その事件はある平和なある日の朝に起きた。
「カイン、起きて!大変よ!?」
その日は宿を3部屋借りて休んでいたのだが
カインは、仲間のマリアが激しく扉を開ける音で叩き起こされた。
「な、何?どうしたの?」
マリアが朝から人の部屋に入ってくるなんて珍しい。
きっと何か大変なことが起きたに違いない。
「とにかく来て!!アレンが、アレンが大変なのよ!」
「アレンが・・・!?」
まさかあのアレンが奇病に倒れたのであろうか。
それとも、一体・・・・??
昨夜のアレンを思い出したが、
全くいつもどおり元気で食欲旺盛で・・・
とても、倒れたとは思えないが。
とにかくマリアに連れられてカインが向かった先は
アレンが休んでいた部屋ではなく、
食堂であった。
そこに、アレンは いた。
元気に朝食を食べている。
「・・???げ、元気そうだけど・・・??」
「よう、カインお前また寝坊だぜー。」
その軽口も健在だ。
「???」
頭の中が?でいっぱいになりながら、
向かいの席に座った。
アレンの隣にはマリアが座った。
あれ?
なんか変だ。
アレンはマリアより頭ひとつ大きいはずが、
同じくらいだ。
がぶがぶむしゃむしゃと朝食を平らげている
アレンはどう見てもいつも通りなのだが・・。
「ちょっとアレン、変だよ。」
「あー?何が?」
「ちょっとアレン、立って。」
「後にしろよ、後に。お前も食えって。」
「良いから、立って!!」
カインの剣幕に驚いて、
しぶしぶアレンはその場に立ち上がった。
立ち上がったアレンの頭の位置が低い。
やっぱり、変だ。
アレンの背がカインよりも小さくなってる。
って言うか、何か変だ。
「アレン・・・なんか変だよ。小さくなってない?」
「カイン、論点はそこじゃないわ。」
マリアは横で暗雲が立ち込める表情だった。
「どういうこと・・・?」
暗い顔をしているのはマリアだけで、
アレンはいたって普通の顔だ。
「ああ、なんかさ、俺起きたら女だったんだ。」
「は!?なんて!?」
「起きたら女だったんだって。」
「!?」
オキタラ オンナ ダッタ。
そんな言葉今まで聞いたことがないが、
冷静にその言葉を解析すると、
筋肉隆々の男性だったアレンが
朝目が覚めると可憐な(?)女性になったということだ。
と、カインはこれで合っているのかアレンに聞いた。
「そうそう、正解。そうみたい。じゃあ、飯食う。」
アレンは検証が無事終わったと
座って朝食の続きを食べ始めた。
ちょっと待て。
なぜこの男、いや女はこんなにいつも通りなのだ。
自分の体に起きた異常をどう考えているのか。
「いや、大丈夫だろー。体は元気だぜ。
さっき剣を振り回してみたけど、まぁいけそうだ。」
そういうアレンは動揺を見せず、
このハプニングにも冷静だ。
一方カインもマリアもあまりの事態に冷静ではいられない。
「いや、そういうことじゃなくて、
なんでそういうことになるの?!」
「なんかね、昨日変なものを食べたらしいわよ。」
カインにそう告げたのはマリアだ。
どうやら先に起きたマリアも、この事態に動揺し
色々なことをアレンに尋ねたようだ。
昨夜は、長旅を続け、疲労困憊の状態で
宿になだれ込んだ3人であった。
食事らしい食事も取っていなかった。
アレンは腹減ったーと言っていたが、
カインもマリアもとりあえず休みたいと部屋に入ってしまったのだ。
その後、どうやらアレンは付近を徘徊し
怪しい木の実を食べた・・という事らしい。
「・・・・・・変なもの拾い食いするの、やめてよね・・アレン。」
「悪い悪い。」
あまり悪いとも思ってなさそうなアレンだ。
カインはマリアにどうしようかと話しかけた。
このまま旅に出て良いのかと思ったのだ。
「・・・大丈夫じゃないかしら?」
「・・・確かに本人は至って元気だしね。」
でも、女性の体となったアレンに普段どおりの旅ができるのだろうか。
「まぁ。その辺のフォローは私がするわ。」
マリアが諦めたように答えた。
その辺のフォローとは何か・・と思ったが、あえて聞かなかった。
