「あの、あの、あの、す、好きです」
「なっ……」
チュンチュンと、遠くで雀がじゃれあってるのがよく似合う四月二十五日の朝。
俺こと浅野亮太は、人生最大のピンチを迎えた。
「……亮太さん?」
何がピンチって、朝っぱらから人の登校時間に合わせて、いきなり玄関先に現れての告白。ピンチもピンチ、大ピンチだ。
だいたい俺はいつもギリギリ滑り込みセーフで遅刻を免れてるってのに……こりゃ、マジで一時間目には間にあわねえな。
……待てよ、そういえ1時間目は平野の英語か、じゃいいかな。あのおっさんもう惚けてて出席数えるのちょくちょく忘れるからなぁ。
「……亮太さん、ドコ見て喋ってるんですか?」
「んあ?」
不機嫌そうな俺の顔に、ヒッと言葉を無くす。しかし、またその顔にはすぐに疑問が浮かんでくる。
俺が向いている方角、俗に言う明後日の方角へ視線をやり、その後俺の顔をのぞき込む。
「あの、そっちに何かあるんですか」
「あのなぁ」
俺はこの純粋で、それでいながら無知な相手に、一瞬理解できるかどうか考えてしまった。
しかし、非凡かつ優秀な俺としては『ほらほらあの人おかしいのよ、道避けて通りましょ』的な目をされるのは大嫌いなので、あえて言う。
「これはな、お約束なんだよお約束。この世界のルール、分かった?」
「そ、そうなんですか?」
正直ため息が出る。俺だって、好きでやってるわけじゃないんだよねぇこんなこと。
「でもさぁこれやんないと、誰にも自分が誰だか分からないだろ。やんなきゃいけないの。
俺だってヤダよ自分のことかっこいいとか、めっちゃ頭いいとか言うのさぁ」
「……そんなこと言ってませんでしたよ」
「と、とにかく」
わざとらしく俺は咳払いをする。ともかくこの状況から急いで抜けだし、学校に急がなくては鳴らない。しかし。
「亮太さん、まってください。……返事を聞かせてほしいんです」
(うっ)
背中の下側から、冷たいモノがどっと頭のてっぺんまでワサワサと這い上がり、それがまた降りていくような潤んだ瞳を向けられ、体が固まる。
(や、やばい)
まるで、そう、去年の夏休み、雨の中、道端に捨てられていたクロ(は、今、家の庭で、俺自作の犬小屋に入れられぬくぬくしてる)の様な。
いや、一昨年翼を痛めたのか庭先で悲しく泣いていたピチ子(は、今はおれの部屋の鳥かごの中で熟睡中だ)の様な、
もしかすると一昨日まで魚屋の水槽で窮屈そうに泳いでいた鯉(もちろん今は家の水槽にいる)の様。
あ、つまり何が言いたいかって言うと、俺はそう言うすがる目に弱いんだって事だ。
「え、そうなんですか?」
「お前に話してんじゃないんだよ、耳塞いでな」
「は、はい」
ぎゅっと耳を両手で閉じながらも、なお少し垂れた目で俺を見る。や、やめてほしい。
「と、とにかくだ」
チラリと腕の時計を見る。こいつは時計屋で散々値切って五百二十円で買ったんだが、案外もってくれてる。
一度も電池交換をしていないのに、もう三年も使われている貴重な品だ。ま、それはともかく。時刻は八時十一分。
俺が通う北上高校までは徒歩二十五分。予鈴は三十分。……まずい。まあいくら相手を待たしたって答えは決まってんだ。
