足取りが重い。
もうすぐ目的のルプガナの街が見えてくると言うのに、
蓄積した疲労が容赦なく襲い掛かり、歩みを鈍らせる。
特に魔法力のつきかけているカインとマリアは顔色も悪い。
さらに問題は疲労だけではない。
ダンジョン内ほどではないが魔物もひっきりなしなのだ。
「くそっ!ど、泥人形と死神だ!」
アレンは前方に現れた魔物をいち早く発見し、
後方の二人に戦闘体制を取るよう声をかけた。
「・・・え・・・?」
しかし、体が思うように動かないのか、
カインもマリアも反応が鈍い。
「しっかりしろ!敵だ!剣を構えてろ!」
「あ、ああ!うん!!」
大声で怒鳴られてようやくカインは
あわてて腰に挿している胴の剣を取り出して構えた。
しかしカインが剣を構えて前を向いたときには
目の前にいるのは死神だけだった。
そしてアレンが死神の鎌と斬り合っていた。
「あ・・れ・・・?敵は?」
ぼうっとしている間にアレンが既に泥人形を倒したのかと思ったが、
実際はそうではなかった。
泥人形はすばやく回り込むと、後ろのマリアを狙ったのであった。
「マリア!!!」
カインの叫び声が鳴り響いた。
だが、マリアが魔導師の杖で防御しようとするよりも早く泥人形の体当たりが
マリアに襲い掛かった。
「きゃあああ!!」
当身を受けて、後方に叩きつけられたマリアはぐったりと倒れている。
あわててカインはマリアに駆け寄った。
「マリア!!マリア!!
くそ、この魔物め!!」
泥人形は標的を一人沈め、満足げに踊りながら
次なる標的のカインに向かって走り出した。
一足先に死神をしとめたアレンがその様子を見て、
あわててカインの助っ人に向かおうとして地を蹴った。
しかし次の瞬間、マリアの元で駆け寄ったカインの手のひらから
火の玉がほとばしった。
「ギラ!!!」
現在カインの唯一の攻撃魔法であるギラであった。
しかし泥人形はギラの炎を浴びて、一瞬ひるんだかに見えたが、
炎をまとったまま泥人形はカインに襲い掛かってきた。
「うわっ!!」
背後にマリアを守る形のカインは避けることも出来ずに、
その泥人形の一撃を受けて膝をついた。
「 はぁっ、はぁっ!」
追撃に備えて、急いで剣を構えないといけないのに、
体が重かった。剣を持とうとすると手がガクガクと震える。
蓄積した疲労で体が思うように動かなかった。
せめて敵を見据えて、マリアだけは守らないと・・と
思ったとき、泥人形は背後から襲い掛かったアレンの一撃で
崩れ落ちたのだった。
「大丈夫かよ。」
アレンは泥人形が動かなくなったのを確認してから剣を収めた。
「あ・・アレン・・・・。ありがとう。
僕は・・・・大丈夫。」
未だぐったりとしてマリアは目を開けなかった。
「ホイミ」
カインは目をつぶって、手のひらに魔法力をこめた。
倒れたマリアに向かって回復魔法を唱えようとしたのだ。
しかしその光は弱弱しく、マリアに届いたと思ったら
瞬く間に消えてしまった。
「おい、どうしたんだ?」
カインの魔法の失敗なんて、ここ最近アレンは見ていない。
カインは左手を額にあてて押し黙っている。
「どうしたんだよ。」
「ご、ごめ・・・ん。
魔法力がなくなっちゃった・・みたい・・・。」
そういうカインの顔色は青白い。
戦った相手が悪かった。泥人形の踊りは魔法力を奪い取るのだ。
「アレン、ごめん・・・。少し、休んだら、ホイミ分くらいは・・
・・魔法力回復すると思うんだけど・・・。どうしよう・・?」
アレンも近づいて、マリアの口元に手をあてた。
呼吸はしている。
気を失っているだけのようだ。
「大丈夫だろう。マリア息はしてるぜ。
気を失ってるだけだ。すぐに目を覚ますさ。」
「そ、そっか・・・・・・。」
すぐに目を覚ます・・と言っても、この周辺は魔物も多い。
休息をとるには適さない場所だ。
マリアもそうだが、カインもこの様子では心配だ。
アレンはふーっと息を吐いた。
「・・・・・アレン・・・?・・・」
「マリアは俺が背負うから、あの岩陰まで移動するぞ。」
アレンは横たわったマリアを背中に背負うと
ゆっくりと歩き出した。
「アレン・・・。」
ふらふらと後ろを着いて来ていたカインが
考え込むアレンに話しかけてきた。
「あんだよ。」
「あ、ごめん。何か考え中だった?」
「だから、何だよ。」
「あのさ・・アレンにばかり負担かけられないから、
途中まで行ったらマリア背負うの代わるよ。」
「・・・・・・・・・。」
「あそこまで行ったら代わろうよ。」
「・・・・・・・・・。」
「アレン?」
「馬ー鹿!!馬鹿かお前!!
