温かいスープと紅茶


少し重だるい体を叱咤するように起き上がって、窓から空を見上げ た。
冷えた空気に少し体が震えた。でも空は青空だ。

「ああ、今日もいい天気ね。」

小さいころに母と庭園を散歩したときも、
あの過酷な旅の野宿の朝でも、見上げるといつも澄み切った青い色がどこまでも広がっていた。
それは、すべてが終わった今も変わらない。

体が重だるい理由は分かっている。
月のものが再開したからだ。
そういえば、旅の間はずっとなかった。きっと身体的に過酷で、それどころではない重圧のある日々を送っていたからだろうと思っている。
理由なんて、それ以外には考えられないのだが、それでは、今は随分腑抜けな日々になってしまったという事だろうか?
もしそう指摘されたら、今は今で一人で懸命な日々を送っているんですと、誰かに向けて言い訳したくなる。

マリアは今ムーンブルク城に帰ってきて、復興に向けての日々を送っている。
昔のムーンブルクを知っている人が多く助けてくれている。でもどうしてもマリア一人ではできることに限界がある。
はあ……と思いため息をついて、もう一度空を見上げた。

「彼らも同じ空を見上げているかしら?」

ふと、一緒に旅をした仲間たちのことを思った。
アレンもカインも王子という立場なので、今はそれぞれの城で忙しい日々を送っている。あんなに四六時中一緒にいたのに、今は気軽に会うこ ともできない。正直寂しさも感じているが、彼らの頑張りに私は負けたくないし、きっと、元気に過ごしているに違いない。

マリアは少し懐かしい思いを抱きながら伸びをした。
まぁ、こんな不調は初めてのことでもないし、少女というような年齢でもないのだから、騒ぐようなことではないのだ。

「マリアさま、おはようございます。」
「おはよう。さあ、今日も一日頑張りましょうね。」

私は部屋へやってきた女官のフルートに笑顔を見せた。

「何かご用でも?」
「マリア様、今日はサマルトリア国から新鮮な野菜や果物が届いておりまして。使者の方とお会いになりますか?」
「まあ、本当に?ありがたいわね。もちろん会うわ。
 使者の方はどちらに?」
「城門の方でお待ちになられております。」

ありがたいことに、同じロト同盟国のローレシアとサマルトリアは何かにつけてムーンブルクを気にかけてくれ物資などを送ってくれる。

先日もローレシアから大きなテーブルセットが届いた。アレン自ら運んできてくれたのだ。アレンがキメラの翼で飛んできた時は驚いた。
大勢で同時に食卓を囲むことができるような大きなテーブルだった。

昔のムーンブルク城のバンケットルームにも同じようなテーブルがあったが、魔王軍の強襲により、テーブルどころか建物ごと壊されてしまっ ていた。

アレンがそれを知って贈ってくれたものと思う。
しかし、随分復興も進んでいるが、現状その大きなテーブルを置けるほど部屋が整っていなくてまだ設置ができていない。

そんなことを考えながら城門へ向かうと荷押し車いっぱいに野菜と果物が届けられていた。

「まあ、こんなに沢山。どれもとても新鮮でおいしそうね。
 遠いところをわざわざありがとう。」
「とんでもございません。マリア様のためなら、私たちはいつでも馳せ参じますよ。」
「助かるわ。どうぞ顔をあげ……。」

使者の方に声をかけようとして、マリアはふと固まった。
妙に畏まってたけれど、今の声って…。

「あなた、カインよね?」
「あ、バレちゃった?」

やっぱりカインだった。顔をあげると、いたずらが見つかった子どものように笑っている。
深いツバの帽子を下ろすと見覚えのある綺麗な金髪がなびいて、優しい翠色の瞳がこちらを見ていた。
ああ、カインだ。

つい今しがた、遠いところでどうしているかと考えていたので、今自分の目の前にいるがとても変な感覚なのだが、彼に会うと強張っていた心 が不思議と安らぐ。
呼吸が楽になる感覚があった。

それにしても、今の重々しい敬語はなんなのだ。

「んもう、どうして変装なんてしてるの?それに今の言葉はなに…?」
「あはは、もうちょっと使者殿で通したかったんだけどなあ。声色ももっと変えなきゃダメだったな。」

どうやらわざとやっていたらしい。
訝しんだ表情のマリアを見て、あわててカインは手を合わせた。

「ごめんごめん。マリアがいつもどんな風にサマルトリアの使者と喋ってるのか、どんな女王さまやってるのかなあって気になっちゃって。」
「どんな風って……普通だけど。何かおかしかったかしら。」

