19.嫉妬

「えっ!アレン様、もう出発されるんですか!?」

クレハは王妃からその情報を聞くと
部屋を飛び出した。

思ったよりずっと早い!

結局このサマルトリアでアレンに会えたのは
一度だけだった。

一目見たアレンはまたたくましくなっていた。
そんなアレンと少しくらいは話す時間はあると思ったが・・。

「今ならまだいるはずよ。
 探してきたら?」

王妃が軽く言ったその言葉に、悩んだ。
会ったからと言って、何か自分にできることはないか・・・・。

たとえば何かを手渡したり・・・・。

そこまで考えて、クレハはある事に思い至って
部屋を出た。


アレンたちは既に積荷を乗せて
出発の準備を始めているらしい。

何故こんなに早く出立するんだろうか?

いつも死と隣り合わせと熾烈な戦いをしていると言う。
少しくらいは羽休みをして良いとおもうのだが・・。

そう思って、きょろきょろしていると
とある人物を見つけた。

マリアだ。
マリアはこちらを見ると、軽く手を振ってくれた。

「マリアさま、もう出発されるのですか!?」

「ええ・・そうなんだけど、まだ荷物の用意に少し
 時間がかかりそう。」

と言いつつ、マリアのほうはすっかり旅支度が整っている。
旅慣れた様子は、深窓の姫とは思えない。
いや、そんな枕詞はこの人にはもはや失礼だった。

それだけ立派な姿だった。

それはそうだ、その死と隣り合わせの熾烈な旅に
この人は同行をしているんだから。

そう思うとクレハには俄かに信じられない気持ちになった。

この人は女性だ。
自分を棚に上げて思うが、
女性のように見えて男性・・・と言うわけではない。

女性なのに、こんな戦闘に参加するというのは
どれほどの危険が多いだろうか。

それを成し得る一つの理由が、マリアの天才的な
魔法の才能だろう。

自分より年も若いこの姫の魔法が
自分などはおろか、世に憚るどんな魔導師よりも
レベルが高いことはローレシアでも垣間見ることが出来た。

クレハは思わずごくりと息を呑んだ。

「マリア様、出発まで少し時間がありますか?」

「え?そうね・・多少なら・・。」

色々聞いてみたいことがあった。

「少しお話をさせて頂いてもよろしいですか?」

「ええ、構わないわよ。」

マリアは穏やかに快諾してくれた。

少し場所を移そうかと思った。
しかし、クレハもマリアもサマルトリアの事はよく分からない。

どこをどう行けば良いものか・・・?と
思っていると、サマルトリアの元気な姫、マイを見かけた。
彼女なら良く知っているだろう。

そう思ったが、こちらが何を聞くより先に
人懐っこくマイがこちらに駆け寄ってきた。

「マリア姉さま!!お会いしたかったです!」

きゃ〜と歓声をあげながら、マイはマリアの手を取った。
どうやらマイはマイでマリアと話をしたかったらしい。
 





*****

気が付くと何故かこんな事に・・。

クレハは優雅に座るマリアと
かわいらしく座っているマイの間に座らせてもらいながら
場違いな空気を感じていた。

「あ。あのスイマセン。
 どうぞ大事なお話ならお二人で続けてくださいっ。」

さすがに王女二人に囲まれて話をするなんて、
自分でも出すぎた行為にしか感じられなかった。

「え?構わないですよ〜。
 たまには女同士、語りましょうよ!」

マイは妙にウキウキとしているようだ。

「ええ、たまにはそう言うのも楽しそうね。
 クレハさんにはアレンの事を教えてもらいたいわ。」

マリアはそう言った。
アレンの事・・・?
そんな事、私が聞きたい!

そう思うと、この貴重な時間を投げ出すのが勿体無くなってきた。
クレハは席を立つのを辞めた。あつかましくても、同席させてもらおう。
その様子を笑って見ながらマイがマリアに聞いた。

「ねえ、マリア様。
 私一度聞いてみたかったんです!
 旅って・・戦いって女性でも出来るもんですか!?
 できるものなら、私もやりたい!」

おお・・。マイはなんと核心に迫った質問をするのであろうか?
クレハも気になっていたことだ。マリアはなんと答えるだろうか?

