兜と糸と 2

3人はラダトームの宿の扉を叩いた。

「ようこそ。旅のお方。一部屋2ゴールドです。」

「じゃあ1泊。」

昔ながらの素朴なラダトームの宿はやはり今日も安かった。
ここは昔から旅人にはありがたい宿なのだ。






部屋に入ると荷物も下ろさずにカインがベッドへとダイブした。

「おい、着替えろよ。」

「は〜。ベッドだ〜!ふっかふかだあ。」

カインは嬉しそうに、まくらにすりすりしている。

「お前なんだよ。まだ寝るのか?船でも寝まくりだったじゃないか。これ以上寝る気かよ。」

アレンが武器防具を下ろしながら何気なく聞くと、
カインは、うーんとつぶやいている。

「とりあえず寝るんだったら荷物下ろせって。布団汚れるだろう。」

「そうだねぇ。
 って、いや!寝ないけど!」

今度は座って首をぷるぷると横に振った。

「寝ないのか。どっちでもいいけど。まぁ日もまだ高いしなあ。」

窓から外を見るとまだ日は高いのだ。夕方にもなっていない。
こんな時間に寝てしまうなんて一日がもったいない。

マリアもそう思っているのか、しばらくすると隣の部屋からやってきた。

「ねぇ、アレン。少し歩いてきて良いかしら?」

どこか行きたいところがあるらしい。

「一人で行くのか?ついて行ってやろうか?」

アレンが立ち上がっていうと、マリアはやんわり断った。

「大丈夫よ。魔法の勉強に行くだけだから、
 アレンにはきついんじゃない?」

「あー・・・・あの本だらけのところに行くんだな。それは眠い・・・。」

アレンは前回魔法の勉強をする二人についていって、
撃沈して船を漕いでいたことを思い出した。
正直二度と行きたくない場所だ。

「じゃあ、僕ついていこうか?」

今度はベッドに座ったカインがマリアに尋ねたが
やはり首を横に振った。

「一人で大丈夫よ。あ、心配しないでね。
 夜になる前には戻ってくるから。」

これは前回ムーンペタで勝手な一人行動をして
二人に心配をかけたことを言っているのだろう。

「まぁ、マリアも子供じゃないし。良いんじゃないか?
 じゃあ俺も少し出てくるわ。」

アレンは、手を上にうーんと伸ばして、伸びをしながら言った。

「アレンも?どこへ行くの?」

「まぁ街をぶらぶら歩いて・・爺さんに顔でも出してくるわ。」

「ああ・・・あのおじいさんだね。光あれーって。
 そっかあ、二人とも外に行っちゃうんだね。」

まだベッドの縁に座ったままのカインは
自分はどうしようかと考えている様子だ。

「まぁ好きにしろよ。夜まで自由時間だ。
 寝てても良いんじゃないか?」

「カインどうしたの?体調でも悪いの?」

聞かれてカインは慌てて否定した。

「いや、違うよ。元気だよ。
 ただ・・ほら、船でゆられてたから、地に根の張ったベッドが懐かしい・・・
 って・・・いや・・・そうじゃなくて。」

言えば言うほど墓穴を掘る様子のカインは
いつも通りと言えば、いつも通りだ。

「まぁ、好きにしてれば良いさ。
 じゃあ、俺たち行って来るから。お前も適当にしてろ。」

「そしたら、私も行ってくるわね。」

「うん。気をつけて。また後で。」

結局アレンはあきれた様子で、マリアを連れて出て行ってしまった。






アレンは身軽な格好でマリアと街に出た。

「ロトの兜はかぶっておかなくて良いの?」

アレンは何故かロトの兜を装備していない。
マリアにとってはアレンの今の身軽な格好の方が見慣れているが、
せっかく手に入れた兜を肌身離さず身につけておかなくて良いのか
気になったので聞いてみたのだ。

