先ほどから妹が無言で自分のベッドに転がっている。
ごろごろとふてくされる様子は喧嘩した妹との幼き日を思い出す。
「どうしたの?
父さまと喧嘩でもしたの?」
兄に問われて、ちょっとだけ目線を向けたが、
すぐにぼすっと枕に顔を沈めた。
「お父さまと喧嘩?
べっつに〜。そんなのお兄さまだけでしょ。」
「違うの?最近よくうちに来るね?
この間も来てたでしょう?」
「何よ来ちゃ悪い?
前はお兄さま立て込んでたから、ちゃんとすぐ帰ったでしょ。
私来たら駄目なの?」
「駄目ってことはないよ。会いに来てくれて嬉しいよ。」
どうも妹はぶーたれた様子だ。
「何をふてくされてるの。お姫様。
あのさ、あんまりこっちに来てたら、皆心配するでしょう?」
そんな風に心配そうに言ってみたが、特に心に響く様子もない。
「大丈夫よ。
ちゃーんと私ルーラで夕方には帰ってるから。
本当、律儀で良い子過ぎるわ私。」
魔法使いと言うものは、魔法で自由自在にどこで行けてしまう。
きっと国の侍従たちは手に負えないだろう。
「ねえ、マイ。
何か話があるんだったらー…」
話を聞くよと言おうとしたら、
ドアが無造作に開けられた。
「カイン、あなたここにいたの…っ!?」
「…あ」
声の主のマリアは、扉を開けたその勢いのままカインに飛び込んできた。
「…っと。マリア、どうしたの…!?」
「どうしたって、あなたが急にいなくなるから、
探したじゃない…!!
って…あら?マイ…さん???マイさん、来ていらしたの?」
マリアはマイの存在に気づくと、
気恥ずかしそうにカインから離れた。
マイも少し気まずそうに身を起こした。
「マ、マリアお姉さま、スイマセン。
お兄さまお借りしてました。」
「マイさんが来てたのね。」
それなら合点がいった…という風に頷いた。
「良いのよ、ごめんなさい。わざわざ来てくれた兄妹水入らずの時間を
私がお邪魔したらいけなかったわね。
マイさん、ゆっくりしていってね。」
「あの、マリアお姉さま…!」
そそくさとバツが悪そうにマリアが再び扉を開けて出て行こうとした。
それを慌てて追いかけてマイが捕まえた。
「マイさん、どうしたの?」
「私、マリアお姉さまにお聞きしたいことが。
駄目ですか?」
マリアを見つめるマイの瞳は愛くるしい子犬のようであった。
断るのは忍びない。
「何かしら?」
「はい、あの、一度お伺いしたかったんですが、
お兄さまの事、男として、頼りないなあって思う事ないですか!?」
「えっ。」
「ぶっ、ちょっと何言うのマイ。」
カインがマイの質問に盛大にお茶を吹いた。
妹は突然何を言い出すのだ。
そしてマリアは何と答えるのか。
「ないわよ。」
マリアは穏やかな笑みをたたえて答えた。
おお…マリア……。
きっぱり答えたその表情が眩しく見える。
「本当に?慈愛に満ちた優しい嘘、なんて今は要らないんですよ。
正直に、正直に、私には真実を言っていいんですよ。」
マイは耳打ちを促すようなポーズまでしている。
だが勿論、マリアが「実は、本当は…」などと言う事もなく、
カインが一人憮然としだした。
「んもう、何なの。
お前はマリアに何を言わせようって言うの。」
内心何を言われるものかとドキドキしていたが、
マリアの様子を見て胸をなでおろした。
「私から見たお兄さまは、なよなよしてるし、
一人で突っ走って周りを振り回したりすることもあるし、
肝心なところでぶっ倒れたりして弱っちいし、
剣でも魔法でも一番になんてなれやしない。
それでも…?」
この口はどこまで言うのか…と思いつつ、
マイが何か切羽詰まった様子なので口を挟めない。
「ふふっ。
マイさんどうしたの?
