ザハン 2


のんびりとした航海はそろそろ終わりに近づいている。



アレンが船室に入ってきた。

「お疲れ様〜、アレンー。」

長い船旅の道中、見張り役は交代で立っていた。
今、アレンが見張りを終えて、ミゲルと交代して
休憩にやってきたのだ。



「お茶でも飲む?」

カインはアレンの座る席にお茶を差し出した。

「ああ、飲む。もうじきに着くみたいだぜ。ザハン。」

「そっか、長かったねえ。今回の船旅は。」

交代に見張りに立つ中で3人はそれぞれ不思議なものを
見つけていた。


いつしか話題はその不思議な発見についてになっていた。

「私が見張りに出ていたときは
 大陸の外れに小さな集落のようなものがあったわ。」

「なんて街だろ?」

カインは世界地図を開いた。

「この辺だと思うのよね。」

竜王に教えられたロンダルキアの南部の平原だ。

「辺鄙な所にある街だな。ミゲルにあとで聞いてみるか。」

「そうだねえ。案外こういう所に探し物があったりしてね。」

アレンも先ほど見かけたものを思い出した。

「俺がさっき見張りに立ってたときは、ほこらだけが
 ぽつんと立っている・・そんな小さい小島を見かけたぞ。
 あれは怪しいな。」

「ほこら?何か目的があって建てられたのでしょうね。
 いったい何かしら・・?」

「そうだねえ。案外そういう所に探し物があったりしてね。」

思わせぶりに同じ台詞を言うカインに苦笑した。

「お前さっきからそればっかりじゃないか。
 カインは何か見つけたのか?」

カインも自分が見つけたものを目を輝かせながら語った。

「あ、うん!すごいのを見かけたよ!
 小さな島の中に大きな木が立ってたんだ!」

「・・・?島に木?どこが珍しいんだ?」

普通じゃないか・・とアレンは思った。

「普通じゃないよ。天にも届くんじゃないかって大きな木なんだ。
 でね、木はそれ1本なんだ。それでね、枯れちゃってたんだ。」

「・・・・それは大変だな。」

興奮しながら言うカインであったが、
大きな木が一本枯れていたからと言っても、それがどうしたのかと
ぞんざいな返事になってしまうアレンであった。

「でも木が一本だけと言うのもおかしな話ね。
 草木は生い茂ってたの?」

「ううん・・そんな様子も無かったなあ。
 木が一本あるだけで、あとは砂漠みたい。」

「じゃあ、本当に枯れちゃったのね。」

マリアが興味を示したようだが、
アレンは興味がわかない。



「それよりさー。
 島に着く前に飯にしようぜー。」

「ご飯?しょうがないなあ。
 今あんまり食材が残ってなくてさあ。」

アレンの要求に席を立って、食在庫を見に行くカイン。

「お前よく釣りしてるじゃん。」

「そうそう、魚を釣ろうとしてね。
 でもこの間つれたのはしびれくらげの大群。
 アレン、その足でも食べる?
 しびれくらげのてんぷらでも作ろうか?」

「げーーー。やだよーーー。」

「それじゃあねえ・・・」

なおも食在庫を物色するカイン。

「なあ、うみうしとか、ガーゴイルとかそう言うのは無しだぜ。」
 
「ええーー!それは僕、食在庫に入れたくないよー!
 ありえないよね、アレンの発想って・・」

ぶつぶつと呟くカイン。

しびれくらげを食在庫に入れてる辺り、
大概カインもどうかと思うアレンであった。






++++



1時間も経たない内に船はようやく
ザハンのある小島へとたどり着いた。

「小さい島に小さい街・・いや、村と言ったほうが
 良いかしら?」

「ミゲルも田舎だって言ってたね。」

「静かで穏やかな街だって言ってたけど・・」

小さな港に船を付けると、数人の村人が大騒ぎしている。
何かあったのだろうか?
いや、大騒ぎと言うより何か自分達を見ているようだ。
旅人が珍しかっただろうか?