「えー・・・ここ街の中だぜー?」

アレンは少しばつの悪そうな表情をしていた。
攻められた子供のような様子だ。

「攻めているわけじゃないわよ?気になっただけで。」

「別に重いわけじゃないんだけど、何だか肩がこるんだよなあ。」

そういってぐるぐると肩を回している。
兜を装備すると肩がこるのか、それはマリアには少しピンと来ないが
まぁそういうこともあるであろう。

「一応持ってきてはいるんだ。なんかあれば、使うよ。」

どうやら兜は持ってきてはいるようだ。


「何だよ。そんなにまじまじと俺のこと見て。何かついてるのか?
 いや、つけてないんだよ、だから。」

思わずマリアはアレンの顔を凝視していたらしい。

「いや、あなたって不思議な人だわって思って・・。」

「えー!兜取っただけで、不思議がられるなんて勘弁してくれよー」

「え・・・いえ・・・そうではなくて・・・。」

アレンは勘違いしたまま足早に歩いていってしまった。
マリアもそれを追いかけた。

「どうでも良いけど、お前城ならあそこの角で曲がるんじゃなかったか?」

「え??あ・・・・そうだったわね。」

「あんまり遅くならないうちに行った方が良いぜ。
 じゃあ、俺はこっちなんで。また後でな。」

どうしようかとマリアが思っているうちにも、アレンはどんどん先に
進んでしまったため、仕方なくマリアも道を戻って城へと直行することにした。












「よぉーじいさん、生きてるか?」

アレンは久方ぶりに老人のところを尋ねた。

「前に来たときもそういっておりましたな。王子は。」

しばらくぶりに会った老人は孫に会ったときのような
嬉しそうな顔をしていた。

「元気だったかよ。」

「爺はいつでもこのとおり。」

確かに老人の佇まいは以前とまったく変わらず。
きっと何年もこの調子なのだろう。

「せっかくラダトームにきたんでな。報告だ。
 剣に続いて、盾と、兜手に入れてきたぜ。」

アレンは左腕に身に着けている盾と、しまいこんでいた兜を老人に見せた。

「おお、これは間違いなくロトの盾とロトの兜。
 よろしゅうございましたな。」

「あとは鎧なんだ。どこにあるかわかんねーかな?」

ロトの剣の居場所を知っていた老人に、
あわよくば鎧の居場所も聞くことができれば・・と思ったのだが・・・

「はて、とんと分かりませぬ。」

「・・・そーかよ。」

大して期待はしていなかったが、そういわれると絶望的な気分にもなる。
この広い世界のどこを探せば良いというのか、何かヒントくらいないものか。

紋章にしても、すでに何も情報がないのだ。
威勢よく飛び出して今まで進んできた我々の旅であるが、そろそろ路頭に迷いそうだ。

頭をかかえるアレンに老人が声をかけた。

「そこはそう心配せずとも、以前も言うたとおり王子の元には自然に集まってくるでしょう。」

ニコニコとほがらかな老人は苦労もなくそう言った。

「じゃあ、次どこに行けば良いのか教えてくれよ。」

「そうじゃなあ。まずは街でも歩いてみると良い。
 以前は行けなかった場所に行けるようになっているはずじゃ。」

「・・・・・・分かった。」

しぶしぶアレンは頷いた。幸いに時間はある。
このどこか懐かしい街を歩くのは嫌ではない。

「時に王子、またお仲間はどうされた?」

「一人はまた城に行ってて、一人は寝てるんじゃないか。」

「お仲間も元気か?」

「この間も同じようなこと言ってたよな?
 元気だって。爺さん最近同じことばっかり言ってるんじゃないのか?」

そうちゃかしたアレンであったが、今度は老人が笑っていなかった。

「・・・少し気をつけたほうが良いでしょう。」

いつもいつもこの老人が意味ありげに言うことは、
アレンにとっては意味の分からないことばかりだ。

「仲間のことを気をつけたほうが良いって?
 どういう意味だ?」

「何かおかしなことはなかったですか?」

アレンは手を組んで考えた。

「マリアのことか?確かに一時期きつい時期があったけど、
 もう大丈夫だと思うが・・・・。だけど、気を抜かないほうが
 良いってことだな。分かったよ。」

「・・・・・・。」

「違うのか?」

うんともいいえとも言わない老人にますますアレンは頭をかかえた。

「じゃあカインか?あいつがどうかしたって言うのか?
 いつもいつもへらへらして・・・
 ・・・寝てばっかりで・・・」

「それでどうされた」

「それに俺は少し腹が立ってるんだ。
 この間だって・・出発の時刻に寝過ごしたんだ。
 そんなのさすがに今までありえなかったことなのに・・・」

今まで、ありえなかったこと・・・?

アレンはここ最近のカインの振る舞いを思い返した。
全くいつも通りに過ごしているように見えるのだが、
やけにちょくちょく寝ている。
剣の稽古もどこか力が入っていなかった。

そして、ムーンペタの宿で伝書鳩の話をしながら言っていたこと。
これもアレンには引っかかっていた。

カインは何と言っていたか?
自分がいなくなったときのことを言っていなかったか?

「え・・・?ええ?じゃあ何だ?本気なのか?どういうことなんだ?」

妙な胸騒ぎがしてきた。

「気になるのなら、一人にしない方が良いのではないですか?」

またそしてこの老人は意味不明にも意味深なことばかりを言う。

「わ、分かったよ。見てくる!」

アレンは踵を返して、元来た道を戻ることにした。










+++





「・・・・・・・。」

部屋に置いてきぼりになったカインはベッドに転がっていた。

「はぁ・・・・。」

手袋を脱ぎ捨てて、両手で顔を覆った。

「いい加減・・・変かなあ・・・。」

ここしばらく、疲れが取れにくくなっている気がするのだ。

一日が終わると、どっと体が重くなるのを感じる。

それなりに休息を取れば元気にはなるのだが、
一度休むと中々目を開けられなくなる。

昨日、聖なるほこら行くと言うことは十分に認識していた。
なのに寝過ごしたのなんて、自分でもびっくりした。

アレンには困ったやつだと思われつつ、
まだ特に何も気にされてないだろう。
マリアとも、外を歩くときはいつも通り
振舞っているから何も気づかれてないだろう。

でも、いつまでこの調子でごまかせるだろうか。

「これって・・・・ちょっと、早い気がするんだけど・・・・。」

サマルトリアを出てから数ヶ月どころか、数日しか経っていないじゃないかと
抗議したくもなる。

困ったなあといいつつ、どうしようもなく。
できることと言えば、一日も早く先へ進むことくらいだ。

アレンがロトの兜まで手に入れたのは良かった。
あとは鎧だけなのだ。

だけど、それがどこにあるのか分からない。

カインは寝転んだまま世界地図を取り出した。

「あと・・・行ってない所。この辺・・?」

なんとなく地図を指で指し示しながら、
まだ行っていない城や村が色んな場所があることを改めて認識した。

「お城とか何かあるんじゃないのかなあ。
 でも、小さいこの村も何かありそう。」

結局、まだまだ先は長いのだ。

「あーーーもうっ。寝てる場合じゃないや!」

カインはそういって息を吐くと、起き上がった。
まだまだやることはいっぱいあるのだ。
寝ている場合じゃない、二人の後を追いかけよう。


カインは二人を追って、宿を出ると
ラダトームの城下へと出て行った。




- 続く -

2011/09/04
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  何故かいつもすごい難産になるラダトームでの話です。
  少しは話を進めていこうということで。

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