それでも、よ。それでも私にとってはカインが一番男らしくって頼もしいのよ。」
「そ、そうなんですか。
そう言うこともあるんですね…。」
マイは不思議そうに怪訝そうにしている。
妹の罵詈雑言の嵐に、さすがに少し怒ってやろうかと思ったりもしたが、
言われてることはどれも確かに真実だと思うと、
カインは憮然としたまま何も言わなかった。
「分かりました。
マリアさまありがとうございます。お兄さまも。
今日のところは帰ります。」
「帰るの?気を付けて…。」
「はい、お兄さまもごきげんよう。」
ふらりと立ち上がると、
マイはカインとマリアに会釈をし、そのままルーラで去って行った。
カインとマリアはポカーンとマイを見送った。
「な、なんだったんだろう。
あいつ、ひとしきり僕の悪口を言いに来たんだろうか。」
「そんなことしてどうなるのよ。
それにしてもマイさん、どうしたのかしらね。元気がなさそうだったけど。」
元気がない。
確かにそれはそう思う。
いつもひまわりのように明るい性格だったのに、
何かに思い悩んでいるようだ。
それとさっきの悪口と何の関係があるのか分からないが…。
むう…と首を傾げた。
「あなた、ちょっと面白い顔になってる。」
マリアがふくれっ面のカインを覗き込んでいた。
「だって、そりゃああんな不躾なこと言われたら、
どうしたのかって思うじゃない。」
「ふふ、そうね。心配ね。
あれだけ言われても、まず第一に妹さんを心配するのは
やっぱりカインって優しいのね。」
「えっ、いや…そんなんじゃなくて。」
マリアの様子に、ちょっと顔を赤らめたが、
とりあえず顔を振って、マイの飛び立った先を見上げた。
行き先はサマルトリア。
かの国で、マイは何に悩んでいるのだろうか。
素直に悩みを言ってくれない妹がどうにも気がかりだった。
+++
ふわりと見慣れた城のバルコニーに降り立つ。
最近ルーラでの帰還はいつも自分の部屋のバルコニーだ。
誰の目にも付きたくないからだ。
ふと外苑に目をやる。
いつもと変わらないサマルトリアの国。
夕差しが差し込む時間帯。
人々は帰路につき、あたたかな夕餉を食す時間であろうか。
本来賑やかな国も、少し静かな時間帯だ。
自室に入ると、
無人の部屋は少し凍えるような寒さを感じた。
おかしいな、
さっきまでお兄さまとマリア様の部屋は寒いなんて思いもしなかったけど。
同じ時間なのに、何だろうこの寒々しい空気は。
やだやだと、首を振って
手近なストールをまとって暖を求めた。
鏡台のランプを付けて、ダイアリーを開いた。
パラパラパラとページをめくるが、変わり映えのない日常。
そう、変わらない、日常。
ずーっとサマルトリアの木々や植物の移り変わりくらいしか
ダイアリーに書くこともない。
兄のような大冒険がしたい、
なんて、今頃そんな子供じみたことを思っている訳ではない。
ただ、満たされた日々を送りたい、送れていればな…と。
冷え切った手に、は〜っと息を吐きかけて手をすり合わせて暖める。
「寒いなあ。」
炎の魔法なら得意なんだけど、
心を暖めるのはどうしたらいいんだろうか。
兄なら、知ってるんだろうか?
マイは、簡単に今日の記録をつけて、
ダイアリーを閉じて、顔を伏せた。
+++
「リックさん、王様のご指示でしばらく遠征に出るそうですね。」
リックは、サマルトリアの門番兵であったが、
最近はその努力が認められ、近衛の兵として日々従事している。
「何それ、遠征?」
きょとんとするマイにばあやが続けて教えてくれた。
「マイ様、お聞き及びではなかったですか?
一時期あの男にご執心でいらしたから、とっくにご存知かと思っていました。」
年かさのばあやは、知った風にふふふと笑った。
ばあやから見ると、リックは頼りない青年といったところだ。
一時、マイはリックと親しくしていた。
父サマルトリア王の耳にもその関係性は届いていたくらいだ。
マイがリックと相対して会話するときの表情は
殊の外明るく楽しそうなもので、心を開いている様子もあった。
実直真面目なリックは、自身の力不足を実感しており、
いつかマイや王に認められる存在にならんと日々修練に励んでいるのだ。
そう、日々…。
いくらか逞しくなっただろうか。
年頃の青年である。勿論、鍛えれば筋肉も付き剣の腕もあがる。
サマルトリア兵団の中でも実力を認められてきているのだ。
それなりに。
しかし残念ながら、その実力はどれほど鍛えても突出するほどでもなく、
昨今の目覚ましい進歩で王や周りの皆がその実力を認めた…というほどの事ではない。
本人も歯がゆく思っているのだろう。
泣き言は言わず、ひたすらに修練に励む姿はひたむきだった。
しかし、いつまで修練を積み続けるのだろうか。
『私、いつまで、待てばいいのかな。』
ひたむきな姿に、マイもその言葉を口にすることが出来なかった。
遠征なんて…また私しばらく待ちぼうけかな。
待つ?