んなの良いから、ちゃきちゃきと歩け。」
「ば、馬鹿って・・何さ、それ。」
カインはその言い方にアレンを咎めるような目で見た。
しかしアレンにしてみては、馬鹿もいいところだ。
一人で歩くだけでもふらふらとしているカインに、
どうしてマリアを任せて、一人悠然と歩こうなどと
思うだろうか。いや、思うわけがない。
そもそも、カインとマリアの二人に
こうまで魔法を酷使させてしまったことを
アレンは悔いていた。
とうに、薬草は尽きてしまい
回復の手段が回復魔法しかなくなってしまったのだ。
すなわちアレンには二人を直接的に回復させる手段がないのだ。
岩陰までやってきたアレン達は
マリアを優しく地面に降ろし、休息をとった。
カインも岩にもたれかかり、体を任せた。
相変わらず顔色が悪い。
アレンが見てもカインは体力も限界に来ているだろう。
「1時間もしたら、ホイミ分くらいは魔法力回復すると思うんだ。」
まだ言うか、とアレンは思った。
「良いから、お前も寝てろ。
しばらくしたら、叩き起こしてやるから。」
「う・・・うん・・・・起こしてね。
あ、魔物が来ても・・叩き起こしてね。」
「ああ。」
それだけやり取りすると
すーっとカインも眠り込んでしまった。やはり疲れていたのだ。
アレンはため息をついた。
今ここに仲間が二人倒れている。
助けてやりたいのに、アレンには何の力もない。
「くそっ・・・。」
アレンはカインが良くやっているように
魔法の詠唱を真似してみた。
そして、誰にも聞こえないような小声で、口にしてみた。
「ホイミ」・・と。
勿論、何も起きない。
自分は仲間を助けられない。
アレンは何も起きなかった自分の手をきつく握り締めて
地面にたたき付けた。
こんなに魔法が使えないことを悔しいと思ったことがない。
「何、やってんだ。俺・・・いまさら・・・。」
魔法が使えないなんて、昔から自分の中の常識だ。
いまさらそんな事を悔いても仕方がない。
そう、仕方がないのだ。
せめて、剣で二人を守るしかない。
元々分かっていたことだ。
アレンは体の力を抜いて、倒れているカインとマリアを見た。
大丈夫、二人とも体を休めているだけだ。
すぐに目を覚ますだろう。
今は自分も体を休めて、体力の回復を図ればいいのだ。
少し日が傾いてきた。
そろそろ次の目的地に向かうべきかと思ったとき、
アレンは魔物の気配を感じた。
「魔物・・か」
そろそろ1時間くらいは経っただろうか、
カインは自分を起こさなかったことを怒るだろうか。
だが、アレンはただ一人剣を持ち、立ち上がった。
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敵はきとう師が2人だった。アレンは剣を構えた。
こいつらは力も体力もない。魔法を使われる前に
始末してしまえば良い。
「ほっほほ、ロトの末裔よ。一人で現れるとはちょうど良い。
血祭りにあげてやろう。」
「やれるもんなら・・・やってみろ・・!!」
アレンの一撃はきとう師の持つ杖により遮られた。
そして、もう一体のきとう師がギラで攻撃してきた。
「うあ!」
アレンの体力も完全には回復していない。
敵が2体もいるとやっかいだった。
まずは1体をしとめようと、狙いを決めた。
だが、大きく振りかぶった一撃は空を切った。
「ふふふ、マヌーサを知りませんか。」
「マ、マヌーサだと・・。うぜえ!全部切り捨ててやる!」
アレンは目の前に見えるきとう師全て切り捨てる勢いで
切りかかった。しかし手ごたえがない。
「馬鹿の一つ覚えのように斬りかかってきては
勝てませんよ。」
きとう師は余裕の笑みを浮かべていた。
少しはなれたところから遠距離攻撃をしてアレンの体力を
削っていく作戦だ。
「−−−−−っ!!