「ど、どうかしらね〜?
 私も女性は旅なんてするもんじゃないと思うわ。」

少し寂しげに言うマリアにマイはさらに問うた。

「どうしてですか?
 マリア様は人並みはずれたすごい魔法があるじゃないですか?」

「それはほんの少しの事なのよ。」

「どう言う事ですか?」

「魔物が遠く離れているときは確かに有効だわ。
 だけど、魔物が本当間近に迫っている時、
 もう手も足も出なくなる。それだけの事よ。」

マリアは自分の手のひらをマイの目の前にかざしてそう言った。
マイだって魔物を見たことくらいはある。
だけど、この距離、この眼前に魔物が迫った経験は・・覚えていない。

「アレンなんかは逆にこの距離が得意で、
 自ら飛び込んでいくけどね。
 アレンはどんな敵がきても戦略を立てられるから、
 本当に心強いわ。」

クレハはアレンの最近のアレン実力がどの程度か分からないが、
今でも一番敵と近いところで戦い、
どんな敵にも屈することのない強さも持ち合わせていることを知った。
口にすれば簡単なことだが、実際はとんでもないことだ。

「戦闘中はそれでも私に出来ることって色々ある。
 攻撃だけじゃなくて、回復でも補助でも出来る自信があるわ。
 けど、旅の最中は私が出来ることって、ほとんどないわ。」

「そう言えば、旅の間ご飯とかどうしてるんですか?
 今も食料を詰め込んでるみたいだから、いっぱい持っていくんですか?」

マイの質問にマリアは少し恥ずかしそうに答えた。

「沢山持っていっても腐っちゃうからそんなに持ち歩かないわ。
 食事に関しては最近は全部カインがやってくれているの。」
 

「え!お兄ちゃんがやるんですか!?」

「カインは本当に器用で、ありあわせの物で何でも美味しく調理してくれる。
 私達本当に助けられているわ。」

「うっそ〜。でもまぁお兄ちゃん器用貧乏なところはありますよね。」

微妙にマイは納得していた。

「寝るときはどうするんですか?
 お風呂なんかは・・・。」

「そこが大変よね。
 宿に泊まれるときは良いけど、野宿の時は
 寝るといっても、雨だって降るし、虫も出るし魔物だって出るし
 安らぐことは出来ないわ。お風呂だって何日も入れなかったり
 湧き水で顔を洗うのが精一杯だったりするわ・・。」

その言葉にはマイは驚きを隠せないようだった。
女性にとっては、それはとても辛いことだろう。
マイが実際その環境におかれたら、やはり耐えられないかもしれない。

「マリア様、大変じゃないですか?
 旅なんてアレン様と・・うちのお兄ちゃんに任せておいたら?」

「それは嫌よ。」

「どうしてですか?」

「私には私の目的があるもの。」

毅然としたマリアの言葉にマイもクレハもドキッとした。
並大抵の覚悟でマリアが旅をしているわけではないのだ。
ピクニック気分で旅をしているわけではない。

「アレンとカインがどんどん強くなるのは見て取れる。
 それにアレンとカインは息もぴったりだし、
 二人がやるようには私はできない。
 でも私も負けたくないと思っているわ。
 こと魔法に関しては、特に・・・ね。」

マリアの目の輝きは確かな力を秘めていた。
二人が目を瞠るように自分を見つめているのを知って
マリアはくすっと笑った。

「だけど、ここではゆっくりお風呂も入れてよかったわ。」

「え・・あ。良かったです!マリア姉さまいつでも立ち寄ってくださいね。
 あまり何もない国ですけど、マリア様なら大歓迎です。」

「ありがとう。」

マリアが特別な環境におかれている事は分かる。
ただの女性ではない。
アレンたちと同じロトの血を引き、
同じように戦うことが出来る唯一の女性だろう。
つまりアレンに一番近い女性と言えるだろう。

