「ちょ……」
言葉が終わらないうちに、カインは押し倒されていた。
全くの不意打ちだったため、抵抗も出来ないうちに気が付いたら固い地面に敷かれた毛布の上に体を投げ出す形になってしまっている。
両肩を押さえた腕に、そして上から見下ろす形の青年の様子に、少し気分を害して、起き上がろうとする。
「いきなり、何をするんだよ、アレン」
手を振り払おうとするが、カインがどんなに力を込めてもアレンの手は動かない。
いつもの冗談なら、アレンはすぐに離してくれる筈なのに。
「ちょっと、アレン。離してよ」
もがいても、ぴくりとも動かない、アレンの手。
その時になって、カインは恐怖感を覚えた。
「アレン? 冗談もほどほどにしてよ!」
そう告げるカインに、
「お前って、本当に力ねえんだな。口調だって、まるで女みたいだし」
くすくすと笑うアレン。カインの頭に血が上る。
「ふざけないでよ、アレン」
『ギラ』
カインの指先から、炎が放たれた。
「効くかよ! こんなもん!」
炎を振り払ったアレンの手が、カインの顔に伸びた。
とっさに竦めた肩口から、頬、やがて額にかけて、アレンの右手が撫ぜる。
小さく眉をしかめ、アレンがため息をついた。
「やっぱりだ。お前、熱があるだろう?」
「え? そう?」
慌てたように、身を縮こめるカインだが、アレンは手を離す気はないようだ。
「え、そう? じゃねえ! 自分の体調管理ぐらい出来なくて、どうするんだ」
「だって、ほんの微熱程度だし」
カインだって、ハーゴン討伐の意思を持って旅立ったロトの子孫。自分の体調の変化ぐらい、自分が一番よく解っている。
この寒冷地で「自己犠牲呪文」などを唱えたせいで、体が不調を訴えているだけ――蘇生が少しでも遅れれば、この程度の不調では済まなかっただろう事も理解している。
マリアが『ザオリク』を使ってくれて、生き返る事が出来た。だったら、また、戦う事が出来るのだ。アレンやマリアと一緒に、旅を続ける事が出来るのだ。
サマルトリアに帰るのだ。アレンとマリアと一緒に、勝利を手にして。
そう、二度と間違えない。生きて、帰る。
多少の発熱など、問題ではない。これは、生きている証なのだと、カインは思う。
だが、アレンはそうではないようだ。
カインを押さつける力は、全く緩まない。それどころか、身動きを封じる力はますます強くなっている。
数分後、ついに音を上げたのは、カインだった。
「アレン、痛いから」
それに、すこしほっとしたようにアレンが力を抜く。
「やっと、本音を言いやがったな」
ぽこんと、アレンの拳骨がカインの額を叩いた。
夜明けまで、まだ時間はある。
「もう少し、休め。明日になってまだ熱があるようなら、置いて行くぞ」そんな事を言っていたアレンも、疲れていたのだろう。数分にも満たない間に、寝息を立てている。
だが、いくら眠っていても、「戦士」であるアレンは実に曲者だ。
自分たちに害する者が近づいたら、すぐに目覚めて臨戦態勢に入る。
そんな彼を守る為に、生きているのだと。
そして、いつか、共に平和を満喫するのだと。
少しだけ、「仕返し」をしたい気分を押し殺して、カイン明けてゆく空を見ていた。
2013/04/16
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