うっるせええ!!俺には、これしかねえんだ!!」
アレンはなおも剣を振るった。
自分には馬鹿の一つ覚えのように剣を振るしかないのだ。
そうするしか、アレンには戦う方法がないのだ。
そうするしか、アレンには仲間を守る方法がないのだ。
「ならば、死んでしまうが良い!!
ベギラマ!!」
「!!!」
さっきよりも一段大きな炎がアレンに迫ってきた。
アレンは盾で防御したが、全てを防ぐことができず、
その炎によって体全身を焼かれていくのを感じた。
「どうやら、本当に他に戦う方法を持たないようだな。
では、死んでしまうが良い!!」
もう一体のきとう師が、続いてベギラマを唱えた。
大きなダメージを負ってアレンは動くことが出来ない。
再度あのベギラマを受けたら、今度はダメージ程度では
済まないかもしれない・・・。
そう、思ったとき、アレンと炎の間に割って入る人陰があった。
「えっ!?」
岩陰に倒れていたはずのカインであった。
「うわあああ!!」
「カイン!?」
アレンをかばったカインの背中にベギラマの炎が直撃したのだ。
「な、何を!!何をやってんだ!!お前!!」
「う・・・・・それ・・は、こっちの台詞だよ・・。
敵が出たら・・・・・起こしてくれる約束でしょ。」
防御も出来ずに直撃を受けたカインの背中は
ベギラマによって焼き爛れていた。
「おい、しっかりしろよ!大丈夫か!?」
「それ・・も・・・こっちの台詞。」
そう言うと、カインは左手をぎゅっと握り締めて、
「ホイミ」と言った。
癒しのホイミの光がアレンを包み込んだ。
「!?な、何を!!」
「ほら、いち・・時間・・・経ったから、ホイミ・・できた・・でしょ・・。」
アレンの負っていた火傷は癒された。
だが・・・
「馬鹿!お前本物の馬鹿か!!