いつまで待つんだろう。
どこまで行っちゃったんだろう。
お兄さまみたいに、リックも私を置いて遠くまで行っちゃうって言うの?
…。
追いかけてみよう。
ふとひらめいたその悪戯心に、マイは自身で少し驚きつつも
にやっと笑った。良い大人が何を考えるのだと思ったが、
私はその自制心を振り切った。
百面相なマイを不思議そうに伺うばあやの視線に気づき、
小さくため息をついてから、顔をあげた。
「ばあや、ありがとう。
リックも遠征とかするようになったのね。」
マイはいつもの笑顔でそう言った。
+++
「遠征なんて言うから、
私はてっきりいよいよあの岸壁の山々を越えて、
ロンダルキアにでも挑戦するのかと思ったのよ?」
マイの言葉に相手はぎょっとした様子で振り返った。
「まさかこんなところで会うなんて。」
どうもどこで話が大きくなったのか、
遠征と言うほどの大層なことはなかった。
リックの行き先はサマルトリアのほんの近辺だった。
「マイ…さま。」
「なんだ、泉の洞窟に来てたのね?」
出会った場所は泉の洞窟の入り口であった。
「どうしてここにマイさまが?」
リックは心底不思議そうにしているが、心外である。
「私がルーラ使えるの知ってるでしょ?
こんなサマルトリアの庭に来るくらいなら訳もないわ。」
「そうでしたか…。」
少々バツが悪そうにしている。
遠征なんて言ってたのに近場だっただろうかと思った。
「私てっきり、はるばる船にでも乗ってどこかの大陸にでも行くのかと思ってたわ。」
「その…つもりでしたよ。」
「あれ、そうなの?じゃあなんでこんな近場をうろうろしているの?」
マイの質問にリックは重そうに口を開いた。
「まずは泉のご加護を頂きに…。」
「なるほど、サマルトリアを出たら最初にここに来るのは通例ね。」
「順に…、次にローレシア、湖の洞窟、
その後はムーンペタやルプガナ、ラダトームへも。」
手にする世界地図にルートを記載しているようだ。
マイもそれを覗き込んだ。
本当に兄たちのルートと同じだ。
「へえ、そうなんだ。
中々の遠出ね。それなら面白そう。」
「お、面白そう…?」
マイの言葉にリックは戸惑ってばかりだ。
「うん、私もついて行こうと思ってたの。
こんな近場で終わりならがっかりだけど、色々世界を回れるなら面白そうじゃない。」
しかも何だか回るルートがお兄さまの旅の時と同じようなルートだと、
マイは幼き日の冒険心がくすぐられていた。
しかし、リックは大きく首を振った。
「と、とんでもない!
マイ様をそんな危険な旅にお連れしたら、私が王様に怒られます!」
「お父さまにはいつも怒られてるから、今更気にしないで良いよ。」
そんなことを言ってはみるが、やはり承諾しかねるように首を大きく振られた。
「大丈夫だから、ねえ。」
何度言ってもリックは頷いてくれない。
かたくなに連れて行く気はないようだ。
その様子に、少し悲しくなりつつ、でもどうせそんな事だろうとため息をついた。
「ふん、どうせそうよね。
誰も私を連れて行ってくれないんだ。
お兄さまもそうだったもの。」
「それは、マイさまがサマルトリアにとって大事な御方ですから!」
さも当然のように言うがその理論はおかしい。
「それ、お兄さまは良くて、私は駄目の理由にならない。」
「いや、分かってください。
か弱い女性のマイ様を危険にさらすわけにはいかないのです。」
「だから、それもマリア様が良くて、私は駄目の理由にならない。」
「あ…。」
あっさり論破されてリックは口をつぐんだ。
こんな問答なら、何度も何度もマイは脳裏で繰り返していた。
自分が行けないのは納得なんてできてはいない。
とは思うが、答えられないでいるリックが気の毒に見えてきた。
いつだって自分が諦めれば、丸く収まるのだ。
「もう良いわよ。分かったわよ。
どうせ誰も私と一緒に歩んではくれないんだわ。」
「そ…そんなことは。」
そんなことはないと言いつつも、方針を変えるつもりはないようだ。
「そんで、リックは何故遠征の旅に?修行?」
「そうですね、心身を磨き上げようと思っておりまして、
修行の旅路の許可を頂きました。」
どうやら、しばらくサマルトリアの護衛の任から外れることもも
父王の許可も得ているらしい。
「へえ…。修行して、どうするの?」
その質問に、リックはどう答えようかと一瞬答えに詰まって、
しかし思い切って顔をあげて答えた。
「こうすれば、マイ様に認めてもらえるような男になれると…!」
緊張した面持ちで、意を決して答えてくれたんだろう。
でもマイにはどうも釈然としない。
「なんで、リックが遠征したら私が認めるの?