自分で答えておきながら、普通ってなんだろうと思った。

マリアは今は一国の女王で。カインもサマルトリアの王族で。
旅の間は三人ずっと一緒にいたけど、自分たちを王族だと意識することはほとんどなかった。
それでも、旅の最中に立ち寄ったローレシアとサマルトリアでは、彼らの普段と違う様子に、当たり前だがアレンとカインも本当に王族なんだ と思ったものだ。

「マリア、疲れてないかなあって心配してたんだけど、会えて嬉しいよ。」
「元気そうで良かったわ、カイン。会えて嬉しいわ。」




マリアは今西の館に来ていた。
カインはそのまま厨房へ荷車を押して野菜を運んでくれた。せっかく来たのでと、カインは持参した野菜で何か振る舞ってくれるそうだ。
お城の皆も喜ぶに違いない。久しぶりにカインの料理が食べられるなんてマリアも嬉しく思った。

こうなったら、急いでダイニングルームの食卓を整えよう。アレンから頂いたテーブルセットを設置させてもらって、準備を整えねば。

そもそもだが、せっかくのアレンからの頂き物をいまだ設置もできていないなんてカインに知られたら、それはきっとアレンの耳にも入る。
彼らに「マリアは随分仕事が遅いんだな」って思われてしまうのは嫌だ。
タイムリミットはカインの調理が終わるまで。
急がねば。

しかし、アレンから贈られたテーブルはなんとも重厚感があり、簡単に運べそうもうない。
ことの次第を伝えると、クナが他の人手も呼んできてくれるという。
すぐに女官も何人かやってきて、パタパタと掃除をしてくれている。

「マリア様までそんなことなさらなくても。」

彼女たちに交じって、マリアも部屋の整頓を手伝った。

しばらくして、クナが帰ってきた

「マリア様、こちらのテーブルですね。
 しかしこれはちょっと…これは重そうですね。我々にお任せください。」
「ありがとう、クナ。って…。」

男手を連れてくると言っていたクナは、よりによってカインを連れてきていた。

「ちょ、ちょっとクナ…………!」

マリアは慌てて、クナを端に押しやって詰め寄った。

「マリア様、いかがなされましたか?」
「いかがってあなた、ど、どうしてカインを連れてきているの!?」
「ああ、人手を募っているのだと言ったら、ちょうど通りかかったカイン様の方から是非手伝いたいと仰ってくださって。」

そんなことだろうと思ったし、そんな様子は容易に想像できるものだが。

「こんな部屋の掃除なんかで、クナはサマルトリア国の大事な王子様に何をしてもらおうっていうのよ。」
「はっ……そ、そうですね。私は失礼なことを……。」

言われるがままに、カインを連れてくる大概馬鹿正直なこの人に頭を抱えた。

「マリア、僕は何でも手伝うよ〜。」

向こうの方で腕まくりをしてカインはやる気満々だ。

「良いのよ良いのよ、あなたはお客様じゃない?
 大事な王子様に何やらせてるんだってサマルトリア国から怒られちゃうわ。」
「そんなのどうでもいいよ。僕はただの野菜運びのお使いだよ。せっかく来たんだから、何でも手伝うよ。
 マリアの方こそ、そんな細腕で何をするの。」

そういわれると、自分は彼らと違って無力と言われてしまった気がして、何故か無駄に否定したくなった。

「わ、私だって、こう見えて、この腕であの過酷な闘いの日々で魔物たちと戦っていたのよ。
 普通の少女と一緒にしてもらっちゃ困るわ。」

自分でも何故こんなことを言ったのかと思うのだが、引き下がれなくなった。

「クナ、そちらを持って。私が端を持つから。」

アレンからもらった長テーブルを運ぼうとした。しかし、これが居室の文机とは全然違う重厚な重量で、到底びくともしない。
なんなのこれ?
必死に力を込めるとわずかに持ち上がったが、これをあのダイニングルームのカーペットまでと思うと余りにも果てしない距離に感じた。

「マリア様マリア様、そんなこと、マリア様がなさらなくても。」

女官達が慌てている。確かに男性陣がいる中でやることじゃないのだと思うが。

「マリア、代わるよ。」

カインがテーブルに力を込める私の肩に手を触れてそういった。

「どうして?」
「ここで手伝わなかったら、僕の方がお前何してんだって、アレンに八つ裂きにされちゃうよ。」
「…………」
「それと、ごめん、さっきのは僕の失言だった。」
「そんなこと。」