クレハはそんな風に若干嫉妬深く思ってしまった自分が
少し嫌だった。

マイはそれらの話を興味深そうに聞きながら、
さらに質問した。

「マリア姉さまは、お兄ちゃんとか、アレン様のことを
 どう思ってるんですか?」

「え?」

「マイ様?何を・・。」

興味本位なマイの質問にクレハも驚いた。
だが、マイは続けて聞いた。

「だって、マリア姉さま女性一人で、
 やっぱり男の人と旅をすれば何かあるのかなあ〜
 なんて思うじゃないですか。」

マイは臆面もなくそんな事を聞いた。
とてもクレハには聞けない質問だ。
さすがはサマルトリアの姫だ・・。

「え?それは素晴らしい仲間だと思ってるわよ・・?」

「そういうことじゃなくって、たとえば・・
 じゃあ、まずアレン様はどうですか?」

「どうって、アレンはトラブルメーカーな所もあったり
 ビックリさせることも多いけど、でも根はとても優しくて
 意外と私たちのこともよく見ているわ。」

「アレン様優しいんだ〜。」

その言葉にクレハも頷いた。
そうそう、あまり知ってる人もいないが
アレンはとても優しい・・と思っている。

「お兄ちゃんはどうですか?へたれですけど。」

「カイン・・は・・・そうね・・。」

マイは同じようにカインについての印象を聞いたつもりだが、
今度は中々返事が来なかった。
その様子にけらけらとマイが笑った。

「あははっ。お兄ちゃん印象薄いんだーー。」

そう言うとマリアは首を振った。

「そ、そんな事ないわ・・。
 カインも優しいし、最近はすごく頼もしくなっているわ。
 それに・・・よく色々なことを考えているみたいなんだけど、
 私はそれに気づけないことが多くて・・・。」

「あーー、それはあるかもです。
 今回サマルトリアに来てからも、ほとんど喋ってもないですけど、
 てか、何も喋ってくれないんで何考えてるのか分からないですけど、
 でも何か一人で考えて勝手に決めたっぽいんですよね。
 昔っからそうですよ。
 最初に旅に出た時も、誰にも相談しなかったんですから。」

「マイさんにもそうなんだ?」

マイはぶんぶんと頷いた。

「どうしたら良いかしら?」

「私が思うにはですね、先回りすることです!」

マイは妙にはっきりとそう言い切った。

「どう言う事?」

「マリア様もお兄ちゃんの事そうやって見えてるなら、
 私の考えと一緒です。
 お兄ちゃん一人にしておかずに、先回りしちゃうんですよ!
 私もお兄ちゃんが一人で旅立とうとした時に
 武器を捨てちゃいました!」