この際はっきり言った方がいいだろ。……ああ、シビアな俺。と、一瞬相好が崩れかかるのを精神力で押さえつけ、キッとそいつに向かう。
はっと顔を上げた途端に、俺は口を開いた。
「ゴメン」
瞬間、言葉の意味を理解したその顔が歪み、目に大粒の涙がたまり始める。
「ど、どうしてですか?」
「いや、そのなんだ」
はっきり言うと、こんな場面結構あった。うん、俺って持てるし。いや、でもねぇこれでも色々自分わきまえてるんだよねぇ。紳士だから。
「と、言うわけだから」
「ご、ごめんなさい、聞いてませんでした」
パッと両耳から手を離して聞き返してくる。
「………」
タイミングってのは物事何でもあるもので、もう一度同じ事を言うのはさすがに恥ずかしかった。で、耳の後ろを掻きながら、少し照れ気味に暴露する。
「あのさ、俺、実は恋人いるんだなぁ」
たいていの人間なら、これで断れるはずだった。しかし。
「え、で、でもいつも学校には一人で行ってるじゃないですか。帰りだって」
「そりゃ、俺が登校時は遅刻ぎりぎりな生徒、部活で帰る時間がバラバラだからだよ・・って、何で下校時まで分かるんだ?登校時ならいざ知らず」
切なげだった瞳が、途端照れた物になり、両手を困ったように交差し始める。
「……あと、つけたことありますから」
ゾッと背筋が冷たくなる。やばい。こりゃ本物だ。下手な言い訳したら、後々祟られるかも知れない。
「だからさ、俺恋人裏切りたくないんだ、分かる」
これは本当。そんで、もう一個おまけを付けとけば無かったことになるだろ。
「俺が、他の人に告白されたってだけで、あいつ泣くからさぁ」
これは嘘。
「嘘なんですか」
「げ」
抗議の目が、俺を真っ向から捕らえる。だからいやなんだよ一人称って。心の中で悪態ついてから、いらつきぎみに俺は相手の軽率さをたしなめた。
「耳塞いでろって」
「あ、す、すいません。で、でも」
訝しげな表情が俺に向けられる。疑問符で表したら七個はつくな。それでも、俺の言うとおり、耳を塞いだ。
今度は、声が聞こえないぐらいぎゅっとだ。ちょっと震え気味に見えるのは気のせいだろう。好きな相手の言うことを聞きたいって気持ち、分かるなぁうんうん。
チラッとまた時計を見る。大丈夫、走れば間に合う。一種の賭みたいなものだが、俺の頭にその時もの凄い案が浮かんだ。
「聞こえてるかぁ」
「…………」
俺の言葉に気づかないように、じっとあいては俺の顔を見続けている。
(ようし、ようし)
両手をすり合わせて、ついでにそれに舌なめずりまでつけて。少し簡単に屈伸して。……俺は一目散に走り出した。
「ああ、まってください」
俺は高校ではしっかり運動部にはいってるから足は速い。学校に間に合うためと、相手をまくための一石二鳥ともなれば速さに磨きが掛かるってものだ。
「待ってくださいよぉ」
俺の走りに追い付けないと分かっていながら、必死に後を追いかけてくる。と、その足が急に止まった。何か気がついたようにポンッと両手を打ち付ける。
「藤沢歩。慶嵐高校一年、乙女座のB型。剣道部に属しています。趣味は編み物。将来の夢は、大好きな人のお嫁さんになること」
……どうやら、俺がさっき言ったことを理解したらしい。しかし、お前その自己紹介おかしいんじゃないか?