カインがさっきの言葉を謝罪したが、どうでもいいことに引っかかってしまったのは自分だ。
そう、つまらないことなのだ。
大体、私がよれよれと引きづってテーブルを運んだりしたら、テーブルや床にも傷がつくかもしれない。
その方が大変だし、アレンにも申し訳ない。

それより、アレンからの贈り物というのもいつの間にかカインの耳に入っていたようだ。

「じゃあさ、どこに設置したらいいのか、マリア指示をしてよ。」
「……ええ。」

カインが気を使った言い方をしてるのが分かる。
気を使わせて申し訳ない思いがしながらも、なるべく毅然として指示出しをした。

マリアがほとんど持ち上げられなかった重い机を、カインは簡単そうに持ち上げていた。
すごいなあ、自分にはできないのに、やっぱり自分とは違うなあ。そんなことを思いながらも、何も考えないふりをして、マリアは皆に指示出 しをし続けた。

彼らが机や椅子をセッティングをしてくれて、次は持ち込まれるテーブルクロスなどの装飾品の相談と確認をした。
女官たちも皆も粛々と作業をしてくれるので、作業は順調に進んだ。

「ありがとう。あとはこのカーテンを取り付けるくらいね。」

窓際に取り付けようと思ったが、手を伸ばしてもちょっと届きそうにない。

「梯子が要りそうだわ」
「はい!すぐにお持ちします。」

クナが梯子を取りに部屋を出て行った。
せめて、カーテンの取り付けまで、布巾で窓を拭こうかと思った。

「ねえ、マリア。どこかで足をぶつけた?痛めてない?」

手を伸ばして窓を拭いていると、思いがけないことをカインが聞いてきた。
カインは何を言ってるんだろう。重いテーブルだって彼らが運んでくれたし、どこもぶつけてなんかいない。

「痛めてなんか……、っ」

でも、一瞬の後に下半身に違和感を感じてマリアは真っ青になった。何かが足を伝う感覚があった。
視線をそちらに向けて確認したいのだが、カインの前でそれをするのが、どうしても憚られた。
何も言えないでいると、さっとカインがマントを取り外して私の肩にかけてくれた。

「ちょっと休もうよ。」
「で…、でもまだ皆が……。カーテンだって、まだ…。」
「もう十分だよ。あとはクナさんたちに任せたら良いんだよ。」

やりかけの作業が途中で終わってしまうのも気になったが、とにかく今のこの状況は良くない。

「マリア、ごめんね。体に触れるよ。」
「え?やっ」

どうしようかとおもっていると、突然カインがマリアの足に手をまわして両腕でマリアをぐいっと抱き上げた。

「カイン…っ!何を!」

マリアは突然の行動に驚いたが、周りも驚いている。そりゃそうだろう。女王が突然姫抱きにされてるんだから。
驚いた様子の皆にカインが向いて説明をした。

「女王様がお疲れのようだから、少し休んでもらおうと思うんだ。」
「マリア様!?どうなされましたか!?本当に少し御顔色がよろしくないです…っ」

「マリア様、大丈夫ですか!?」

梯子を持ってきたクナもあわあわとしている。

「クナさん、後はカーテンをよろしくお願いします。」
「あ、カイン様、こちらこそマリア様をよろしくお願いします。」

二人が互いに妙な挨拶をしているのがおかしいのだが、笑っている場合じゃない。

「ごめんなさい。クナ。」
「何をおっしゃいますか、マリア様のお体こそ我が国の一大事。
 どうかお休みくださいませ。」
「ありがとう。」

クナの会釈に手を振って、私たちは部屋を出た。

「とりあえず、マリアの寝室へ連れて行くから。」
「カイン、私歩けるわよ。怪我なんてしてないの。全然痛みなんてないから、大丈夫。」

お姫様抱っこで廊下を歩くなんて気が気ではなかった。

「でも足に血がついているよ。無理しないで。」

そういわれて、返す言葉を失った。
やっぱり、と思うと同時にこんな粗相を、よりによってカインに気づかれるなんて、私はなんて間抜けなんだろうと思った。
でも、だから彼はマントをかけてくれて、気づかれないうちにこうやって運んでくれてるのだ。

色んな事がいたたまれなくなってしばらく無言でいると、あっという間に寝室に到着した。

「着いたよ。降りられる?」
「だ、大丈夫…。ごめんなさいっ」

マリアは、恥ずかしさのあまりに何も言えず逃げるように部屋に入った。
扉の向こうの気配がいなくなったのを感じてから、運んでくれたカインにお礼も言えてないと気づいた。