「ええ!?そんな事があったの!?」

「それくらいして、ようやくお兄ちゃんとちゃんと話が出来ました。
 あの馬鹿兄貴は、本当困った奴なんです。」

「ありがとう、参考にさせていただくわ。」

マリアは頷いた。妙に納得させられる話な気もした。

「マリア姉さま、お兄ちゃんの事、よろしくお願いします。」

マイは神妙にそう言った。


そんな時に、扉を開ける音が聞こえた。

「あ、こんな所にいた〜〜〜!」

やってきたのはカインだった。
既に出立の用意も出来ているようだった。

「マリアのこと探しても誰も知らないっていうから、
 まさかと思ったら、こんな所に・・・。ここ宝物庫だよ!?」

宝物庫??
薄暗いひんやりとした部屋だと思ったが、
まさか宝物庫とは思ってなかった。
クレハはさらに恐縮してしまった。

「お兄ちゃんが、金の鍵開けっ放しにしてるから
 私もここに入れるようになっちゃったんだもん〜。」

マイがべーっと舌を出してそう言った。
確かに部屋の前には門番が立っていた。
が、扉自体は鍵がかかってなかったようだ。

「じゃあ、閉めるよ。
 はい、出て出て〜。」

カインはそう言った。
クレハはカインの事をちらっと見た。
この人が呼びにきたと言う事は本当にもう出発なのだろう。

マリアも言っていたが、この人が
アレンと息もぴったりで戦うことが出来る人だ。

アレンは小さい頃からずっと自分と同等の
友達を欲していた。
私はその合間合間にアレンとよく遊んだりもしたが、
やっぱりその相手は私ではなかった。

ローレシアの兄弟国サマルトリアの王子。
もちろんロトの血を引いている。

アレンのパートナーとするに、こんなに相応しい人は
確かにいないだろう。

これから先、アレンの力になると言う場面もあるのだろう。

「カイン様、もう出発ですか?」

「ああはい、そうなんです。。急に来て急に帰って慌しくてスイマセン。
 クレハさん達良かったらゆっくりしていって下さい。」

穏やかにカインはそう言った。

クレハは自分の荷物から小さな小さな袋を取り出した。

「これは、アレン様の少しでも力になれば・・と思って
 持ってきたんです。アレン様に渡していただけませんか?」

カインはどうしたものかとそれを受け取ったが、
困ったように笑った。

「せっかく持ってきたんでしょう?アレンに直接渡しなよ。」

「え?」

クレハが顔を上げると
カインが後ろから殴られていた。

「もーー。いったいってば!」

カインは思わずしゃがみ込んだ。
その奥にいたのはアレンだ。

「アレン様!!」

どうやらカインに付いてやってきていたようだ。

「ほら、これ、やり直しで。」

カインは殴られた頭を擦りながら、
クレハから預かった袋を返した。

「あ、はい!!あの、スイマセン。」

アレンは腕組しながら、少し怒っている様子だ。

「なんで、他の男に渡すんだよ。
 俺になんか持ってきたんだろう?」

ひゃーー。怒っている!
暗くて見えてなかったが、
一部始終をアレンが見ていたなら、
確かに、まるでカインに手渡してたかのようだ。

「も、申し訳ありません!!
 これをアレン様にお返しする機会だと思って・・・。」

「返すって何が?」

クレハはアレンの手に小袋を手渡した。
袋の中から出てきたのは小さい何かの種だった。

「お前、こんなのずっと持ってたのか?」

もう8年ほど前にアレンがクレハにあげた力の種だ。
クレハが力がないからとアレンがくれたのだ。
だけど、いつかこれはアレンに返そうと決めていた。

「ふーん・・・・。んじゃ、まぁもらっていくわ。」

アレンは言うなり種を飲み込んだ。
口調は変わらないが、表情は嬉しそうだった。

「こ、効果はありましたか?力は増えましたか?」

「お前な。そんなすぐにわかんねーよ。」

アレンはそう言って笑った。
アレンが笑ってくれたのでやっとクレハも笑顔になった。
笑うとアレンは小さい頃と同じ表情だ。
その表情にほっとした。

「アレン、良かったねえ。」

しゃがみ込んだままのカインが微笑ましそうに口を出してきた。

「お前!!いつから、そこにいたんだよ!!」

「えー。いつからって、最初っから、君と一緒に来たんでしょうが・・。」

アレンとカインの会話に思わず、クレハだけじゃなくて
マリアもマイも笑った。

「きゃーー。アレン様、お兄ちゃんをやってやって下さい!
 デリカシーないんですから!」

「妹もそう言ってることだし、覚悟しろっ!」

「っちょっと待ってよ!僕なんか悪いことした!?」

アレンがげしげしと遠慮なくカインを蹴ったりしていた。
まぁ、ただの照れ隠しなんだろうが、
何だか自分のせいで申し訳ない気分だった。

クレハはマリアの方を見ると、
マリアは嬉しそうに頷いた。

「え?これがいつもの私達よ。
 いつもの元気な私達に戻してくれてありがとう。」

そう言ってくすくすと笑っていた。




- 終 -

2012/09/21

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  ・・信じられますか?これって「決別」の続きなんですよ。
  あのまま悲しい気分で旅に出たくもなかったので、まぁ良いかな。
  リクエスト小説「マリア、マイ、クレハでガールズトーク」「嫉妬するアレン」の二つをやらせてもらいました。

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