俺はそう怒鳴りつけたいのを必死に抑えつけながら、全力で高校へと突っ走った。
「待ってください亮太さん!」
声は、辺りの家々に響きわたり、いつの間にか消えていった。
ちらほらと見える制服姿の行列。いつもは嫌な朝をイメージするそれらが今はなぜか嬉しい。
(忘れよう)
俺は自分に言い聞かせた。
(忘れるんだ亮太)
今朝のはキッと夢だったに違いない。十七年間真っ当に生きてきたんだ。あんな事がある分けないんだ。
(しかし……)
夢だと思うことすらためらわれる。かのフロイトは夢は見る物の欲望や、願望、を映し出すことがあると言っていた。
(まさか)
そう思っても、心理学者のお偉さんが言ってたことだ、無下に否定できない。
だからこそ、俺は夢にも現実にも出来なくて、悩める青少年のまま、学校への道を突っ走るのだった。いや、突っ走るつもりだった。
努力、根性等の、汗まみれ青年を一気にだらけさすあの声が聞こえてこなければ。
「電柱の影には、タンポポの花が咲いていた。日差しが電柱に辺り、小さき命にこれ以上生きるなと言うように、影を作っていた。
朝の忙しい時間のためか、誰一人としてタンポポを見ようとはしない。わずかな土から生えて、なおも人が産み出した物によって命を縮められている哀れな生物を。
風が、窮屈そうに路地を通って拭いてくる。朝の通勤のためか、町ゆく人々は見な急がしそうな顔をしていた。もっとのんびり生きればいいのにと、私は思う。
個人という物が存在しない町に私はいる。同じ格好をして、同じ机を使い、同じ場所で勉強する者達の中に埋もれ、私は一体何にたどり着けるというのだろうか。
……答えはあるのか………やぁ、亮太いい天気だね」
黙って走り抜けようとした俺を、親友である京介は、親切にも呑気に呼び止めてくれた。
「いやぁ、そう言われると困るなぁ」
「……………………一つ聞いて良いか?」
長い沈黙の後、とりあえず京介の歩に合わせてから俺は言う。
「どうぞ、スリランカとジャマイカの国際株価以外なら」
のほほんと京介は切り返す。
「………じゃあモンゴルの株価は分かるのか」
「日本円で、五百二十七円です」
「…………なにがだよ」
「何でしょう?」
がっくりと、俺は凄まじい速さで気力が抜けていくのが分かった。
「私は自分の非力さを感じた。永年一緒に暗くを渡ってきたと思われる友に、自分の冗談が理解されなかったからだ。
私の心に風が吹くのが分かる。それは、冷たく、静かな孤独の風だ。ああ、私は一人。誰にも理解されぬ、たった一人の存在であるという愚かしさよ」
「……今度は何の本を読んだんだ?」
朗々と喋っていた京介の言葉がピタリと途切れる。続いて、恥ずかしそうにその手が鞄からいそいそと一冊の本を取りだす。
(……これが似合ってるからやなんだよ)
そう口に出すのは余りにもばからしい。
「はい」
「………『放課後の関係』?」
「ボーイズラブです」
うっとりと京介は目を細めて手を組む。間違っても、こいつはホモに傾かないって事は、俺が一番良く知っている。こいつがうっとりしてる理由はただ一つ。
「愛という物をほとんど知らん若造が、知った風に男同士が愛し合う様を書くのが笑え、
自分が男として生まれてきたことに対する優越感を最大限まで感じるからです。所詮、こんな物、机上の空論に過ぎませんね」
「…………………」
俺が言おうとしていた台詞をさっさと横からかっさらい、京介は冷めた顔で本を鞄にしまう。
「ま、一度体験してみたいとは思ってますけど。同姓からの告白における心拍数の変化と、思考力の段階をふまえた様子を」
正直、俺は自分がドキリとさせられたのが分かった。訝しげな表情を京介は俺に向ける。
「どうしました?」
「いや、なんでも……」
言葉は、最後まで言うことが出来なかった。瞳の端に映った制服に、俺はあわてて京介の影に身を隠していた。
「ああ、遅刻、遅刻」
ちょっと太り君のお兄さんが、俺らの高校の隣りに位置する慶嵐高校へ入っていく。
いつもならここで、『やれやれ、今日もギリギリだなぁ)なんて、二つの高校を見つつ思うのだが、今日はそんな元気など無い。
「違ったか」