そして3人は街を出た。
3人の道中は変わらない。
アレンは相変わらず魔物と出会うと、
我先に飛び出していく。
だが、やはりいつもほどの攻撃力はないようだった。
いつもなら一撃で倒すはずの敵も
まだ完全に倒すには至らず反撃をしてくる。
そこをカインとマリアでフォローするという戦いだ。
「もうー、アレンいきなり飛び出すのやめてよ!」
「何言ってんだよ。魔物と出会ったら先手必勝だろうが。」
普段はアレンのその考えに異論を唱える気はないのだが、
自分より背の小さくなったアレンが、
自分より細い腕で、
自分よりはるかに勇敢に飛び出していくのが
なんとなく危なっかしかった。
そのときだった、マリアの声が耳に聞こえてきた。
「アレン、カイン、まだ敵は倒れていないわよ!?」
「え!?」
起き上がった魔物はアレンの肩に襲い掛かった。
「うわっ」
アレンの肩に魔物が覆いかぶさっている。
どうやら噛み付いたようだ。
「アレン!」
だが、そばにいたカインはその隙に魔物に止めを刺した。
魔物に噛み付かれてアレンの肩からは
血が流れ落ちている。
「いってえ、いって!」
アレンは傷の具合を確かめようと
上半身の服を脱ぎ捨てた。
もちろん女性の姿になっているアレンの上半身は
いつもと違う。
いつもの筋肉逞しい上半身ではなく、
なまめかしい女性の上半身だ。
そこには見たこともない妙にふくよかな胸まであった。
勢いよく服を脱ぎ捨てたアレンと、
その傷の具合を案じて様子を見ていたカインも硬直した。
そして一瞬の間のあと、脱ぎ捨てた服をもう一度羽織った。
「ちょっ・・・、いきなり脱がないでよ!」
「脱がなきゃ、傷の具合がわかんねえだろうが」
そういう二人の顔は真っ赤であった。
ぱっと見た感じ、いつもより背が小さくて、
いつもより腕が細くて、いつもより多少線が細いかな・・というくらいしか
違いがないのかと思い込んでいたが、
どうやら本当に女性の体らしい。
「はいはい、カインはあっち向いてて、
アレンは上でも向いてなさい。治療なら私がやるから。」
硬直している二人を見て、マリアがてきぱきと
アレンの体の傷を癒した。
こういうとき、真の女性がいて良かった・・・
と、よくわからない感想を抱く二人であった。
そして一瞬は萎縮した様子のアレンであったが、
結局その後はいつもどおり剣を振り回し、
調子を取り戻したのであった。
「俺、思うんだけど、力がない分は動き回れば良いんだ。
体が軽いからか、いつもより早く動ける気がするぜ。」
そんなことを言いながら、ぴょんぴょんと身軽そうに動いている。
マリアもいつにも増して冷静だ。
いつもカインは思うが、彼女はハプニングの時にこそ冷静だ。
それに比べて冷静でないのはカインだ。
目の前の青い服の人物は男なのか、女なのか、
何なのだ!?訳がわからなかった。
結局その後3人はたいした収穫もなくもとの宿に戻ったのだ。
「今日はあまりお金がないわね。
昨日贅沢をしすぎたかしら。」
シングル3部屋で泊まるなんて、彼らにとっては
なかなかの贅沢であった。
「じゃあ2部屋で、良いんじゃない?」
基本この3人が宿で休むときは
アレンとカインで1部屋、そしてマリアは一人で休むというのが
セオリーだ。
何気なく鍵を手にしたカインであったが、
アレンは別の方角へ進んだ。
「どこ行くの。」
「え、俺とマリアが同室で、カインが一人だろ?」
アレンの言葉に、カインの眉間に皺が寄る。
「何、何だって・・?何で!?なんで、アレンとマリアなの!?」
「だって、女同士だし。今日はそうなるだろ。」
「え・・ええ!?そうなるの!?そうなの!?」
カインはマリアの顔を見た。
何とも言いがたいという顔をしている。
「着替えとかどうするの!?お風呂とかどうするの!?」
「いや、だから女同士だから良いんだって。」
良いのか、それで良いんだったか?
カインは頭をフル回転させた。
いや、待て。冷静になれ。
アレンは男だろう。今ハプニングで女になってるだけで
どう考えてもアレンは男だ。
「駄目!駄目でしょう!!
