「拍手 1」
ある平和な国の、暖かな春の日のこと。
「お〜い。外に出たら危ないってば。」
声をかけたのは10歳になったばかりかという少年。
少年は3つ年下の妹のマイが心配で仕方がなかった。
男勝りの元気な妹はいつもいつもやんちゃな事ばかりして
兄を困らせていた。
「なーによ、お兄ちゃんの弱虫!」
妹はこの兄が大好きであったが、
弱虫なところは嫌いであった。
兄弟は二人だけで、城から抜け出し、城下町を出て、
平原に来ていた。
サマルトリアの国はこの緑豊かな平原が自慢であった。
この平原で思いっきり走り回るのが
いつしか妹は大好きになっていた。
「気持ちいい風が吹いてるわ。」
妹はご機嫌で、平原に向かって駆け出した。
「マーイー!!駄目だってば!」
あわてて兄も後を追った。
何度か平原に来ているとは言っても、それは供を従えてのこと。
子供達だけで城下町の外に出るなんて、
今まで持ってのほかであった。
「お兄ちゃんも早くおいでよ!」
ここは、城とは違って、
見たこともない花が咲いている。見たこともない蝶々が飛んでいる。
こんな素敵な所は他にはない。
マイは興奮し、わくわくしていた。
そして少しの冒険心が芽生えた。
「あっち。あっちは何があるんだろう?」
指差した先は、平原ではなく、木々が生い茂る森であった。は一度も行ったことがなかった。
「きっと・・・あそこにも素敵なものがあるんじゃないかな。」
そう思うと、マイの冒険心は抑えられなくなった。
行ってみよう!
そのままマイは森の中に走って入っていってしまった。
追いかけてきた兄は妹を見失ってしまった。
マイはきょろきょろ回りを見渡した。
「おっきな木がいっぱい。あっちもこっちも木がいっぱい。」
城下にも木ははえているが、こんなに沢山の木を見るのは初めてだった。
「すごいな〜。」
マイはあてもなく、森の中を歩いた。
そこに一匹の奇妙な物体を見つけた。
最初は水溜りかと思ったが、その水溜りはピョン!と動いた。
「え!何これ何これ!かわいい!!」
初めてみる生き物にマイは興味津々であった。
その生物は、マイが現れたのを見るとじーっと見つめた。
「なあに?お友達になってくれるの??」
思わず手を伸ばすと・・・
不思議な生物は急にいきり立ってマイに襲い掛かってきた。
「え!?」
生物は何度も跳ね上がり、口を開けると
かわいらしい外見とは似つかわしくない凶暴な牙で
マイにかみついてきた。
「痛い!!」
突然のことにマイは驚いて立ち尽くしてしまった。
そこに立ち尽くすマイの腕を取る人影が現れた。
「こっち!!」
人影はそれだけを告げると、強引にマイを引っ張り
走り出した。
兄であった。
兄がここまで追いかけてきていたのだった。
森を抜け、平原にたどり着いたとき、
二人は走るのを止めた。
「あーびっくりした。今の何だったんだろう。。」
マイには何故あのかわいらしい生物が襲い掛かってきたのか
分からなかった。
「ねぇ、お兄ちゃん。どうしてあの子急に襲い掛かってきたんだろう?」
そんな妹に兄は息を切らしながら答えた。
「あれはスライムだよ。モンスターだよ。」
「スライム・・・」
ああ、お城の授業で聞いたことがあるな・・とぼんやり思い出した。
そうかあれがスライムなのか、と一つ学習したなあと
マイが考えていると、兄が突然マイと目線をあわせるように
座り込んだ。
「危ないって言ったじゃないか!!
森の中には魔物がいっぱいいるんだ。平原にだっている。
今までお供が一緒だったから、マイは気がついてなかっただけなんだよ!」
「お兄ちゃん・・・」
温厚でのんびりやの兄がこんなに大声を出すのを初めて見た。
「ごめんなさい。。。」
マイがしょんぼりしていると、兄はスライムに襲われた傷に布を巻いて
手当てをしてくれた。
「無事で良かったよ。帰ろう。今度は手を離さないでね。」
兄はマイの手を握って、サマルトリアのお城へと戻っていった。
サマルトリアの王子カインの10歳の頃のお話である。