ようやく確認してみると、やっぱり足には経血が伝って、それがドレスにまで滲んでいてひどい有様だった。
こんな状態で人前にいたなんて信じられない。
だから、皆に気づかれる前にカインは隠してくれたんだ。

「あ、…どうしよう。」

それに、あろうことか、カインにかけてもらった彼のマントにまで血がついていた。
このマントはずっと旅の間からカインが使っていたものだ。きっと彼のお気に入りなのに。
とんでもないことをしてしまった。何よりそれに動揺していた。

泣きそうになりながら、ドレスをそっちのけにして、そちらを何とか綺麗に洗わなきゃと布巾を手にして水を探して右往左往していると、部屋 に女官のフルートが手伝いにきてくれた。

自分が呼んだわけじゃないから、カインから頼まれたのかもしれない。
あえて、それを確認することはしなかったが、多分そうなんだろう。

「マリア様大丈夫ですか?」
「あ、あの、取れるかしら、これ。借り物なの。どうしよう…」
「あら、心配ないですよ。これくらいなら、洗剤ですぐに落ちます。マリア様は、お召し物も着替えてゆっくりしていてください。」

半泣き状態のマリアに年かさの女官はこんなことは何でもないからという風に言った。
この女官のフルートには何故か泣き言を言っても許される気がした。
彼女は何も気にしないでと言いながら、汚れものもすべて預かってくれた。

「マリア様は少し横になって、お休みくださいませ。お腹、お辛いでしょう?」

寝台に横になるように言われて、ゆっくり深呼吸をした。
落ち着いてみると、下腹部の重だるい痛みが蘇ってきた。

「今日は寒いですから、特にお辛いですよね。私、温かい飲み物でも持ってきますね。」
「ありがとう…。」
「なんのなんの私たち、マリア様の力になりたくて、毎日頑張ってるんですよ。」

そういってわざわざ力こぶしを作って見せてくれる女官のやさしさにようやく少しホッとした。
ごゆっくりと言って退室した女官を見送ってから、寝台で目をつぶって体の力を抜いた。

そのまま、どれくらい経っただろうか。
うとうととうたた寝をしているとコンコンと扉をノックする音が聞こえた。
飲み物を持ってきてくれたんだと思った。

「どうぞ。入って。」
「入っても大丈夫?」
「……!」

ぼんやりした眠気が一気に飛び去ってマリアは飛び起きた。
てっきり、先ほどの女官が戻ってきたの思ったが、扉の向こうから聞こえたのはカインの声だった。

「だ、大丈夫よ。入って。」
「あ、寝てて寝てて。起きなくて良いから。
 温まるかなと思ってスープ持ってきただけなんだ。」

そそくさと入って、机にカップを置いてカインはそのまま出て行こうとした。温かそうなスープだった。

「あなた、それフルートから頼まれて?」
「ん?ううん、そういうわけじゃないけど。こういう時は体を温めて休んでてください。」

まさか女官がカインにそんなお使いをさせたのかと思ったが、そうではなかった。

「こういう時って……。」
「あ、いや、まぁ…、僕には妹もいるから、なんとなく……あの……、その………月のものかなって、違ってた?」

カインは言いにくそうに教えてくれた。
最初から怪我じゃないってカインは気づいて、ああやって皆から隠して気遣ってくれたのだ。

「ごめんなさい。ありがとう。助かった…わ。」
「とんでもない。」

やっとカインお礼が言えた。

「これ、かぼちゃのポタージュ?」
「うん。かぼちゃが入ってて甘いんだよ。どうだろう。」
「これも、あなたが作ってくれたの?」
「そう、さっき持ってきた野菜で。」

カップに口をつけてスープを一口飲んでみると、優しいかぼちゃの甘味が口に広がって、体の隅々まで温まる気がした。

「さっきはムーンブルクのあんな手伝いまでしてもらってありがとう。」
「いや、全然。ところで、あれってアレンからもらったものなんだって?」
「そ、そうよ…。」

ああもう結局、全部バレてしまったなと思った。マリアの準備も段取りも悪くて、色々手が回ってないことももうバレてしまっただろう。
せっかくの大事な贈り物なのに、あんな風に置き去りなっているなんて、さすがにカインにも仕事が遅いと怒られるかもしれない。