アレンとマリアが同室なんて、何するか分からないよ!」
「お前俺のことなんだと思ってるわけ・・?」
「いや・・でも、まぁ同室もどうかと思うわね。」
マリアがそう言うなら、やはり同室などは駄目だ。
「いつも通りで良いんじゃないの?」
「えー。俺とカインでか?俺女なんだけどー。」
ややアレンは不満げだ。
「何さ。アレンの着替えなんか見ないよ。お風呂も一緒に入らないよ。」
「だってさ、男女同室にしてたら、襲われるっていうぜー。」
「誰が襲うかーー!!!」
なんだなんだ、自分たちは何の話をしてるんだ。
宿の人たちも、宿の客たちも騒々しい自分たちを何事かと見ている。
「お客さん、何か訳ありのようですけど、
今日は混み合ってるんですよ。早く決めてもらえませんか。」
宿の主が困惑している。
そりゃ、そうだろう。
カインは熟考した。どうすれば一番良いだろうか?
3人一部屋にするべきか。
そこについたてを2つ置けば良いんじゃないのか?
いや、しかしそんな事をしたら狭い。
そうだ、二部屋分の宿賃があるのなら、
アレンとマリアにそれぞれ休んでもらって
自分は男なんだしどっかで野宿すれば良いじゃないか。
そうだ、それがいい。
そして、どうやらアレンも同じようなことを考えてたらしく
カインが提案するより前に話し出した。
「じゃあ、良いよ。今日は俺のせいで迷惑かけた。
俺のことは気にしないで、二人は休んでくれ。
俺がさ、外で・・・。」
だが、それを言い終わる前に
マリアが宿の主にきっぱり言った。
「すいません、今日は・・・やはりいいです。」
3人とも宿を諦めて野宿するという究極の選択だ。
「ええ?マリア。野宿するの?お金ならあるんだよ?」
「そうだよ、俺のことは気にするな。せめてお前は休めよ。」
「良いのよ。3人一緒で良いわよ。
そうと決まったらもう少し先へ進みましょう。」
マリアは毅然とそう言った。
彼女がそういうのなら、最早宿で寝たいなどと言う者はいなかった。
しかし宿の主は、何故こんなにこの3人がもめているのか
全く分からないといった風だった。
3人は野宿もなれている。
手早く火を起こし、順番に休むのだ。
「火は僕が見てるから、マリア先に休んでよ。」
「ありがとう。じゃあ何かあったら起こしてね。」
「・・・・・・」
そう言ってマリアは横になった。
疲れていたのかすぐに寝息が聞こえてきた。
本来なら宿でぐっすり寝て、
起こす必要なんかないのに・・と思うと、申し訳ない気持ちだ。
それはアレンも同じだったようだ。
「カインも寝ろよ。俺が寝ずの番やるから。」
寝ずの番とはその名のとおり、一夜を一人で見張り続けるのだ。
一人旅ならいざ知らず仲間がいるのに、そんな事をする必要はなかった。
「寝ずの番?なんでさ?
良いよ、とりあえず僕今眠くないから。
先に休んでよ。あとで交代するから。」
「良いんだよ。俺の方が眠くないから!」
「なんだよ、それー。」
どっちが眠いか勝負なんて聞いたことがない。
カインは笑った。
すると意外とアレンは真面目な顔だ。
「どうしたの。」
「いや、俺こんな迷惑かけると思わなかったからさ。」
珍しく殊勝なアレンだ。
「別に大丈夫だよ。これに懲りて、変なもの
拾い食いするのは止めてくれたら良いんじゃない?」
「悪かったよ。反省してる。
だから、俺が番するからお前寝ろって。」
アレンはそういうがやはりカインは首を横に振った。
「あのねー。女の子に見張りさせて先に寝るなんて嫌なの。」
「女扱いすんなよ。こんなときだけ!」
「どう見ても君今女の子でしょ。
はぁあ。いつになったら元に戻るのかな。」
もしかして一生このままだったりしたらどうしよう。
一瞬そんな不吉な考えが頭をよぎる。
仮にもアレンはローレシアの大事な跡継ぎなのに。
大事な体をこんな体(?)にしてしまい、
あの父王には何と報告すれば良いのやら。
頭が痛くなってきた。
「あ、お前変なこと考えてるだろ。
だーいじょうぶさ。所詮これって木の実の毒かなんかだろ。
多分あれと一緒に出てきて元に戻るさ。」
「あれって?」
「う○こ」
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
まぁ、そうかもね。そうだろう・・と思いつつ。
「やっぱり君女の子じゃないよ。そんな言葉口にする子いるもんか。」
カインはため息をついた。
「だろう。俺も俺が女なんて変だと思ったんだ。」
「そうだよ。変だよ、変!何が変ってこんな変なことがあってたまるもんか。」
「ちょっと言いすぎじゃねえ?」
そう言ってアレンとカインはケラケラと笑った。
そして結局、
アレンの考えたとおり、翌朝「彼女」は元の姿に戻ったのであった。
- 終 -
2011/06/17
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