回復するのは、俺じゃないだろ!!」
カインはガクッと力を失った。
大慌てでカインの体を揺すったが、ぐったりとして反応がない。
意識を失ったようだ。
いや、早く回復してやらないと、このダメージだと命の危険性もある。
「ば・・・か野郎・・・」
アレンは剣を握りなおして、きとう師たちをにらみ付けた。
きとう師は再びギラで攻撃してきたが、
アレンはそれをかわして、素早く背後に回りこむと、
大上段に構えた剣を振り下ろした。
アレンの『会心の一撃』を受けたきとう師は一刀の元に倒れた。
「次はお前だな。」
アレンは残る一体のきとう師に向かって剣を向けた。
「くっ・・。だが、お前に剣しか攻撃方法がないのは
分かっているのだ。」
きとう師は憎憎しげにそういい捨てると、
倒れているカインに向かって手のひらを向けた。
「てっめぇ・・・このくされ外道!カインに何するんだ!!」
「ふふふ。仲間が大事ならば、剣を手放してもらおうか。
さもないと仲間の命はないぞ。」
「なんだと・・・。」
アレンが剣を手放さなければ、カインに再度攻撃魔法を行うつもりのようだ。
カインのダメージから考えて、もう一度炎を受けたら、
本当に命に危険がある。
アレンは、ぎりっと奥歯をかみ締めて、
手に持つ剣を、手放した。
「手放した・・。これで良いのか。」
「そう、それで良いのだ!!」
きとう師はカインに向けていた手のひらを、
アレンに向けた。
「死ぬが良い!!ロトの末裔!」
そして再度ベギラマの魔法を唱えようとした。
だが
きとう師の魔法が唱えられることは無かった。
その寸前に、別の魔法の詠唱が背後から聞こえてきたからだ。
「バギッ!!」
バギの刃はきとう師の体をズタズタに切り裂いた。
「馬鹿な・・!もう一人仲間がいた・・・とは・・・!!」
「!?」
きとう師も、そしてアレンも思いも寄らない方角からやってきたバギに
反応も出来なかった。
が、その方角からは見知った声が聞こえた。
「今よ!!アレン!!」
その声に、瞬間的に状況を把握したアレンは地面に落ちる鋼の剣を
拾い上げて、きとう師にとどめの一撃を繰り出した。
「お、おのれーー!!」
きとう師はこの奇襲攻撃になす術もなく、倒れた。
アレンは血糊を払って剣を収めて、背後を振り返った。
そこにいたのは倒れていたはずのマリアだ。
「マリア・・・。」
「アレン、大丈夫だった?」
マリアはにこりと笑った。顔色も先ほどよりよほど良い。
「マリア、お前こそ、大丈夫なのか?」
「ええ、平気よ。ありがとう。
あなた方が戦っていたのに休ませてもらって。」
「いや・・・。あ、それよりカインを診てやってくれ。」
アレンとマリアは倒れたままのカインに駆け寄った。
「ひどい火傷ね。べホイミ・・・!」
マリアの唱えた癒しの光はカインの傷をたちどころに治して行った。
傷が消えるとカインは目を覚ました。
「あ・・・れ・・・?マリア?あれ?アレンも・・?
きとう師はどうなったんだっけ??」
状況を把握しきれないカインは周りをきょろきょろ見渡していた。
元気そうに起き上がった様子にアレンは安心して、
軽くカインを殴っておいた。
「いったいよ!何するのアレン!!」
「うっるせ!お前が馬鹿だからだ!
自分の回復もそっちのけでぶっ倒れやがって!!」
アレンにとって、カインが自身の回復を二の次にして、
先にアレンを回復して倒れたときの思いは言葉に言い表せないものだった。
「馬鹿って何さ!アレンこそ!約束破って一人で
全部背負って戦おうとして、馬鹿じゃないか!!」
カインだって、目が覚めたとき、
アレンがたった一人で戦ってる姿を見て肝を冷やした。
「馬鹿とは何だ!」
「そっちこそー!!」
「まぁまぁ、二人とも、落ち着いてよ。
良かったじゃない。皆無事だったんだし。」
マリアがそんな二人をまぁまぁと落ち着かせた。
「うん。・・・確かに、そうだね。あー・・・ごめん。頭冷やすよ。
アレン・・・、僕らを守って戦ってくれてありがとう・・ね?」
アレンは、二人の顔をもう一度見た。
「な・・・何?」
「どうしたのよ、アレン。」
「い・・いや・・・。」
二人とも元気そうだ。
アレンは胸をなでおろした。
一人のとき、あんなに不安に思っていたが、
二人とも元気になって・・・・良かった。
自分は・・・彼らを守れたのだろうか・・・。
「どうしたのさ、アレン。何かあったの・・。」
思いにふけるアレンは、目の前で不思議そうにしている
カインと目が合った。
「ぶっ・・・!なんでもねえよ!!」
アレンはぶるぶると首を振った。
いや、今は何も考えまい。早く街に着くことを考えればいいんだ。
「ほら、行こうぜ。もうルプガナはすぐそこだ!!」
そう言って、大きく前方を指差したのだった
- 終 -
2011/02/22
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