「今度、アレンに怒っとくねー。」
「え、なんで。」

なぜかカインはアレンに怒るとか言い出した。

「あんな、びっくりするくらい馬鹿みたいに重い机、あんなところに置くだけ置いて行って。ていうか、何あの重さ…!」

確かに重たかった。マリアが持ってもびくともしなかったあの机。
カインが持っても重たかったんだと思った。

「楽々運んでるみたいに見えたけど。」
「そりゃ、運べなかったら格好悪いじゃない。
 アレン王なら運べたのにカインさんには無理なんですねって、そうムーンブルクの皆さんに言われたらかなわないじゃない。」
「ふ、ふふ…、それで頑張ってくれたんだ。ありがとう。」

そんな言い方をするカインに少し笑った。
二人が話していると、再び扉をノックする音が聞こえてきた。

「どうぞ。」
「マリア様マリア様、お飲み物をお持ちしましたよ。
 あら、カイン様。こちらに?」
「お邪魔しております。」

今度こそ女官のフルートが温かい飲み物を持ってきてくれた。

「ありがとう。紅茶かしら。おいしそう。でも、私もうお腹たぷたぷになっちゃうわ。」
「あらら…、私遅かったですわね。では、こちらに置いておきます。
 カイン様は、先ほどお料理作ってらしたと思ったら、こんなところに。」

女王の寝室に入り込んでいるなんて、そんなの曲者であれば許されないことだろうが、
すっかり信用があるようだし私たちの関係性をもう知って何も言われないあたり、カインの人徳だなあと思う。

そして、女官はそっと耳打ちして、汚れたマントも綺麗になったから、あとは乾かすだけだと教えてくれた。
その情報にマリアは胸をなでおろした。
ああ、良かった。一時はどうなることかと思ったのだ。

「マリア様、随分顔色が良くなられたようで良かったです。
 もうしばらくお休みくださいね。」

女官はペコリと会釈をして部屋を退室した。

マントのことでもカインには迷惑をかけてしまった。
丁重に謝罪したが、カインはそんなの全然気にしていないという。

「そんなのって。だって、あなたの大事なマントを汚してしまったのに。」
「だから、そんなの気にしないで。あれ旅の間から使ってたんだよ?
 ってことは、そもそも血まみれの泥まみれ。マイには汚いから早く捨てろって言われてるくらいなんだから。」
「え、そんな。マイさんひどい。」
「ね…!」

そう言って笑い飛ばしてくれた。
でも、笑い飛ばしてくれたのもカインの優しさなんだと思う。

「そうそう、クナさんがカーテンの取り付けも終わって部屋も綺麗に整ったって。
 落ち着いたらマリアにも見に来てもらいたいって言ってたよ。」
「ええ、私なんて一人じゃ何もできなかったわ。」
「そんな、…おおげさだなあ。カーテンだよ?」

カインはカーテンぐらいで何を、とおかしそうにしている。

「だって、私何もできてなくて。」
「いいんだって。机運びもカーテン付けも誰かにやらせていいんだって。」
「そういうものかしら。」
「いいんだって。マリアが言えば、皆動いてくれるよ。マリアがこの国の女王さまなんだから。」

女王…ってなんだろう。
今、お父様もお母様もおらず、手本もいなくて右往左往しながら日々を送っているのだが、何か違っていただろうか?

「女王…なんて、初めてやるんだもの。全部私がやらないといけないと思ってた。」
「マリアは本当に頑張り屋さんだなあ。うちの父さまなんて王様なのになーんにもしないよ。人使い荒いんだから。」
「……そうなの?」
「クナさんが言ってたじゃない。マリアが元気でいることこそがこの国の一大事なんだって。僕もそう思うよ。」

女王だから何でもできないといけないと思った。じゃないと皆認めてくれないと思った。
カーテンも取り付けられないし、机も運べなかった。自分には力もないし、一人では何もできないと悩んでいたが。なんでも自分でやらなくて いいらしい。

「僕も皆もマリアのためなら、なんだってやるからもっと色々いいつけて欲しいくらいだよ。」
「……ありがとう。心強いわ。」

フルートが持ってきてくれた紅茶を口すると、その温かさがまるで皆のやさしさにように体にしみわたっていった。
皆のやさしさが本当に心強く思った。






- 終わり -


2025/02/08

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【後書き】
クリア後結構すぐの相思相愛だけど、結婚はしてないころのカイマリでした。いい時期ですよね。
生理について…は、初めてやったと思う。色々大変な女王様でした。
なんでもやっちゃうマリアを書いてみたかったんだけど、できないって悩むマリアになってしまった。
色々すいません。

↓マントをかけてあげるっていうのは、サマムン的やってみたいシチュエーションの一つだと思って、絵にするならここかなと思いま した。





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