どういう事?」
「え…。」
「大体このルートもどういうことなの?
お兄さまたちの旅と同じで…。」
そう言って、マイは続きを言いよどんだ。
すごく馬鹿馬鹿しいことに思い至ったのだ。
「お兄さまと同じことをしたら、私があなたを認めるって言う事?」
図星だったが、マイが怒ったような様子だったから
リックは答えられなかった。
「マイ様…?」
マイはその手を握り締めて、ふるふると震わせた。
「私が、あなたにお兄さまと同じことをしてほしいと思うと思ってたの?」
それは心外であったが、
でもそう考えると少し腑に落ちることがあった。
いつまでも終わらない剣の鍛錬、そして世界を旅する修行、
ずっと兄を意識してたのだ、ずっとそんなことを考えていたのだ。
だから、全然マイに会いに来れなかったのだ。
「ねえ、そう言う事?だから、ずっと会いに来てくれなかったの?」
「は…はい。」
だって、マイはずっと兄のことを自慢そうに言っている。
弱いとかへたれだとかなんとか言うこともあるが、結局はカインを尊敬している様子だ。
「バッカじゃない!
そ、そりゃお兄さまのことは好きだけど、
それとこれとは別じゃない?どこの誰が恋人に兄と同じになってほしいとか思う?」
『恋人』
…そんな言葉をマイが言ってくれたのが申し訳なく思う。
リックから見ると、マイは家柄は当然、全てにおいて眩しいばかりの存在だ。
少しでもそこに釣り合いが取れるような男になりたかった。
そこまで言われたことで、マイは少しはリックの覚悟が分かった。
でも、それでは駄目なのだ。
「じゃあ、私何年待てばいいの!?一年?二年?十年?
ううん、何年経っても無駄じゃない!」
「無駄…?」
「あなたが、お兄さまに追いつける訳なんてないもの!」
言い放たれるその言葉に、リックは足元が崩れ落ちるような思いがした。
努力しても無駄。
自分がマイに釣り合うような男になるのは到底無理。
やはり、自分のような人間は地の底から、
太陽をあがめるようにマイを見上げる他ないのかと思った。
蒼白な表情のリックにマイが首を振った。
「なんでそんなに落ち込むの!?
あなた何と比べてるの?」
「え…。」
「相手はロトの勇者じゃない。
比べてどうするの!?なれる訳ないでしょ!
修行して、皆がお兄さまみたいになったら、
世界は何度だって救われるわ!
まあ、良いことかそれって。」
言われてみれば、全くもってさっきから真実ばかり。
相手はロトの勇者の妹。そもそも釣り合いなど取れるはずもなく。
リックはぐうの音も出ない。
そんな様子のリックに、マイは必死に伝えた。
「リックはリックでしょ!
必死にひたむきに頑張るその男気に私は惹かれたの。
誰かと比べるなんて意味がない。
私にとってのたった一人の存在になってよ…。」
「マイ様…?」
「もっと、私に会いに来てよ。
ずっとずっとずーっと待ってるんだから。
私、もう待ちくたびれちゃったよ…。」
マイは両手で顔を覆っている。
細い肩、震わせる声。
泣いているのだろうか。
目の前にいるのは、手の届かない存在ではない、
こんなに心細そうな一人の女性だった。
そんな彼女を、自分はこれからも届かぬ努力を重ねて、
何年も何十年もただ待たせるのであろうか。
否…。
「も、申し訳ありません…。
自分が愚かでした。時間は有限。
貴重な時間を、自分はもっとマイ様と過ご…したい。」
その言葉にようやくマイは顔をあげた。
その瞳は赤く染まっていた。
「本当?