「なんか、こっち見てるよね。僕達の扮装が珍しいのかな。」

「お前のその法衣が珍しいんじゃないのか」

アレンがカインの服装を指差す。
ロトの印が大きく模られたカインの法衣は、旅中で物珍しく見られることも多い。

「そうー?由緒正しいのに・・。」

カインが口を尖らせている。

港にいた村人の内の一人の女性が恐る恐る話しかけてきた。

「あの・・旅のお方・・・?」

「なんだ?ここはザハンという村だよな?」

アレンが無愛想に対応している。

「え・・ええ、ここはザハンです。
 あの・・・あなた方は旅のお方でしょうか?」

「そうだ。」

「大きな船でいらっしゃいましたが、
 船にはまだ人が乗っていらっしゃいます・・・・よね?」

「は?あ、ああ・・・あと一人航海士が乗ったままだが、
 何か用か?」

「ああ、お一人・・でしたか。では人違いです。」

村人はがっかりとした様子で村に戻っていった。




取り残されるアレンたち。

「なんだろう?何を期待してたんだろう??」

「きっと誰かそろそろ村の人が帰ってくる
 時間だったんじゃないかしら?
 紛らわしい時間に来てしまったわね。」

「そんなの俺たちのせいじゃねーよ。
 とりあえず村に行こうぜ。」

道案内をされるでもなく、ザハンの村へと入っていった。
村に入ると再び村人達が、そわそわした様子でこちらを見ている。

「やっぱり皆こっちを見てるね。
 どうしたんだろう?」

「だから、お前の服装が珍しいんだろ。」

「んもー。なんでさー。アレンの人相が悪くて
 皆怖がってるんだよ、きっと。」

「おま。俺の気にしてることを・・!」

「ちょっとアレン、カイン・・・
 周りを見てみて?気になることがあるんだけど・・。」

お互いつっこみあっている二人に
マリアが左右を見渡しながら静かに聞いた。
促されるままにアレンとカインも左右を見渡した。

素朴な建物と畑もいくつか見える。
奥の方には教会や宿屋などの店舗も小さいながらも構えている。
子供達がキャッキャ、キャッキャと追いかけっこして走り回っている。
どこにでもある静かな村・・・ではないか?

「どうかしたのか?マリア。何か見つけたか?」

アレンには何がおかしい点なのか分からない。
カインも最初ぼーっと眺めているだけだったが、
「ん??」と呟くと、あわてて後ろを振り向いたりして
キョロキョロとしだした。

「・・・あれ?・・・あれ・・・!?
 こんな村、僕初めてだ・・・・・・!!」

「なんだよ、なにがあったんだよ?紋章でも空を飛んでたのか?」

アレンがからからと笑っている。
もちろん紋章など飛んでいない。

「アレン、さっき港であったのは女性だったよね。」

「ああ、うん。おばさんだったな。」

「おばさんは失礼だよ、アレン。
 ほら、あそこの道具屋のカウンターに座ってるのも女性、
 あの井戸の周りでこちらを見ている人たちも皆女性、
 村を歩いてる人も皆女性・・・」

「え・・・、ってことは何?!
 この村ってあれか!?女だけの国!?」

ようやく自分を見つめる違和感の理由を理解して、
アレンもあわてて周りを見渡した。

「うわ・・・すげえ・・・ほんとだ。女ばっかだ。
 え・・・ちょっと・・・どうする!?カイン?」

途端に挙動不審になるアレン。
そのアレンの頭を魔道師の杖でマリアがポカッと叩いた。

「馬鹿ね。どうもしないわよ、アレン。
 女性ばかりだけど・・・・
 でもあそこの走り回ってる子供たちの中には男の子もいるみたい。
 いないのは大人の男性だけ・・みたいね。」 

