばアレンって言うじゃない?」

手前で三つほど丸い物体を捕まえているカインは、そういって笑っている。

「仕方ないな・・・
 って、なんだよ木登りといえば俺って!?俺は猿か!?」

そういうと奴は尚いっそうおかしそうに笑い出した。
失敬な奴だな。

俺は木の枝に手をかけると、体をぐいっと持ち上げて、
するすると登っていった。
まぁ並みの猿以上の速さで俺は登っていったわけだが、
残念ながら、並みの猿とは違い、体重が・・・重かったらしい。

赤い物体の紐が引っかかっている枝はよりによって、
一番ほっそい枝の端だった。

「アレンーもう少しだよー」

下からそんな声が聞こえる。
言われなくても分かるさ。

必死に手を伸ばした俺だったが、
手の長さというものは、残念ながらいくら頑張っても無駄で
限度があった。

「あと・・もうちょい・・・」

いやな予感がしたんだよ。

後から思えば俺は剣を持ってたんだから、
枝をスパッと切ってやれば良かったんだと思う。

だが、そのときの俺は目の前の赤い物体を取るのに
夢中だった。


バキ・・バキバキ


嫌な音がしたと思ったら、
身を乗り出した枝が根元からミシミシと折れていく音だった。

枝が折れて、その衝撃で先に引っかかっていた赤い物体の紐は外れてしまった。

木に捕らわれていた赤い物体は解き放たれて、青い空へと飛んでいく・・・
それと反対に地面へと落ちていく俺。

「アレン!」

「危ない!」

だが、まぁ日ごろ獰猛で悪質な魔物たちと戦い鍛えているこの体だ。
若干木から落ちたくらいで死ぬくらいの、やわな体ではない。

受身さえ取れば怪我は大したことないだろう。
悔しいのは、取れなかったあの丸い物体・・・・などと冷静に考えていたときだった。

重力の法則にしたがって落下するはずの俺は
腕をぐいっと引っ張られて、重力の法則に反して浮上していった。

「!???」

浮上していった先にはふわふわと空を漂う赤い物体の目の前だった。
何が何やら分からないが、今度こそ逃がしてたまるかとそいつをガシっと捕まえた。

「やったぞ!」

「良かったね。」

「あ?」

思わず声をあげた俺の隣にいたのはカインだった。

今、カインに腕を持たれて空を飛んでいるのだと気がついた。
ルーラを使ったのだろう。

カインは、にぃっと笑うと左手をくるっと回した。
すると俺たちは次の瞬間、木の根元に戻っていた。

子供たちがマジックを見せられたように目を輝かせて、
わあっと近づいてきた。

「お兄ちゃん達すごーい!かっこいいー!」

俺は手に持っていた赤い物体を子供に渡した。
うれしそうに「ありがとう!」感謝の言葉を述べて、子供たちは去っていった。





「ちょっと、大丈夫?
 危なかったわね。あんな細い枝に乗り出すなんて無茶しないでよ。」

駆け寄ってきたマリアがそう尋ねた。

「何ともねえよ。
 それよりあの丸いのは、何で勝手に空を飛んでいくんだ?」

「アレン知らないの?風船じゃない。」

「ふうせん?力の入らない名前だな。」

「子供の頃遊んだりしなかった?」

「しねえ。俺は初めて見た。」

マリアもカインも風船のことを知っているらしい。
ローレシアには無いのか、俺が知らないだけなのか・・・

「お前らはよく知ってるってことは、
 あれはまた魔法で飛んでるのか?」

アレンのその問いにカインとマリアは首を横に振った。

「違うよ。」

「ええ、違うわ。」

「違うのか!?じゃあなんで空飛べるんだ!?
 その原理さえ使えば俺も空を飛べるのか!?」

そうだとすれば俺の戦い方にも幅が広がる。
わくわくしながら聞いたこの問いには、カインとマリアは一瞬沈黙した。

「その原理って・・・いやいや・・無理でしょ。あなたの体はヘリウムガスなの?」

「そうだねー。空気よりも軽くならなくっちゃ。」

「どういう意味だよ?駄目なのか?
 あ、じゃあさ、こういうのはどうだ?」

俺は自分の考えを述べた。

あの風船なる丸い物体には紐がついていた。
俺自身が紐の役割となるのだ。
つまり、風船を俺の腕やら首やらに装備しまくる。
いっぱい付ければ付けるほど、
風船の「浮かす力」が俺の体を空へと誘う。

