ヴァイグレ指揮読響
〇2026年7月14日(火)19:00〜21:05
〇サントリーホール
〇2階C7列26番(2階中央ブロック7列目ほぼ中央)
〇ジークフリート・マトゥス「怒り狂う女」(日本初演)
ショスタコーヴィチ「チェロ協奏曲第1番変ホ長調」Op107(12-10-8-6-4)
+バッハ「無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調」BWV1009より「ジーグ」(以上Vc=ダニエル・ミュラー・ショット)
ルディ・シュテファン「交響的楽章」(日本初演)、R.シュトラウス「死と変容」Op24(約24分)
(16-14-12-10-8、下手から1V-2V-Vc-Va、CbはVcの後方)(コンマス=林)
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知られざるドイツ音楽名曲展示会
今月の読響は常任指揮者のヴァイグレが4つのプログラムを振る。とあっては行かないわけにはいかない。この日は日本初演2曲を含むマニアックなプログラムのせいか、6割程度の入り。
ジークフリート・マトゥス(1934〜2021)は旧東ドイツで活躍した後統一後のドイツでも大功労十字章を受章するなど、高く評価された作曲家。2005年ドレスデン聖母教会再建献堂式のための音楽を作曲しているが、日本ではほとんど知られていない。
「怒り狂う女」は1999年の作品、原題"Furien-Furioso"のFurienはローマ神話の復讐の女神たちを意味する。外見上の愛想のよさや親切心をまとって私たちの人生を困難に陥れる彼女たちを音楽の力で追い払おうという意図で作ったらしい。
弦と管によるトリルが重なって不快な音色のフレーズを提示。女神たちの「金切り声」という設定らしい。弦による怪しげな動きが曲を主導し、そこに絡む管・打楽器が縦横に空を飛び回る女神たちを連想させる。特にラチェットによる木の歯車が回るような音が耳に残る。
それがひと段落すると、コンマスのカデンツァ風のソロとなる。そこにハンドベルのような形のフレクサトーンが絡む。奏者が楽器を上げると音程が上がり、下げると下がる。ヴァイオリンとのやり取りが面白い。
再び「金切り声」が回帰し、だんだん音楽の勢いがなくなっていくが、最後にティンパニの一撃で終わる。
ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番第1楽章、ショットは冒頭のG−E−H−Bの音型を折り目正しく刻みながらオケを引っ張っていく。生真面目な音楽の運びがこの曲の影の部分を浮き彫りにする。
第2楽章、1本しかないHrとVcソロとの掛け合いが見事。
第3楽章、息が詰まりそうな緊張感に支配されたカデンツァ。
第4楽章、断片的なフレーズが徐々に民謡風の音楽(スターリンの愛唱した「スリコ」らしい)にまとまっていき、そのまま発展するかと思ったら、冒頭主題が回帰して陽気な雰囲気で終わる。
ショットも気が付いたら今年で50歳。暗めの音色と楷書風のフレージングでショスタコーヴィチの一筋縄でいかない世界を描き出す。
アンコールのバッハはハ長調ということもあるが、楽器をやや寝かせて弾くことで俄然響きが明るくなり、速いテンポでスイスイ弾いていくのに聴く者を癒すように広がっていく。
ルディ・シュテファン(1887〜1915)はドイツ南西部ヴォルムスの生まれ。若くして才能を認められ、将来が期待されたが第一次世界大戦に従軍して戦死。現存する作品は極めて少ないという。
「交響的楽章」は1910年の作品。調性を維持してはいるがメロディックな要素は排され、抽象的な短いモチーフを積み重ねながら音楽を創っていく。低弦の上昇音型にVの下降音型が応えたり、大管弦楽を華々しく響かせるかと思えばVc3人による室内楽的フレーズが続いたり、二項対立的な要素を組み合わせて音楽が進む。終盤ではオルガンによる壮麗な響きも加わり、最後は変ニ長調の輝かしいフレーズで終わる。それまで急緩の役割を分けた4つの楽章で成り立っていた交響曲を一つの楽章にまとめようとした試みのようにも聴こえる。
最後はシュトラウスの「死と変容」。不穏な雰囲気の序奏に続き、病前の幸せな日々を連想させるOb、コンマスのソロが美しい。ティンパニ強打で死との戦いの音楽になる。迫力満点の響き。生死の間をさまよい、いよいよ臨終が迫ったところで金管が変容(浄化)のテーマを提示。死者の前に突如天国の門が開かれたような雰囲気。その後変容のテーマが各パートで繰り返され、死者を優しく包み込み、天上へと導いていく。
最後の音が消えて両手を高く上げたままのヴァイグレ、ゆっくりと下すもなかなかこちらを向かない。しびれを切らしたようなブラヴォーに続いて拍手。
落ち着いたテンポだがここぞという場面の推進力は抜群だし、シュトラウス特有の甘美な響きも堪能。
団員解散後ヴァイグレの一般参賀。いつもより長めに聴衆に応える。
近現代の知られざるドイツ音楽を日本に紹介することに対するヴァイグレの情熱は衰えることがない。来年3月にはシュテファンの代表作である「最初の人類」を初演する予定。今から楽しみだ。
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