私と一緒に歩んでくれるの?」
「はい、こんな…未熟者で良かったら…!」
「本当、本当!?」
マイはリックの手をすがるように握った。
その手は華奢で強く握りしめると潰れてしまうんじゃないかと思った。
遠い存在じゃない、ここにいる大事な存在なのだ。
「嬉しい…!」
見せてくれたその笑顔はとても愛らしく、その手は放しがたいものだった。
そうだった、マイはずっと寂しい思いをしてきたのだ。
その寂しさを埋めることくらいは、
伝説の勇者じゃなくてもただの人間の自分でもできるのかもしれない。
「じゃあさ、じゃあさ、一緒に歩んでくれるんなら、
このまま世界の旅に行きましょうよ!」
「え。それは駄目です。
王様が怒ります。」
けんもほろろなその返事に、マイはぷーっと頬を膨らませた。
「ケチー!!意気地なしー!
お父さまなんて気にするなんて男らしくないー!」
今度は歯を見せてむくれている。
色んな表情を見せてくれる方だ。
「ですから、マイ様。
王様に許可を頂いてから、行きましょう。」
その言葉に、はっとした。
「お父上様にご挨拶に参りましょう。
きっとふざけるなと蹴りだされると思いますが、何度でも何度でも参りましょう。
そしていつか認めてもらえる日が来たら、その日は喜んで、
マイ様をどこへでもお連れ致しましょう。」
何度でも何度でも。
ひたむきなリックの事だ。
きっとそれは本当だろう。
「うん。分かった。
つまり、新婚旅行で行くのね!?」
「新っ婚…って。まだ気が早いですよ。」
「ふふ。早くない早くない。
さ、まずは一発目行ってみようー!」
マイはルーラで、帰ろうと言っている。
「え、私修行の旅のため、王に許可をもらってに出たのに、
こんなにすぐに戻って、しかもマイ様とご挨拶なんて、
八つ裂きにされるのでは…!?」
「大丈夫大丈夫、八つ裂きにされても、私ホイミしてあげるから!」
「ひぃぃ!それ、現実感帯過ぎですーー!!」
悲鳴をあげながら、2人は飛んで行ってしまった。
+++
「はぁ……行っちゃったわねえ……。」
「…………。」
はるか上空に、2人を見守るとある物影があった。
カインとマリアだ。
先だってのマイの様子を心配してやってきて、
事の次第をずっと空から見守っていたのだ。
「ちょっと、カイン。
何その顔は。」
信じられないものを見るような
何とも言えない苦虫を噛み潰したような顔だ。
上で見守っていたが、口も手も挟む余地はなかった。
マイが先ほど寂しそうにしていた理由も分かった。
だが、この顛末はどうだろう。
妹に親公認の恋人が……できるっぽいこの顛末は。
「それにしても、マイさん、
『何年たっても、あなたがお兄さまに追いつける訳ない』だって。
すごいじゃない。カインすごく尊敬されてるのね。
いつもはそんな様子見せないのにね。」
「いやあ……。」
褒められて一瞬嬉しそうな顔をしたカインだが、
ぶんぶんと頭を振った。
「って、おかしくない!?やっぱり駄目じゃない!?
僕より弱いような男に、マイを守れるの!?
そんなの話にならないでしょ?
もっと強い男じゃないと!」
なんだか頭を抱えている。
「いや、だから、それ過小評価で…。
あなたより強い男って、どこにいるのよ。」
「そんなの、どこにでもいるでしょう!?
ほら、えっと、例えばアレンとか!」
「じゃあ、マイさんの事はアレンにお任せする?」
「えっ、だ、だめーーーーーーー!!!」
「ほら、強くても駄目なんじゃない。」
マリアは一連の反応にくすくすと笑ってしまった。
「お兄ちゃんの苦悩は深いのねえ。」
マリアは、まだあーでもないこーでもないと言うカインと、
2人が飛んで行った方角を見つめた。
「うう……マイを泣かせたら、許さないからなあ……。」
「はいはい、それは許せないわね。
見守っていきましょうね。」
マリアは仕方ない人ねと肩をすくめて、カインを慰めた。
「どうか、泉のご加護がありますように……。」
カインが泉に向かって手を合わせた。
切実な祈りのようだ。
サマルトリアには暖かい柔らかな風が吹いていた。
- 続く -
2019/02/10
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【後書き】
マイちゃんに幸あれ。お兄ちゃんも心配ですね(笑)