「・・・・・・・・いや、『空へと誘う。』じゃないわよ。」

マリアは呆れたように俺の考えを否定した。
隣でカインがぷるぷると笑いを堪えている。
いや、堪えきれずに笑い出した。

「ぷっ、ちょっと考えちゃった。
 『風船をいっぱい付けて飛んでいくアレン』!
 でもそれじゃあそのままぷかぷか永久に飛んで行っちゃいそうだね!」

むー・・・確かにそれは困る。
敵が出ても自由な動きが出来なさそうだ。

「もうくだらない話はおしまい。宿に行くわよ。」

結局、何も活気的な新しい案は出てこずに俺たちは宿に向かうことになった。






空を飛ぶ。

考えれば考えるほど、飛びたくなってきた。

自由自在に空を飛び、敵とは空中戦を繰り広げるのだ。
かっこいいじゃないか。

俺はベッドに転がりながら、ぼんやり考えた。

そこに風呂へ行っていたカインが帰ってきた。

「ただいまー。」

髪の毛を拭きながら、隣のベッドにボスンとダイブした。

そういえば、こいつはルーラで空を飛べるんだ。
今のところ飛ぶというよりは、目指す場所へと移動しているだけだが。

でもさっき風船を取ったときのは空を飛んだみたいだった。

「アレン、おやすみ〜。」

俺は寝ようとしている奴の隣に座って、奴の腕を引いて座らせた。

「ちょっとー何。寝たいんだけど。」

「お前さっきのどうやったんだよ。」

「さっきのって何。」

「飛んだだろ。びゅーんって飛んだじゃないか。
 あれ、どうやるんだ?」

「どうってルーラだよ。」

「ルーラってあんな風に使えるのか?
 じゃあ、自由自在に空飛べるのか?」

「さっきのは風船に向かって、アレンを経由してルーラしたんだよ。
 自由自在にって鳥みたいにってこと?
 それは無理だよ。」

「無理なのかよ。」

俺は詰まらないという顔をした。何でも出来るのが魔法じゃないのか。
するとカインはうーんと考え込んで、口を開いた。

「もしかしたらルーラの達人はそういう事出来るかもしれないけど。
 ルーラの基本は『移動と飛翔』だけど、飛翔を磨いていけば
 できるのかもね。」

「マジで!?よく分からんけどじゃあやってくれよ。」

さすが魔法だ。原理も難易度もさっぱり分からないが
できるらしい。

「は?何言ってるのさ。無理だよー。達人は・・って言ったじゃない。」

「お前十分達人だろ?できるよ。」

あんなちっこい風船に向かって飛んだりとかするんだ。
そんなルーラ聞いたこと無いぜ。十分すごい。

そういうとカインは少し顔を赤くしている。

「と、とりあえず、寝るよ〜。」

明かりを消してそういうカインの顔をもう一度ペチペチ叩いた。

「ちょ・・もう・・眠いんですけど。」

「じゃあ、一つだけ。
 あそこの崖の上まで飛んだり・・ってことは出来るんだな?」

俺は窓から見える遥か上空まで聳え立つ崖を指差した。
眠そうに、俺の指出す先を見上げたカインは
ぽりぽりと髪をかいて答えた。

「できなくは・・ないと思うよ。」

「すげー。お前すごいな。空飛べるなんてすごいな。」

眠そうにしていたカインは、諦めたように起き上がってベッドに腰掛けた。

「違うよ。ルーラしてるだけだよ。」

「何が違うんだよ。俺ルーラできねえもん。お前すげえじゃん。」

「だからさあ。君だって飛べるでしょ。魔法なんて使わなくても。」

俺は目が点になった。飛ぶ?飛べる?俺が?

「やだなあ。忘れてるの?じゃあ、良いよ飛びに行こうよ。」

「ん・・?お、おお。」

俺たちは窓をあけて、そこからカインのルーラで
見えていたあの崖へと飛んだ。




ルーラは瞬間移動だ。
「ああ。今飛んでるな〜」などと思う間もなく、
あっという間に崖の上にやってきた。

「たっけえ・・」

「さっむー。」

崖からは先ほどいた町並みがはるか下に小さく見える。

「これがルーラだけど、空を飛んだって言える?」

「確かに飛んだけど、飛んだというより移動したって感じだな。」

「でしょ?僕のルーラはそういうものなの。」

そっかあ。
自由自在に空の住人になれるとはちょっと言いがたい。

「じゃあ帰りはアレンが飛んでね。」

「え!?」

「アレン道具袋にいつも入れてたでしょ。」

「風船なんか入れてねえよ!?」

「いや!風船じゃなくて!風船で飛べないから!」

あわててカイン俺には突っ込んだ。

「もー、どれだけアレン風船引っ張るの!!
 そしてどうして忘れているんだよ!」

「?」

「これ、これだよこれ。」

アレンの道具袋を掻っ攫って取り出したのは一枚の布切れ。

「ああ・・ああーそれね。それ」

「アレン二回もこれ使って飛んだじゃないか。」

風のマントだ。
ドラゴンの角と大灯台でも使ったが、すっかり忘れていた。
俺はそれを手にとって身にまとった。ふわふわとなびくマントが心地よい。

「へへっ。ほんとだな。」

「じゃ、よろしくねリーダー」

カインはドラゴンの角と同じように俺に手を差し出してきた。
俺はカインのその手をとった。

ここの断崖絶壁は自殺の名所かと思われるほどの
高さであったが、不思議と飛び降りることには何の怖さも無かった。




俺は地を蹴り、そして 空を飛んだ。

鳥のように空を飛ぶのは本当に気持ちが良く
楽しいものであった。

できるなら、またこうやって空の散歩が出来れば良いな・・と思った。





・・・・・その後、目測を誤って、
マリアの寝ている部屋の窓をバリバリに蹴破って、
ボロボロにしばかれたと言うのは、秘密だぜ。

- 終 -

2011/06/04
▲

風船=飛んでる=俺も飛びたい と言う短絡的な流れでした。

目指せロレサマでしたが、いろいろ中途半端な。。。
また小一時間反省会を開いときます。

アレンもカインもマリアにしばかれて小一時間反省会でしょうw

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