[[Novels]] * the lost [#e23a43d6] ある男が1人の孤児を引き取った。~ 酔狂なコトにそいつはその孤児を自分の子のように育てた。~ ギターを教えた。喧嘩を教えた。学校にも行かせた。 いつの間にかそいつが父さんになっていた。~ そう、その孤児だったのがオレ── Berzes McClane ──さ。~ 幸せってのは儚いものさ。オレが13の時、父さんは死んだ。その時は事故だと聞いた。葬式をしてもまだ信じられなかった。~ 父さんは、学校出るまで充分暮らせるだけの貯えを用意してくれていた。随分準備が良すぎると、子供ながらに思ったよ。 学校を出たオレは音楽で食って行くコトに決める。一番自信があったからな。~ ケド、そんなヤツはごろごろいるのさ。知ってのとおり、ミュージシャンなんて沈んで行くヤツの方がずっと多い。オレも沈んで行くだけに見えた。アイツに遇うまでは、な。 「今日は一段とイイ男ね」~ 傍らのオレにリリィ──相棒にして恋人の Lily TransFlau ──が言った台詞だ。ま……後にして思えば忌々しい悲劇の序章ってヤツさ。~ 「ライブの後で血が滾ってっからさ」~ リリィと組んで売れ出したおかげで、大きなライブハウスが使えた日だった。~ 「そりゃそーと……それじゃいつものオレが可哀想じゃないか?」~ 得意の軽口を叩いてベッドに押し倒す。~ 「ちょ……シャワーくらい浴び……」~ 半分諦め口調でリリィが言う。ぁん? もう半分だって? ……自分で考えな。~ 「ダメだ」~ ……。~ 部屋の中はただひたすら喘ぎ声が、嬌声が、絶叫が支配していた。 ふと……奇妙な音で我に返った。 ギシギシ…… ベッドが軋んでるワケじゃないらしい。 ギシギシ…… ──耳の中に直接、骨がこすれあうような嫌な音が響いている。 うるせぇな、なんだってんだ!~ ──片手で顔を覆って頭を横に振る……ハズだった。顔を覆ったところで自分の動きが止まる。…… 顔の異変に気がついた。~ 恐る恐る手を見てみる。 笑った。 悪い夢だろう? ──何者かが吼える声が聴こえたような気がした。 夢なら早く覚め…… 願いは最後まで言うコトも、いや、思うコトさえも許されぬまま凶暴な何かが呑み込んでしまった。 ……死んだコトが信じられない人間が2人になった……。 その後、いろいろあってガルゥの話を聴いたりしたんだが……そんなの他のヤツもおんなじだろうからいいだろう。 人間としてやり残したコトがあった。~ レクイエムを作った。リリィに捧げるために。~ その「最後の」曲は……言わなくっても知ってるだろう? 全米No.1になったあの曲さ。「最後の」じゃなくなっちまったケドな。人間の都合、金の都合ってのは運命よりまだ惨酷だ……。 ま……オレがこんなトコにいるのはそういうワケさ。人間の理屈が信じられなくなった。今じゃ、ガルゥの理屈の方がまだマシだよ……!