安心感でつい息をつく。
「何が違ったんですか?」
「い、いやなんでもないって」
あわてて否定する物の、俺の体はまた京介の陰に隠れている。今度は二人。柄の悪そうな男二人が、のんびりと高校の門をくぐっていく。
「ちょちょっと亮太。これじゃあ身動きとれませんよ」
「カニ歩きすればいいだろ」
ぎゅっと京介の背中を握りしめ隠れていたので、京介は眉を曇らしながらも、俺を払うことは出来ず、横に乗った乗ったと歩くだけだった。
そうこうしている家に、また何人かやってくる。
ゾロゾロゾロゾロゾロ………
男男男男男………
そう、慶嵐高校は男子校だ。つまり、けさ俺に告白してきた奴は……
「これはこれは、ずいぶん面白い話になってたんですねぇ」
「げ」
京介の目が俺を見て細くなる。俺は、京介が舌なめずりをしたように見えた。
「雨が降っていた。冷たく、悲しい雨だった。空は何かを耐えるように灰色に染まり、地はただただ濡れ続けていた。
『あなたが好きです』
少年の言葉に、青年は一瞬自分の背徳的な行為に身震いした。
しかし、目の前でじっと、自分だけを求める少年の前では、それは泡と消えていく物だった。
悲しみがしめるこの世界で、味方は互いに二人だけ。神などいはしない。
見つめる少年の目が閉じられ、そして青年は」
「やめろやめろやめろぉぉ」
耐えきれなくって俺は耳を塞ぎ、ついでにその場にしゃがみ込んだ。
ありありと、情景が頭の中に浮かび、少年と青年が、自分とあいつに当てはまっていくことを必死に否定しようと試みる。
ポンッと、そんな俺の方に手が置かれた。
「ひっ」
思わず悲鳴が口から漏れる。しかし、見つめてきたのは京介の細い目。
「助けてあげましょうか、友として」
「きょ、京介ぇ」
その目に、俺はハッキリと悪意といたずら心を感じた。
「べ、別にいいっ」
「そう言わずに、ね」
「断る」
「……ばらしますよ」
突如、京介の声のトーンが下がる。
「な、何をだよ」
京介がこの声音になるときは、決まって良からぬ事に違いなかった。必死に虚勢を張りながら言い返す俺に、京介はほくそ笑む。
「男に言い寄られた奴って」
「うっ」
もう、断る理由など無かった。
「貞操の危機を守ってあげるって言ってるんですよ、友達として」
「……ありがとう」
わざとらしい笑みに、精一杯のイヤミを込めて礼をする。
キーンコーンカーンコーン。
二校のチャイム音が重なり合って辺りに響く。俺達の学校の方が公立だからなのかチャイムの質が悪い。ま、とにかく。
「さ、いきましょう」
「……結局遅刻か」
散々な一日が始まったことは確かだった。
「『おっはよ亮ちゃん』
そう言って私は彼に近寄ったのでした。彼の横には吉田京介君がいます。結構珍しい顔ぶれで、ちょっとびっくりかな」
「……おはよ」
「おはよう三田さん」
とぼとぼと、どんよりとした空気を背負って教室に入ってきた俺に、三田夏美は元気な笑顔を見せた。
「どうしたの?元気ないじゃん」
「いや、別に大したことじゃないんだ」
俺は笑って誤魔化そうとした。しかし、横から京介が役者のように手を広げて口を開く。
「言えるはずがない。亮太は、そう自分に言い聞かせることで、もう少しで口から出ようとする事実を隠そうとした。
だが、それを見透かしたかのように、少女は彼の瞳をのぞき込む。
自分をいつも信じてくれる黒き瞳に、彼は躊躇し、悩む。
言わなくていいものか。言っていいものか。言った所で、何が変わるというのか。言わずに、何が終わるというのか」
「京介!」
「なに?何か私に秘密でもあったの?」
京介の語りを大声でヤメさせた途端、本当に夏美の顔がすぐ側まで来ていた。
ちょっとでも動いたらくっついてしまいそうな姿勢で、夏美の目に、俺の顔が映し出される。そして夏美は言う。
「言いたいこと、体に貯めとくの良くないよ。言っちゃった方がいいって」
何でもないように笑う。それは、あんまりにも明るくって、俺は、何だか黙ってるのがおかしいみたいに思えてくる。
「いや、黙ってるのは当然だと思いますよ」
キッと余計な一言を放った京介を睨んで黙らす。
「……笑わない?」
「笑えなかったら」
「……誰にも話さない?」