女性しかいないのは、何か理由があるのかもしれない。
そして村人が自分達を見つめている理由も良く分からない。





マリアは村人の女性に事情を聞きに言った。
村入り口の広場の公園に座って編み物をしている女性に声をかけた。

「あの・・お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「あら、なんでしょうか?」

編み物をしている女性はニコリと笑って、答えてくれた。

「こちらの村は女性の方ばかりなのでしょうか?」

「いいえ、そうではありませんわ。
 もうすぐ私の恋人ルークが長い漁を終えて、帰ってきます。」

「ああ、皆さん漁に出ていらっしゃるのですね。」

聞けば男たちは長い漁に出ているとの事。
そして女たちは村を守り、主人達の帰りを首を長くして待っているようだ。

「旅のお方?ルークたちを乗せた船は見かけませんでしたか?」

聞かれてアレンたちは顔を見合わせる。
魔物も多く出る外の海で、自分達の他に航海している船は見たことがない。
だが、広い海なので見かけなかっただけだろう。

「申し訳ありません。
 私たちは見かけておりません。」

そう言うと女性はわずかに顔を曇らせたが、すぐに笑顔に戻った。

「そうですか・・仕方ありませんわね。海は広いですもの。
 一体、今頃どこにいるのでしょう・・・。」

笑顔でそういう女性だが、寂しげな様子は隠せない。
一体どのくらいの期間漁に出ているのだろうか。

女性に別れを告げて、マリアを先頭に3人は村の中を歩いた。





「女性ばっかりだったら、きっと大変だろうね。」

大きな荷物を持って歩いている人もいる。
本来男の仕事である力仕事も、彼女達が力をあわせて
行っているのだろう。

「危なっかしいね。僕ちょっと手伝ってくるー。」

「あ、おい。」

カインは彼女達を手伝いに行ってしまった。

「私も何か手伝えることがあると思うわ。
 ちょっと行って来る。」

マリアも一緒に村人の元へ行ってしまった。
女性たちは突然現れた旅人達に驚いた様子だったが、
マリアもいるためか、すぐに打ち明けて親しげな様子だ。


アレンも彼女らを手伝おうかと思ったが、
男手はカインがいれば事足りるだろう。

そもそもこの村には何か自分達の探し物が眠っているはずだ。
それは、紋章の可能性もある。

道具袋にしまった山彦の笛を取り出して、
おもむろにそれを吹いてみた。


ピー


だが、笛からは普通に音が鳴るだけであった。

「なんだよ、これ・・この前と一緒じゃねえか。」

アレンはため息をついた。
紋章じゃないとすると、この村には何があると言うのだろうか。

仕方なくアレンは村の中を探索することにした。
のどかな村では、子供達が走り回っている。
どうやら村の奥地には村人達にとって神聖な神殿があるようだった。

何かあるとすれば、ここに違いない。

村の奥へと進むアレンの元に、ある人影が目に入った。
それは、この村にはいないはずの大人の男であった。

漁に出ずに村に残っていた男だろうか?

「なぁ、おい。」

アレンは何気なくその男に話しかけた。
男はびくっとして、アレンの方を振り向いた。

「あ、あなたは!?この村の方ですか!!?」

男は驚いた様子でアレンに聞いてきた。

「いや・・。違う。なんだ、俺はお前は村人じゃないのか?
 この村は女ばっかりだから、肩身が狭いだろう?」

ちゃかしながらそういうアレンに対し、
男はふるふると泣き崩れてしまった。

「いいえ・・・いいえ。
 私はこの村の人間ではないのです。」

「なんだ、そうなのか?この村に何か用が?」

「私は旅の商人です。 実は・・・実は・・・・・」


「?・・・なんだよ?」

男は目に涙をためている。何事だろうか?


「こ、この村の男達を乗せた船が、魔物たちに襲われて沈没したのです!」


「え?」


「私はその事を、この村に告げに来たのです。
 ですが・・・・ですが・・・・この村の女性達の様子を見ていると
 そんな事、とても告げられやしない!!!」

「・・・・な、なんだって・・・!?」

「旅のお方、どうかお情けを。
 私の代わりに、この悲劇を村人に伝えて頂けませんか!?」



村に流れる暖かな潮風が急に冷え込むように感じた。



- 続く -

2010/12/31
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ザハンに上陸しました。
女だらけの楽園〜と言う感じではないようです

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