「それだけは大丈夫。信用して」
どんと夏美は強く胸を打つ。
「………わかった」
俺は、今だ混乱する頭を整理する仕事にかかった。
追いかけられて、京介にばれて、ビビって、男子校で……よく考えてみたら、それは簡単な一言で済むことだった。
「男に告白された」
「え?」
俺は夏美をじっと見る。夏美も愕いた顔のまま俺を見ている。
「そして、彼と彼女はそのまま動かなかった。冷たい風が、ヒュウウっと、ドコから吹いたような気がした。
一瞬とも、永遠ともとれるような長くも短い時間。
辺りは静寂に包まれたように止まり、今が授業前、ホームルーム後の短い休み時間で、
皆が一限目の英語の、小テストのため勉強しているのにさえ気づかない……」
「げっ」
「そういえば」
俺と夏美は、瞬間金縛りが解けたみたいに互いに離れた。恐ろしいほど静かな教室。爺の怒鳴り声の怖さを思い出す。
「じゃ、じゃあ夏美、話は後で」
「え、ええ」
「何だ、止めてしまうんですか」
俺達は早々に話を切り上げ、机に向かった。とりあえず、怒られないように。
「……で、結局どうしよう」
一日が、こんなに短いなんて分かったの、今日が初めてだった。一
時間目の英語から、先生に怒られまくりの散々ではあったが、いつもならば爆睡するはずの数学でもちゃんと起きていた。
……夢に捕らわれるのが怖かった。
「……いっそのこと、捕らわれてしまったらどうですか?それはそれで新たな生き方というもの」
「京介ぇ、助けてくれるんじゃなかったのかよ」
「やだなぁ、冗談ですよ、冗談」
もう、放課後を知らせるチャイムは五分前になっていた。
長ったらしくお喋りをしている女性軍や、昨日のテレビのことで盛り上がっている一部の男子。
そして、チャイム音と同時に帰ってしまった生徒の席。辺りは、毎日をただ繰り返している。
「亮太を除いてね」
「だぁぁ、分かってるわいそんなこと」
夏美が退屈そうに机に座って足をぶらぶらさせてる。
(たく、人の気を知らんで)
「退屈じゃないわよ。これでも考えてるんだから。どうやったらその子を諦めさせられるかって」
「ああ、そりゃありがとう」
「ずいぶんやけになってるわね」
「そりゃね」
『なにッ!今日は部活を休むだと』
さっき、先輩に届けを出しに言ったときに言われた言葉だ。
(んなこと言われたって、今日部活になんてならねぇよ。夜道で襲われたらどうするんだよ)
言いたいことは全部無念なかに押し込んで、申し訳なさそうな顔をしたのが利いたのか、結構素直に先輩は許してくれた。
『明日はしごくからな』
と、言うありがたい言葉を残して。
「ああ、何か本当ついてないなぁ」
「そうねぇ」
知った顔で夏美は苦笑する。くそ、何か腹立ってきた。
「ほら、イライラしない。イライラしてたらいい考え浮かばないよ」
夏美は、そんな俺に向かって、子供でもあやすかのように言ってくる。
「んなこと言ってもよぉ。どうするんだよ。なんて言えばいい?」
「いつも通り言えばいいじゃない」
「いつも通りって言われてもなぁ」
(そう言えば、俺断るときいつもなんて言ってた?)
ふと、腕を組んで考えてみる。脳裏に、今まで好きだと告白してくれた方々の顔が浮かんでは消えた。
(ああ、そうか)
それほど、考えず『ごめん』ですましていた気がする。一体何に謝っているのか自分でもよく判っていないのに。決まり文句のように頭を下げて。
「……男に告白されたからって、今までと変えるなんて言わないでしょ?そんなの、女にしてみたらふざけんなじゃすまないわよ」
「……ああ、分かってる」
「恋は、残酷だからね。そして、男は所詮女の気持ちなんて分からないんだろうね。だから、何度も間違える。
同姓だったら違うよね。女とは違う、男って事で、もう分かっているような気がする。自分達は、仲間なんだと、ね」
京介は、いつの間にか、窓の淵に腰をおろしていた。すぐ近くにいる物どうしにしか聞こえない小さな声。当然、その声は俺達ぐらいにしか聞こえてなかった。
「ああ、そうなんだろうな」
「そう言う物なの?」
「そうだろ」
俺の言葉に、夏美は少し納得行かないような表情を見せ、「ああ」と、次の瞬間頷いた。
「なに?」
問う俺に、少し照れたように笑う。
「イヤ、ちょっと想像してみたの。同姓に告白されたらって」
「イエスって言っちゃう?」
「まさか、そんな分けないでしょ」
ニヤリと笑う俺に、夏美はごく自然に笑みを浮かべてくれる。
反対側を見ると、京介が気がついたように笑みを返して……ああ、こういう雰囲気はいい。
最悪の一日だなんて思ってたのが、スッと消えていく気がした。
初めから、答えは決まっていたんだ。
「なんかさ、こういうのいいよな」
「え?」「なに?」
京介と夏美は驚いたように俺を見る。
「こうやってくだらないことで悩んで、くだらないこと話して。ゆっくりと時間が流れてって……」
「そうよね」
「そうだね」
少しだるげに、夏美は顔を俺の肩に預けてくる。京介の開けた窓から涼しい風が入ってきて、俺達の髪を凪いでいく。
「あ、あれ、もしかして、貴方が言ってた『彼』じゃありませんか?」
京介の声に、俺は無言で立ち上がり、窓の外を見た。校門に一人、慶嵐高校の制服で、誰かを待っている。
「ああ、そうだ」
焦りはなかった。とりあえず、鞄を持って京介にタッチする。
「何ですか?」
「進行役お願い」
「『分かりました』
私は、教室を出る亮太の背に、そっと呟いた」
「ね、私達も行きましょ」
「『ええ、そうですね』
すとんと窓枠から降りて、鞄を持つ」
「なんて言って断るか見物だよねぇ」
「『ええ』
三田さんの言葉に頷きつつ一緒に子教室を出る。辺りに、バラバラと帰る人の姿が見えた。
適当にお喋りし合う友。部室に行く人達。みんな、それぞれの時間を持っている。
階段を下り、昇降口で靴を履き替える。……校門に向かう少し手前で、彼らは向き合っていた」
「どうしても、ダメなんですか」
「ああ、悪いけど。俺そっちの趣味無いから」
「どうやら、告白はもう終わってしまったようですね」
「そうね、つまらないの」
「私と三田さんは、校門の反対側から、じっと二人の動向を探っていた。
よく見ると、亮太に告白した青年というのは、なかなかの美男子だ。あんないい顔をしているのにホモとはもったいない」
「だから、ダメだって言ってンだろ」
「亮太は、青年の頑固さに、半ばしびれを切らしているようだった。しかし、青年の方は、そんな亮太に、なおも近寄る」
「交換日記から始めせんか?友達みたいな関係からでもいいんです」
「だーめ」
「だめですか」
「だめだ」
「青年の顔には、明らかに落胆が浮かんでいた。仕方なさそうに一つ息をついて、その後、思い出したように顔を上げる」
「分かりました、恋人は諦めます」
「諦めてくれたか」
「『もういいでしょう』
三田さんが頷いたので、私達は姿を現すことにした。途端駆け寄る亮太に可愛らしく『タッチ』と手を触れる。
「ん、ありがとよ」
俺の前で、男(確か歩と言ったけ)は、まだ何か言いたそうにもじもじしていた。
「何だ?まだなんかあるの」
ビクッと、俺の言葉に肩を震わす。
「こら、竜太、虐めちゃダメ」
「はいはい」
夏美が軽く俺の頬をつねる。俺はわざと顔をしかめてみせ、その手をふりほどいた
「あ、あの、竜太さん」
歩は、思い切ったように口を開いた。そして、出てきたのは大声。
「ぼ、僕の兄貴になって下さい」
「な、なにぃぃ」
「ああ、それなら平気ですよね」
「男同士だって気にすること無いものねぇ」
夏美と京介は良かった良かったと頷き合う。
(ちょっと待て、イヤ、そうじゃないだろ。何か違うだろ、何か)
陰謀。
俺は、一つの臭いを感じ取った。今日という日に対して何か。
「あ、あの、兄貴」
照れながら歩は言う。
「ええい、寄るな寄るな」
必死に両手を振って、俺は走り出していた。この数奇な運命から逃れるために。
「ははは」「ふふふ」
二人だけは、夕日の中、いつまでも笑いあっていた。さもおかしそうに。
完
| この作品は確かに ホモ話かも知れない。 けど 私はホモは大ッ嫌いです。 この作品を書いたのは、 自分の限界を知りたいため…… 当時作品を書いた直後 自分の力のなさに気づきました(爆 ここまで読んでくれてありがとうございました。 |